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「ぜんぶ議論しよう!」2019年のアプリマーケ業界と今後の行く末-後編-[インタビュー]

ビジネス環境が目まぐるしく変わるアプリマーケティング業界界隈では、夜な夜な様々な議論が交わされているが、実際にどのようなことが話題になっているのだろうか。

アプリマーケティング業界にあって、議論を先導するあの方々の話は、パブリッシャーの話題や、アドフラウドの話題へと向かった。

前編はこちら

(聞き手:ExchangeWireJapan 野下智之)

■大手広告代理店:覆面アプリ担当マネージャー

■バイサイド・DSP:天野 耕太氏(Liftoff Country Manager, Japan and Korea)

■セルサイド・SSP:池田 寛氏(Supership株式会社 プラットフォーム事業部 副事業部長(Ad Generation責任者))

 

※取材協力:十兵衛(東京 恵比寿 )

 

  

サプライサイドも議論!アプリパブリッシャーとプログラマティックとの関係性は!?

 -パブリッシャー(大手広告プラットフォームを除く)で、成功しているのはどこか?プログラマティックによる収益化に成功しているのはどこでしょうか?

 

池田氏(写真右):アプリの領域では、全パブリッシャーがプログラマティックによる収益化が成功していると言えるのではないでしょうか。5年ほど前のアドネットワークの全盛期には、アプリにおけるプログラマティックが流れる比率は数パーセントでしたが、今では、アプリの収益における半分以上がプログラマティックという場合も普通になってきています。

 

天野氏(写真左):池田さんの話は、比較する基準がアドネットワークとの比較においてということであればあてはまりますが、これがもし純広時代と比べたとすると、話は変わってくるでしょうね。

ただ、5年前に純広で販売していた媒体が、果たして今同じ媒体価値があるかというとそうとは言い切れないわけです。

 

池田氏:純広で売るにしても、オープンオークションで販売している枠と同じ枠を純広で売るという発想は、今では通用しません。新しい価値づけをした広告枠でないと、誰も高く買ってくれることはないでしょう。

人件費をかけて、手間暇かけて汗をかいて手売りをするよりも、プログラマティックの方が割に合うと判断するケースも多い状況です。

ただ、日本国内でいうと昨年からヘッダービディングが本格的に普及し、純広以外の運用型広告で更に収益を上げるための「次の一手」に行き詰まっている感はあります。

 

天野氏:プログラマティックが普及して、サプライサイドの広告取引の自動化が進むと、媒体側の広告営業に必要とされるヘッドカウントも必然的に減少していくことになりますね。枠を埋めるという意味では売れる可能性も高いはずですし。

 

池田氏:「自分の媒体をもっと知る」ということが益々重要になってきています。媒体自体の特徴、強みは何か?はもちろんのこと、どんなユーザーがいて、どういう行動をしているのか、を知る必要があります。それを知った上で、バイヤー(クライアント)に対してわかりやすくアピールしないといけません。決して簡単ではないですが、根気強くやるべき内容です。

WebサイトではPMPなどの純広ライクなプログラマティックな取引も普及しつつあるので、これからアプリにも広がっていくはずです。また、時代の流れとしても1st Price

Auctionの採用が進んだり、app-ads.txt、sellers.jsonなどのルール面の整備、第三者によるビューアビリティ等の計測ツールなど、バイヤー側も安心して媒体を買える環境は整いつつあります。本音を言うと、プログラマティックどうこうよりも、もっと消費者の胸に響く本質的な広告を創っていきたいです。

 

アドフラウド、闇の向こうに見え隠れする闇

 -アドフラウドに始まる広告の品質に関する闇は、もう出され切ったのでしょうか?あるいは、まだまだとんでもない闇が潜んでいるのでしょうか?

 

覆面氏:まだ潜んでいると思いますね。アドフラウドの問題は、まだ結構残っていると思います。

 

池田氏:アドベリフィケーションベンダーが発表する調査レポートでは、まだまだアドフラウドが存在するという結果がでていましたね。

出し切ったかどうかでいうと、あれだけ問題視されて業界も対策をしているので、物理的には減っていると信じたい。さすがに去年の今よりは対策はされているはずですもんね。

 

覆面氏:アドフラウド自体の存在は、広告主も代理店も皆理解をしていて、実際に起こった時にはみんなで対処しましょうという意思統一は出来ていると思います。

アドフラウドをどう定義するのかにより、見え方が変わってくるという側面もあります。例えば今、アプリの業界で一番よく挙げられるアドフラウドの中でも、「オーガニックのトラフィックをとっていたら、アドフラウドである。」と、定義するケースもあります。その定義に従うならば、「大手広告プラットフォームにおいてもアドフラウドは沢山ある。」という話になります。

 

池田氏:アドフラウドの闇は出し切ったのかということについては・・・?

 

覆面氏:まだ表に出ていないことは、絶対にあると思います。(ここで覆面氏、もう一杯注文)

 

池田氏:表向きに分かりやすくドメイン偽装のようなものは駆逐されていますが、そこではないところで、うまく隙間をついてやっているということ?

 

覆面氏:実際には闇に潜んで、隙間をついていると思います。。

 

池田氏:その闇に潜んでいるのは悪い人というよりは、まじめにやっている人が無意識でやってしまっているというようなものもあると思います。例えばビュースルークリックとか。それ自体は本来は悪いことではないと思いますが、実際にビューを判定できてないケースや、クリエイティブの動画が小さすぎて意味をなさないものも存在します。

 

天野氏:ここ数ヶ月少し悩んでいたのですが、最近私はアドフラウドのことを積極的に話すことを控えています。Liftoffはグローバルでアドフラウド対策に力を入れているので、マーケット浄化のためにイベントなどで発信したりもしていましたが、最近は環境がだいぶ変わったなと思っていて。

私が悩んでいたアドフラウドというのは、特定の広告サービスが、例えば池田さんのところのSSPから一切バイイングしておらず、自社で配信面を獲得してる様子もなく、どこで配信されたか分からないまま、異常なほど予算を消化しまくるということでした。

広告代理店さんに言わせると、他は最初からKPIをクリアしたまま大規模な予算消化を余裕でしているというようなことでしたが、それらがスタンダードになってしまっていることで低く見積もられたKPIにどう対抗していくかということでした。ですが、これについては広告代理店さんや広告主さんも、おかしいということに気付き始めたと感じています

 

覆面氏:広告代理店側も、広告主に対してそのような啓発を積極的に始めていますね。

 

天野氏:アドフラウド対策の文脈の中で配信面開示について強調していたのは、それで全て解決できるということではなく、それが1つのベンチマークになるという意味でした。

配信面を開示出来ない理由が明確でないサービスの中に、怪しい事例があるとマーケッターさん達から事例を共有されたケースもあったので。最近では、広告主は勿論、広告代理店もそのあたりの媒体選定の基準を強化している話も聞きますし、取り巻く状況は変わって行っていると信じています。

 

アプリマーケッターは、果たして今マーケティングをしているのか!?

-業界のことで、今一番気になっていることについて聞かせてください。

天野氏:個人的に人の動き、つまりキャリアパスに興味があるのですが、どこかの企業のマーケティング担当だった方がマーケティングコンサルをやる流れも増えている気がします。これはどういう背景なのでしょうね。独立志向が強い人が増えたのは面白いことだとは思いますが。人が動くと業界構造が変わったりするので。

 

池田氏:日本はジョブローテーションもあるので、コンサルタントに対するニーズは継続するような気がしますね。

 

覆面氏:私は、アプリのマーケッターは、今のままだと5年後は同じ内容では稼ぎにくくなると思います。十分な実務経験がないような人がしてしまうような風潮に対しては、危機感があります。

 

池田氏:アプリの業界で、この人はマーケッターだなって思える人って例えばどんな人でしょうか?

 

覆面氏:広告代理店ですと、アプリの業界には、なかなかいないかもしれません。今のデジタル広告を使ったアプリマーケティングといわれている領域では、ユーザーを獲得する手段がまだ重視されており、その担当者が自分の携わっているアプリのユーザーインサイトまでを持ち合わせていることは、すごく稀であるという印象です。

私の会社にも、元々大手消費財メーカーのマーケティングを担当していた人がいますが、その人と自分とを比べると、知見の広さや深さが、全く違うなと思います。

 

天野氏:昨年の居酒屋対談に登場した覆面マーケッターの人も、同じことを言っていましたね。例えばアプリゲームの会社に新卒で入り、そこで3年間マーケティングを経験したからといって、そのまま他社マーケティングをコンサルするのはなかなか難しいと。

 

池田氏:最近は、パブリッシャーサイドでも独立してコンサルを始める人が出始めていますね。

 

天野氏:なるほど、両方一緒ですね。Googleのデマンド側とサプライ側とにそれぞれ、エコシステムの隙間があるということですね。

 

池田氏:サプライ側はヘッダービディングという収益化の手段が増えたのに加え、事業者自身が「◯◯ビディング」というような独自サービスを始めたりして、単独ではシンプルかもしれませんが、それが複合的に利用される傾向のためメチャクチャ複雑化していきています。

更に、1st Price Auctionの採用などで配信ロジックの変更が行われ、ヘルプページを見ただけでは普通の人は理解できない世界になってきています。その辺をサポートするエキスパートな方々がコンサルする流れは、ニーズがあると言えるでしょう。実際、知り合いのコンサルさんは大忙しな感じでノリノリです。デマンド側のアプリのマーケッターの世界は、どうなのでしょうか?

 

天野氏:アプリマーケティングなど特化した専門の領域については、ネタを変えてやっていくのはありかもしれませんが、それだけで同じことを続けていくのは難しいのかもしれないですね。

 

池田氏:今はまだプラットフォームの前後に隙間がありますが、今後プラットフォームが更に優秀になってその隙間もなくなっていったら、ビジネスとして成立し得なくなりますね。

 

覆面氏:そうなったときに、今アプリのマーケッターを名乗っている人たちが、ナショクラレベルの企業でガチのマーケッターをやっている人たちのレベルに太刀打ちできる実力があるのかというと、そうではないような気がします。

ともすればその時、アプリマーケティング業界が、他の業界から下に見られてしまうのではないか?という懸念を持っています。「アプリ出身者でしょ?、駄目だよ。今までCPIとROASしかみてこなかった人でしょ?」ということを言われるかもしれないと思っていて、それは悲しいことです。アプリの業界では、現状においては、コンサルとかマーケッターという言葉がすごく軽く扱われているのかもしれません。

広告代理店にいる立場の者としては、どれだけ広告主に並走できるかを考えています。広告主にはやりたいことがあって、それを手が足りないから広告主はアウトソースしてくださる。その期待値を超えて、事業を前に進めるためのパートナーになることを目指さなければならないと思っていますし、それが重要だと思っています。

 

天野氏:それはみんなが広告代理店に対して求めていることと同じですね。そのことは広告主にとっての、広告代理店の普遍の価値になりますよね。媒体が変わろうが、Googleが市場を獲ろうが。

マーケティングの企画も含めた全体の絵を描けるかどうか。そのためには、サービスのことやユーザーのこと、あるいはクライアントのビジネス状況を知っている必要があります。広告代理店の担当者の方と向き合ったとき、「そもそもクライアントのアプリを見たことがありますか?」と問いかけたくなるようなときが時々ありますけど。逆に言えば、そういった普遍的な価値を出していれば広告代理店内でもコンサルとして独立していようが、ちゃんとニーズがあるんだと思います

  

 成功する外資、成功しない外資

-これから日本に参入してくる外資ベンダーに何かアドバイスがあればお願いします。この会社は、うまくやっているというような会社は?あるいは、外資が日本でこれはしてはいけないということは?

天野氏:立ち位置と種類にもよりますが、外資の立場で思うのは、日本はとても難しい市場だなと思います。私のように外資の立場に立つと、日本は板挟みがすごいです。これは多かれ少なかれ同じ立場の方はみんな感じていると思いますが。

個人としては日本の業界事情はとてもよく理解できるので、そのことを本国に説得する必要もありますし、逆も然りです。それがうまくいって、壁を超えられたのが、たまたま自分が経験させて頂いたオーバーチュアやCriteoのようなポジションを築いた会社だったりするわけです。

 

池田氏:国内企業で事業をしている私が日本に来る外資を見るときは、やはりどれだけ日本にローカライズできるかどうかという点ですね。

 

天野氏:まさにそこが1つのポイントですね。ただ、外資からすると日本は世界で数多くある市場の一つに過ぎません。ここにどこまでローカライズしなければならないのかと、本国の幹部は思っているわけですが、日本の担当者は「ローカライズしなければいけないです。」と彼らを説得するわけです。

ですが、「日本だけローカライズしてください。日本だけプロダクトを変えてください。」ということを説得するのはやはりすごく難しいわけです。そこでどうバランスを取るか。それが出来ればちゃんとチャンスはあると思っています。

アプリの世界はまだいい方です。なぜなら「日本は世界第3位の市場だよ。」と社内で言えるから。ですが、一切そのような論理が通用しない領域で展開している外資プラットフォームから苦労もあると聞いています。

 

池田氏:結局外資がうまくいくかどうかというのは、まだ人に依存しているような気がします。日本企業の担当者からすると、顔が見える外資企業というのは信用できますよね。この人がやっているのであれば、大丈夫であろうと。

あと、例えばGoogleほどの規模に達していれば話は別ですが、これから日本で頑張ろうとしている段階の外資の会社に要望や、問い合わせをした際に「本国で決まっていることなので、自分たちはアンコントローラブルです。伝えていますが。」と、担当者が諦めている感じが最初からでていることがあります。こうなると、うまくいかないケースが多い気がします。

 

天野氏:こういう話を、年に1-2回は言わせて貰ってもいいですか?笑

 

 知らないとモグリ!?実は業界内で話題になっているトピックスと、注目すべき人

 -メディアやカンファレンスで語られていないけど、業界内で話題になっているトピックスはありますか?あるいは注目すべき人はいますか?

覆面氏:今までの話の流れではないですが、広告代理店の今後の役割と意義については、表には出ていないものの、割と話題になり続けている印象ですね。

極端に言うと、広告主からするとクリエイティブを無料で作ってくれるから広告代理店に頼むというような風潮が無きにしもあらずだと感じます。

 

天野氏:今、広告代理店の中でもエース級の人が会社を去るということが起こるケースがあると思うのですが、これは特定の企業云々というよりは、業界の構造的な話なのですかね?

 

池田氏:広告代理店のお仕事は、楽しいですか?覆面さん、まあ飲んでください。

 

覆面氏:それは、本人が楽しもうと思えているかどうかだと思います。広告主に喜んでもらえるということが第一ではありますが、その次に、自分がどのように考えて、実行し、結果につながって、それがスキルや知見となることは楽しかったりしますね。

 

池田氏:サプライ側で注目すべき人は、小数賀さんですかね。SSPやメディエーションが、日本に伝来する前から、イールドマネジメントに取り組んでおられた方ですね。アプリのパブリッシャー業界で、小数賀さんを知らない人はモグリですね。株式会社ピー・アール・オーという会社でソリティアなどのゲームアプリを運営されていらっしゃいます。

この会社は横浜の中華街にあって、まさに我々は仙人に会いに行くような感覚で、訪問するわけです。半年に1回はこの仙人に会いに行っていますよ。

アドネットワークやSSPの事業者は、みんなこの仙人に会いに行っています。あの方がすごいのは、トレンドを追っているわけでもないのに、決してその方向がブレていないということ。自分たちで決めたKPIに好奇心を忘れずにかたくなに取り組んでおられます。

あとは、コンサルしているメンバーも増えましたが、界隈で「アド異常者」と呼ばれる人たちは、みんなそうかもしれないですね。パブリッシャーサイドで言うとこのような感じです。

プラットフォーマーの領域だと、やましょー山田翔氏)とかですかね。彼はポジティブで、スピード感がありますね。たしか「なにこれ すげー こんなのはじめて」というアドウェイズさんのスローガンも彼が作ったと聞いてます。あれだけ意味不明!?に自信満々で取り組んでいる輩は少ないですね 笑

 

天野氏:山田さんは同業だけど確かに凄いポジティブ。この業界は変化が大きいし予想していない事も起こるので、ポジティブに構えて楽しめるかはすごく大事ですよね。

 

 

 

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長  

慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。

国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。

2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。