トラッキングは死んだ。より息の長い広告手法を!
(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)
戦争では、一方が領土を得て、他方は領土を失っていく。ネット業界では先日、ユーザエクスペリエンスを重んじ、インターネット上でそれらを損ねる作業を行なっている企業への方策を投じたAppleが勝者となり、インターネット広告の先駆者であるCriteoが敗者となった。Illumaのマネージングディレクター、Duncan Arther氏がExchangeWireに、Appleが実施しているIntelligent Tracking Prevention(ITP)がなぜ広告に適しているのかについて説明してくれた。
AppleはCookieのトラッキングを利用できないようにアップデートを行い、これによりサードパーティがサイト間でユーザを追跡することができなくなりました。Safariのブラウザ使用率は4%未満ですが、Criteoの株式価値は27%下落しました。
Appleは広告ビジネスを持っていないためこの変更を実行することができます。 Googleが運営する、遥かに利用者の多いブラウザであるChromeにおいても、恐らくGoogle以外の事業者が追跡を行うことを難しくするような変更を行うことでしょう。
Criteoなどの事業者は、「回避策」となるべくサービスを開発していますが、機能するかどうかはわかりません。彼らはまずは現状回帰を目指しているようですが、それ自体それほど素晴らしいことではありません。
データがどのように「機械学習」を通して広告に情報を伝えているかについて言えば、ほとんどのアドテク企業が行なっている自動化は限られたパターン認知しか行なっておらず、Criteoのケースで言えば、ユーザが自動車サイトを閲覧後、数週間の間に広告がつきまとうといった具合です。
広告は、アドサーバーの奥にいる実際のユーザについてより実践的な学習を行う必要があります。ブラウザがユーザエクスペリエンスを重んじるにつれ、またプライバシーに関する規則が固まるにつれてトラッキングは技術的な障壁にぶつかるからです。
データの大きさは品質とは異なる
広告主は、オフラインで、オーディエンスのセグメンテーション作業に大金を費やしています。これにより、商品を購入するユーザの深い洞察が得られ、それらの洞察は広告作業への活用に有効的です。一方で、広告主はオーディエンスについて調査によって得られた情報のほとんどが、サードパーティオーディエンスを特定する上ではほぼ利用できないことを理解します。DSP側で広告主の消費者に合致するような名称のセグメントを提示したとしても、データ自体が古かったり、深みに欠けていたり、不正確だということはよくあり得ます。
結局最良のデータ企業は、自社の顧客から集めたCRMデータなのです。しかしながら、これらに依存してメディア決定を行うことは、成長戦略というよりもストップ・ロス戦略といってよいでしょう。サイトの訪問やショッピングカートの破棄に基づいたリターゲティングと同様に、既に商品を知っているユーザのみに広告が表示されます。リターゲティングの場合であっても、積極的に購入を考えていないユーザへのリーチに費用が投じられたりします。
既存顧客へのマーケティングから得られる成長は限りがあります(実際には顧客を失わずに値上げを実行することができた場合以外は成長が望めません)。広告主は古いやり方に戻り、非常に限定的な学習機会を伴わない機械による観察に基づいた活動を行い大きなリターンが得られなくなっています。
学習から得られる成長
広告が単に配信の仕組みから学習プロセスに変化する場合、より効果が見込めると思います。これについて説明をさせてください。
リーチに知的要素を加えようとするには広告主のメッセージと広告を閲覧する人のコンテキストを理解するシステムが必要です。特定のメッセージは、特定のコンテキストにおいてパフォーマンスが優れる場合があります。
広告内容を理解するには、キーワードを解析するだけでは不十分です。機械はコンテンツの次元性を理解するほどに賢くなくてはならず、また、広告メッセージが有効か否かを学習する必要があります。これには一定の実験が必要となります。
効果的なコンテキストが常に変化することも認識しておかなくてはなりません。それは主観的なものだけではなくユーザの文化的なコンテキストにも影響を受けるため、私たちがソーシャルメディアの絶え間ないコンテンツを見ているが如く瞬間的に変化します。したがって、効果的なコンテキストを何度も繰り返せばよいというわけではなく、一定のテストと有効性持続のための調整が必要となります。
ブラウザの制限によってもたらされている変化は決して広告業界にとって悪いことではありません。現状のサービス(必ずしも真実ではない)から抜け出しさらに素晴らしいサービスを提供することは苦痛を伴います。この場合、パターン認識や類似モデルなどの世界から、より効果的なユーザ学習の手法へ変化をしていく必要が生じます。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。