チャットと連携しはじめた広告-トランスコスモスDECAdsを核にした新しいコミュニケーション設計 [インタビュー]
トランスコスモスならではの新しいデジタル広告ビジネスへのアプローチであるDECAds。 |
(聞き手:ExchangeWire Japan 野下 智之)
デジタルマーケティング、EC、コンタクトセンターが一つになったプロダクト
― DECAdsの概要と、提供開始の背景をお聞かせください。
出典:同社HP
亀井氏 トランスコスモスは51年前にデータエントリーなど現在のBPO事業を提供する会社として創業し、時代の変化やお客様企業のニーズ、消費者行動の進化に伴い、コールセンター(コンタクトセンター)、デジタルマーケティング、Eコマース(EC)へと事業領域を広げてきました。お客様企業と消費者の接点において最適化を追求していく中、近年の消費者のデジタル化に伴う、チャット・スマートフォンを核としたチャネル統合型コミュニケーションを実現するのが「DECAds(デックアズ)」です。
これまではデジタルマーケティングとEC、コンタクトセンター事業のそれぞれが特徴を生かして付加価値をつけてきましたが、今後はこの全てをを連携することにより他社にはないより新しいものを作っていきたいというのが、サービス提供開始の背景です。
「DEC」というのは、これら事業の頭文字をとったものです。縦割りではない、大きな枠を作ってその中で事業を動かしていくという考えがこめられています。
ただ、組織を1つにするだけでなく、新たなサービスを創ることで部門間の連携も高まります。その中で最初に提供を開始したのが分析するためのデータマネージメントサービス(DMP)である「DECode(デコード)」です。「DECAds」はその前後での消費者とのコミュニケーションタッチポイントを創出し、チャットを活用してデータのインプット・アウトプットを行います。
現在は取得したデータを使って広告配信することが可能で、今後はそのデータをサポート領域に活用する、もしくはサポート領域で得た情報を広告に活用することを考えています。
― DECAdsに関連する組織体制についてお聞かせください
亀井氏 私はイノベーション推進本部DECAds推進部に所属しています。現状はマーケティング領域、主に広告領域のDECAdsを推進する部隊として様々な部門と連携しながらこの事業に取り組んでいます。実際の広告運用や配信は、専門組織(インターネットサービスプロモーション本部)が担当しています。ただチャットに関連する領域は、私たちがサポートし、導入支援やお客様企業の広告配信のお手伝いを同時に行っています。サービスリースして1年近くがたとうとしていますが、チャットシナリオやチャット画面の最適化手法などの効果を高めるノウハウが蓄積されています。
― 広告の配信はDSPのチャネルになりますか?
亀井氏 幾つかのチャネルがあります。アドネットワークもありますし、DSP.やYahoo!JAPAN、Google、SNSなども含まれます。
進む広告とチャットの連携
― 広告からチャットに誘導することに注力されているようですが、そのシステムについて教えていただけますか。
出典:同社プレスリリース
亀井氏 現状広告は従来通りの配信で、お客様企業のサイトに行った時にチャットが立ち上がるような仕組みとして取り組んでいます。ただ、次のステップとして、バナーの中にチャットを起動させるシステムや、動画の下部にチャットを出したりするような仕組みをメディアと話し合っているところです。
お客様企業のサイトに飛んだ後は、チャットでの内容によって着地ページを最適化させる仕組みを作っています。また、バナーを自動生成するダイナミックディスプレイの中にチャットへの誘導枠をつくっているものもあります。「商品A、商品B、チャット」というようなもので、動的バナー広告の中で実施している最適化施策のひとつです。お客様企業はEC、人材、旅行が中心で、この1年で事例も増えました。
例えば、「この先はチャットです」と書かれた広告クリエイティブでクリック率を大きく改善するというよりは、着地ページでの直帰率が高かったり、サイト内を回遊しない課題を、チャットでつなぎとめ、理解促進を行った上でアクション率を高めることを重視しています。
― ダイナミックディスプレイの中で、チャットへの誘導枠をクリックする人の傾向はわかりますか?
亀井氏 クリックするユーザーのうち20%くらいの方がチャットへの誘導枠を選んでいます。ただ、ダイナミックディスプレイはまだ全体の一部であり、通常の静止画クリエイティブからチャットに誘導させるというケースが多いです。
クリエイティブの表現自体は「10分でわかる○○診断」「いくつかの質問でわかる○○」というようなものです。一辺倒に広告クリエイティブ上で「チャット」「ボット」という表現を多用してもあまり何が行われるか伝わらず、ユーザーの反応が良くないことがわかっています。
― 飛び先でボットが対応するコンテンツはどのようなものが多いのですか?
亀井氏 いちばんバリエーションが多いのは「診断コンテンツ」です。「あなたにおすすめの○○」「ぴったりの○○がわかる」といったようなものです。もうひとつはウェブサイトの構造をチャットに置き換えている、シンプルに言うとトップページから商品詳細、商品一覧をチャットの中に分岐として入れるものです。
もともと1、2、3というステップの中にチャットを入れると遠回りさせているだけなのであまり意味がありません。ですから、いくつか踏むステップにチャットに代替させるのです。この1年で「チャットは既存手段の何かの代替でなければならない」ということがわかってきました。新たにプラスオンするものでなくて、置きかえなければチャットを始める動機付けにはならないのです。たとえば電話をチャットに置き換えるようなものです。
チャットでのユーザーとのコミュニケーションにも当然ノウハウが求められます。会話を次に進めてもらうためには、チャットなりのやり方があります。ここは経験値が効果改善に重要なところです。当社にはこれまでのチャット導入実績によるデータの積み重ねもあれば、コンタクトセンターでのユーザーとの会話での「言葉の蓄積」があります。
例えば新聞広告を見て電話をかけてきたユーザーに対しての加入促進の会話ノウハウをチャットに活かすことも出来るのです。
― クライアントからの要望はなにかありますか?
亀井氏 ユーザーのニーズを知りたいというものが多いです。いわばアンケート調査のようなものです。チャットで直近の考えやニーズを聞けるということが興味を持っていただいている理由だと思います。「買う理由、買わない理由」「サービスをやめる、続ける理由」を自由入力ではなく、こちらで用意した選択肢から選んでもらうと結構な答えが集まりますので、それをデータとしてご提供します。
トランスコスモスが描くチャットと広告の今後
― チャット×広告配信に関する成功事例や今後の可能性についてお聞かせください。
チャットの内容からお客様の傾向を読み取り、どのように広告配信時のターゲティングに活かすことが可能でしょうか?
亀井氏 一つはマーケティングデータのような定性的な観点で、この人はこういっているから多分こうなのだろうというデータの取り方、また定量的な観点で「はい」といった人が100人いるからこうなるだろうという考え方です。現状は後者のほうでメディアとの連携を進めています、今後は定性観点でもデータ連携ができればと考えています。
広告の配信精度に関してですが、現在の広告配信では類推など一部であいまいさが存在する部分もあり、広告主も気づいてはいますが、他に術がない現状もあります。しかし、チャットデータは、例えば1週間前にユーザーが能動的に答えた回答に対して広告配信できます。当社しか持ちえないデータになりますので、他社との差別化、そして付加価値が高いサービスになります。配信ボリュームが少なくなることが懸念されますが、お客様企業がもつ顧客情報やメディアなど第三者が持つデータとの掛け合わせにより、担保することが出来るのではないかと思います。それのためのツールが、「DECAds」であり、「DECode」なのです。
― 今後、DECAdsの機能をどのように発展させ、ビジネスを広げていかれるのでしょうか?
亀井氏 現在は消費者の購買ファネルにおける一部の領域でのコミュニケーションをチャットが担っていますが、今後ファネル全てにユーザーボイス収集ツールとしてチャットでカバーできるようにしていきたいです。データが分断されているということはコミュニケーションも分断されているということですので、データの抜け漏れがあります。今後はこれらをつなぎ合わせることが出来るはずです。また、チャットは単なる手段ですのでそこからどのような施策に落とすか、他のデータと合わせて意味あるデータを作り実行施策につなげたいと考えています。
― デジタル広告のターゲティングに使うデータの主役は入れ替わりつつあるとお考えですか?チャットと広告配信が結び付くことにより、近い将来どのようなことができるようになるのでしょうか?また貴社としてはどのような強みを発揮していかれますか?
亀井氏 ユーザーをターゲティングする上で、今はまだCookieやIDが主流です。
チャットなら新しいデータの取り方ができると思います。またCookieの次の手法が出現すればそれを使ってチャットデータが取れるのではないでしょうか。ただ、プラットフォーマーによるウォールドガーデンの影響により、データが取りにくくなりつつあるという状況があります。すでに多くのデータを持たれているお客様企業やベンダーと当社の仕組みとを連動させることを進めていきたいです。そうすれば人の特定も出来るようになると考えています。そしてそれをコンタクトセンターに渡せば、どんな方かが分かったうえでの適切な対応ができようになるでしょう。適切なオペレーターを当てることも可能です。オンラインとオフラインとをまたいだ本当のコミュニケーションの最適化につながります。また、業種としてこういう問い合わせが多いということがわかれば、別のお客様企業であっても、広告ターゲティングのノウハウとして生かすことが出来ます。ユーザーからの問い合わせ内容を参考に、広告での訴求メッセージに応用することも可能です。これらのことは、人を介して行うよりも、データとして部門間でやり取りをするほうが生かせるはずです。
長年コールセンター事業の最大手として事業をしてきた当社でしかできないような、データ活用による広告配信が出来ると思っています。これを生かしていきたいですね。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。