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「VOD市場動向から見えた勝ちパターン “学生”と“コミック/ゲームアプリ”に見えた可能性」-電通デジタルが分析するVODアプリ動向 [インタビュー]

電通デジタルとアプリ分析支援企業のフラーが、VOD(ビデオ・オン・デマンド)アプリ市場についての共同レポートを発表した。なぜ今、VODアプリに着目したのか。そしてVODは、ゲーム、マンガに続く人気アプリ分野となり得るのか。調査結果の詳細について、電通デジタルの中村智彦氏に話を聞いた。

(聞き手:ExchangeWire Japan 長野 雅俊)

VODアプリの成長を数値と感覚値で裏付け

自己紹介をお願いします。

電通デジタル広告事業アカウントプランニング部門スマートデバイス事業部データグループグループマネージャーの中村です。経歴を簡単に述べると、アプリマーケティングには2013年から携わりまして、データを活用した施策を中心にアプリマーケティング全般を支援していました。また自社開発の広告効果測定用SDKやエクスクルーシブ契約締結後の外資系広告効果測定用SDKの国内におけるプロダクトマネージメントも経験したので、SDK市場の国内外の事情に精通していました。

電通デジタルには2016年に入社し、SDK領域の知見を活かしたソリューション開発やアプリ業界の市場分析、アプリインストール広告におけるオンオフ統合のデータ分析等を手掛け、直近ではアプリ領域におけるアドフラウド対策の仕組み作りや広告効果を最大化させるための武器作りを主に行っています。

この度「アプリ市場調査レポート」を発表するに至るまでの経緯についてお聞かせください。

昨今、事業の成長を加速させる上でアプリマーケティングは一手法としてメジャーになってきています。私自身は電通グループに入って約2年になるのですが、アプリマーケティングに関するお問い合わせは数多く頂いてきました。そこで、アプリ市場に関する調査情報をレポートとしてまとめ、発信することで電通グループ内はもちろん、広くアプリマーケティングに携わる業界の関係者へも施策を行う上でのTipsをお伝えできればと思いました。また、これまでこのようなアプリ分野別の調査レポートは見たことがなかったので、興味深いデータが見えてくるのではという期待もありました。

分析ソースについてはアプリの利用状況のデータを保持しているフラー社に声をかけ、同社のアプリ専用パネル調査ツールであるApp Apeが持つユーザー3万人のデータを活用しています。

数あるジャンルの中で、VODを選んだのはなぜですか。

写真1

まず定量的な観点でアプリ分野別に2017年度の利用状況の伸び率を2016年度と比較して振り返ってみたところ、VODが128%、音楽が115%、コミックが108%、ニュースが104%、ショッピングが104%、ゲームが66%と、VODが最も高い結果になっていました。これはフラー社によるMAU延べ人数を調査指標とした結果です。

また、肌感覚としてもかつてTVドラマ等のTV番組について学校や職場で話題にしていた時と同じように、今ではVODで配信されるコンテンツについて知人や同僚と語り合う機会が増えました。また、自分もそうなのですが趣味がVOD鑑賞という声もよく聞くようになりました。VODの潮目が変わったという印象があります。

これらの理由より、今回の調査対象としてVOD分野を選定しました。また、フラー社との本取り組みについては定期的にその時旬な分野をピックアップして発信していく予定ですので、今回は第一弾という位置付けになります。

Amazonプライム・ビデオは付帯サービスとしての位置づけか

本レポートには、VODアプリのユーザー1人当たりのVODアプリ利用個数は月間平均1.2個のまま頭打ちしている、との調査結果が記されています。テレビでは多チャンネル化が進んでいるのとは対照的ですね。その理由はどうしてでしょうか。

ユーザー一人当たりのVODアプリ利用個数

図1:ユーザー一人当たりのVODアプリ利用個数

資料提供: 電通デジタル×App Ape

大きく2つの理由があると思っています。1点目がコンテンツ目線についてですが、異なるVODアプリであっても同一の作品を視聴できていることが関係してるのだと思います。これは多チャンネル化しているテレビではありえないことですからね。

ただし、VODアプリの利用率そのものは前年に比べ約1.3倍に増えていますから、各VODサービスはいかにサービスとして差別化を図れるかが今後肝になってくると思います。

2点目はスマホアプリ利用時間における可処分時間についてです。1日当たりのスマホ利用時間は2018年4月時点で平均167.16分という調査結果が出ています(電通独自調査)。これは1日の10%以上はスマホに触れていることになるのですが、最近ではますますスマホが手放せなくなるほど多種多様なサービスが利用できるようになっていて、その利用シーンは多岐にわたっています。ですので、スマホユーザーは1日10%以上接触しているとはいえ、その接触時間内においてVODアプリを利用できる時間がごく限られているということも考えられます。私自身もVODアプリをいくつか所持していますが、例えば海外ドラマ等シリーズが多めなコンテンツに熱中している時は、気付いたらその他のVODアプリを1カ月以上起動していなかったということが過去に何回もありました。

HuluやNetflixなど、諸外国で人気を集める大手VODの利用率は日本ではあまり伸びていないようですね。

国内アプリ市場のトップランナー

図2:国内アプリ市場のトップランナー

資料提供: 電通デジタル×App Ape

そうですね。諸外国で人気を集める大手VODサービスが思った以上にアプリで利用されていない結果になった背景として、こちらも2点要因が考えられると思います。1点目は、外資系スマート家電の普及による影響があります。Apple TV、Chromecast 、Amazon Fire TV Stickなどのストリーミングデバイスを経由してVODの視聴が可能になったことで、外資系VODサービスは特にですが、アプリを立ち上げることなくサービスを利用できる環境が整備されたということになります。ですので、アプリ自体は利用されていないですが、サービスとしてはアプリ外で利用されている可能性は十分に考えられます。

2点目は国内市場の月間利用者数の調査から見えたのですが、1位がAmazonプライム・ビデオ、2位がTVer、3位がGYAO!という結果でした。つまりVOD分野においてもスマホでの課金に抵抗があるユーザーがまだ多いという仮説が考えられます。これら上位3つのサービスの中で唯一有料サービスであるAmazonプライム・ビデオについては、プライム会員限定セールである「Amazonプライムデー」が開催された2017年7月にユーザー数が急激に伸びていました。この結果から、もともとは買い物目的でプライム会員になったユーザーが、その付帯サービスとしてAmazonプライム・ビデオを利用していた場合、視聴料を払っているという感覚はHuluやNetflixに比べ希薄になることが想定されます。よって、そもそも外部デバイスを用いることでアプリ以外で視聴していることと、アプリでの課金のハードルが影響しているのだと感じています。

またHuluやNetflixは有料ながらも話題性が強いオリジナルのコンテンツや独占配信コンテンツを豊富に持っています。スマホでの課金に抵抗があるという仮説が該当するならば、現状VODアプリの利用率が最も低い10代こそ獲得の余地がありますし、集客手法も10代の特権である“学割施策”は効果が期待できるのではないでしょうか。

コミックやゲームとの連携で市場開拓

コミックアプリやゲームアプリとVODアプリを併用しているユーザーは少ないとの調査結果も出ています。やはり可処分時間が限られているということなのでしょうか。

併用するアプリの傾向

図3:併用するアプリの傾向

資料提供: 電通デジタル×App Ape

可処分時間が限られていることはもちろん考えられるのですが、それにしてもここまで少ない数値が出るとは思いませんでした。例えば人気漫画をコミックアプリで読むユーザーは、VODで視聴できるテレビアニメ版や劇場版にも興味を持つはずだからです。またゲーム系アプリではVODで放送されているようなアニメのキャラクターとのタイアップも頻繁に行っています。本来的にはゲーム、コミック、VODの各アプリ間を行き来するユーザーがもっと多く存在してもおかしくないと感じています。この結果から自分の好きな作品やキャラクターについて、コミックアプリ、ゲームアプリ、VODアプリ横断で接触できるという認知や集客施策についてまだまだ余地があると言えます。

とはいえ認知・集客施策はサービスが万全の状態で行うのがベストですので、それらの施策を行う前にまず作品の編成やUI/UXの改善は優先度を上げて取り組むべきですが、それを踏まえた上で他分野との連携やアライアンス締結といった取り組みが十分に出来た場合、例えばコミックアプリの広告配信面で関連コンテンツを持つVODアプリを宣伝すると一定の効果は期待できますし、コミック・ゲームアプリとVODアプリとの相互送客施策は効果が期待できるでしょう。

VODアプリでは休眠ユーザーが多いということも特徴として挙げています。

休眠ユーザーの割合

図4:休眠ユーザーの割合

資料提供: 電通デジタル×App Ape

フラー社のデータによると、2017年度の平均休眠率(1カ月間起動しないユーザーの割合)は、ゲームカテゴリで39.9%、ニュースカテゴリで43%、コミュニケーションカテゴリで51%、コミックカテゴリも同様に51%であるのに対して、今回の調査対象としたVODカテゴリは62%と比較的高い結果となりました。

この理由も2つ考えられるのですが、1つ目は利用のきっかけがとあるコンテンツ目当てだった場合、そのシリーズが見終わるともう戻ってこないというケース。2つ目はサービスが無料の場合多くなると思うのですが、とりあえず無料だからとダウンロードし起動するが、その後放置になるケースが想定されます。

ただ、この休眠ユーザーが多いという状況はチャンスと捉えて良いと思います。アプリを一度もダウンロードしたことの無いユーザーより、過去にVODアプリに興味を持ってダウンロードしたユーザーの方がポテンシャルは高いはずです。ですので、それだけ興味を呼び起こせる対象が多いということになります。

投資を増やし始めたVODアプリ市場に期待

VODアプリは、これまでアプリ市場全体を牽引してきたゲームアプリに匹敵する規模まで成長するでしょうか。

写真2

ストアの売上げベースですと、VODアプリ分野がゲームアプリ分野抜くことはまだ考えにくいのではないでしょうか。しかし、一般財団法人デジタルコンテンツ協会によると、動画配信の市場規模は2017年で約1850億円、2022年には約1.4倍の2600億円まで成長するとの推定結果も出ておりますのでまだまだ伸び代は十分あると思います。

また、近年で大きく変わり始めてきているのが大規模投資によるVODコンテンツ制作や番組連動でして、その動きの一つとしてNetfilxは2018年にオリジナルコンテンツの制作費として1兆4400億円という巨額の投資金額を発表しています。これは一例にすぎないですが、各社市場を取りに行くために投資を重ねているのが今のVOD業界の潮流です。

最後に中村さんが考えるVODの魅力は何ですか。

そうですね。ビジネス面にフォーカスすると、既存のTV企業も過去のコンテンツを収益化できるなど、良いエコサイクルが働いている点がまず浮かびます。また、視聴したい番組について時間とデバイスを同時に気にせず観られること自体少し前から考えるとすごいことですよね。更に2020年にスタートするといわれている5Gも追い風になることが想定されるので、引き続きVODサービス分野について目が離せません。

ABOUT 長野 雅俊

長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長

ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。