コンテンツを出し分けないこともユーザーメリットに―ニューステクノロジーが考えるタクシー車内コミュニケーション
by ニュース
on 2019年7月23日 inニューステクノロジーはベクトルとマイクロアドの合弁会社。2019年4月から、みんなのタクシーと協力し、タクシーサイネージサービス「THE TOKYO TAXI VISION GROWTH」の提供を新たに開始した。同社のタクシーサイネージ広告の狙いや顧客動向について、三浦純揮 代表取締役 CEOに話を伺った。
サイネージが再定義したタクシー広告
―自己紹介をお願いします。
三浦氏 私は2010年に新卒でベクトルに入社をして、2年目にはベクトルチャイナ(北京支社)の立ち上げを担当しました。日本から付いてきた上司も居なければ、中国現地の従業員も全員年上という状況からのスタートでしたが、当時からベクトルグループには年齢やキャリアも関係なくチャレンジをさせてくれる風土がありましたね。
中国はテレビチャンネルの数が100チャンネル以上あるだけでなく、WeChatやWeiboのように国内独自のプラットフォームを展開しているなど、どうやって世の中に情報を届けていくかという点については、非常に良い刺激で勉強になりました。
日本に帰国後はその経験を生かして、3年間ほど自身の管轄するPR部署で事業に従事し、2018年の3月から現職にあたっています。
―貴社の事業についてお聞かせください。
三浦氏 動画マーケティング中心に事業を展開しており、現在は2019年4月より新たにサービス提供が始まったデジタルサイネージ事業「THE TOKYO TAXI VISION GROWTH」(以下、GROWTH)に力を入れています。
デジタルサイネージ事業「GROWTH」は、タクシー内に設置されたタブレットサイズのデジタルサイネージから情報を提供していくものとなり、2019年9月時点で設置台数は約1万台に到達予定であり、月間リーチ人数700万を誇るメディアです。
コンテンツは、タクシー利用者の平均乗車時間18分を1ロールとして、広告映像と、「News Picks」「OPENERS」などのメディア映像を交互に流しています。
現在は東京都内のみを対象にサービスを展開していますが、約1万台という数字は、都内のタクシーサイネージで最大規模の設置台数です。
※ 出典:THE TOKYO TAXI VISION GROWTH媒体資料
―いずれも「動画」を介した事業ですが、それぞれの事業はどのように関係しているのでしょうか。
三浦氏 弊社は動画制作チームも保有しており、TVCMやSNS、アーティストのPVまで、様々な媒体を対象として、幅広い案件の動画制作依頼に対応してきた実績があります。
例えば、タクシーサイネージに映像を流したい顧客がいても、まだ映像は持っていないというケースは往々にしてあります。そこで、「ニューステクノロジー内で映像制作をやりますよ」というご提案も可能です。
―タクシーサイネージ事業を開始した経緯をお聞かせください。
三浦氏 ベクトルグループとして、タクシーサイネージに広告出稿をしていた時期はありますが、我々もPR会社として、今度は事業者の立場でタクシーサイネージに取り組むべきだという判断をし、事業がスタートしました。
タクシーサイネージは既に複数の会社が展開をされてきたサービスですが、私は先行して事業を開始された同業他社により、タクシー広告の再定義が行われたと認識しています。
それまでのタクシー広告というのは、コンプレックス商材ばかりでしたが、タクシーを利用する人の全てがコンプレックスを抱えているかというと、当然そうではありません。また、東京ハイヤー・タクシー協会の「タクシーに関するアンケート調査結果」によると、タクシーを利用する人は、役職付や経営層のビジネスマンが多く利用することもわかっていました。
今のタクシーサイネージ市場があるのは「タクシーというのはラグジュアリーなプライベート空間である」と声を挙げ「そこにふさわしい情報を流しましょう」という働きかけがあったからではないでしょうか。
コンテンツを出し分けないこともユーザーメリットに
―「GROWTH」に広告を掲載するクライアントベネフィットについてお聞かせください。
三浦氏 東京都内のビジネスマンへ確実に広告が届くという点に尽きます。「GROWTH」は“BtoBで確実に情報を伝えられるメディア”です。
電車広告でもBtoB広告を掲載している企業は多いですが、電車広告はマス媒体に近く、ピンポイントにはなりきれていません。そのような意味では、「GROWTH」はしっかりとターゲティングが出来ていて、実際にリードも取れています。
お蔭様で4~5月の広告出稿は満稿となりましたが、HRテックやセールス分野のクラウドサービスなど、BtoB領域のクライアントが6割を占めました。BtoC領域では、宝飾品ブランドなど、ラグジュアリー系のブランド出稿も多いですね。
※ 出典:THE TOKYO TAXI VISION GROWTH媒体資料
―ターゲティングに合わせたコンテンツ・広告の出し分けはしていますか。
三浦氏 時間帯と曜日を指定して配信できるサービスをメニューとして展開していますが、顔認識をして性別や年齢によるコンテンツの出し分けをする、といったことまでは現状していません。将来的には取組んでいければと考えてはいるものの、現状としてはユーザーの気持ちの問題や壁が大きいのではないかと認識しています。
我々も含め、企業というのはメディアコミュニケーションの際には最適化をしようとするのですが、そうしていくと、ユーザーが受け取るコンテンツというのは、全て似たり寄ったりになっていきます。コンテンツの出し分けをしないこともユーザーにとってのメリットになるような、新たな情報に出会える場・空間がタクシーサイネージで作れればと考えています。
一方で、繰り返しにはなりますが、タクシーは乗る人の属性がある程度セグメントされているので、広告出稿主からは性・年代で広告の出し分けをしたいというニーズもそれほど多くはないようにも感じています。
純広回帰の流れが追い風に
―今後の事業展開についてお聞かせください。
三浦氏 デジタル広告はアドネットワーク+ターゲティングが当たり前になってきましたが、ブランドセーフティの視点から、今は少しずつ、純広告の流れに戻りつつあるのではないかと考えています。
「不適切なサイトや面に自動で広告を流したくない」「掲載面が確認できる場所に広告出稿をしたい」といったニーズですね。今までは性年代等でターゲティングして、広告を自動配信していたものを、最初から見る人が限られている媒体に純広告として出稿をしたい人が増えている。そのような流れを踏まえれば、「東京都内で活躍するビジネスパーソン」を中心とした、弊社のタクシーサイネージという媒体に対して、価値を感じていただける人も増えていくのではないかと考えていますので、まずは東京都内でのサービス拡大を図っていきたいと考えています。
BtoBのお客さんを持っている広告代理店の方については、我々のほうで効果が出ている事例もたくさんあるので、是非媒体の一つとしてご利用いただければと思います。また、今後は積極的にBtoCの成功事例も作っていきたいですね。
あとは効果測定や料金体系としても、完全成功報酬型(CPA)によるタクシーサイネージのサービス提供も検討していますので、こちらもテストしていきたいと考えています。
様々なコミュニケーション設定をしていくことで、我々としても、タクシーサイネージ市場で新たな顧客を開拓していくことを目指します。
ABOUT 柏 海
ExchangeWireJAPAN 編集担当
日本大学芸術学部文芸学科卒業。
在学中からジャーナリズムを学び、大学卒業後は新聞社、法律・情報セキュリティ関係の出版社を経験し、2018年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。デジタル広告調査などを担当する。