シンガポールから、Sojernが狙うAPACと日本のトラベル市場 [インタビュー]
Sojern という会社をご存じであろうか。まだ日本に本格的な参入を果たしていないが、グローバルでは旅行業界に特化したデジタルマーケティングのソリューションを提供する大手ベンダーとして知られる。
そして今年の3月、このSojernに日本の多くのアドテク業界関係者からの注目を集める上野正博氏が参画した。Criteo、BuzzFeedなどを経て、現在シンガポールでAPAC事業を統括する上野氏に、Sojernに参画した背景や同社のビジネスのことなどについて伺った。
(聞き手:ExchangeWire Japan 野下智之)
デジタルマーケティング業界でトラベルは魅力ある領域
―Sojernの事業内容についてお聞かせ下さい。
Sojernはグローバルで展開する、トラベル業界に特化したデジタルマーケティング会社です。端末ベースで8億台、ユニークユーザー数約3億5000万人の旅行者データを大手パートナー企業80社強、航空会社やホテルとバーティカルサーチなどからも提供を受け、DMPに取り込んで、これを活用した精度の高いマーケティング支援を行っています。
大手企業ですと航空会社や政府観光局、ホテル、アトラクションといった企業様から広告費をいただいてキャンペーンを展開するほか、直接1軒1軒のホテルなどと取引をしております。
―上野さんのSojernにおける役割についてお聞かせ下さい。
私はAPACの事業を担当しております。Sojernにジョインしたのは、社長をはじめとして幹部を良く知っていたことと、数年前から顧問を務めていたこともあり、Sojernのビジネスをある程度知っていたからです。
マクロ観点からの理由を挙げると、インターネット上でトランザクションが大きいのは、小売りのeコマース、金融に次いで、トラベルの領域です。トラベルの市場は魅力的です。中でも中国やインドは当然、インドネシアや他の東南アジアの国もまだ高い成長率でGDPが伸びています。旅行できる人の数が年々増え続けており、市場としてかなり高い成長が見込めるという点に魅力を感じました。
―ビジネスモデルについてもお聞かせください。DMPの提供のみではなく、広告配信も含むのでしょうか。
幾つかあります。保有するデータをどこにアウトプットするのかというと、GoogleやAppNexusを通じて、サーチやディスプレイ広告、時には動画広告に。またFacebookにも配信をすることが可能です。当社はFacebookのマーケティングパートナーのAdphorusを買収しております。
クライアントへのサービス提供形態のモデルはいくつかあります。あるグローバル大手ホテルの場合には、「データだけを使わせてほしい。配信はうちでやる。」とおっしゃいます。このクライアントは、グループ内にデジタルマーケティングチームがあるからです。
こういったケースでは、提供データ人数と、どういったセグメントを使うかによって料金をいただきます。
広告配信代行も一部やってほしい、というご要望をいただく場合にはCPMで課金しますし、契約によってはCPAで課金するモデルもありますね。
フルマネージドでお受けして、3か月分で1000万~2000万円規模のご予算をお預かりするといったケースが多いですね。
―ビジネスパートナーはデータ提供者と配信プラットフォームが占めるのでしょうか。
そういうことになります。あとは一部ホテルが使っている予約エンジン企業があるでしょうか。
日本でもこれらの企業の一部と営業のリセラー契約をさせていただいており、広告を販売していただいています。
レガシー業界であるからこその潜在性
―旅行業界のネットマーケティングは特殊だという話も聞きますが、いかがお感じですか?
私は、社会人生活の10年強はリクルートで旅行業界を担当していました。しかし確かにこの20年間で旅行者の旅行の仕方も変わったし、それを支えているテクノロジーもかなり変わってきています。その違いはあるけれども旅行業界はアドテクなどは遅れており、バックエンドのシステムも昔のものです。予約システムもインターネットが存在しないうちに作ったので、レガシーでクラウドに急に切り替えられません。
グローバル大手のホテルチェーン一つとっても、いまも昔ながらの予約システムを作り変えていますが、数百億円規模の予算をかけています。小さな銀行くらいの予算をかけてバックエンドシステムを変えているというのが現状ですね。
部屋をProperty Management System, Booking Engine, Channel Managerを使いYield Managementをし、どのようにDistributionしていき、旅行者の予約につなげていくのかを一気通貫でやらなければならないのですが、かなり難しいようですね。
―クライアントの主な業種を教えてください。
ホテルが一番多いです。あとは航空会社、観光局。誘致マネージメントをデータを使って提供しています。
―日本とAPAC、そのほかの地域のマーケットの動き方として何か違いはありますか。
米国の場合国としての組織のほかに州ごとの違いもあります。ホテルの宿泊代金の何パーセント、といった計算で州の予算として使っていたりするのです。予算形態が州それぞれによってバラバラなんですね。そういった地政学によって戦略は変えられています。
例えばシンガポール航空は国内線は一機も持っていないので、国内に予算を振り分けることはないなどといった違いはあります。
―APACにおけるクライアント社数はどのくらいですか。
約1000社です。日本ではまだ展開していないので、リセラー通じての数十社程度にとどまります。これからですね。
―APAC地域では、いまどのようなビジネス機会があるのでしょうか。定量的な具体例があればお願いします。
やはり中国からの旅行者がいま全世界で1位となっています。実際に旅行における消費額も米国を抜いて1位です。したがって、市場としては一番大きいといえます。では中国人がどこに行くかというと、約半分が香港マカオ台湾です。それ以外にも行先は多様な地域ですが、やはりアジアが多い。となると、そこは大きい市場と言えますね。
日本への旅行者は年間およそ3100万人、約3分の2が韓国・中国・台湾からの来訪です。観光地として日本をとらえると、その人数はかなり多いといえるでしょう。
―ちなみに中国の旅行者データはどのように取得するのでしょうか。
詳細はお伝え出来ませんが、とても難しいです。ただし、旅行客は中国からどこか国外の空港に来るので、その部分については把握することが出来ます。
日本は、ポストオリンピックが商機
―日本については、どのようにビジネスを強化されていくのでしょうか。
まだいつ何を、は言えないですが、2020年にはある程度日本展開を始めたいと思っています。オリンピック特需はともかくとして、それが終わって下がった時にビジネスチャンスがあるのではないかと思っています。
―上野さんがこれまで何をされてきて、今後どうされていくのか。上野さんに続く、日本の多くのアドテク業界の方たちが注目されているように見えます。これまでのご経験から、日本の若い人たちが今後のキャリアを考えていくうえで何をしたほうがよいのか、メッセージをいただけないでしょうか。
そうですね、海外では、世界でどういう動きをするか、を見据えて起業することが多いです。日本はとりあえず日本を立ち上げて、成功したら世界に出ていきます。ただ、日本に向けてのサービス提供だけを考えて起業すると、そこからなかなか脱却できないというケースもあります。もう少しグローバルを見据えて、最初からビジネスモデルを考えたり開発したりしてもよいのではないでしょうか。あと、英語。苦手という方が多いですが、英語は必須です(笑)
私個人の今回の業務は、日本からのオペレーションではなくシンガポールからとなります。日本だけでいうと1億2000万人のマーケットですが、APACは、世界の60%を占めています。北米中南米などと比較すると、APACのプレゼンスが上がっていることは間違いありません。日本の外に目を向けた展開に挑戦することを考えてみていただきたいですね。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。