媒体社はテクノロジーベンダーに何を求めているのか? [インタビュー]
今年2月にお話を伺ったYahoo! JAPANの宇都宮 正騎氏に、媒体社のテクノロジーベンダーに対する直近のニーズやレコメンドエンジン事業者の動向について、同社の直近の取り組みと合わせてお話を伺った。
(聞き手:ExchangeWire Japan 野下 智之)
媒体社支援として求められている広告運用
―メディアマネタイズにおける環境変化と課題についてお聞かせください。
業界全体として媒体社様のメディアマネタイズを支援する事業者が増えています。ウィジェットやコンテンツレコメンデーションの領域でもそれは変わりません。
最近の特徴は、当社も含めて規模の大きいメディアを運営する事業者自身が参入していることです。広告プラットフォーマーからすると、軸足となるメディアを持っておくことは、事業成功のひとつのファクターになっているように思います。確実に足場になるので、そこから広げていくことが可能です。Yahoo!コンテンツディスカバリーもYahoo! JAPANを軸足にして、ソリューションを外部の媒体社様に提供しています。
メディアの課題はマネタイズの強化ですが、収益性の高いコンテンツを置いておくだけではなく、データを見て、自社のユーザーに価値を置き、自分の専門ユーザーのビューやクリックを高く売るための方法を求めてくることも増えていると感じています。
自社ユーザーは価値が高いのですが、クライアントサイドにはこれを深掘りするケースと、PVしか見ないケースがあります。深堀りするクライアント様は価値をわかってくれるので、その価値に見合った額で販売することができます。一方PVでしか評価されないケースの場合、ライトユーザーからのトラフィックを中心にして、帳尻を合わせたいといった声も聞かれるようです。
前回のインタビューからの半年間で感じたことは、レコメンド事業者としてすべきことを考えるのはもちろん、Yahoo! JAPANとして何をすべきかを考えねばならないということです。メディアのマネタイズ方法は、コンテンツをつくり、お客さんに見てもらって収益を上げるものですが、ウェブで展開しているものはフリーのコンテンツが多く、収益を上げるためそのメディアの中でアドネットワークを展開したり、タイアップコンテンツを販売したりもしています。我々としてはメディアの制作力や媒体力を活かしながらこういったマネタイズしていくところをもっと支援したらよいのではないかと、より強く感じるようになっています。
― 今、媒体社はテクノロジーベンダーに対して、どのようなことを求めているのでしょうか?
我々のことで申し上げますと、従来の広告配信などにとどまらない動きも出てきています。媒体社様はクライアント様のスポンサードによるタイアップコンテンツへの集客をかけることがありますが、この時にYahoo!コンテンツディスカバリーをご利用いただいています。その際、より効果的なコンテンツへの集客のために、広告の運用が必要になります。そこで、ノウハウを持つ当社が媒体社様に代わって広告運用を担うという取り組みを行っています。サーチライフとの協業により、媒体社様が作った素晴らしいコンテンツのパフォーマンスが上がるように我々が媒体社様に代わり広告運用の支援を行い、結果がしっかりと出てくるサイクルをお手伝いするところに着手しています。
Yahoo!コンテンツディスカバリーのネットワークを広げていかねばならないという、使命もありますが、すでにあるネットワークにおいて、媒体社様にご利用いただくところを強化していこうという思いは強いです。
「内側の支援」というエコシステムを
我々はYahoo!コンテンツディスカバリーを提供するなかで、媒体社様やコンテンツパートナー様とエコシステムを作りたいと思っているのですが、それは内側からの支援です。
Yahoo!コンテンツディスカバリーの掲載面であるYahoo!ニュース自体にもいろいろな取り組みがありますが、我々も同じYahoo! JAPANとして、我々のやり方で支援をして、広げていきたいと考えています。
レコメンドウィジェットツールについて言えば、媒体社支援を行う事業者が今増えています。マネタイズだけではないソリューションを提供するのが差別化ポイントだと言われますし、そちらのニーズが高まってきてもいます。現状レコメンドウィジェットツールは市場でかなりひしめき合っていますから、新しい事業者がチャンスを見出すよりも、我々のような既存事業者のソリューションでパートナー様と関係性を作るほうが伸びしろがあると思います。
スポンサードコンテンツは、クライアント様からコンテンツ制作とコンテンツへの集客費用を賄っていただける仕組みです。集客部分においてクライアント様から預かった出稿費用でYahoo!コンテンツディスカバリーをご活用いただくことにより、媒体社様にとって経済的負担のない事業になります。
― その中でレコメンドエンジンプラットフォーマーはどのような役割を果たしていくべきでしょうか。また今後どのように変わっていくのでしょうか。
「何を載せるか」「どのような事業形態をとるか」というスタンスがあります。何を載せるかに関しては、「充実したコンテンツ」と「収益を伸ばすための広告」の二つがあります。これを両軸にしている事業者もいます。
媒体ごとのデータのカスタマイズをして、OEMとして媒体社と二人三脚でやっていく方法もあります。加えて最初に申し上げたとおり、媒体社様自身がレコメンドウィジェット事業者になるケースも台頭してきています。自社媒体という地盤があるので、媒体規模が大きければ事業として成り立つからです。急いでマネタイズせずとも、媒体と向きあっていく体力があります。このような場合は、自社媒体で培ったソリューションを外部媒体へ提供していくことができます。
このように媒体が自社のソリューションを外部に持ち出す動きが増えています。データ活用を絡める動きも加速しそうですが、契約などを考えると難しいところもあります。そこを新たなマネタイズ源とする可能性もあるかもしれません。媒体社様も自分たちのデータに価値を感じ始めているようです。
媒体社もウェブ上のナレッジを求めている
― クライアントの動向として何か象徴的な事例があれば、お聞かせください。
レコメンドウィジェット広告の活用のされ方が、少しずつ変化しているなということは感じます。官公庁様にはこちらから提案をしているのですが、商品の特性、やろうとされていることと、ゴールがYahoo!コンテンツディスカバリーとマッチしているので、情報伝達にうまく使っていただけると思っています。横でつながっていく部分の多い領域なので、さらに広がる可能性を感じています。
NPO団体が寄付を募られるのにも使っていただいています。今までは「無料サンプルを申し込む」などがゴールであることが多かったのですが、違うアプローチが増えていると感じます。夏場には自治体の「観光」の事例が多いです。こうしたことは、我々がめざしている流れでもあり、「来たな」と思わされます。
媒体のタイアップでは、いわゆるラグジュアリー・ブランドが使われるボリュームや案件数が、前回のインタビューの時よりも数倍規模で増えてきています。レコメンドウィジェットの浸透が進んでいることをひしひしと感じています。
ラグジュアリー・ブランドのクライアント様は、並びにどのような広告が掲載されているかをとても気にされます。そのため、一般的にはレコメンドウィジェット広告は敬遠されがちなサービスです。ただ、そこも含めてプランの中に取り入れていただいているのは、効果を実感していただいた結果でしょう。
充実したコンテンツに特化した広告商品は、選択肢として少なくなっています。広告とコンテンツが画面に出ているものはたくさんありますが、充実したコンテンツだけが出ている枠はどんどん少なくなっています。しかし、新たなユーザーへのリーチができるし、そのユーザーの質も悪くないので、ニーズとしては高まっています。結果、希少価値が出てきていて、同載のリスクを負ってもメリットを感じてお使いいただいているのではないでしょうか。同載のリスクよりも、ユーザーが接触してくれるか、という点が重視されているのだと考えています。他にも、クリックした先のコンテンツを読んでもらうことに主眼を置いた広告なのでインプレッション観点でのリスクを許容いただいているとも考えられますし、Yahoo!コンテンツディスカバリーならではのコンテンツ審査に一定の信頼を置いてもらってとも思っています。これらの背景をもとにYahoo!コンテンツディスカバリーへの出稿クライアント様のラインナップがここ最近変わってきていることを感じています。
二人三脚で、もっと踏み込んだ展開を
― 最近の貴社のお取り組みについてお知らせください。
Yahoo!コンテンツディスカバリーの広告掲載基準を改定し、以前よりも緩和しました。我々は現在「クオリティを重視していこう」という方向性でサービスの運営をしている一方で、コンテンツのバリエーションを増やそうという方向性もあります。同じような内容のコンテンツが横並びにならないように、多様性を出していきたいと考えています。この取り組みはユーザーがYahoo!コンテンツディスカバリーモジュールに接触した時のトータルでの質の高さ、コンテンツとの出会いの創出に一層つながると思っています。先述の官公庁やラグジュアリー・ブランドはその一例ですが、ラグジュアリー・ブランドは独特の世界観をお持ちであり、フォーマットが非常に特殊な場合があります。そこで、多様なフォーマットに対応するなど、サービスの信頼性を保ちつつ、いくつかのフォーマット軸において基準を緩和しました。このように、クライアント様からのお話を聞き、媒体社様と協力しながら、より活用いただきやすいサービスづくりを進めています。
さらに、フォーマットには見る人の「コンテンツかどうか」という主観が入ってきます。明らかに違うものは排除しますが、芸術的なものになると価値判断が難しくなってしまいます。今までないようなフォーマットが入ってくるとユーザーも選択肢が増えて、結果的にパフォーマンスや枠全体の価値がユーザーから高く評価されるでしょう。枠のCTRが上がるということは、その枠にユーザーが興味を持ったということです。
また、テレビ局の「見逃し配信」のような動画コンテンツが増えています。これらの動画では、冒頭にCMや、音が入ったりします。以前はこのようなフォーマットは入稿できなかったのですが、クオリティの高い動画を試験的に導入して、業界なり団体の事情を鑑みながら、バリエーションを増やして、ユーザーの選択肢を多くすることに取り組んでいます。
Yahoo!ニュースのコンテンツパートナー様については、Yahoo!コンテンツディスカバリーモジュール上のコンテンツバリエーションを増やすという文脈も含めて取り組みを増やせないか考えています。メディアの媒体力を高めていく支援もできたらと思います。タイアップコンテンツをご出稿いただければ媒体社様の編集コンテンツに送客できるような仮の原資をお渡しして、メディアの媒体力を上げていくといった取り組みも構想としてあり、テストを進めています。媒体社様は企業と制作したタイアップコンテンツをYahoo!コンテンツディスカバリーにご出稿いただくことでマネタイズできますし、それで我々が得た収益をその媒体社様への送客でお返しすることもできます。どこまで広げていけるかわかりませんが、コンテンツパートナー様とは二人三脚で、より踏み込んだ展開を考えたいですね。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。