Twitter Japanの動画広告市場、2017年と2018年 [インタビュー]
日本でのアクティブユーザー数が4,500万人に達し、さらに伸びるといわれているTwitter。Twitter Japanでは動画広告をさらに増やしていく考えだという。そこには日本ならではのマーケットの特徴や興味深い戦略が存在する。2017年の動画広告市場の振り返りと2018年の見通し、そして同社の戦略について、Twitter Japan株式会社 上級執行役員 広告事業本部長 兼 日本・東アジア事業開発本部長 味澤 将宏氏に伺った。 |
(聞き手:ExchangeWire Japan 野下 智之)
ビューアブルな動画広告が成長を牽引
― 2017年の動画広告市場の状況について、どのようにご認識されているかをお聞かせください
味澤氏 2016年の段階で、2017年の広告市場について聞かれることが多かったのですが、私はこれに対して2017年は動画広告のマーケットが爆発的に大きくなる年になるだろうと話していました。2017年は実際にそうなり、動画広告の需要が非常に伸びました。
テレビCMの広告予算の多くが動画広告に入ってきています。もともと外資系企業を中心にオンラインの動画広告需要は大きくなってきましたが、そこに日本のトラディショナルな大手広告主の皆さんも参入してきたことが2017年の大きな変化です。
― 動画広告市場に関連する2017年のトレンドをお聞かせください
2017年も2016年に続き媒体、テクノロジーともに様々なものが出てきました。2017年の流れとして大きかったのはプロダクトのみならず、ブランドセーフティが語られた年になったということですね。2017年の年初にP&Gのチェアマンが透明性やビューアビリティの話を出しました。2016年は動画アドネットワークへの出稿が多かった一方で、2017年はこの流れから変化が見られたように思います。
広告主は動画をよく使われるようになりました。ですがブランドセーフティのためにビューアブルなところへ、という要望とセットで需要が伸びてきています。
インストリーム動画広告に注力
― Twitter Japanの直近の動画広告に関する取り組みについてお聞かせください
動画コンテンツ上でのインストリーム動画広告の提供を2017年10月に開始しました。
グローバルでTwitterでの1日の動画の視聴回数は12億回です。年率200%増ですので、倍になりました。これは当社が力を入れているコンテンツの部分によることが大きく、様々な種類のメディアの皆さんが当社のプラットフォーム上で動画を配信する、すなわちコンテンツが増えているという意味でもあります。当社と契約していただいているパブリッシャーにコンテンツを配信してもらい、その冒頭にインストリーム動画広告を入れます。簡単な例を挙げると、スポーツドリンクの広告のあとに、スポーツの動画が入るというようなものです。
動画広告の尺は15秒まで入れられますが、6秒以内の短いものが使われるケースが多いです。インストリーム動画広告自体はAmplifyというプロダクトを踏襲したものであり、これはカスタムで一つのパブリッシャーに対して一つの広告主がつく、というかなりプレミアムな取り組みでした。ですが、今回のインストリーム動画広告は、カテゴリごとで買えます。「スポーツ」で買えば当社で契約しているスポーツのコンテンツホルダーのどこかに入って来る、というような感じです。コンテンツホルダーは、一つ一つ当社が直接契約しており、広告価値があり、ブランドセーフティな動画コンテンツを選んでいます。おかげさまでインストリーム動画広告は毎月増えており、コンテンツを増やしつつ広告を増やすという仕組みがうまく噛み合っています。
クライアントはナショナルクライアントを想定しています。実際に需要の伸びが高いのは消費財のカテゴリなどです。ソーシャルメディアのコンテンツは、文字から始まって写真になり、そして今は動画です。タイムラインを見ていただくと動画が増えていることが分かりますよね。このように成長してきて、ソーシャル上で人が動画に触れることが増えており、広告主の皆さんの動画広告の出し先がソーシャルに移ってくるのは自然な事象でしょう。
また、アプリデベロッパーの皆さんの出稿も動画を活用したダウンロード広告が主流になってきています。インストールボタンあるいはビデオをタップすることでインストールまで行くことができます。この領域の成長もとても高いです。
また、ビデオウェブサイトカードというプロダクトでは、動画広告を見ながらウェブサイトに遷移させることもできます。これまでブランディングとパフォーマンスが両立できなかった、動画の完了率を上げつつ、ウェブサイトにランディングさせることができるので、ブランド広告主もダイレクトマーケティング系の広告主のいずれにも活用いただいています。ブランディングとコンバージョンに関する二つのKPIが同時に達成できるのです。
動画広告に必要な貨幣価値の統一
― 動画広告ビジネスをするうえでの課題についてお聞かせください。
課題はやはりビューアビリティとブランドセーフティです。Twitterでは動画広告をローンチした時から、MOAT社と契約をしており、ビューアビリティをきっちり保証しています。なお、MRC(米Media Rating Council)の動画広告のカウントの仕方については最初から適用していました。しかし、ビューアビリティは日本ではまだ新しい概念です。これが今後広がらないと、広告主の皆さんが疑問を持ち、マーケットの成長に悪い影響が出るかもしれません。かなり話題になっているトピックで、業界内外でも協議をしているところです。
動画広告を購入する際の指標、すなわち貨幣価値の統一も課題です。本来であれば、テレビも含めて同じ貨幣で全てを測れるのが最も望ましいのです。ですから、まずはオンラインの貨幣価値でそのことを言えるのがよいので、そのためにビューアビリティの定義をきちんとして、何を持って動画広告の課金をすべきかを決めることが重要だと思っています。
いま外資系のプラットフォームは、ほぼMRCの定義に準拠しており、広告主の皆さんからも一定の理解を得ています。MOATやIASのようなビューアビリティを計測するベンダーツールを導入するなど、外部に監査させる仕組みの整備を同時にして、動画広告を買い付けるための貨幣価値の統一を進めていくことが望ましいです。
これについては、広告主側からも強く要望していただくことが大切で、同じ基準にしてもらう、それがないものは買わない姿勢が必要だと思います。その前に、プラットフォーム側としても率先して透明性を挙げていかねばならないと思います。
2018年はライブの年
― 2018年の見通しをお聞かせください。動画広告市場はどのように変わるでしょうか?
味澤氏 さらに伸びると思います。ブランドだけではなく、アプリのダウンロード広告(ダイレクトマーケティング)、オンライン広告のすべてのジャンルで動画広告が使われていくと思います。あと、注目すべきはライブです。Twitterには「プロモライブビデオ」というプロダクトがあり、ライブ動画自体を広告として配信できます。また、プレミアムなイベントに関する「ライブ配信」ではプリロール、ミッドロールで動画広告を配信することも可能です。この市場も今年は伸びていくでしょう。
― ライブ配信は在庫ボリュームの観点で課題もありそうですが、いかがでしょうか?
味澤氏 ライブ動画配信中のビューはとても多いので、その後にある程度の期間アーカイブとしてストックされる在庫のボリュームが大きいです。ライブ動画のコンテンツは価値が高く、その後例えば1日で利用者に拡散していく度合いは、最初のライブ動画の強さによります。ライブ動画の内容がTwitterの文脈に合うほど拡散されるという構造です。ライブ動画をリアルタイムで見ることに関しては限られますが、広告商品としての構造からいえば、多くのユニーク・ビュー数をとれます。たとえばユニリーバさんがLUXの#バスタイムトーク(https://twitter.com/Lux_Luminique)を提供されていますが、これは2人のインフルエンサーが女子会トークをするという内容で、1時間弱の番組です。注目すべきことは、トークだけで100万ユニーク・ビューをとれていることですね。そのあとも多くのユーザーを獲得しています。
ここにはコンテンツの強さ、ニーズ、インタラクティブ性があります。また、映画会社もこの仕組みを活用しており、映画「銀魂」の公開日も、弊社内に簡易スタジオを作って出演者によるライブ動画を配信しました。テレビ以外で、これまで広告主がライブで100万人と接する機会はこれまでにはありませんでした。それを広告主の皆さんがオウンドコンテンツとして作れるようになったのは、とても大きな変化です。
― 業界では、貴社は日本のマーケットの声を反映し、また広告業界に対するサポートが手厚いという声をお聞きしますが、そのあたりについてはどうお考えですか?
味澤氏 それはとても嬉しいですね。日本のマーケットの声を反映しているのは、Twitterは日本が最も重要なマーケットだと考えているからです。利用者の伸び、現在4,500万人でさらに伸びていることもそうですし、利用者の質も高いことがその理由です。
アクティブな利用者の率も日本では高く、検索用途での利用率の高さ、エンゲージメント率の高さなど、とてもTwitterを使い込んでいただいています。
広告ビジネスの売上はグローバルの15%を日本が占めています(2017年第3四半期)。こうしたグローバルのプラットフォームで米国以外の国が10%を越えることは、ふつうないですね。こういった意味で日本は重要なマーケットであり、その声も本社にも届きやすいのです。アプリのダウンロード広告やダイレクトマーケティングは日本の方が米国よりも進んでいる面もあります。ですから、日本からのリクエストを受けてプロダクトが開発され、それがグローバルで使われていくという流れが出来つつあります。グローバル企業としては、変わった流れです。だから本社の重役もよく来日しています。プロダクトチームも日本を重要視していて、頻繁に来日してヒアリングしています。
実は、2017年の初めに組織のストラクチャーを変えました。営業チームを「クライアントソリューション」と改称しました。トップ300の大手クライアントに対して、ソリューションセールスをしていこうと、業種ごとにチームを分けました。これにより、かなり戦略やナレッジの共有と理解が進み、業界に対する知識の蓄積や、Twitterならではの成功事例を効果的に増やせています。
一方で、「ブランドストラテジー」というチームもあります。このチームではTwitter上のインサイトを導き出し、クライアントが抱えるマーケティング課題に対するソリューションをクライアントと一緒に考えるという取り組みをしています。
最後に日本は、エージェンシーへの依存度が高いという構造であり、エージェンシーがメディアとクリエイティブの戦略も全て持っている、という世界でも特殊なマーケットです。これにあわせて組織を組むことが重要だと思っていました。2018年はより一層エージェンシーとの協業が重要だと思います。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。