「単純なことを複雑化するのがデータドリブンではない」-ブレインパッドが説く真の意味でのデータ活用[インタビュー]
データドリブンなマーケティングを体現したかのような存在であるDMP。中でもファーストパーティーデータを扱うプライベートDMPは、サードパーティーデータの規制が強化されつつある昨今の状況で需要が増しているように思える。しかし、DMP導入の失敗にまつわる話は絶えない。株式会社ブレインパッドにその原因などについて話を聞いた。
(聞き手:ExchangeWire Japan長野雅俊)
様々なアクションを一貫して提供に強み
―自己紹介をお願い申し上げます。
佐藤氏:株式会社ブレインパッドにおけるプロダクトビジネス本部でデータビジネスエバンジェリストとして活動する佐藤洋行です。
上川氏:同じくプロダクトビジネス本部のプロダクト開発部長を務める上川晃二朗です。当社は2004年に設立。今では取引社数が400社、360名超の社員がビッグデータ活用サービスやデジタルマーケティングサービスを提供しています。
データ分析においてはGoogle、Microsoft、Amazon AWS、NVIDIAの認定またはプログラムパートナー、さらにはデータサイエンティスト協会の代表理事やディープラーニング協会の理事・試験委員などを務めています。
―事業概要について改めてお聞かせください。
上川氏:一つにはデータサイエンティスト、システムエンジニアないしコンサルタントとしてデータ活用・分析に関わるコンサルティングおよびSIサービスの提供。もう一つはデータ活用に紐づくプロダクト提供です。プロダクトについては自社開発に加えて海外プロダクトの販売やこれらプロダクトの導入に際して必要になるインテグレーション業務も実施しています。
主力製品の一つが、「Rtoaster(アールトースター)」というプライベートDMP。データの収集、蓄積、統合といった様々なアクションを一貫して提供できることを特徴としています。国内で自社開発しているため、アルゴリズムやロジックについて詳細な説明も可能であり、コンサルティングサービスと合わせてお客様の事業へのきめ細やかなフィッティングやチューニング、改善支援を加えられることが当社の強みです。
―貴社のDMPではどういったデータを扱っているのでしょうか。
上川氏:当社のお客様ないしプロダクトが扱うデータの95%はファーストパーティーデータですね。
佐藤氏:広告配信においては、サードパーティーデータのセグメントを使って広告配信をする企業様がかなり多いのではないかと思います。ただプライベートDMPの用途として多いCRM領域の主力はファーストパーティーデータ。サードとファーストを融合させたいという声はよくお聞きするものの、組織として広告部門とリテンション部門は分割されていることが多く、この両者をつなげて活用できている事例は非常に少ないのではないでしょうか。
上川氏:収集されるデータの種類として多いのは、ウェブないしアプリといったいわゆるオウンドメディアにおける消費者接点での行動データ。これらのデータは、ウェブのタグやアプリのSDKから収集されるものです。
もう一つはいわゆる属性データ。会員登録時などに投げ込まれたデータから個人情報を除外した上で、お客様側のシステムからRtoasterに取り込んでいただいています。また商品データや記事データのフィードやマスターデータさらには店舗情報をいただく場合もあります。
―これら収集されたデータはどのような用途で使われることが多いのですか。
上川氏:一つには、ユーザーを特定するための条件をご指定していただいた上で、ウェブ、アプリ、広告面といった様々なチャネルを通じてバナーやキャンペーンを最適化するためにご利用いただいています。「ウェブ接客」や「アプリ接客」と呼ばれる形態ですね。
もう一つは、いわゆるレコメンデーションです。閲覧または購買履歴などに基づくレコメンデーションを生成するロジックを複数持っています。
DMP導入で失敗するパターンとは
―DMPの導入では失敗事例も多いと聞いています。
佐藤氏:何をもって成功とし、失敗とするかを決めずに導入して、「成功しなかった」と結論付けられていることが多いような気がします。また例えば「ウェブ上のコンバージョン率が上がる」ことを成功と定義した場合、その成否は、直接的には、取扱商品やサービス自体の魅力や、その他の様々な施策によって決まるはずです。
それでは、DMPが直接的に貢献できる成功とは何なのか。それは施策や商品力の改善に役立つ根拠をデータとして視覚化することで、合意形成を容易にし、業務を効率化させることだと考えています。
―つまりDMPは収益の向上を約束するものではないということですね。
佐藤氏:それを約束してしまったら、もはや偽りの説明となります。投資信託を販売する際に「絶対に儲かりますから」と言うようなものです。
―それではどのような企業がデータ活用を有効に行うことができると思いますか。
佐藤氏:まず申し上げたいのは、データ分析において高いインテリジェンスはそれほど必要とされません。「データドリブン」を標榜する人々の中には、ものすごく単純なことをわざわざ複雑化しているだけの人も多いという印象を持っています。
結局のところ、必要なのは、データを通して自社の顧客について正しく考察する能力、言い換えれば、データから顧客の姿を想像する能力です。普通に考えれば分かることだとは思うのですが、とにかく数値をたくさん集めれば、あとはシステムがすべて自動的に問題を解決してくれる、ということはあり得ません。何らかの数値の動きを見たときに、ユーザーにこのような変化が起きているのではないかという仮説を立てることこそが、データ活用に必要なほぼ唯一のことだと思います。
データ活用はこれからが本番
―今や広告プラットフォームがデータマシン化を遂げています。この動きが加速すれば、DMPの存在意義は薄れていくのではないでしょうか。
上川氏:いわゆるプラットフォーマーは、それぞれのプラットフォームを起点としたエコシステムを構築しています。自社を起点としたエコシステムを作り上げるためには、やはり自社製のシステムを組まなければなりません。
佐藤氏:自社の商品やサービスがどんなユーザーに届いているのかについては、自社のデータを参照する以外に手段がありません。完全にプロダクトアウトで事業運営するのであれば話は別ですが、ユーザーのニーズを把握するためには、やはり自社データは重要です。
―近年ではプライバシー制限が強化されてきています。貴社のようなデータ活用を目的として運営されている事業者にはどのような影響があると考えていますか。
上川氏:これまでマーケティングの最適化と言えば、ユーザーをある程度まで特定するターゲティングが主流でしたが、それ以外の手法で広告の運用効率を上げる方法を模索中です。当社で用意している、商品のデータを使ってPLA(商品リスト広告)を制作するソリューションはその一例です。
またDMPやCDPはほぼデジタルマーケティング領域でのみ活用されてきましたが、この領域における収益向上や効率化の規模には構造上の限界があります。今後は消費者インサイトの把握やサービスインフラとしての顧客体験の向上を目的として利用される事例が増えてくると見込んでいます。
分かりやすい例を挙げるならば、今やどの企業様もNetflixやAmazonが実践しているようなデータ活用を目指していると思うのです。つまり広告やCRMといったマーケティングメッセージだけではなく、商品やサービスを通じた顧客体験そのものの最適化です。
佐藤氏:ある程度の事業規模を有し、またB to C事業を営んでいるのであれば、どの企業も既に何らかの形態でのデータ活用を行っているとは思います。ただし、本当にデータを活用できているかというと、そうでないところはまだ多い。流行としてだけのデータ活用はようやく沈静化し、これからが本番という気がしています。
佐藤氏:マーケティングは本来いろいろな要素が絡んだ複雑なものであるがゆえに面白いもの。そして人間に対する洞察を必要とするものです。それがデジタルマーケティングとなるとなぜか自動化ばかりに関心が向き、考えることや頭を使うことが過小評価されてしまうというのは、明らかに間違っています。データドリブンという言葉がある意味で陳腐化し、世の中が冷静にデータと向き合うことができるようになった今だからこそ、機械による自動化と人間による洞察とのバランスをきちんと取ることで、真の意味でのデータ活用を一層広めていきたいと思います。
ABOUT 長野 雅俊
ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。