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Momentum、IASと議論 -アドベリフィケーションへの向き合い方- [インタビュー]

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2017年10月に電通グループとともに「アドベリフィケーション推進協議会」を設立したMomentum社とIntegral Ad Science社(以下IAS)が共同調査を実施し、その結果を「2017年度日本のアドベリフィケーション調査レポート」として公表した。しかし、異なる数値を持つ関連データが次々と発表されていく中で、アドベリフィケーションにまつわる実態はますます分かりにくくなっている感もある。広告主や媒体社は一体どのようにして対応していくべきなのか。同協議会の中枢メンバー2人に尋ねた。

(聞き手:ExchangeWire Japan 長野雅俊)

設立のきっかけは注目されたあの調査結果

― 自己紹介をお願いします。

山口氏 IASの山口武と申します。IASには2015年4月の日本オフィス立ち上げ時から参画しており、主に広告主様や代理店様との対応を行っています。

高頭氏 Momentumの高頭博志です。2014年の創業時よりアドベリフィケーションの領域に特化したソリューションを開発しています。2017年よりKDDIの関連会社であるSyn.ホールディングス傘下に入りました。

― アドベリフィケーション推進協議会の設立経緯についてお聞かせください。

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山口氏 かねてから電通グループの方々とはアドベリフィケーションを推進する団体創立の構想についてご相談をいただいていました。ただ直接的にこのタイミングでの発足のきっかけとなったのは、2017年にアドフラウド対策ソリューションを提供する米ピクサレート社が、日本の広告トラフィックの約8割は不正トラフィックであるとする調査結果を公表した一件です。ピクサレート社は日本での本格的な計測実績がなく、正直なところ、弊社の観点からは疑問視せざるを得ないような内容でした。この一件を受けて、日本の状況についてきちんと調べた上で然るべき発表する場をつくりたいとの思いが今回の発足と発表のタイミングを促しました。

高頭氏 Momentumの創業時点ではまだ人口に膾炙していなかった「アドベリフィケーション」という用語そのものは、2017年時点で既に広く認識されるようになっていました。その一方で、その実態の具体的規模や対策まで踏み込んで議論されることは少なかったように思います。

山口氏 例えば検証を試験的に開始した広告主に対して「ビューアビリティは60%でした」と報告したとします。事前認識がないと、その広告主は「広告が60%しか見られていないということか。それは問題だ!」という結論を下してしまうかもしれません。「ベンチマークは50%なので、60%というのは数値としては良いです。さらに改善したければ、このような解決策がある一方、このようなデメリットもあります」といったコミュニケーションを図ることができるようになるための土台作りというのが協議会の主な活動になると思います。

調査データで重要なのは代表性だが・・・・・・

―「2017年度日本のアドベリフィケーション調査レポート」の調査手法についてご説明ください。

山口氏 今回の調査プロジェクトのためだけにというわけではなく、弊社では年2回に分けてベンチマークレポートという形式で弊社顧客にまつわる関連状況をお伝えしています。「2017年度日本のアドベリフィケーション調査レポート」には、このベンチマークレポートの内容を一部転用しました。

弊社がレポートをまとめる上で留意しているのは、代表性のある数値を示すということ。IASは12カ国にオフィスを設置していますが、レポートを発行しているのは一定の計測ボリュームを満たした10カ国のみです。

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高頭氏 調査手法としては、IASとMomentumの調査結果を合算した上でひとつにまとめるというのもあり得たのですが、今回に関しては各社がそれぞれの手法に基づいた調査結果を別個に出すことで、客観性を担保しました。Momentumでは日本のDSP、SSP、アドネットワークといった様々なベンダーと接続して広告在庫も豊富にあるので、偏りが出ないように留意しながらそれらのデータを集計しています。

山口氏 繰り返しになりますが、この種のデータを扱う上で大切なのは「代表性」という概念です。ある特定の広告主が特定の時期に展開したキャンペーンと関連した特定SSPのデータだけを見てしまうと、不正インプレッションが極端に多い、または少ないということになりがちです。ピクサレート社の「日本の広告トラフィックの約8割は不正トラフィック」という調査結果もこのケースに当たると想像します。

―「代表性」を担保する「一定の計測ボリューム」は具体的にはどのぐらいなのでしょうか。

山口氏 代表性を強調するからには数値として申し上げたいのですが、残念ながら公表できません。今回の調査対象となった事業者やトラフィックに関する数値を公表すれば、弊社の日本における事業規模を公表することになってしまうからです。ただ例えば米国では広告インプレッションの3つに一つは弊社のタグが発火している状況であり、また日本においてもお付き合いのある媒体社は多く、デマンドサイドを通じて計測させていただいている媒体社も数多くあるので、バランスの取れたデータが取得できていると自負しています。

― 今回のレポートでは、例えば日本の「プログラマティック広告取引におけるアドフラウドの割合」は8.4 %(IAS調べ)と9.1%(Momentum調べ)というように、同じ項目でも各社で調査結果が異なります。

山口氏 アドフラウドに関しては計測対象となるキャンペーンが異なるというのが主な理由として考えられます。例えばプログラマティック中心のキャンペーンと純広告枠を主とするキャンペーンでは数値は大きく異なります。加えて、ブランドセーフティーに関しては「ブランドセーフティーを毀損するようなコンテンツ」の定義の違いにも起因しています。

高頭氏 米国ではメディア・レーティング・カウンシル(MRC)やトラストワージー・アカウンタビリティ・グループ(TAG)といった第三者機関が各ベンダーのビューアビリティ、不正インプレッション、ブランドセーフティーなどの計測方法に関する認定を行っていて、その認定の有無で信頼性を判断するという文化があります。IASはMRCの認証を、MomentumはTAGの認証を取得しており、こうした異なる認証制度に基づいた計測方法を採用していることも数値に若干の違いを生んでいます。ただ両社の数値が乖離しなかったという点こそ、信頼に足るデータであることを裏づけているとも考えています。

高性能なプリビッドの技術の整備が今後の鍵に

― いずれにしても全体の広告インプレッションの10%弱を占めるアドフラウドの割合は、対策次第で今後減少していくのでしょうか。

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山口氏 キャンペーンごとにアドフラウドの割合は大きく異なりますし、また対策についてはアドフラウドの発生と除外のいたちごっこを続けていかなければならないというのが現状です。広告の入札方法をいろいろと変えることで新しいbotを見つけ出すという細かな作業が必要とされる場合もあれば、何千または何万単位のブラウザで一斉にCookieがリフレッシュされた際にbotネットワークの疑いがあると見なすなど全体的な数値から判断できるものもあります。また対策の一つにアドフラウドの発信源であるIPアドレスを除外するというものがありますが、IPアドレスというのは常時更新され得るものです。つまり「今日は不正なIPアドレスが明日は正規ユーザーのものとなる」事態が30%前後の確率で発生するので、弊社では15分に一度の頻度でアドフラウドに汚染されたIPアドレスのリストを更新しています。対策事業者としてはとにかく頑張るしかない。

高頭氏 アドフラウド対策には、広告を買い付ける前にいわゆる不良在庫を取り除くプリビッドという手法と、買った後で不良在庫を検知及び分別するポストビッドという手法があります。買い付ける前に除外してしまうプリビッドの方がより安全であることは言うまでもありません。高性能なプリビッドをいかに整備していくかというのが今後の一つの課題にはなると思います。

山口氏 ただし、プリビッドは買い付け行為を行うDSPのみが限定的に利用できる技術です。またRTBに広告在庫を供出していることを公表したくない媒体社は、広告の買い付け用のURLと実際に広告を配信するURLを一致させない場合があります。こうした状況においては、プリビッドの対応範囲は限定されてしまうので、ポストビッドも併用しなければならないなど工夫が必要です。

一体誰が費用を負担するのか

― アドフラウド対策ソリューションが次々と開発されている一方で、その費用を誰が負担するのかという議論があります。不良品を検知する作業にかかる費用をなぜ製造者ではなく購入者=広告主が負担しなければならないのかとの考え方には一理あるように思います。

山口氏 だからこそ、広告主の現状の予算を変えずにその一部から計測ツール利用費を捻出していただき、そのコストに見合うだけの効率化を実現する、というのが一般的なモデルになりつつあると思います。その意味においては、広告主にとっては効率化することで広告単価はむしろ下がる。良質な広告在庫が揃うので、優良な媒体社としてはCPMは上がる。アドフラウド問題を解決すれば、「買う方は安くなり、売る方は高くなる」という錬金術のような仕組みが実現できるはずなのです。

高頭氏 ただ最終的には、アドフラウド対策には一定の追加費用が発生するというのは事実でしょう。現在のインターネット広告ではCPCの数値を追い求める傾向がまだまだ強いと思います。しかし、今やインターネット広告=コンバージョンではなくて幅広いブランド認知に活用されるのが一般的になりつつあるなかで、その成果をきちんと出すためには、どうしても一定の費用がかかります。そして、その費用は最終的にはエンドユーザーである広告主の負担になってしまうのだと思います。ただ、DSPが自らのソリューションを良くするのと引き換えに広告の買い付け単価が上がるのか、代理店もしくは広告主が計測ツールを導入するのかなど、どのような形式で追加費用が発生するかについてはいくつかの選択肢があるでしょう。

広告主にとって一番使いやすいのは、プラットフォームなりベンダー側が対策ソリューションを実装することでしょう。先ほど申し上げたプリビッドを行う国産の広告プラットフォームを増やしていくというのが一つの方向性にはなると思います。

― 広告主にとって、アドフラウド対策を行えば費用対効果は必ず出るのでしょうか。

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高頭氏 例えば1000インプレッションを100円で購入するとします。その1割がアドフラウドに該当するならば、100インプレッションつまり10円は全くの無駄となるわけです。Momentumが提供する対策ソリューションの費用は1000インプレッションに対して数円程度。数円の費用を出せば10円が節約できるので、費用対効果はあることになります。費用対効果が出ない、つまりは対策ソリューション費用の方がアドフラウドの節減分を上回るほど低い購入単価で入札している広告主というのは、少なくとも日本国内にはほとんどいないのではないでしょうか。だから、広告予算の規模にかかわらず、あらゆるキャンペーンにおいて費用対効果は出ると思います。

山口氏 さらに言えば、「不正インプレッションを除外することだけに関心を持っている広告主」というのはあまりいません。こうした計測を行おうとする広告主は、そもそも広告がしっかり閲覧されているのか、売上増加やブランド効果をもたらしているかということを把握したいと思っているので、アドフラウド対策以外の領域でもデータやツールを活用しています。そう考えると、費用対効果はさらに大きいのではないでしょうか。

高頭氏 逆に対策事業者としては、アドフラウドを検知・除外するだけに留まらず、それ以外の数値などについてもレポーティングするというのは大事ですよね。広告主ごとの独自の指標を踏まえたデータを付加価値として提供するなどの工夫は確かに必要です。

CPC追求がもたらした弊害

― アドフラウド対策を行う上での広告主に対してアドバイスがあれば教えてください。

高頭氏 一番シンプルなのは、広告運用を代理店に委託しているのであれば、その代理店の担当者に「どんなアドフラウド対策をしていますか」と聞くことです。質問すれば、代理店と共通認識ができた上で、対策を行うことができると思います。

山口氏 あとは代理店に任せるのであれば、ある程度は任せないといけないでしょう。「不正インプレッションを減らして、ビューアビリティを上げて、でもCPC・CPMは下げてください」というのは基本的に成り立ちません。また何を目的に計測して何を改善しようというのを明確にした上で取り組みを始めないと、計測したはいいがそもそも何がやりたかったんだっけ、となってしまう。KPIを一緒に設定した上で、あとはお任せするのでお願いします、という一種の信頼関係を確立することも重要だと思います。

高頭氏 アドベリフィケーションの領域の問題がまだ比較的新しいので、どのようなツールを使い分ければよいのか、どのようなKPIを組み立てればいいのか分からない代理店や広告主が多いという面もあるのかもしれません。ノウハウが蓄積されれば、対策は進んでいくと思います。

山口氏 そもそも日本のデジタル広告予算は世界最大規模であるにも関わらず、CPMは海外事業者が驚愕するくらい安い。なぜかと言えば、CPCを追求するあまり、無駄なインプレッションへと広告予算が流れているからです。アドフラウド対策などを通じてこの状況を改善すれば、広告主と媒体社双方にとってメリットが生まれると思います。そうした業界全体の課題を見据えた上で、アドベリフィケーション推進協議会としての活動に今後取り組んでいきたいと思っています。

ABOUT 長野 雅俊

長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長

ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。