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インテリジェンスを制する者は動画広告を制す-Unrulyの新CEOが語るデータ論 [インタビュー]

2018 UNRULY インタビュー写真

英国発の動画広告配信プラットフォームであるUnrulyの新社長に就任したばかりのノーム・ジョンストン氏が来日(写真左、同右は日本代表取締役の香川晴代氏)。急成長を続ける動画広告市場の見通しや、豊富な分析データを持つことを強みとする同社ならではのデータの活用法を語ってくれた。

(聞き手:ExchangeWire Japan 長野雅俊)

世界各国の学術研究機関と連携

― 自己紹介をお願いします。

UnrulyのグローバルCEOを務めるノーム・ジョンストンと申します。「バナー広告」という広告フォーマットを開発したデジタル・エージェンシーであるModern Mediaでキャリアをスタートさせました。広告世界最大手の英WPPグループ傘下にあるMindshareのグローバル・チーフ・デジタルオフィサー兼Mindshare FASTのグローバルCEOを経て、4月よりUnrulyのグローバルCEOに就任しています。

― 改めてUnrulyの事業についてご紹介ください。

写真1

Unrulyは、世界の主要広告主100社の9割強にご利用いただいている動画広告配信プラットフォームです。ブランドセーフティーの確保に注力しており、広告在庫の品質と品質管理マネジメントについての世界最高水準の認定団体であるトラストワージーアカウンタビリティグループ(TAG)から認定を受けています。

また当社はプラットフォームを運営しているだけではありません。ウェブカメラを通じたリアルタイムでのモニター対象者の光学センサー顔表情分析やアンケート調査を実施し、さらにはハーバード・ビジネス・スクールを始めとする世界各国の学術研究機関と連携しながら動画広告配信に関わる様々な知見やインテリジェンスを収集そして提供しています。

―「学術機関との連携を通じて得たインテリジェンス」とはどのようなものなのでしょうか。

当社が提供する知見の一つに、異文化マネジメントの世界的権威として知られる社会心理学者のヘールト・ホフステード博士の研究成果を生かした、感情と文化の関係性についての分析調査があります。53カ国にて6万人以上に対して115個の質問を行ったという非常に包括的な調査です。

例えば、グローバル企業が世界規模で広告キャンペーンを展開しようとした際に、各市場の文化に応じてその内容を変えるべきなのか、それとも統一したメッセージを打ち出すべきなのか、といった議論がしばしば起きます。多くの場合、議論の土台となるのは通常、グローバル本部と各国支社の担当者それぞれの主観的な意見です。これでは客観的な分析ができないし、異なる考えのぶつけ合いというのはとにかく疲れます。

今の時代はデータが豊富にあります。これらのデータに基づいた科学的な分析を行なえばよいのです。そこで当社では、ホフステード博士の研究成果と自社の分析データを掛け合わせた上で、「驚嘆」「プライド」「「混乱」といった感情的要素と、「個人主義的」「集団主義的」「直感的」といった各国の文化的要素の関係性を分析したレポートを提供しています。

― 分析結果をどのように利用するのですか。

広告主の方々に、動画広告の試写段階またはターゲティング設定段階の参考資料として活用いただいています。一つ例を挙げましょう。フランスのある高級ブランドが、非常に美しいストーリーを持った動画広告キャンペーンをパリで展開しました。ところが、日本で試写を行ったところ、「情報が不足している」との意見が多くあるとの調査結果が出たのです。どうやら、日本人は各商品の機能といった実際的な情報を求める傾向があるようです。機能的な情報をほんの少し付加するだけで、この広告は日本人に対してより訴求効果の高いものとなりました。

また当社が有する各種データは、動画広告を短尺なものに編集し直す場合にも参考にできます。インターネット動画広告には、例えば4分といった長尺のコンテンツがありますよね。一方で、ユーザーが関心を持って動画を視聴できる時間は年々短くなってきており、今やユーザーがひとつのことに集中できる平均時間は8秒と言われています。そこで、広告を例えば30秒に短縮し、さらに冒頭でユーザーの関心を呼び起こすように構成を変更するといった作業が求められる場合があります。そのようなときに、ユーザーがどの時点でどんなものに対して反応を示したかを示すモニター調査結果が大変参考になります。

データ全盛時代における広告制作会社の存在意義とは

― 確かに広告主にとっては有用なデータとなりそうですね。ただ広告制作会社は広告効果を詳細に評価する仕組みを嫌がるのではないでしょうか。

写真2

デジタル広告に関連した各種の分析ツールが普及して以降、広告主とクリエイティブ業界の間である種の軋轢が増えているのは事実です。ただ当社が日頃お付き合いのある広告制作会社は、こうした分析データの利用に積極的なところが多いです。絵コンテの段階で当社に分析調査を依頼する制作会社もあるほどですから。

私の印象としては、一般的に高評価を受けている広告制作会社は、データ活用について前向きです。逆にデータ活用を敬遠する制作会社は、今後は事業を継続することが難しくなっていくのではないでしょうか。

― 広告制作会社がデータ活用に協力的でない場合、広告主はどのような対応を取るべきだと思いますか。

今では、媒体社やメディア・エージェンシーと呼ばれるメディア購入を行う広告代理店も、動画を含む広告制作の様々なソリューションを提供しています。当社の姉妹会社であるStoryfulもその一つです。世界の主要なSNSからユーザー生成コンテンツ(UGC)動画を調達し、再編集するというサービスを提供しています。

そもそもクリエイティブ・エージェンシーないし広告制作会社の存在意義そして得意領域とは、ブランディング・キャンペーンの手法を熟知していることです。我々が生きる混乱の時代に、ブランドを構築し、消費者との関係を築くことができるのは、彼らをおいて他にいません。

一方で、クリエイティブの制作工程自体はオープンソース的になってきています。つまり広告制作会社は主軸となるコンセプトをつくり上げ、クリエイティブの主要な部分は設計するが、各構成要素はUGCやメディア・エージェンシーの協力を得るという形式です。テレビ用とインターネット動画広告用、または日本市場と米国市場で、動画広告の内容を変更するといった柔軟な対応が求められるようになってきています。広告制作会社はそうした煩瑣な作業には関わらず、ブランド構築に専念すべきという考え方もあると思います。

アドレサビリティとアトリビューションは世界共通の課題

― 世界の動画広告市場についてのトレンドを教えてください。

広告予算が、いわゆる従来の地上波テレビからオンライン動画へと移行しています。そのスピードが日本は米国よりも遅く、米国は英国よりも遅いといった違いはありますが、テレビからオンライン動画への移行そのものは世界規模での現象と捉えて間違いないでしょう。

また今回の日本出張でたくさんの関係者と話す機会に恵まれましたが、オンライン動画広告に関する課題意識は、日本を含む世界各国で共通していると改めて実感しました。

課題は主に2つ。一つは動画広告をいかにアドレサブルなものにするか。言い換えるならば、動画広告を届けるユーザーをいかに特定し、クリエイティブにどのように反映するか。もう一つの課題はアトリビューションつまり効果測定のあり方です。

― アドレサビリティの課題に対して貴社はどのように対応していますか。

モニター調査やアンケート調査の結果から抽出したユーザーの感情に関するデータを集めた当社の「EQデータ」を活用することで、どんなユーザーが何を求めていて、商品の検討にどれほどの時間をかける傾向があるかといったことを把握できます。さらに重要なのは、このEQデータを使えば、ユーザーを絞り込む度合いまで判断できるということです。

この「度合い」については若干の補足説明が必要かもしれません。デジタル業界では、一つの思想やテクノロジーに夢中になるあまり、弊害をもたらすということがしばしばあります。アドレサビリティという概念にも注意が必要です。

オンライン広告は究極的には広告主と消費者の1対1のコミュニケーション手段となるべきと主張する人もいますが、実際のところ、消費者や広告主が求めるいわゆるパーソナライゼーションの度合いは、商品によって大きく異なります。例えば、幼児用の食品やペットフードといった商品では、広告の配信対象は主に子供がいる人、ペットを飼っている人に限定されるかもしれません。ただ洗剤や制汗スプレーといった商品は、果たして同程度の配信対象の絞込みが求められるのか。ターゲティングなり、パーソナライゼーションをどれだけきめ細かくできるのかということと同時に、どれだけきめ細かくする必要がそもそもあるのかを検討することは非常に重要だと思います。

― アトリビューションの課題についてはどうでしょうか。

いわゆるブランド広告とダイレクト・レスポンス広告では事情が大きく異なります。後者では広告を打てば必ず売上に直結しなければならないと考えますが、ブランド広告主は消費者と長期的かつ良好な関係を結び、彼らの視点を変えることができなければ、自社の商品を購入してくれないと感じています。

そこで、いかに消費者の感情を動かすかが重要になります。実際に、当社のデータは、広告を見たユーザーの感情の揺れ具合と、広告商品の売上の伸びとの間に相関関係があることを示しています。

当社が持つEQデータの強みは、そのようなユーザーの感情の動きを示すデータがリアルタイムで入手できることです。その結果に応じて、ターゲティング対象を変更したり、コンテンツを修正したりできます。3カ月経ってからやっと広告効果が分かるという、かつてのテレビCM全盛の時代とは隔世の感があります。

― 貴社が過去に開催した説明会では「日本人は広告を通じて感情を動かすのが難しい国民である。感情の反応を示す度合いは世界平均より低い」という見解を示されていましたが、日本の広告主はどのような対策を取るべきでしょうか。

広告戦略をより入念に練る必要があるということを意味しているのかもしれません。容易には感情が動かされないというのであれば、それではどんなことが日本人の心を打つのかをしっかりと考える必要があるでしょう。日本でこそ、我々のデータを最大限に活用できるとの見方もできると思います。

ネット広告が経た過ちの歴史を繰り返してはならない

― 動画広告では「炎上」と呼ばれる現象が近年目に付きます。

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ブランディング・キャンペーンにおいては、一定のメッセージを持つことは必要だとは思います。そして、そのメッセージが例えば政治的であれば、論議を呼ぶ場合があります。それでも自社の思想を共有してくれる絶対的な顧客基盤があるので、自らの考えを明らかにしたいと考えるブランド広告主がいるというのであれば、ある程度は理解できる話です。

ただ自らの存在を単に世に知らしめるためだけにやみくもに論議を呼び起こすような手法は、少なくとも長期的なブランド構築には役立ちません。社会的な事件としてニュースの見出しになるかもしれませんが、ただそれだけです。消費者の信頼を得ることは絶対にない。

そもそもインターネット広告は、誤クリック誘発からポップアップ広告まで、ユーザー体験を犠牲にしてまで広告効果を高めようとしては失敗するという歴史を繰り返してきました。この過ちをこれ以上繰り返す必要はありません。消費者を騙して、嫌悪感を生じさせてまで目立つ存在になったところで、彼らの好意を得ることは絶対にできないからです。

― 新CEOとしての意気込みをお聞かせください。

オンライン広告プラットフォームの寡占化が進む中で、Unrulyは独自の立ち位置を築くことで、世界規模での事業基盤を築いてきました。益々の発展に向けて、努力していきたいと考えています。

また当社にとって、日本市場は1、2を争う重要かつ大きな市場です。私もCEOに就任してから、米国の次に日本を訪問しています。とりわけ来年には日本でラグビーW杯がある。再来年にはオリンピックがある。これからが本当に楽しみです。

ABOUT 長野 雅俊

長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長

ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。