ひとり社長の最適化戦略とホワイトであるための秘訣
先日大阪で、「中小ネット広告代理店のこれからの働き方を考える」というタイトルのセミナーが開催された。登壇した二人の広告代理店社長による、デジタル広告業界でのユニークな働き方に関する提案をご紹介する。
ひとり社長の最適化戦略
最初に登壇したのはデジマチェーン代表取締役社長 西和人氏。同氏は一人から数名規模の広告代理店を支援するボランタリーチェーンの「デジマチェーン」を運営している。
まずは、中小企業のデジタルマーケティング支援をおこなう運用型広告代理店の現状について、広告代理店勤務者の月残業時間が約76.8時間に及ぶことのデータに触れながら「需要は多いがやることも多い。全てに対応していると限界になる」との認識を示し、小規模で広告代理店を運営するうえでは「解決策は腹八分目、会社の最大化ではなく最適化を目指すべきであると、自説を述べた。
外部協力者と連携をしながら現在一人で会社を運営する同氏は、「ひとり社長」としての最適化戦略を提唱。「ひとり社長」を選択した場合「ひとり社長として、全てをするのではなくて、出来るだけのことを、考えていくことが必要」と語る。
またそのメリットは、「軽い経営が出来る」、「事業の撤退コストが低い」、「時代の変化にすぐに対応できる」ということを挙げ、例えば、市場環境が変化した時には、一人であるがゆえに「HP制作から広告代理店へ」というように業態転換が可能だという。
一方でデメリットは「売り上げが大きく伸ばせない」、「自分の代わりがいない」、「顧客にコントロールされる可能性がある」ことを挙げ、3つ目については「最初仕事を取るために安く仕事を受け、最初の顧客に対して過剰サービスをした結果、そのことが後々負担になるということがある」と説明した。やれることを増やさずに、やれないことを決めることも重要だと説く。
ひとり社長の最適化戦略として「仕事や知識を他の人に共有する」、「専門家と連携する」、「できないことは他の人に任せる」ということを挙げ、「自分の知識を他の人に共有すると相手側も自分がどういう専門家であるかが理解できるので、協力関係の構築につながりやすい」と説いた。また、これは対顧客に対しても有効だそうだ。このような自説を述べつつ、同社のサービスを紹介した。
ホワイトであるための秘訣
「デジタル広告の業界はブラックという業界共通の認識を変えるべき」と説くのは、カルテットコミュニケーションズ 代表取締役社長 堤大輔氏。
名古屋に本社を置き、リスティング広告の運用が本業の同社は、毎月100件以上の新規案件を60名体制で対応する。これらの案件のほぼ全てが月額100万円以下であるという。「これを聞くと、業界の方は、労働環境がさぞかしブラックだと想像されるであろう。」と苦笑いする。
直近売上が20億円超で急成長を遂げる同社。これに合わせて社員の業務量も増え続けていることは容易に想像できる。だが月間の残業時間は社員一人当たり2018年通算で6.8時間であるという。
堤氏は労働時間が課題となりやすい広告業界にあって、デジタル広告はこれに拍車をかけていることを強調する。従来のマス広告は、入稿期日が厳密に決められている一方で、出稿したら一旦終わり。だが、Web広告は出稿したらそこから運用が始まり、かつ良くも悪くも24時間365日修正が出来てしまう。
労働時間を長くする要因のひとつが、モンスタークライアントの存在といわれている。だが同氏に言わせると「連絡は遅くにしてはダメであることをクライアントに伝えてないことがよくない。クライアントは、自らがモンスターであることを気づいていない。」と話す。
「例えば、閉店時間が決まっていればお客さんはその時間に帰るが、そうでなければ、お客さんはいつまでも残る。ルールを用意していないこちらが悪いと考えることも必要である。」として「自分たちの仕組みがないから自分たちを苦しめている訳であり、仕組みを作って変えていくことが必要」と語った。
その仕組みとして、カルテットコミュニケーションズでは、SLG(サービスレベルガイドライン)を作成し、作業を標準化させることを行うことで、時間外の仕事や余計な仕事を社員にさせないような仕組みを作る工夫をしている。
そして、仮にスタッフがクライアントからの要望で、+αのサービスであったとしてもSLGを逸脱したサービスをやると、上長からお叱りを受けるというほど、運用を徹底しているとのことだ。
クライアントに対して、ただ単に「運用をやります」というだけではなく、しっかりと事前に何をやって何をやらないかを決めて、事前に理解していただくことが大切であることを強調した。
また、「もし会社が残業を減らし、本来健全であるような働き方で組織が弱くなるのだとすれば、それはそもそも時間外の従業員の働きによって支えられていたビジネスモデル自体が脆弱であると考えるべきである。」と語った。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。