広告品質向上はパフォーマンス改善と優良媒体の収益改善につながるか-ヤフー株式会社策定の「広告品質のダイヤモンド」
ヤフー株式会社は5月27日、都内にて、アドフラウド対策をはじめとする広告品質向上への取り組みについての記者会見を行った。
会見には、メディアカンパニーマーケティングソリューションズ統括本部営業推進部エデュケーションの座間菜穂子氏と事業推進本部ポリシー室長の中村茜氏が登壇した。中村氏は、広告主の関心が高まっているアドフラウドやブランドセーフティなどの事象について、「業界のガイドラインは整備されてきているが、日本独自のサプライチェーン健全化のための認証制度が現時点ではない」ことから、独自標準となる「広告品質のダイヤモンド」を策定したという。
「広告品質のダイヤモンド」
画像提供: ヤフー株式会社
この標準は、「アドフラウド対策」「ビューアビリティ」「アドクラッター(サイトの1ページ内にあまりに多くの広告が表示される状態)対策」「最適な広告フォーマット」「プライバシーへの配慮」「ブランドセーフティ」という6つの対策項目から構成されており、それぞれの項目において、「広告配信先へのトラフィックを集めるトラフィックエクスチェンジの利用の禁止」「音声が自動再生される実装をした動画広告は不可」「インタースティシャル広告(一種のポップアップ広告)では広告から離脱できる選択肢を縦44ピクセル、横44ピクセル以上で表示」といった具体的な方針が定められている。
中村氏によると、本標準は、Yahoo! JAPANだけではなく、Yahoo!ディスプレイアドネットワーク(YDN)に属する朝日新聞やAll Aboutといった提携パートナーサイトにも適用される。またSSPを通じた配信先に対しても、規定システムを通じてこれらの基準が遵守されていることを随時確認している。
「プライバシーへの配慮」については、近年ではEU一般データ保護規則(GDPR)などデータ主体者に対するプライバシー保護の重要性がグローバルレベルで高まっており、同社においては「ユーザーに選択をしてもらうという手間を取らせる前の段階で、プライバシーに抵触する情報を用いてターゲティングすること自体を禁止」。検索用語やサイト閲覧履歴に基づいて、健康状態や離婚経験の有無に則した広告のターゲティングが禁止行為となる。それ以外の行動履歴情報の広告利用に関するユーザーからの許諾については、現時点ではオプトアウト形式に留めるが、今後はよりユーザーの権利を尊重するような仕組みを用意するべく準備中であるという。
同社では、アドフラウド撲滅を目的として、2018年9月21日より主にSSP事業者を介した約6800件のドメインへの広告配信を停止。全広告配信ドメイン数の約4割に相当する配信を停止するという抜本的な対策を行った。その後、900件の広告配信を再開したものの、2019年4月中旬時点で残りの5900件の広告配信は停止中と発表していた。
ヤフー株式会社の4月25日に実施された2018年度通期および第4四半期決算発表においては、この広告配信停止措置の影響を受けて、同年度におけるYDNの広告売上が前年度比でマイナス0.7%であったと公表している。
ただし、記者会見での質疑に応じたYDN担当者によると、適正と判断された配信先に対しては順次広告配信を再開しており、不適切な広告配信を除外したことで、広告のパフォーマンスは今後向上していくことが期待される。
一方で、不適切な配信先との取引停止措置が、優良媒体への広告配信リクエストの増加につながっていることを示唆する明確な変化はいまだ確認できていないという。同社は、優良媒体の増収につながるようなエコシステムの構築についても、中長期的に取り組んでいきたいとの意向を示している。
ABOUT 長野 雅俊
ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。