モスバーガーの挑戦から学ぶ、SNSで動画広告に取り組むことの意義- [インタビュー]
テレビを見ないユーザー層に向けてモスバーガーが実施したSNS動画広告施策は、同社のEC注文サイトへのユーザー流入を促し、オンライン上での販売件数が1.3倍増加という、大きな成功を収めた。
クリエイティブによる打ち出しも含め、前例のないSNSに特化した動画広告施策に、社内からブーイングを浴びつつも、当初の予想に反する結果を得た今回の取り組みの経緯から実施後の振り返りまでを、株式会社モスフードサービス ブランド戦略室 ダイレクトマーケティンググループ グループリーダーの人見靖氏と、企画段階から同社の施策を支援したアライドアーキテクツ株式会社 マーケティング事業本部 アドテク事業部 副部長の小屋敷歩美氏に語っていただいた。
(聞き手:ExchangeWire JAPAN 野下 智之)
モスバーガーとSNS動画施策との出会いのきっかけ
― 自己紹介をお願いいたします。
人見氏 1994年に入社し、約9年半の店舗勤務の後、商品開発、スーパーバイザー、店舗システム、次世代モス開発を経て、現在のダイレクトマーケティンググループに所属しています。ダイレクトマーケティンググループでは、公式サイト、ネット注文サイト、公式アプリ、公式SNS、モスカード(プリペイドカード)などのデジタル領域が主な担当領域となっております。
小屋敷氏 2014年に入社し、2年ほどゲームアプリ会社様などの広告営業に携わっていました。2016年ごろから大手ブランド企業様とご一緒させていただくことが増え、主に動画を使ったプロモーションなどを担当しています。現在は、アドテク事業部のセールス部門のリーダーとして、プロモーション企画のご提案を主に行っています。
【モスバーガーとアライドアーキテクツのSNS動画マーケティングの取り組み】
出典:アライドアーキテクツ社プレスリリース
― モスフードサービスさんがSNS上での広告プロモーションを実施するようになった背景を教えてください。また、アライドアーキテクツさんに依頼された理由はどういったことだったのでしょうか。
人見氏 私がダイレクトマーケティンググループに配属されて3年が過ぎましたが、当時はWEB広告の活用についてあまり積極的ではありませんでした。自分自身の勉強も兼ねて参加した広告主向けのイベントで、アライドアーキテクツの村岡弥真人さんのプレゼンが非常に面白く、SNSマーケティングに特化した企業であることを知りました。
また、そのイベント中に村岡さんと直接お話しする機会があり「当社はマーケティングの最初から最後まで一貫して支援します」という心強いお言葉を頂き、相談するに至りました。
― 今回の施策を実施するまでの背景についてお聞かせください。
人見氏 2016年の夏、まだWebによる施策をしたことがなく知見もあまり持っていなかったので、どのくらいの効果が得られるのかを知るため試験的にバナー広告の配信を行ってみましたが、結果は思わしくないものでした。
私たちは顧客単価が1000円ほどのフランチャイズビジネスです。Web施策でCVRがどれほど上がっても広告費を回収しきることは難しく、費用対効果の良い施策を実施した方がいいのではという考え方もあります。ですが、デジタルを使って情報を届けるという使命のもと、費用対効果という考え方を一旦置いて、様々な挑戦をしていこうと思いました。そのきっかけと言えるのが、アライドアーキテクツさんとご一緒させていただいたSNSでの動画展開です。
― どのようなポイントを効果として見ていたのでしょうか?
人見氏 動画の視聴数と、誘導先のECサイトでの購買人数です。
ターゲットはスマホネイティブ
― アライドアーキテクツとしては、どのようなご提案をされたのでしょうか?
小屋敷氏 当初モスバーガー様では、テレビの視聴習慣が減っている若年層にはTVCMがリーチしにくいのではないかという仮説をお持ちで、SNSを日常的に使っているような方に向けてアプローチしたいというご相談をいただきました。そこで、音楽や動画、映画コンテンツなど全てにおいてスマホを通して接している「スマホネイティブ」と呼ばれる若年層をターゲットにすることを考えました。ただ正直なところ、モスバーガー様でのSNSに特化した動画プロモーションは今回が初めてのお取組みでしたので、どの媒体が最も広告への反応が高いのかは分かりませんでした。
そこで、まずは全媒体に広告を出して効果の差を見てみることにしました。
― 提案におけるこだわりについてお聞かせください
出典:YouTube
小屋敷氏 クリエイティブ面では、SNSごとのプラットフォームに沿った形で配信したほうが効果的なので、たとえばFacebookなら縦型でスマホの全画面に表示されることを前提に制作しました。また、スマホだと無音で再生されることが多いため、音がなくてもバーガーのシズル感が伝わり、かつユーザーの目を引くような口元のアップの活用などをご提案させていただきました。SNSに合ったクリエイティブ制作を当社の仮説に沿って実施いたしました。
配信先のターゲット設定においては、当社が収集したSNSのアクティブユーザーデータを活用し、SNSをアクティブに利用している人に向けた配信をご提案しました。
人見氏 「Web広告じゃないとできないことってなんだろう」と考える中、動画広告に取り組むうえで「ただTVCMをWebで流しても意味がない」ということは色々な方々からお話をいただいていました。そこで、どういうやり方をすればよいのか、どうすれば記憶に残るのかということをアライドアーキテクツさんには一緒に考えていただきました。
リーチや再生回数はTwitter、購買促進はFacebook
― 動画施策を実施して、SNS4媒体の動画広告の特性について気づかれた点などはありましたか?
人見氏 私たちにとってSNSで動画広告を使ったプロモーションを展開するのはこれが初めてでした。もちろん各SNS自体の情報はもとより、これらを使ったプロモーションについて耳にすることもありましたが、やはり聞くだけと実際に体験するのとでは全く異なっていました。
小屋敷氏 動画のテイストやコンセプトから、コメント投稿やシェアが活発なTwitterとは相性がよいのではないかと予想していましたが、実際、圧倒的にリーチ単価が低く、再生回数も伸びる結果になりました。
Facebookで展開した縦型動画のパフォーマンスもよかったです。縦型動画のCTRは横型動画の約8倍にもなり、このクリックが購入に結び付きました。
動画の内容にもよるため一概には言えませんが、広くリーチし再生を促すならTwitter、購入まできちんとカバーするのであればFacebookやInstagramが適していると考えられます。
LINEについては他媒体とは再生や課金のタイミングが異なるので、他と横並びでの比較が難しいのですが、ユーザー数が多いこともあってリーチの伸びには大きく貢献してくれました。
社内ブーイングがクリエイティブ成功の確信に
― 施策が成功した要因はどこにあったのでしょうか?
小屋敷氏 今回はあまりコンバージョンを意識しすぎず、TVCMを今まで見ていなかった方にも興味を持っていただくという趣旨、目的のもとで進めた施策でした。実際に狙いどおり若年層を中心として興味を持ってくださった方がいたので、企業の伝えたいイメージを配信媒体に最適なクリエイティブで表現し、発信したことで、視聴した方のなかに「食べたい気持ち」を生み出し、購入につながったと考えています。
人見氏 元々、社内で試写した際には「いつものイメージと違う」とブーイングが起こりました。ただ私自身はその批判を有難く受け止めつつも、企画を絶対に通そうと思っていました。もしそういった反応がなかったとしたら、SNSで配信したとしてもユーザーの方に気に留めてもらえないと思っていたからです。
動画施策のテーマは「モスバーガー45周年」で、目的は「モスバーガー」と「テリヤキバーガー」のソースとバンズが変わるということをユーザーに伝えることでした。
実際にSNS上では様々なコメントによる反響をいただきました。内容にかかわらず、コメントをしていただいた方はこの動画を見たことで、何かを感じてくれたと思っています。
小屋敷氏 動画を見ていただくとわかるのですが、SNS上でタイムラインをスクロールした際に目に留まるという点を意識して作りました。
人見氏 このトライアルを社内での起爆剤にしたいと思いました。Webではユーザーに見てもらって何かを考えさせるような仕掛けが必要だと聞いたことがあったので、ひとまずやってみたということです。
― 今後もユーザーのモスバーガーに対するこれまでのイメージを覆すようなクリエイティブを制作される予定なのでしょうか?
人見氏 はい、色々と挑戦を続けています。他社様との企画ですが「動物を使ったらどうなるのか」ということで、2018年(戌年)の年初に「犬も待たないネット注文」という動画を作ってみました。これはうまくいきました。(笑)
出典:YouTube
1.2秒で心を止める動画を
― 今後、新たなご提案として考えていらっしゃることはありますか?
小屋敷氏 お客様から「動画のクリエイティブを持っているのでSNS広告として配信したい」というお話は多くいただきます。ですが、あくまで動画は一つの表現手法でしかありません。そこに目的を持たせること、そしてSNSの特性に合わせることが重要です。今回、モスバーガー様は思い切った挑戦をされたので、私たち自身もとても勉強になりました。今後もそれぞれのSNSで話題になっていることや、どんな形式で広告が表示されるのかといった特性を踏まえつつ、ユーザーコミュニティに沿ったコミュニケーションを考えながら、SNSでの動画プロモーション施策のご提案ができればと考えています。
― SNS×動画で取り組むことの意義についてお聞かせください
人見氏 動画広告を見せるのは動画配信サイトがいちばん効果的であるという話は、様々な場所で耳にすることがあります。一方で、ユーザーが見たいものがある時に、その前に強制的に広告を視聴させることに疑問を感じることもあります。
私たちは、動画の見せ方が「今の時代に合っているかどうか」が大切であると考えています。動画の内容だけではなく、どこで私たちの動画に接していただくかについても、考えねばなりません。
そして、広告のトレンドにおけるタイミングも重要です。今回Facebookで配信した縦型動画は、当時まだそれほどメジャーな手法ではありませんでした。だからこそ積極的に使おうと思ったのです。これが、縦型動画があたりまえの状況になっていたら、すでにタイミングを逸していると言えるのではないでしょうか。時代背景や、この時代にどう見られるかということも考えなければならないと思います。
アライドアーキテクツさんから、「1.2秒以内に心を止めるような仕掛けをつくらなければだめですよ」と言われたことがずっと記憶に残っています。彼らとは、頼もしいパートナーとして今後もSNSの活用について一緒に考えていきたいですね。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。