ブランドマーケターが振り返るデジタル広告業界の2018年-第2回:今どきのデジタルクリエイティブ- [インタビュー]
ブランドマーケターは、2018年のデジタル広告業界をどのように振り返り、そして2019年にどのような取り組みを考えているのか。
3つのトピックスについて、日本を代表するブランドマーケターの一人、ユニリーバ・ジャパン・カスタマーマーケティングメディアダイレクターの山縣亜己氏と、アサツーディ・ケイインタラクティブメディア本部 本部長 清家直裕氏にお話を伺った。
第2回目の今回は、デジタルクリエイティブについて。
第1回目の記事はこちら
(聞き手:ExchangeWire JAPAN 野下 智之)
コミュニケーション設計はマスとデジタルで統合
―広告市場6兆円のうち、デジタルが約1兆5000億円規模と、その割合を増やしてきている中、広告クリエイティブのデジタルへの意識の比重が高まってきているのではないかというイメージありますが、ユニリーバさんとしてはどのようにクリエイティブと向き合っていますか?
山縣氏 以前はデジタル向けのクリエイティブは他のものとは別途に考えていまいた。デジタルのアクティベーションのようなものをキャンペーンに紐づけて考え、その周りのクリエイティブというような位置付けをすることが多かったからです。
キービジュアルを利用した同じコンセプトではあるものの、バナーや静止画でシンプルに作るのが過去のやり方でした。ですが近年はデジタルで十分なリーチも取れるようになっており、また、広告プラットフォームごとの特徴も出ており、効果が高いクリエイティブの差異が明らかになりつつあります。
ですので、通り一辺倒にバナークリエイティブを作るのではなく、それぞれの広告プラットフォームで必要なフォーマットや、クリエイティブの開発が必要だと感じています。
今はもうマスとデジタルとを分けてコミュニケーション設計をするのではなく、両者を統合することが必要になってきています。
クリエイティブはプラットフォームに合わせて用意し、レイヤーごとに最適化
山縣氏 以前は、まずテレビCM向けのキービジュアルを作り、それを雑誌や店頭のPOPなどでもそのまま押していくというやり方でした。
ですが、デジタルでここまでユーザーをターゲティング出来きるようになり、またFacebook、Instagram、Twitterというようにユーザーの用途や使われ方が違うプラットフォームで同じクリエイティブを使いまわすという方法からは変わりつつあります。
それぞれのチャネルにいるユーザーに見てもらいやすく、そして受け入れられやすい素材やクリエイティブを複数用意して、コミュニケーションをレイヤーごとに使い分けて伝えていくということが、求められるようになっています。
例えばデジタルの動画広告は、TwitterやInstagramなどのインフィードな環境では、そもそも15秒しっかりと見てくれる人はほとんどおらず、せいぜい1秒、2秒の世界です。でもやはり私たちのブランドの世界観はそれでは何も伝わりません。そこでそれぞれのプラットフォームで視認してもらうことで、紙芝居的に記憶に刷り込んでいくことは必要なのではないかと思っています。
清家氏 テレビCMはYouTubeのようなフォーマットにおいては適していると思われますが、FacebookやTwitterに当てはまるとは限りません。それぞれのプラットフォームに合ったクリエイティブ開発は大事だと思います。
―今はどの程度の粒度で対応されているのですか?
山縣氏 まだそこまで細かくは対応しきれていません。ですが今後はInstagram用は独自に対応していきたいですね。Instagramストーリーズは縦型画面なので、これに対応したクリエイティブを作る必要あるかなと思っていますし、Instagramのポスト自体がビジュアルでコミュニケーションするものなので、そこは別途アイデアを用意していかないと、ユーザーから受け入れてもらえないかなと思います。
清家氏 例えばInstagramならばフォトジェニックな写真、Twitterであれば写真画像+テキストというような感じで、それぞれのプラットフォームに適した型というものはあります。Facebookの場合、クリエイティブと一緒に記載されているテキストも読んでもらえるというような幅がありますし、カルーセルのようなものもありますよね。そこまでを含んだ上で、クリエイティブの開発が出来るとよいですね。
山縣氏 Instagramならではの手法や、ユーザーの中で流行っていることってあると思うのです。そういうものを掴めば、身近に感じてもらえたりするでしょうし、Instagramにはラグジュアリーブランドもこぞってストーリーズを活用しているから、私たちも、逆にそういうアプローチでラグジュアリーっぽいコンテンツを出すなど、やりようは色々とある気がします。
Facebookは、ユーザーが文章を読んでくれるので、ウェブターゲットの場合はFacebook用に真面目なクリエイティブ作って、読んでもらえるように仕立てることも出来ると思います。これもアイデア次第ではありますが。
そのプラットフォームに自分たちのターゲットがどういう風に接してくれて、どういうコンテンツならより見てくれるか考えてそれ用にアイデア開発をすれば、効果が大きくなるかなと、感じています。
清家氏 FacebookやInstagramは関連度スコアを導入しています。このスコアの高低がパフォーマンスに影響してきます。ですので定期的に私たちの方からスコアをお伝えしたり、PDCAを回して改善を行っています。
山縣氏 ただし、スコアの高低で出た答えが本当に消費者の反応そのものと同じであるかどうかは分からないです。あくまでも、Facebookのアルゴリズムではそうであるということ。そこが少し難しいところで、私たちも解明していこうと思っているところです。
ただFacebookの場合、明らかにスコア悪いと広告費に関わってきますので、その場合はクリエイティブを変えましょうというところです。
もし、Facebookのクリエイティブに対する評価が、ユーザビリティーの観点でも妥当性あるとすれば、Facebookでスコアが低ければ、他のプラットフォームのクリエイティブへも応用できるようになります。
Twitterさんからは新しいことをやろうということで前向きな提案も色々としていただけており、現在も新しいことに取り組んでいます。そういうのが楽しいですね。メニュー開発も一緒に取り組ませていただいています。
動画での展開はアウトストリームも
―話が少し変わりますが、動画広告について以前ユニリーバさんでは、アウトストリームの動画広告を出稿していなかった記憶がありますが、今もその方針は変わっていないのでしょうか?
山縣氏 最近ではやろうと思うようになりつつあります。アウトストリームに関する調査も色々と進めており、その結果を見てから正式に判断しようと思っています。当社でアウトストリームを活用してこなかったのは、グローバルで実施した調査結果をもとに判断したことによります。
私たちが持つ動画コンテンツは、テレビCM向けを想定した、音声が流れて初めてユーザーにメッセージが伝わるものです。そこに小さくサブタイトル入れても、スマートフォンの小さな画面でユーザーに見てもらっても全然効果がないという判断でした。ですので、「アウトストリームをやるな」とは言われないまでも、アウトストリーム用にコンテンツを開発してまでのことを、これまではしてきませんでした。
ですが最近は、インストリーム動画広告でも、そもそもユーザーがスマートフォンを横にしてまでちゃんと見てはいないのではないかという話になっています。インストリーム動画広告は、縦でみると広告が表示される画面がとても小さくなります。インストリーム動画広告の効果自体が、そもそもどうであるのか・・・というような議論にもなります。
アウトストリーム動画広告の出面も増えており、良いフォーマットも色々と出てきています。現在テスト配信をして、その可能性を検証しているところです。
アウトストリームの場合、よほど気に入ったタレントが出て来る場合以外では、15秒視聴されるということはなかなか少ないですよね。ですので、そこはフォーマットに合わせてユーザーから受け入れてもらえるクリエイティブを作っていく必要があるかなと。ですので今後、アウトストリームのフォーマットに適した動画クリエイティブを開発して使っていこうかなと考えています。
清家氏 これまでは作ったクリエイティブの配信時にリーチ効率を高めていくという取り組みはしてきましたが、ブランディング視点でクリエイティブをどう評価していくのか自体の評価については、今後一緒にトライさせていただきたいと考えています。
―今後広告のクリエイティブはどのようになっていくとお考えですか?
山縣氏 広告で、モノを売らなければならないので、私たちの言いたいことをそこでコミュニケーションしてくことが必要です。プルであろうがプッシュであろうが、総合的に言いたいことやブランドの世界感を理解してもらうのが広告です。今はユーザーのアテンションが短くなってきていますし、それに応じて広告の尺もどんどん短くなっていきています。ですので、いかに設計をしっかりとして、それぞれのレイヤーで見てもらうようにしていけるのかが、消費者とのコミュニケーションにおいてカギになるのではないかなと思っています。
広告が単純に押し売りにならないように。そこは広告が面白ければ、ユーザーは見てくれるのですよね。つまらないから5秒程度でスキップされるし、面白さにユーザーが引っかかってくれればより時間を割いて見てくれる。ユーザーにいかに寄り添って作っていけるかが重要です。
デジタルの世界でターゲットセグメントを増やして配信するのであれば、クリエイティブもターゲットを一つに絞り込まず、セグメントごとに用意した上でコミュニケーションをする必要が出てきます。
それぞれのターゲットセグメントが欲しいと思ってもらえるように、双方向なコミュニケーションが出来る関係作りが出来てくるといいなと思います。そして「あの広告好きだよね」と言ってもらえるように出来るといいですよね。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。