ようこそ!!会話広告の世界へ [インタビュー]
チャットボットの新たな形として注目が集まっている「会話広告」。そのトップランナーとしてフリークアウトやジャフコから多額の出資を受ける株式会社ZEALS。会話広告サービスとはいったいどのようなものなのかについて、同社代表取締役CEOの清水正大氏に聞いた。
(聞き手:ExchangeWire JAPAN 野下 智之)
もうイケてない!?インフィード広告にWebのLP
― 会話広告とはどのようなものなのでしょうか?
会話広告とは、Facebookメッセンジャーをインフィード広告の遷移先として、そこでボットによりユーザーとのコミュニケーションを発生させ、エンゲージメントを高めてコンバージョンに誘導するサービスです。当社ではfanp(ファンプ)というサービスとして提供をしています。
【 会話広告fanp(ファンプ)】
出典:同社HP
今、ネット広告にはパラダイムシフトが起こっています。2017年3月にスマホ広告ではGoogleとFacebookの売上がひっくり返って3倍の差がつきました。つまりサーチの時代からフィードの時代にシフトしているのです。何かを知りたいと思った時に「検索する世界」からFacebookやInstagramなど自分の好きなアプリを選んで見る世界に変わっていったわけです。ですがそんな中で置き去りにされたと感じているのがランディングページ(LP)と呼ばれる(広告用の)ウェブサイトです。LPはもうイケてないなと思っています。
リスティング広告はご存じのように検索する層に訴えかけるものです。ですから、検索する時点ですでに相当ニーズは温まっているのです。インフィード広告は完全に潜在層に訴えています。この潜在層に対していまはLPを当てていますが、一発では到底ユーザーを刈り取ることが出来ません。そこで、いまはリターゲティングに広告主がコストをかけています。とりわけ人材、保険、不動産、ECにおいては、総じてコンバージョンレートが高くないのが今の課題です。これをひっくり返すのが会話広告です。
たとえば、Facebookを見ている時に保険のインフィード広告が現れたとします。それをユーザーがタップすると普通はウェブサイトに飛びますが、当社のサービスではここからメッセンジャーに直接リンクしてコミュニケーションをします。またサービスの紹介をチャット上で確認出来、ユーザーが口コミを見ることもできます。ユーザーが離脱しても広告を経由してきたユーザーはすべてFacebook情報と連携しており、かつ過去ログもすべて可視化しているので、マーケッターは個々のユーザーにパーソナライズして会話をすることが可能です。
― 会話広告では、LPに飛んだ時点で広告主のアカウントとユーザーのアカウントが連携された状態になるのですか?
Facebook側が許可をとってくれます。APIで連携しているので、広告を踏んで入って来た時点でユーザーデータが提供されています。かつPSIDというものをとっているので、メッセンジャー上でお声がけができます。
インフィード広告とランディングページの間に会話広告をはさむと瞬時にユーザーデータを取得できますので、そこからパーソナライズしたデータをもとに話しかけることができます。リターゲティングがチャットになっていくわけです。ここでの開封率、再訪率が高いので、リターゲティングにかかっていたコストがかからなくなり、継続的にコミュニケーションをはかっていくことができます。コンバージョンレートがこれまでの7倍になるという事例もあり、高い効果を見込めます。
大手食品メーカー、コンタクトレンズ販売店などに導入いただいています。コンタクトレンズは1回買ったところでずっと買うので、獲得単価が高い商材です。ですから、チャット上でコンタクトを選んで購入すればデータを得られるので、そこから「そろそろ新しいものが必要ではありませんか?」ということをチャット上で話しかけてタップして買ってもらいます。
ユーザーからのブロック率はかなり意識しており、20%以下にすることを意識しています。ですが実際には平均で10%を切っていて、クライアントの中には7%のところもあります。
会話広告のネーミングは、ZEALS発
― 会話広告は貴社が初めてでしょうか?
会話広告は当社が作った言葉です。当社がパイオニアだと思っています。最近は競合他社が同じネーミングを使い始めました。
当社が「fanp」を会話広告として打ち出し始めたのは2017年5月にフリークアウトから出資を受けて以降です。そこからは会話広告というコンセプトの発信をしています。
― フリークアウトは、貴社のどのようなところを評価して出資したのでしょうか?
フリークアウトはDSPの国内でのパイオニアです。常に新しいサービスを仕掛けていくスタンスで、Facebook周りの領域の強化を図っていました。また同社はアジアに展開しており、現地の広告主に対して提案するユニークな取り組みとしても考えられていたのかもしれません。
ZEALSの会話広告は、会話をボット側主導で行います。その会話体験のキーとなるのが選択肢(ボタン)を活用した会話です。選択肢がないとユーザーはチャットボットと何を話してよいかわかりません。ですからfanpでは選択肢を活用した会話「選択肢会話(タップ会話)」を使っています。これが功を奏して、海外展開においても言語の壁の影響を最小化できる可能性を掴みました。
目標は次なる産業革命を興し、日本をぶち上げること
― 貴社は以前はロボットの向け会話エンジンを作られていました。なぜ技術の提供先を広告・マーケティング領域に振り切ったのでしょうか?
この領域でいちばん会話データが貯まり、活用するという循環ができるからです。リードは見込み客なので増えれば増えるほど嬉しいものです。広告を増やすことでリードのお客様が増えていくのでコミュニケーションの量が増え、それがそのまま会話データとして当社に蓄積されます。それによって、普通の広告よりもパフォーマンスが上がれば広告主はもっと予算を増やしてくださるでしょう。予算が増えればユーザーが増えます。そして当社はよりたくさんの会話データを入手できます。
当社は「次なる産業革命を興し、日本をぶち上げる」ことをミッションにしています。日本はこの先人口が減るので、機械が人の仕事を担えるようにしなければ苦しいと考えています。しかし、第三次産業における販売従事者は20年前から構成比にそれほど変化がありません。その背景には、例えば街の不動産屋さんの店先に貼ってある物件情報だけではなく、店舗でのコミュニケーションやアフターフォローをネットが再現できていないことがあると思います。僕たちは人の持つ対話・コミュニケーションの力を機械に授けることで、未来に販売従事者の方々の仕事を対話の力を持った機械が担えるようにしたい思っています。そうするとカスタマーサポートではなく、セールスパーソンの役割を担えるかどうかが極めて重要です。そこで「めちゃめちゃ売れる」会話システムを作りたいのですが、それはどちらかといえば広告の領域に近いなと考えたわけです。
― 今は会話は予め用意したシナリオの状態ですが、今後はより進化していくのでしょうか?
もちろんです。当社では現在、5千万を超える機械と人のやりとりの会話データを貯めています。「機械が発話して人が応答する」を1会話として5千万会話です。これが10億くらい貯まってくるとチャットボットのパフォーマンスに直接影響し始めると予想しています。2018年中にはその状態に持っていきたいと考えながらも、10億でも足りない可能性もあり、まだ手探りの部分もあります。
インフィード広告市場の1000億円を担う?!
― 会話広告の市場規模は今後どのようになっていくとお考えですか?
インフィード広告市場が3000億円規模にまで伸びていくタイミングで、会話広告(遷移先がチャットボットであるインフィード広告)の流通総額がグロスで1000億円規模になることを期待しています。Facebook単体だとそのうちの20%~30%くらいの市場規模感でしょうか。
弊社ではfanp for LINEもリリースしておりますので、LINEも含めると60%~70%の規模感も見込まれると思います
出典:サイバーエージェント
― 会話広告の料金体系はどのようになっているのでしょうか?
清水氏 広告予算、月額の利用料、会話量に応じた従量課金です。会話量が増えていくと、従量課金分の比重が高くなります。
― 会話広告の可能性と、今後の抱負についてお聞かせください。
チャットボットは2016年にFacebookやLINEがAPIを公開し、一気にバズりました。当社はそのなかで最速でチャットボットのサービスをローンチした会社だと自負しています。
DropboxやAirbnbを輩出した米シリコンバレーのYコンビネーターという有名なアクセレーターから「Chatfuel(チャットフューエル)」というチャットサービスのスタートアップが現れたのと同時期でした。
参入するプレーヤーも増え活気に湧いていましたが、結局「何に活用できるのだろう」ということの答えがなかなか出てきていませんでした。
僕たちはその中で“チャットボット×広告(マーケティング)”の「会話広告」というコンセプトを打ち立てることに成功しました。コミュニケーションの領域に可能性を感じていて、いろんなプレーヤーが参入しながらも大変すぎて退却していったなか、僕たちに賭けてくださったお客様にきちんと成果でお返しすることができたり、「インフィニティ・ベンチャーズ・サミット」で賞をいただいたり、フリークアウトやジャフコから出資をいただいたり、Forbes 30 under 30 Asiaに選んでいただけたことは今後への自信につながっています。
今後、会話広告はチャットボットという「問い」(技術)に対するひとつの「解」(最適なマネタイズ手法)であると考える方は他にも現れるかもしれません。同じ事業を展開するプレーヤーがいないのは、伸びていく市場にはあり得ないことです。後に続く参入があってこそ、当社も自信を持ってこの領域に取り組んでいけます。この産業が盛り上がり、未来大きな変革へと繋がっていくのが楽しみです。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。