データを活用し、動画の価値を高める-成長の担い手が語るプログラマティックの醍醐味- [インタビュー]
DSP Logicadを運営するソネット・メディア・ネットワークスは、今年1月に「Logicad Video Ads」の提供を開始した。
配信先パートナーとして、まずは動画プラットフォーム大手Teadsとの接続をして取引を始めた。
数年前に盛り上がりを見せて以降、情報が限られてきた日本のプログラマティック動画広告領域は、今後再び盛り上がりを見せるのだろうか。
リリースの背景や国内プログラマティック動画広告取引における現状の課題や今後について、ソネット・メディア・ネットワークス 執行役員 谷本 秀吉氏、商品企画部 シニアプランナー 谷口 考志氏、Teads Japan Managing Director 今村幸彦氏に、お話を伺った。
(聞き手: ExchangeWire Japan 野下 智之)
今年一番盛り上げたいのはプログラマティック動画
― まずは1月のリリースの背景についてお聞かせください
出典:ソネット・メディア・ネットワークス社 プレスリリース
谷本氏 動画広告市場は日々広告を実施する企業数が増えている一方で、配信フォーマットや配信位置など、ユーザーへの届け方に課題があると考えています。それら課題とプログラマティック動画広告ならではのデータとの掛け合わせによるターゲットユーザーの特定にも独自技術を活用することで、結果、より良い動画広告を提案できるのではないかということで、この領域に参入しました。
まずTeadsはグローバルで実績が評価されているビューアブリティ、ブランドセーフ、フラウド対策等のレギュレーションに準拠した動画広告の配信プラットフォームですので、当社はこの仕様に合わせた開発対応をしました。
国内の動画広告市場は、国際基準に準拠していない広告商材が市場に散見されます。それは基準を満たすための開発ハードルとその工数が掛かるためです。
日本市場では、グローバルで定めた業界の基準を満たさずアドネットワークとしてパッケージ販売されているケースが多いのは、そういう背景があるためです。
― Teadsの国内におけるRTB取引の現状についてお聞かせください。
今村氏 当社はこれまでもグローバルで事業展開されている外資系DSPとは接続をしていますが、国内のDSP企業とはまだまだRTBでのトランザクションが伸ばせる余地があると考えています。これは、日本ならではの動画広告の取引に適した運用方法をより熟知されていることからです。
そのような面では、今回のLogicadさんとの接続については、我々のプログラマティック動画取引を拡大させるという点において、大きな期待を持っております。
需要のツボは、ブランドセーフティーとアドフラウド対策!?
― プログラマティック動画広告に対する需要は、どのようなところにありそうですか?
今村氏 現状はまだプログラマティック動画広告の市場は伸びる余地があり、これを一緒に作っていくというような認識です。
谷本氏 私も同感です。当社としても今年一番盛り上げていきたいのは、プログラマティック動画広告です。
今村氏 ブランドセーフティーを確実に担保し得るPMP的な販売について、ブランド企業の皆様も高い関心を持っています。あるブランド企業のマーケッターは、大手動画広告媒体においてブランド毀損をするような面に配信されないように、広告代理店の方に厳格に要求されているという話を聞きましたが、広告代理店の方にそれを強要するのは酷な話だと思います。
先日も、少女が寝巻を来て横たわっている動画が問題になりました。動画そのものには問題はなかったのですが、その下に投稿されたコメントが、公序良俗に反するような内容のものが多く含まれたことが、問題視されたのです。リアルタイムで投稿される動画を事前に検証すること、また随時記入されるコメント欄、または右に表示される関連動画等、リスクとなりうる箇所は多岐に渡り、チェックする体制をいくらとっても防ぐことは難しいのです。動画プラットフォームを運営する会社が確約できないと公式に認めていることを、広告代理店が確約することは事実上不可能です。
ブランドセーフティーを確約しつつプログラマティックで買い付けをしたいという場合には、CGMでは不可能であり、PMPしかありえないと考えます。
― 今回の両社の接続はPMPでの取引を想定しているのでしょうか?
谷口氏 そうです。販売の中心はプレミアム媒体を中心に行ってまいります。当社としてもブランドセーフティーを重視しており、広告主・広告会社様に対しては、常にDeal IDでの取引を提案しています。
今村氏 弊社は配信先の全て媒体と直接接続していますので配信先はすべて明らかになります。外部ネットワークを介した買付は一切しておらずTeadsがPMP向けに持つ媒体ネットワークにおいては、全てがブランドセーフな在庫です。
― Logicad側での売り方は、全てPMPなのですね?
谷本氏 広告主、そのキャンペーンごとに適したメディア選定をして、パッケージングをして販売します。ラグジュアリーブランド向けに販売する場合には、そこ向けに媒体を選定してパッケージングを行います。そのパッケージングされた媒体面に対して、当社が持つオーディエンスデータを使いターゲティング配信をするのです。
― 提案先の広告会社はどのようなところになるのでしょうか?
谷本氏 各社に提案をしましたが、大手総合代理店さん、外資系広告代理店さんから良い反応を戴くことが多いです。動画広告は今ではダイレクトレスポンスにも使われていますが、当社がプログラマティック動画の展開に当たって最初にTeadsと接続させていただいたのは、当社ではブランディング目的の動画広告を取り扱っていきたいと考えているからです。もともとLogicadはダイレクトレスポンス領域のお客様が多いのですが、今回動画を始めるに当たっては、あえてブランディング領域に挑戦をしていきたいという気持ちがありました。
国内のDSP事業者としてはまだ強いプレイヤーがいないと認識しており、可能性を感じています。
今村氏 最近総合代理店さんは、マーケティングをフルファネルで考えるようになってきています。トップファネルのリーチとボトムの刈取りのところはともかくとして、ミッドファネルは指標の標準化も含めて注目されにくいものでした。商品や会社に興味を持ったのか、いい印象を持ったのか、あるいは好きになったのかというような指標をどのようにとるのかというのが難しいところです。この部分については、広告主、広告会社、ベンダーが一緒に考えていくことが出来るのではないかという期待感があります。
谷口氏 ユーザーの態度変容を測るには、ユーザーアンケートとセットで販売することが必要であると認識しています。
フルファネルという観点では、ダイレクトレスポンス需要も意識した動画のソリューションも今後提供していくことが出来ればとも思っています。
高い技術障壁と限られた在庫が理由!?日本でプログラマティック動画が限られている背景
― プログラマティック動画については数年前に一度注目を浴びて以降、ここ最近は下火でしたが、何故なのでしょうか?
今村氏 YouTubeがサードパーティーのDSPからの受け入れをしなくなったこと、あと日本では動画広告と言えばYouTube、Facebook、Twitterに出稿していれば十分という風潮であったことが理由として挙げられるのかもしれません。また、プログラマティックで買える他の在庫がないという認識がつよかったからだと思います。その当時プログラマティック動画を提供していた事業者の営業サイドのサポート体制も万全ではなかったのかもしれません。新しいベンダーの運用管理画面を使いこなすには、出稿側にとっては新しいスキルを習得するのと同じようなことです。使う側に立った、手厚いサポートや分かりやすさといったことが、当時のサービスレベルでは説明しきれなかったのかもしれません。
谷本氏 私が長年在籍していた前職のエージェンー時代に遡ると、当時はやはりYouTube、Facebook、Twitter、Yahoo!を押さえておけば、動画広告で9割程度にはリーチ出来るのでそれでよいのではないかという思い込みもあったような気がします。これら4つのメディアプラットフォームでパッケージを組んでしまうのです。そうすると他のメディアプラットフォームは選択肢に上がってこないのです。
4つのプラットフォームの管理画面を覚えて、そのノウハウは蓄積されていったものの、ただ2017年にはアドベリフィケーションに関する議論が起こり、大手プラットフォームであっても問題は起こりうることが明らかになりました。元来、動画広告はユーザーに与えるインパクトは大きく、動画広告のプランニング方法や選定メディアの選択肢が広がりつつある中で、一度すべてをフラットに見直すべきであろうというのがちょうど今です。その意味では2018年はプログラマティック動画というものに改めて注目すべきタイミングなのではないかと思います。
― プログラマティックというと、アドフラウドやブランドセーフティーの話の中ではともすればやり玉に挙げられがちです。今後プログラマティック動画が普及していく上で、業界はどのようなことを注意すべきでしょうか?
今村氏 今はだれでも簡単にWebサイトを作れる世の中であり、ネット上の広告在庫は加速度的に増えています。大手広告主を取引先としてお仕事をさせていただく上で、広告の在庫を持つ側は質をしっかりと管理することが求められますし、広告枠を買う側は、どのような配信面に掲載される可能性があるのかという目利きをしっかりとすべき時代です。
谷本氏 やはり配信先を管理する能力というのはやはり重要です。プログラマティックであるがゆえに、自動的かつ大量に配信が可能ですので、そのコントロールが効かなくなってしまうことが、逆効果につながりかねません。
今村氏 Teadsとしては、これらのことを愚直に取り組んでいくしかないと思っています。「スケールがあり、何でもできます、ですが何を買うかの責任は買う側にあります」というようなスタンスとは一線を画し、お付き合いする媒体や在庫は全て自分たちでしっかりと選ぶことで、質が担保されている状態を作り続けてまいります。
谷口氏 当社もアドフラウドには対応しておりましたが、それに加えで第三者計測ツールであるMOATやMomentum社のBlackSwanと契約をするなどにより対応を進めています。安全・信頼のもとでご使用いただいている「Logicad」というブランドイメージを崩さないように、配信先のドメインを開示するなどの取り組みをしっかりとしてまいります。
― プログラマティックの領域では、何か問題が起こったときにだれの責任なのかが分からず、あいまいになっていることがあるような気がします。今、誰が何をすることが求められているのでしょうか?
今村氏 やはり運用者のスキルに起因するように思います。仕組みを理解しチェックボタンを押しているかいないかで発生している一方で、変化が激しく複雑になってきていて、見落としが起きてしまっているのも事実です。ブランドセーフやフラウド対策等の根本的に重要な押さえどころは弊社にお任せいただければ運用者の工数も削減できるのではないかと考えます。
谷本氏 ブランドセーフティーやアドフラウドの問題は、やはり広告主サイドに最も近いエージェンシーあるいは、DSP事業主の責任ということになります。ただし業界全体をよりよくしていくという観点では、サプライサイドの方も含め、同じ意識でいる必要があります。
― アドフラウドやブランドセーフティーへの対策としては、IASやMOATを導入しておこなうというようなことになるのでしょうか?
谷本氏 当社も導入をしました。ただDSPだけが対策を行うのではなく、SSP側でも導入しているケースもあります。このコストをだれが持つべきなのかということは、今でも議論が続いており、明確な答えは出ていません。
ですが、企業姿勢として、他社に任せるよりは我々自身が主体的におこなうということを選択することが、あるべき姿勢なのかなと思っています。当社の場合このコストは自社で吸収しています。これは企業姿勢によるところかと思います。
今村氏 自社の管理ということで導入するというケースがまずあります。あとは、対外的に証明するために導入する二つのケースがあります。
幾つかのツールがありますが、これらは物差しが違うので、出て来る数値も異なります。複数の媒体に出稿した場合、それぞれの媒体が異なるツールを使っているとなると、媒体側から上がってくるレポートを一律に評価することは出来ません。ですので、広告出稿者が、自分たちの物差しを持って各媒体を評価したい場合には、やはり自社として導入すべきです。
谷本氏 最終的には、自分たちの物差しで各々の媒体を測れるように、広告主側が意思を持って計測ツールを導入していくという流れになっていくのではないでしょうか。
谷口氏 当社の場合は、デフォルトでMOATとMomentumを導入していますが、もし広告主が違うツールを入れている場合などには、向こうから「これを導入してほしいが、対応しているか」というようなご要望を戴くかたちとなり、当社もそれに対応するようなという流れです。
谷本氏 たまに、業界の事業者がアドベリフィケーション対応をしているというリリースを出しますが、必ずしもその事業者がコストを支払ってツール導入やそのための開発をしているということではなく、「クライアントサイドから要望があれば、対応をすることが出来ます。」という意思表明にとどまっているケースもあります。より踏み込んだ形で、業界各社が対応するようにした方がいいのではないかと感じています。
今村氏 最近複数の大手ブランド広告主企業が、自身でのアドベリフィケーションツールの導入をするというように、クライアントが導入する動きが相次いでいますね。
谷本氏 今、アプリのアドフラウド対応をすることが出来るプレイヤーが不足していますね。Webだけではなくアプリの領域でも今後対策の必要性に関する声が高まるでしょう。
データを活用し動画価値を高めるのが醍醐味
― プログラマティック動画が本領を発揮するのはまさにこれからです。今後どのような取り組みをしていきたいと考えていますか?
谷口氏 DSPが出来る一番のメリットは、やはりデータの活用です。この領域を出来るだけ強くしていきたいと考えています。当社は独自の人工知能VALIS-Engine(ヴァリス・エンジン)を使ったターゲティング技術やオーディエンス拡張技術を活用して、動画の価値をより高められるようなターゲティング配信をすることが出来ればと考えています。
谷本氏 例えば個々の動画を見たユーザーを分類し、リターゲティング、ダイナミッククリエイティブでの配信を組み合わせることで、フルファネルをサポートすることが出来ます。
このようなことをシームレスにできるのは、プログラマティックならであると考えています。
今村氏 クリエイティブの領域も変わってくるでしょう。当社は今後この領域に注力していきます。オンラインに適したクリエイティブを制作するTeadsスタジオというサービスを昨年ローンチしました。TVCMそのままの素材に対してインタラクティブ要素を加えたTeadsスタジオクリエイティブは視聴完了、CTRにおいて大幅に改善します。
また、プログラマティックの一番いいところはデータを活用できるところです。ブランディングを目的とした動画活用であるならば、データターゲティングをして配信先を狭めてしまうということではなく、セグメントごとにダイナミックにクリエイティブを変えていくことのために、活用をすることをお勧めしています。デモグラフィックや趣味趣向により見せる動画クリエイティブをダイナミックにカスタマイズすることが、当社のTeadsスタジオで実現できています。
配信先の品質とボリュームを担保しつつ、最適なオーディエンスに良質なクリエイティブを出していくということで広告効果を最大化することに注力してまいります。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。