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OMO時代に向けた小売業とデジタルマーケティング [インタビュー]

オプト 伴氏と本郷氏の写真

”OMO=オンラインとオフラインとの融合” は、クライアントのマーケティング環境や、これを支援するデジタルエージェンシーの戦略にどのような変化を起こしているのか。

株式会社オプト エグゼクティブ・スペシャリスト 兼 OMOコンサルティング部 部長、伴 大二郎氏と、同オムニチャネルイノベーションセンター OMO戦略部 部長、本郷 一也氏に、同社のオムニチャネル領域における戦略と合わせて、お話を伺った。

(聞き手:ExchangeWire Japan 野下 智之)

チャネル変化が小売企業にもたらしていること

小売企業におけるオフラインとオンラインのチャネルの位置づけは、どのように変わりつつあるのでしょうか?

伴氏 業種によっても異なりますが、オフラインといわれている領域での売り上げ担保が若干厳しくなっているのが正直なところです。ただそれがすべてオンラインに取られているかというとそういうわけではなくて、今日本の EC 化率というものは大体7%くらい、93%位の売り上げはオフライン、すなわちリアルな店舗で行われています。

しかし情報のほとんどはオンラインで流れています。コモディティ化されている非計画購買品は、もともと日本では店頭である程度のスペースをとって競争するという戦略をとっていたので、オンラインよりも、そのスペースをいかに使うかの方が購買に影響を与えます。逆に計画購買品は、デジタルをうまく活用してターゲットをいかに見つけ出すかが重要になってきているので、オンラインの力がないと競合との差別化や競争に勝っていけないという状態になっています。

本郷氏 クライアント社内の組織体系も、以前はオンラインとオフラインで部署自体が分かれていた印象でしたが、これも変わりつつあります。例えば、チラシのデジタルシフトを推進する際に、デジタル部門ではチラシはスコープ外、販促部門ではデジタルはスコープ外になってしまい、どちらの担当者に会いに行っても取り組みがなかなか進まないということがありました。

ですが今年に入ってからは、徐々にオンラインとオフラインの垣根がなくなってきていることを感じています。オムニチャネル推進室のような部署が少しずつできつつあります。これをクライアント側の環境の変化として感じています。

クライアントである小売企業のチャネル環境が変わってきていることで、エージェンシーに対するリクエストや支援で変わってきていることはありますか。

伴氏の写真

伴氏 単発の施策のみで広告効果を高めるということが、うまくいかなくなりつつあります。クライアント側でも分断されていた部門を統合して一つの大きな組織にしたり、各部門がそれぞれ取得しているデータの仕組みを横断して活用しようとしたり、全体を繋げる動きは非常に増えてきていますね。広告からCRMまで一気通貫してできるサービスが重要になってきているので、我々も、コンサルティングやソリューション開発部など大きく4つの部署を約60人のひとつの組織へと改変しました。海外ではAlibabaやAmazonを中心に広告からCRMまで一気通貫させたサービスの展開が急速に進んでいますが、日本でも早々にこの状態にしていかなければ生活者へのサービス提供として大きく出遅れてしまいます。

我々もクライアントも、海外の状況に合わせて施策を変えていかなければいけないという意識は共通なので数社と共同開発の取り組みをしております。歩調を合わせて、両者で一緒に取り組み始めている段階です。

デジタルシフトを進める小売企業のベンチマーク

AmazonやAlibabaをベンチマークと考えているのでしょうか。

伴氏 データの使い方という観点で、Amazonは非常に優れています。ただ、日本でそのまま通用するかというとそうともいいきれません。本質的にAmazonが優れているのは、テクノロジーもさることながら、CX(顧客経験価値)をいかに作るかという点でしょう。
Amazon Goもそうですが、レジをなくすためにシステムを入れているわけではなく、美味しい料理を提供するためにシステムを導入しています。マーケティングとテクノロジーの距離を一気に縮めることが、米国では上手くいっています。

テクノロジーが進んでいる中国と米国を参考にしながら、一方では欧州、特にイギリス、フランス、ドイツも日本と状況が似ているため、今後の展開について注目しています。欧州は日本と同様、今のままでも住んでいて特に不便はない。日本はどこの駅前にも必ずタクシーが止まっていて、わざわざUberを利用する緊急性も少ない。私はこれを「完成された昭和の世界」と呼んでいますが(笑)、一度最高点を取ってしまった国は、次のステップへのイノベーションがなかなか起きにくいです。
それを変えるために、フランスもドイツも国策でテクノロジーの導入を進めています。その意味で最も進んでいるのがフランスです。マクロン大統領が主催しているテクノロジーイベントではLVMHやカルフールなどの大手企業とベンチャーとのマッチングを行っています。米国ではベンチャー同士が集まって成長しますが、フランスでは大企業にベンチャーが新しい仕組みを入れていく。ある程度成熟している日本とも親和性の高い欧州の最新の動きもまた、注目すべきです。

本郷氏 日本の場合、顧客体験を最大化するためというよりは人件費や販管費を改善するためにテクノロジーを集約していたというイメージがあります。小売店の無人レジも、一見ユーザーにとって有意義に思えますが、実際にやってみると、今の段階ではすごく便利になったとはいいづらいですよね。起点が従業員のリソースの削減だからではないでしょうか。Amazon Goは顧客の体験の最大化という発想からのプロセスになります。そういう海外との前提の違いに日本の企業の経営者も気づき始めた。今は現地に情報を取りに行き、かつ理解を深めている段階なので、そこに我々も何らかの形で寄り添うことができれば、大きなビジネスチャンスにもなるのではと考えています。

伴氏 中国がすごいのは、実証実験でどんどん店を出店し、どんどん潰しているところです。ただ、無人コンビニは一時期すごく流行りましたが、今はそれほど残っていません。原因は、中国の無人コンビニとAmazon Goとの違いで、CXがあるかないかということがあると思います。中国の無人コンビニは、例えるなら、、人が大きな自動販売機に入れられたみたいな感じの造りでした。そこには体験がないから、単価も上がらない。人件費の削減や、テクノロジーを使うために何かをするというようなところは、そんなに長く続きません。ただ、実証実験すらあまりできていないのは日本の多くの企業にとっての課題とも考えられます。

今OMO領域に強いのは、GoogleとLINE

クライアントの変化を受けて、広告の商品のトレンドにも変化はありましたか。

本郷氏の写真

本郷氏 位置情報フォルダーはGoogleが他を圧倒しており、位置情報を活用した有店舗事業向けの来店促進を目的とする広告はGoogleが一番進んでいると感じます。また、最近本腰を入れ始めていると感じるのは LINE です。 オムニチャネルやO2Oの専門セクションを立ち上げ、LINE SHOPPING GOやビーコンなどを使い、POSデータをいかに取り込んでいくかというテーマを踏まえたプロモーション手法の開発を活発に行っています。 この2社は、我々も非常に注目し連携を進めています。

伴氏 小売店の集客手法として、ペイドメディアを活用する広告というのは一部であり、集客にあたって最も重要なのはオンライン上で「お店がそこにある」ということなんです。来店した人たちと繋がりやすいというのがLINEやGoogleの1つのメリットです。一旦繋がることができれば、その後広告による集客につなげることもできる。広告でお客さんをお店に連れてきて買ってもらうのではなく、お店に来ている人たちに、いかにまた来店してもらうか。そういう考え方にしていかないと、今後は厳しくなってくるというのが、正直なところです。

我々がいちばん大切にしているのは、クライアントが本来が持っている「ここにどういう人がきている。」という顧客情報をいかにデジタル化して広告やブランディングに使っていくかという点。それで不足しているところに対し、どのようにデジタルでつながるか、どのようにブランディングしていくかになるので、その課題を解決するためにも、店舗運営者と広告担当者、販促担当者は一緒に取り組んでいかなければならない。

我々は今回の組織の中でCX(顧客経験価値)とEX(従業員経験価値)の両方に活用できるデータを取得します。デジタルで広告やコミュニケーションしていても、お店の人は今までと変わらない働き方をしていて「何をしているのかわかりません」ということが結構あったんです。お店の人たちも体験して変わっていかないと、一気通貫したデジタル体験ができません。日本の小売りはそこが変わらなければいけない。従業員の関与部分とシステムでやる部分は何なのか、その整理をしっかりとしていくのが、OMOの中でいちばん大切なところです。

OMOの進展によるデジタルマーケティングの変化

OMO 化が進むとデジタルマーケティングはどのように変わっていくのでしょうか。

伴氏 PDCAの速度が圧倒的に早くなる、というのが一番のポイントです。広告効果も早く判断しなければいけませんが、今まで取れなかったデータも取れるようになるので、これが一番のOMOの目的につながります。オンラインもオフラインも、全てのデータが取れていることになればこそ実現できることです。デジタルで求められてきたことのスケールが大きくなってくるとともに、店舗というチャネルが増えます。また、店舗には、サイネージもあれば人というメディアもいる。このように顧客とコミュニケーションをすることが出来るタッチポイントがかなり増えるので、PDCA の対象も当然ながら増えます。ただし、データが取れれば、我々がこれまでデジタルでやってきたこととはあまり変わらないのです。サイトやバナーなどデジタルで回してきたPDCAを、今度は人やサイネージも含めて行うということです。

本郷氏 今まではオフラインで取れていなかったデータが、デジタルを使ってPDCAが高速化されるようになれば、例えばパワーアワーにおける現場スタッフの動き方の変更なども可能になり、OMOの本当の価値や進化が示せるのではないでしょうか。個人的な考えですが、今年~来年がその過渡期だと感じています。その間に我々も、事例の蓄積や組織の体制など、お客様の価値を提供できるような準備をしていかなければいけないと思っています。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長  

慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。

国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。

2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。