古風で新しい!?デジタルマーケターを育成するボランタリーチェーン
中小企業向けのマーケットは2000億円規模のポテンシャルがあるとも言われている。ソウルドアウトはもとより、今年はサイバーエージェントグループもこの領域に参入を果たした。
このような大手とは全く異なるアプローチでこの領域に挑むのが、大阪にある瀬川企画だ。本町の、小さなオフィスビルのワンフロアを構える同社は、今年11月に「デジマチェーン」というサービスを立ち上げた。
同社代表取締役の西 和人氏は、「中小企業におけるデジタルマーケティングへのニーズは確実に高まっており、経営者もその必要性は理解しているが、本業が忙しくて業務としてそこに取り組む時間がない。そのような経営者を支援する人材を育て、デジタルマーケティングで日本全体を活性化していといのが設立目的」と語る。
デジタル広告業界のボランタリーチェーン
出典:同社資料
「デジマチェーン」とは、ネット広告代理店のボランタリーチェーンという形態をとる、会員制のネット広告代理店運営支援サービス。ボランタリーチェーンとは、独立した小売店が同じ目的を持った仲間たちと組織化し、チェーンオペレーションを展開している団体のことだ。仕入れや設備投資におけるコスト削減や、情報共有などが大きなメリットとなる。
希望者は、加盟金10万円と、月会費1万円で参加が可能というシステムを導入。同社によると、サービスの開始以降、24社の参画を得たとのこと。
同社代表を務める西氏は、15年間ネット広告の業務に携わってきた運用のスペシャリストだ。大手ネット広告代理店オプトでのリスティング広告運用業務経験を経て、その後大和ハウスのハウスエージェンシである伸和エージェンシーでリスティング運用チームを立ち上げたのちに独立、地元関西で広告代理店やインハウス広告主の広告運用支援やコンサルティングを手掛けてきた。仕事の傍らで学んだ大学院の授業でコスモスベリーズという家電販売店向けのボランタリーチェーンの成功事例を知り、デジマチェーンの着想を得たという。
デジタルマーケティング人材不足に向き合う
運用の現場から長年デジタル広告業界を見てきた西氏が実感していることは、デジタル広告業界が抱える、慢性的なデジタルマーケティング人材の不足。そこの人たちを増やしたいという想いがサービス立ち上げの根底にある。
市場は拡大を続け、既に1兆5000億円の規模となった。大手広告代理店に所属するエキスパートは確かに一定の層が形成されたものの、彼らが支援をする対象は大手広告主に限られている。
「大手広告代理店が市場の成長を牽引しているが、大手広告主の顧客を獲り合っているだけで、そのノウハウがなかなか中小企業にまで広がっていかない。デジタルマーケティングに取り組みたくとも出来ないという中小企業を支援する人材が不足していることこそが、今の業界の課題。」と同氏は指摘する。
立ち上げではなく、継続を支援
デジマチェーンは、ネット広告ビジネスの未経験者も参加が可能。参加することにより、開業支援や様々な情報提供を受けることが出来る。同氏によるデジマチェーンの特徴は、「ネット広告代理店を開業することは比較的簡単だが、難しいのは継続すること。デジマチェーンはそこを支援できることが大きな特徴。」と語る。
出典:同社資料
デジマチェーンが提供するオプションの中には、「ネット広告費用の後払い一括サービス」と「ネット広告の共同購入」というものがある。
他のサポートは、他でもよくあるが、この二つのオプションはデジマチェーンならではのもののようだ。
デジマチェーンのターゲットは、士業を営む人、広告代理店から独自した個人事業主なども含む。彼らがGoogleやYahoo!、Facebookなどの広告プラットフォームを利用する場合、原則はその費用は前払いだ。しかし同社が広告代理店と組んで後払いを可能にすることで、個人事業主や中小事業者が一番苦労するキャッシュフローへの対応をサポートしてあげることが出来る。これが「ネット広告費用の後払い一括サービス」だ。
もう一つの「ネット広告の共同購入」について。
広告代理店が1社ではなく複数社によりまとまることのメリットには、対外交渉力。複数がまとまれば仕入れ先への交渉力も高まり、1社ではバイイングが難しい、大手媒体社の大型メニューも購入してそれを複数でシェアできる可能性も高まる。と西氏は考える。
これらのオプションを実現するには、瀬川企画だけでは実現することは難しい。したがって同社は他の大手広告会社との連携を予定しているという。
治療院が広告代理店に
このデジマチェーンの取り組み事例として紹介を受けたのが、治療院がネット広告代理店化した事例。岡山県で3店舗を構える「ヨリミツ治療塾」の事例。デジマチェーンに参画する同治療院は、現在治療院を経営する傍ら、他地域の治療院に対してネット広告の掲載サービスを代行しており、その数は10治療院にのぼるとのことだ。もともとは西氏のコンサルティングによりデジタル広告で自社の集客に成功、その後コンサルティング会社を設立して他の治療院のマーケティング支援を開始した。西氏はこのような事例を日本中で広げていきたいとのことだ。
「このような取り組みを通して、日本のデジタルマーケティング人材を増やし、デジタルマーケティングを主要産業にしたい。」と語る。
瀬川企画という社名の由来について尋ねると「良く聞かれるのですが、私の旧姓が瀬川です。会社設立後、結婚を機に私が奥さんの姓に変えたのです。私は兄弟が3人なのですが、奥さんの方が一人なので、家系を絶やさないようにということで私が奥さんの家に入ったのです。そういうところは、考え方が意外と古風なのです。」と笑いながら教えたくれたが、なんとなく、新しいことのようにも思える。
ボランタリーチェーンという古くからあるビジネス形態をデジタル広告業界で応用する西氏の着想にも、何か通ずるところがあるのかもしれない。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。