デジタルマーケティング企業の東南アジア進出 AtoZ-第2回:進出すべきホットな国・地域を見極めるための観点その2「市場規模」 |WireColumn
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on 2017年12月26日 inマーケティングソフトウェアの開発などを手掛け、海外にも3拠点に展開しているエフ・コードの海外担当執行役員・島田裕一が執筆する本連載では、デジタルマーケティング企業が海外進出する際のポイントについて、東南アジア進出を中心に解説していきます。なお、本シリーズの見解は筆者の経験則に客観的なデータを交えて論じたものであり、不十分な点・異なる見解のご指摘など読者の皆様からいただければ幸いです。
第2回となる今回は、前回の「事業性」に続き、進出先の国・地域を選ぶ際に重視すべき3軸の2軸目「市場規模」についてご説明します。
第1回はこちら
「本当の市場」を正しく設定する
企業が海外進出する際、漠然と当地の市場規模を考えるのではなく「真に見据えるべきはどの市場なのか」を細分化して見定めることが非常に重要です。
たとえば、デジタルマーケティングの企業が東南アジアに進出するケースを考えてみましょう。陥りがちであるのが、「各国のデジタルマーケティング市場規模」のみに意識を向け、「タイでは300億円程度、インドネシアでは400億円程度、香港では……」と比較したうえで、「では単純に数字が最大であるインドネシアに進出しよう」といった短絡的な考え方です。しかしこれは誤りです。「本当の自社の商材の市場」をこそ知っておく必要があるのです。
当社エフ・コードのWeb接客ツールを例にあげさせていただければ、支出が制作費用とプロモーション費用に分けられるデジタルマーケティング市場において、当社のサービスへの支出は後者から捻出されることがほとんどです。
さらにデジタルマーケティング施策をブランディング寄り/パフォーマンス寄りに分けるとすると、こうしたツールはパフォーマンスに重きを置いた市場がターゲットとなります。もちろんブランディングにも効果はありますが、より販売しやすい相手はECやトラベルのいわゆる「獲得系」と考えられます。
そのうえ当社のツールの場合は、パフォーマンス系市場のなかでも既存キャンペーンの改善に使われ、特に「CRO(コンバージョン率最適化)」と「LTV(ライフタイムバリュー)向上」についての価値提供ができると考えているため、それぞれの国においてこれらを対象とした市場規模を算出します。
出典:エフ・コード
このように「見た目の市場規模」ではなく「その会社・その事業・その商材にとっての市場規模」を算出することが重要なのです。
見込み売上の算出も非常に重要
市場を設定したら、そこから見込みシェアの限界値を考えます。現地の競合(後述)や前回記事で述べた事業性判断とも関連する部分です。営業活動のしやすさなども勘案し、数値を予測し、年間の見込み売上の上限を算出します。
ここで重要な観点となるのは、算出した上限見込み売上の規模が、本社の海外事業に対する期待値を上回っているかという点です。上回っていれば、その事実は当地進出決定の大きな要素の一つとなります。逆に下回っていれば、進出しないという決定や近隣の国・地域を組み合わせてセットにして進出するといった考え方が必要となります。
さらに、その上限数値に到達するために要する期間についても検討しなければなりません。この期間は、事業を開始するにあたり当初から投入できる資本の規模に大きく依存します。そのため、市場規模の検討において問題がなくとも自社の投資規模が大きくない場合はその規模に到達するために一定の時間を要します。この点も計算にきちんと組み込んでおく必要があります。
もちろん、投資規模以外の要素を忘れてよいわけではありません。担当者の経験値やネットワークの量と質、現地雇用人材の能力なども、必要に応じてしっかりと計算に入れましょう。
加えて、未来の市場規模予測も重要です。海外事業を始める際、撤退時期を定めておく企業はほとんどなく、通常はサステナブルな展開を企図します。ですから、各統計データを用いて現在だけでなく5年後10年後の規模を予測することも重要です。そこから少なくとも3年後までの市場規模の伸びを予測し、それに応じた事業計画の策定は必須であるといえます。
プロダクトライフサイクルの見極めも不可欠です。導入期、成長期、成熟期、衰退期のなかで当地はどのフェーズにあるのか、その見極めにより今後の伸びも予測がついてきます。当社のサービスの場合、ASEAN各国においてはまだ導入期と認識しており、自社の力で成長期に押し上げたいと考えています。
競合や現地ネットワークについての調査・準備
市場の調査においては前述の通り、競合や現地ネットワークについて把握し準備することが不可欠です。事前に事業責任者が長期滞在の上、当初から一定規模のお付き合いができる顧客を探ること、現時点での競合について認識すること、さらに協力関係を築けるパートナー会社の探索なども実施する必要があります。
当初から取引先となる顧客との関係は非常に重要です。商材が日本の市場と同様に現地でもフィットするとは限りません。現地に即したフィードバック及び能動的なクチコミを期待して、たとえば無償トライアルを提供するなどの施策を行うことも十分に価値があると考えています。
この際に得るべき情報としては、製品自体についてのフィードバックはもちろんのこと、現地において適切なプロモーション方法や販売チャネル、金額感などが挙げられます。これらについては、すでに現地進出してPDCAを回した経験がある企業から有益なアドバイスをいただける場合も多くあります。
また、競合の認識についても注意が必要です。最先端のデジタルソフトウェアについて述べれば、日本の製品が競合となるケースは少ないながら、インド・イスラエル・アメリカなどの製品は非常に多くあります。ローカル企業にばかり目を向け、これらの認識すべき競合を見過ごしてしまわないよう留意しましょう。
そのうえで、現地の市場において自社のツールのポジショニングや強みを効果的に打ち出せるかを検討します。不可能とみられる場合には、進出を見合わせて強みを見出せる製品の開発を待つことも必要です。それも勇気ある決断です。
なお、キャッシュが潤沢な場合にとれる手段として「競合の買収」が挙げられますが、エフ・コード社ではその方法を選択していないため、本記事では割愛します。
市場調査には時間と足をしっかり使う
海外進出にはどの程度の時間がかかるのでしょうか。進出の規模によって当然異なりますが、概して経営議題にのぼってから設立決定までは1年、設立完了まではさらに半年程度というケースが多いと感じています。ここまでに述べてきたような綿密な準備のためには、相応の時間も必要となります。
また、準備には当然お金もかかります。事前の調査やフィジビリティスタディについて専門の業者に依頼するという選択肢もありますが、数百~数千万円を要することになるはずです。そのため、マザーズ上場規模の程度の会社であれば、社長や海外を担当する役員が現地に赴き自分の目と足で調査するのがよいと考えます。
ここで意識したいのは、現地で様々な人に同じ情報・質問をぶつけてみるという方法です。たとえば、「当社の商材はEC系のアカウントに広く取り入れられているが、こちら(現地)のEC系のサイトもこの種のツールをよく使っているか?」という質問を投げかけてみるとします。5人に尋ねてみれば、それぞれから異なる回答が返ってくることでしょう。同様に、今後の現地経済について5人の有識者に訊ねても、同じことが起こるはずです。
重要なのは、こうした様々な見解をインプットして、その中で勘案して自社のポリシーを確立していくことです。社長や担当役員自らが信用できる現地アドバイザーとのネットワークを構築すべきです。そうした協力者に感謝しながら実地で得た経験は、事業展開においてかけがえのない資産となることでしょう。その上で海外展開が成功した暁には、アドバイスいただいた方々に感謝の念を伝えるとともに、新しく進出してくる企業に対してペイ・フォワードすることが、一番の恩返しになるのではないでしょうか。
ABOUT 島田 裕一
株式会社エフ・コード
海外担当執行役員
アウンコンサルティング株式会社を経て、2016年に株式会社エフ・コードに海外担当執行役員として参画。前職では検索エンジンマーケティング(SEM)コンサルタントとしてキャリアを積んだのち、海外事業統括責任者として台湾、香港、タイ、シンガポール全拠点のマネージングダイレクターを兼任。大手企業のグローバルマーケティング活動を支援。
エフ・コードではタイ法人を皮切りに、香港法人、ジャカルタ拠点を開設し、デジタルマーケティングの効果を最大化させるマーケティングソフトウェアを現地企業および日系企業に提供。