サイバーエージェント事業責任者に聞く、動画広告市場の2017年と2018年 [インタビュー]
サイバーエージェントは、11月15日に動画広告市場調査結果を公表した。
2013年以降4回目となる今回の調査結果の背景にはどのような市場動向が見られるのか。
2017年の動向と2018年の見通しについて同社 インターネット広告事業本部 統括の淵之上 弘氏にお話を伺った。
(聞き手: ExchangeWire Japan 野下 智之)
ユーザー利用の定着とフォーマットの多様化が市場の加速度的成長の裏付け
― 2017年の動画広告市場の状況についてお聞かせください
2017年も予想以上に市場の広がりが見られました。広告フォーマットとしてもそうですし、また、広告主の視点では、大手ブランドの出稿も増えました。またパフォーマンスを重視されるお客様の広告出稿に占める動画フォーマットのシェアも上がってきており、その普及は加速度的に進みました。
― 2017年の動画広告市場の成長率は63%増と見通されていますが、ご自身の体感と一致しますか?
1ユーザーとしてタイムラインを見ていても動画広告は本当に増えましたね。また、FacebookやInstagramなどを見ていても、ユーザーが投稿するコンテンツとしても動画は本当に増えたという印象です。流れて来る動画コンテンツのうち7割ぐらいが動画ではないかと感じております。
― 2017年になって新しく見られた業界のトレンドをお聞かせください
スマートフォンの画面サイズに合った動画フォーマットが随分と増えてきたことです。
従来の16:9の画角ではなく、スクエア型のものや、縦型のものが各社からリリースされました。
― クライアントの動画広告の使い方や広告会社に対する要望には、変化は見られますか?
今まではテレビCMなど他媒体で使っていた素材を流用して動画広告に出稿するケースが多かったですが、きちんとWeb動画に合ったクリエイティブを作りたいというお客様が増えました。
― 広告会社として、クライアントへの提案内容に変化は見られますか?
私たちはクライアントの顧客(ユーザー)がいるところに広告を出すということにおいては変わりありませんが、広告プロダクトとLPとのフローに関する面でも業界全体で工夫も進んでいます。Facebookのキャンバス広告のように、広告とLPとがシームレスなものをはじめ、各媒体とも様々なプロダクトを提供し始めており、当社もこれを踏まえてクライアントごとに最適な提案をしています。
新しい領域における伸びが市場の成長を牽引
― 統計数字上YouTubeのシェアが下がってきていますが、事業の現場におけるYouTubeの位置づけは変わってきているのでしょうか?
Facebook、InstagramやTwitterなど他の媒体が伸びてきているというという印象が強くあります。今までは、動画がある場所というのがYouTubeのみであったのですが、現在はソーシャルをはじめ、それ以外の媒体においても動画が溢れています。
YouTubeから他の媒体に流れたというのではなく、新しい領域において動画広告需要が更に伸びて市場全体が高い成長を遂げたという印象です。YouTubeもそれ以外の媒体も両方とも伸びています。
効果指標は多様化が進展、統一化も必要
― 動画広告の効果指標については、どのような現状でしょうか。
多様化が進んでいます。お客様により重視する指標はブランドリフトや、位置情報を使った店舗への来店計測、CPA、CPIなど様々であり、それぞれのご要望に合った指標の整備が業界全体として進みつつある状況です。
動画広告の活用において常に目標としてあるのは、出来るだけ短期間にいかに多くのリーチを取ることが出来るかという点です。クライアントが設定するマーケティングゴールを達成するために、どのような状況で何回ユーザーに動画広告を見てもらえればよいのかということを、指標として明確に提示できるような状態になることが理想です。
またテレビCMと動画広告との共通の買い方の基準になるような指標がまだ業界全体で統一化されていない状況であり、当社としても準備を進めていくことが必要です。
インフィード・Instagram・縦型フォーマットに注力
― サイバーエージェントとして、動画広告ビジネスにおいて媒体や広告フォーマットなどで今後どのようなことに注力されていく予定でしょうか?
今後も間違いなく伸びていくインフィード広告はもとより、媒体としては直近ではユーザー数が急増しており話題にもなりやすいInstagramには力を入れていきたいです。
当社では動画クリエイティブに引き続き注力してまいりますが、これを活用するフォーマットとしては縦型に注目しています。縦型のフォーマットは、スマートフォンにフィットし、横型のフォーマットに比べて専有面積も大きく訴求力が高いのが魅力です。今一番チャンスとして感じているのがこの領域です。FacebookやInstagram、LINEなどの大手広告プラットフォームは縦型に対応をしており、今後も広がっていくでしょう。
― 縦型フォーマットに向いているクライアントの業種やキャンペーンというのは、どのようなものでしょうか?
やはりまず挙げられるのは、ゲームをはじめスマートフォン上でアプリサービスを提供しているクライアントです。サービスそのものが縦型で提供されている場合が多いので、広告が縦型であるというのは自然な流れではあります。自動車や一般消費財などのブランドを、縦型でどのように見せていくかということに、現在挑戦中です。最初に横型で作った動画クリエイティブを後で縦型に作り直すというのは、なかなか難しく、最適なクリエイティブの提供形態について、どのように新しいスキームが作れるのかということをテーマに、現在、研究開発に取り組んでいます。
縦型は訴求力が高いという魅力がある一方で、訴求内容に興味関心がないユーザーからは鬱陶しく思われてしまうというリスクがあります。ターゲティングの精度を高め、ターゲットに合ったクリエイティブを作ることを目指しています。
2018年のフォーマットはHTML5に注目、動画の新カテゴリ区分も必要に!?
― 2018年の見通しをお聞かせください。動画広告市場はどのように変わるでしょうか?
2018年も市場は大きく伸びることは間違いないですが、HTML5を使ったインタラクティブなフォーマットが恐らく広がってくるであろうと思っています。
ただ単に、見るだけの動画広告ではなく、360度動画のように自分の動きに合わせてクリエイティブが変化したり、プレイアブルゲーム動画など、ユーザーがクリエイティブに直接触れて直観的なコミュニケーションを取ることが出来るようなクリエイティブが2018年は増えてくのであろうと見ています。
2018年はまた、色々な新しい動画フォーマットが出て来る中で、広告主や広告会社はどのように工夫して使うかが求められるようになるでしょう。また、結果としてある程度の集約化が進むと見ています。使い方の部分に関しては、私たち広告会社としての腕の見せ所であると思っています。
ユーザーが動画に慣れてきたということは、市場の伸びに密接に結びついています。ユーザーの動画によるコミュニケーションは、今よりももっと増えていくと思います。今後は単に動画と静止画というような切り分けのみならず、別の視点で切り分けていくことも必要になってくるのではないでしょうか。2018年は私たちもこの点を考えていこうと思っています。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。