「素敵なマーケターとは?」-第3回「MCA道場」が開催
一般社団法人マーケターキャリア協会 (MCA) は11月7日、都内にて、マーケターのキャリア育成を目的とした「MCA道場」の第3回講座を開催した。
情報システム担当としてキャリアをスタート
「マーケターに信頼されるマーケターとは?」をテーマとした本講座を担当したのは、MCA理事で株式会社インフォバーン取締役COOの田中準也氏。マーケティング業界内では「ジュンカム」との愛称で知られる同氏は、新卒入社したクレディセゾンで営業職としてキャリアを開始するも、2年経たずに退職。第二新卒として総合広告代理店のジェイアール東日本企画に入社した。
ただし、同社で配属されたのは、マーケティング関連業務を行う部署ではなく、情報システム室。パソコン設定から営業売上記録の作成などを担当していたが、営業職を希望していたため、営業担当者が多数所属する同社の野球部に入部した。試合中の野次や打ち上げの場所の確保などを積極的に行って売り込みを続けた結果、晴れて営業局に異動。14年にわたる同社での勤続期間の後半は主に新規事業開発に関わり、自社サービスの開発からマーケティング業務までを一貫して行う経験を得たという。
やがて電通へと転職するも、「やはり新規事業開発に携わりたい」との思いでトランスコスモスへ。そこで管理職を経験し、その後はメトロアドエージェンシー、電通レイザーフィッシュ(現電通アイソバー)、インフォバーンと渡り歩いた。
ここまで述べた後で、田中氏は聴講者に対して「素敵なマーケターとは?」との質問を投げかけた。発言を促された聴講者の一人は「できないことができる人。売れないものが売れる人。お客さんの視点に立って、死ぬこと以外は何でもトライできる人」と回答。続いて話を振られた富永朋信MCA理事(株式会社Preferred Networks 執行役員最高マーケティング責任者、株式会社イトーヨーカ堂顧問、株式会社セルム顧問)は「課題を考え抜く人」と答えた。
田中氏にとっての「素敵なマーケター」とは
田中氏自身は「素敵なマーケター」の条件を複数挙げた。一つ目は「具体と抽象をきちんと伝えられる人」。デジタル技術の発達に伴い、様々な事象が可視化できるようになった結果、とりわけマーケティング業界においては細部までに至る具体的な方法論などについての議論が偏重される傾向がある。その反動として、抽象度が高い内容について辛抱強く議論を続ける機会が減少しているのではないかと問題提起した。
二つ目は「冷静と情熱の間にいられる人」。チームを鼓舞または機能させるために、冷静と情熱という対極的な要素を使い分け、またそのバランスを絶妙にとることができる人に惹かれるという。三つ目は「利己的でない人」。自身が管理職を務める以前に信頼を寄せていた上司は一様に利己的ではない人だったと振り返る。そして、最後に挙げたのが「責任感とやり抜く力を持っている人」。先に冨永氏が示した見解への同意を示した。
伝わらないかもしれないけれど
そのような「責任感とやり抜く力」を持つマーケターの典型が、現在は湖池屋の代表取締役を務める佐藤章氏だったという。田中氏が「商品開発・企画のプロ」と仰ぐ同氏のとりわけ「代理店のコンペは実施せず、一度チームをつくったらそのメンバーととことん付き合う」という姿勢に感銘を受けた。また「我以外皆我師」を座右の銘とする田中氏らしく、「すべての先輩たち、後輩たちから影響を受けた」とも述べた。
これらの人々との出会いを通じて、田中氏はマーケティング業務についての知見を深めていく。キャリア当初は「たかが缶コーヒーのパッケージを考えるのになぜ徹夜してまで作業する必要があるのか」と感じていたが、担当商品の販売数量が競合企業を超えた際の喜びを知ったことで、テレビCMなどの大型案件だけではなく、流通向けのパンフレットや飲料水の缶のシール制作といった作業にも「伝わらないかもしれないけど、伝えてやるんだ」という気概を持って取り組んだ。
ここまで話した後、道場は聴講者同士で議論を行うワークショップへと突入した。田中氏から提出された課題は「ブランドからパートナーへ、パートナーからブランドへ、相手に期待すること」。一般的なマーケターの所属先は主に事業主と広告会社などのパートナー企業に大別されるが、両者が混在する本道場ならではテーマ設定となった。
始めに発表を行ったグループは、「ブランド側はパートナー側に対して自社の商品やサービスの内容についてもっと深く知ってほしいと思い、パートナー側はブランド側にそれらの情報をもっと多く提供してほしいと考えている」と報告。目先のKPIや予算を一方的に通達するのではなく、その背景についての理解を深めたいと双方が思っていることが明らかになったと伝え、その他の発表グループもほぼ同様の見解を示した。
これらの発言に対して田中氏は「課題を特定するだけではなく、それらの課題をどのように前向きに解消するかを考えるのが重要」と述べるとともに、「(ブランドとパートナーのコミュニケーションが円滑になるために)仲良くなるというのも簡単ではない。ある程度、高いレベルで納得し合える関係性には、恐らく緊張感も求められる」と指摘。加えて、たとえ思いついた解決策が機能しなかったとしても、「『うまくいかないのが当たり前』ぐらいの軽い気持ちで臨む方がよいのではないか」と提案した。
聴講者からの自由質問にも対応
田中氏が次に出したテーマは、「〇年後、どんなマーケターになっていたいか」。合わせてその理想像に近づくために研鑽すべきマインドとスキルそして必要とされる経験を書き出すよう求めた。そして、また数週間後に同じ作業を行い、同じような内容を思いつくようであれば、それを実行に移すべきだとも伝えた。
道場の終盤では、「緊急企画 田中に相談してみようコーナー」と題して、聴講者からの自由質問にも対応。「マネジメント業務において何を重視しているか」との質問に対しては、「できるだけ自分の価値観を押し付けない」「怒らずニコニコしている」「部下と一緒に失敗をする」と回答。「有能な後輩を教育する立場となったら何をすればよいか」という質問には、「どんどん褒めて調子に乗せる」「高みを目指す段階でいつか必ず失敗する。そのときに手を差し伸べてあげる」と助言した。
軽妙な語り口で終始進んだ本道場では、会場内に笑い声が響くこともしばしば。田中氏の個性が際立つ内容となった。
12月3日に開催予定の第4回道場では、MCA理事の相河利尚氏(株式会社クレディセゾン セゾン AMEX部 部長)が、「事業会社でのマーケターのキャリア構築」をテーマとした講座を担当する。
ABOUT 長野 雅俊
ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。