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国内放送局の動画広告を支え続けると決めた日―SpotXとCCIが事業提携

東京オリンピックが開催される2020年までに本格化が期待されるテレビ番組のオンライン動画ライブ配信。この動きに合わせて、動画広告はどのように進化していくのか。放送局向けソリューション提供での事業提携を発表した、米国発の動画広告配信プラットフォームのSpotX(スポットエックス)と株式会社サイバー・コミュニケーションズの各代表に話を伺った。

(Sponsored by SpotX)

新澤明男氏 (写真左) 株式会社サイバー・コミュニケーションズ(CCI)代表取締役社長。1998年に同社入社後、営業担当としてインターネット広告黎明期の市場拡大に貢献。メディア本部長などを歴任し、2013年より現職。

マイク・シーハン氏 (同右) SpotXのCEO兼共同創業者。2007年に同社を設立。本社は米デンバー市(コロラド州)。2017年8月には欧州のトップメディアグループであるRTL Groupが同社の全株式を取得した。

動画配信にまつわる広告主と放送局の課題を解消

改めてそれぞれの会社をご紹介いただけますか。

新澤社長 CCIは、電通グループに所属するデジタル専門のメディアレップとして、様々なインターネット・メディアの収益化支援を行っています。年間約1万社の広告のプランニングに関わり、放送局を始めとする1500~2000メディアとお付き合いがあります。

シーハンCEO SpotXは動画配信事業の収益化を促進するプラットフォームです。600名の社員を擁し、世界各地に24事務所を展開。設立当初は動画広告専用アドエクスチェンジでしたが、今ではSSPを兼ね備えた高度な動画広告専用アドサーバーを運営しています。

両社の事業提携内容についてお聞かせください。

新澤社長 テレビの視聴者数が減少していく中で、インターネット広告を通じたブランディング施策を打ちたいという需要が高まっています。ブランディング目的のインターネット動画広告というと、日本ではこれまでYouTubeやUGC系動画サイトなどの広告枠が多く利用されてきましたが、広告主はより質の高いコンテンツを集めたプラットフォームを求めています。そこで放送局が保有する良質な動画コンテンツのインターネット配信に対する関心が高まっているのです。

一方、視聴者数の減少に直面するテレビの放送局側も、自社が保有する動画コンテンツをどのような形でインターネット上にも配信し、かつマネタイズするかを検討しています。SpotXのソリューションは、広告主と放送局という双方の課題を解決し得ると考え、事業提携に踏み切りました。

シーハンCEO 当社としては、日本独特の広告主及びメディア状況を鑑みて、日本市場に根ざした強力なパートナーと手を結ぶことが絶対に必要だと考えました。SpotXの主要顧客は放送局なので、まずは各国の放送局から信頼を勝ち取らなければなりません。日本においてCCIの協力を得ることができたというのは非常に大きいです。

米国ではOTT視聴がもはや定着

SpotXがこれまで事業展開してきた欧米諸国では、インターネット動画配信サービスはどれほど普及しているのでしょうか。

米国ではOTT(インターネットを通じた大容量の動画コンテンツ配信)を通じてスポーツ中継などをライブ動画としてインターネット端末から視聴することがもはや一般的な習慣として定着しつつあります。またテレビ画面での視聴においても、RokuやApple TVといったストリーミング端末を介する割合が増えているのです。その背景には、ケーブル・テレビやサテライト・テレビの視聴料が高額であるという米国独特の事情があるのかもしれません。

テレビを有料で視聴する人が少ないという意味では、日本は欧州の事情とよく似ています。その欧州でも今まさに、Netflix、HBO、Amazon Prime Videoといった動画配信サービスが従来の放送局の牙城を切り崩し始めました。

実際にOTTの広告費は2年前まで当社売上のわずか5%に過ぎなかったのが、現在では40%以上を占めています。しかも、その大部分が「コネクティッド・テレビ」と呼ばれる大画面の端末を通じた視聴です。こうした大きなテレビ画面で視聴される広告のビューアビリティは事実上100%と言っていいでしょう。

その欧米市場において、SpotXはこれまでどのような取り組みを行ってきたのですか。

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シーハンCEO 一言で表現すると、放送局が保有するインターネット上の広告在庫を収益化するためのお手伝いです。純広告とプログラマティック広告の双方に対応する高度な動画広告専用アドサーバーを用いることで、放送局が負担を感じることなくインターネット広告取引を行うための環境を整備しています。

また動画広告全体のエコシステムを支えるというのも大事な役割です。本格的にかつ長時間にわたり視聴されるOTTは、SNSを通じた動画配信とは根本的に異なるものです。ターゲティングや広告効果計測のあり方が全く違います。現時点でOTTの効果測定手段を自前で持つ広告主はまずいないでしょう。こうした課題の一つひとつに対応していくためには、動画広告業界の様々なプレーヤーと協業していく必要があります。

日本のOTT市場は劇的に成長する見込み

翻って、日本のOTT市場はどのような状況なのでしょうか。

新澤社長 2018年にCCIが電通、D2Cと実施した「日本の広告費インターネット広告媒体費 詳細分析」によると、2017年の動画広告市場規模は約1155億円、2018年の見込みは1600~1800億円。このうち、動画枠内で配信される形態となるインストリーム広告は4~5割を占めると考えられます。またCCIの広告売上高のうち動画を使った広告素材の割合は25%ほどです。数年前までは1割程度だったので、急成長している領域です。OTT市場がバナー広告市場と同規模にまで成長することもあり得ると思います。

先ほどOTT先進国である米国ではライブ動画の視聴が増えているとの話がありましたが、動画市場全体のうちライブ動画市場はどれほどの割合を占める見込みなのでしょうか。

ライブ動画に限定した市場規模に関しては、日本にはまだしっかりとした公表データがない状況と理解しています。ただし、当社では2017年に主に野球やバレーボールといったスポーツやイベントをコンテンツとしたライブ案件を30日ほど実施しました。今年に入ってから既に去年の3倍近くのライブ案件を手掛けているので、ライブ動画においても確実に市場は伸びていると思います。近いうちに、放送局がOTTでリニア配信(リアルタイム配信)や24時間ライブ配信を行なう時代が来るでしょう。

そんな時代が到来したときに、放送局はどのようにして収益化を図るのか。とりわけライブ動画はスポンサーを見つけるのが難しい。そこでプログラマティック広告取引が解決案となるのではないかと期待しているのです。日本の放送局の中には、自社の広告在庫をプログマティック取引に開放すれば広告料金の値崩れが起きるのではないかと危惧する声があります。こうした懸念に対応するべく、SpotXとCCIが提供するソリューションは、より高い広告単価で在庫を販売するための仕組みを整えています。

シーハンCEO 実際に米国ではOTTとプログラマティック広告取引への移行によって、従来の放送及び広告取引形態と比べて、2、3倍の広告単価を実現した放送局があります。

日本のインターネット動画広告配信市場におけるCCIの取り組みを教えてください。

新澤社長 動画広告の配信基盤として、SpotXの広告配信プラットフォームを媒体社に提供しています。優良な動画コンテンツを保有しているものの、設備やノウハウがないために動画配信事業そのものを運営できていないという放送局に対しては、動画コンテンツを配信するシステムをご用意することもあります。その上で、放送局向けのインターネット広告商品を開発し、広告会社と一体となって販売活動を行うまでの包括的なメディア支援を行うというのが当社の役割です。

独自技術でシームレスに広告を挿入

「より高い広告単価で在庫を販売するための仕組み」とは、具体的にはどのようなものなのでしょうか。

新澤社長 インターネット動画配信においてはネットワーク遅延が起きてしまい、コンテンツとCMの間に継ぎ目のようなものができてしまうということが多々あります。この課題を解決するのが、SpotXが提供するServer-Side Ad Insertion(SSAI)の技術です。コンテンツとCMの間そしてCMとCMの間をシームレスにつなぎます。とりわけリニア配信となると、わずかな遅れも許されない状況となるので、非常に有用な技術です。

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また11月9日にプレスリリースさせていただきましたが、日本ではまだ極めて珍しい、インターネット上のライブ動画配信におけるプログラマティック動画広告配信を実施しました。Adobe社のDSPと連携し、プログラマティック広告、純広告、自社広告が次々と流れるという事例を示すことができました。

予約型の純広告とプログラマティック広告の両方を一つのコンテンツの中で配信できる環境の構築は、放送局の収益最大化を実現するためには必須です。この環境づくりは、アドサーバーとSSPを統合させたソリューションを持つSpotXだからこそできること。他の大手プラットフォームでも同様のシステムを提供してはいますが、実際のオペレーション・サービスと組み合わせたソリューションにはなっていません。日本において利用可能なソリューションは、少なくとも現時点ではSpotXとCCIの事業提携を通じてのみ提供できると言ってもいいのではないでしょうか。

シーハンCEO ただし、ライブ動画配信で動画広告を挿入するというのは実は非常に難しい。DSPや広告主を含めたエコシステム全体からの協力と理解を得る必要があります。そこでやはり日本のインターネット広告業界のエコシステムを熟知し、かつ主要事業者に対して協調を働き掛けることができるCCIとの提携が大きな意味を持ちます。

ブランディングを目的としたインターネット動画広告においてはブランドセーフティの確保が課題になると思います。どのような対応策を考えていますか。

シーハンCEO ブランドセーフティを毀損するのは通常、品質の低い在庫か、もしくは広告取引における中間業者の存在です。当社では、放送局が持つ最高品質の在庫を、買い手がシームレスに買い付けることができるプラットフォームを提供しています。ブランドセーフティに関する問題の大部分はこの措置によって既に解決済みです。

今後の展望をお聞かせください。

新澤社長 放送局を始めとする動画コンテンツホルダーの事業機会が増えてくることは間違いありません。とりわけ地方放送局にとって、OTTの普及は絶好の機会になるでしょう。日本の地方放送局は現在、キー局とネットワーク化することで収益化しているケースがあると思います。ただそうした地方局は、例えば高校野球の地方予選だったり、地元名物のお祭りといった良質なコンテンツを豊富に持っているのです。今まではそれらのコンテンツをテレビ放送で一回流して終わりだったのが、OTTでも配信した上でプログラマティック広告取引を通じて収益化する手法を得るというのは非常に大きい。またそのことで、今まで出稿機会に恵まれなかった広告主に対するインストリーム広告への出稿機会が増大します。

シーハンCEO 広告主や放送局がファーストパーティ・データやサードパーティ・データをキャンペーンに活用するようになれば、動画配信サービスにおける広告在庫の価値がさらに上がり、広告主は自らが求めるユーザーにリーチするためにより高単価の広告費を支払う、という好循環が生まれます。日本でもデータ活用とデータ管理の仕組みがより整備されれば、同じような動きが出てくるでしょう。

2020年までの未来予想図

SpotXが、今後成長が期待されるライブ配信において遅延を発生させずに広告を挿入する技術を用いて高単価の広告市場を形成するという狙いを持ってライブやOTTに注力していることは理解しました。ただインストリーム広告だけでは広告在庫を十分に確保できないのではないでしょうか。

シーハンCEO インストリーム広告市場規模の大きい米国でも広告在庫量に関する懸念は聞かれます。ただ実際には放送局が持つ広告在庫の規模は莫大であり、そのことを広告主に理解いただくというのも私たちの仕事の一部だと思います。

確かに日本ではいまだOTT環境を整備している段階であり、米国ほどの規模の広告在庫はそろっていません。ただし、当社はOTTが今後ますます普及していき、テレビのターゲティング層が高齢者から若年層へと変わっていくという未来が確実に到来すると考えています。遅くとも2020年の東京オリンピックでOTTへの移行は急速に加速するでしょう。そうした変化が起こった後で対応するのではなく、変化する前に様々な手を打っておくことが重要なのです。

ちなみに当社は短編のインストリーム広告や、テキストの間に流れるアウトストリーム広告も扱っているため、現時点でも広告在庫は十分に確保できています。

日本におけるOTTはいつ本格化すると思いますか。

新澤社長 東京オリンピックが開催される2020年にモバイル通信システムが5Gへと切り替わったときに、移動中にモバイル端末を通じて動画を視聴する人が爆発的に増えるでしょう。今でも通勤電車の中でアプリのゲームに興じている人々がたくさんいますが、それ以上の頻度で動画を視聴する通勤客を見かけることが多くなるはずです。

そして視聴者のニーズに応えるべく、放送局は2020年までに「観たいときに、観たい場所で、観たい番組を観る」という環境を目指すでしょう。放送局による動画配信サービスは現在、各局のサイトやTVerなどの動画ポータルサイトのみで展開されていますが、間もなく放送事業全体としてのデジタル化へと舵を切るでしょう。放送局が持つコンテンツの流通形態さえも一変するはずです。動画広告及びライブ動画広告市場の伸び代は非常に大きいと言えるでしょう。

ABOUT 長野 雅俊

長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長

ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。