日本のプログラマティック市場動向と今後の戦略-OpenX社 CEO Tim Cadogan氏へのQ&A
グローバル大手アドエクスチェンジ、OpenX社トップは、日本におけるプログラマティック市場をどのように見ているのか。市場に対する見解と同社の今後の戦略について、同社CEO Tim Cadogan(ティム・カダゲン)氏にお話を伺った。
1. なぜ日本はOpenXが今後成長するための鍵なのですか?
OpenXは長年にわたり日本に拠点を置いており、活動範囲を拡大してきました。その理由は、日本のプログラマティック領域に成長の機会があると信じているからです。私たちは日本で過去7年間に信じられない程多くのの実績を残し、信頼の置けるプログラマティックマーケットプレイスとなり、、Googleに次ぐ2番目に大きな規模を誇っています。日本はアジア地域で当社のソリューションを広め、アドテクの未来を築くための枠組みを構築する、理想的な拠点です。エンターテインメントとメディアの市場は2020年までに1700億ドルに成長すると予想され、プログラマティックテクノロジーに対する日本のプレミアムなパブリッシャーのニーズはとても高いです。
アドテク業界は信じられない程の速度で進化しており、日本で適切な採用を推進していくためにはローカライゼーションと教育が極めて重要です。プログラマティック広告の恩恵をローカルパートナーが理解するのを助けるための鍵は、彼らと対話をすることです。また、パブリッシャーが直面する課題と要求は常に進化していますが、それらを私たちが理解し、その要求を満たす提案ををし続けるためにも、この対話が役立ちます。これらの目標の達成を目指して、パートナーであるパブリッシャーおよびデマンドソースにとって最高のプログラマティックリソースとなるために日本チームへの投資を継続しています。
2. 日本でプログラマティックはどのように進化していると思いますか?この地域におけるOpenXの焦点は何ですか?
プログラマティック広告の成長は米国の方が数年進んでいますが、特に日本のような地域には、向上・改良・成長の余地が大いにあります。世界的には、全メディア(オンラインおよびオフライン)の10%未満がプログラマティック領域で取引されているので、ここでイノベーションが起こることが期待できます。特にヘッダービディングには、日本のパブリッシャーのイールドに重大なインパクトを与える可能性を秘めています。米国ではパブリッシャーの多くが、マネタイゼーション戦略の中核部分としてヘッダービディングを利用しており、私たちは日本市場でも同じような成果を発揮できるものと考えています。
日本市場に向けてヘッダービディングソリューションを携えて市場に参入してきたのは、当社が初めてです。ヘッダービディングテクノロジーの先駆者の一員であり、日本のパブリッシャーを成功に導くための専門知識を持っています。私たちのパートナーである日本のパブリッシャーは、当社のヘッダービディングソリューション導入後、10~30%の収益増を実現しています。世界中で数百のパブリッシャーが当社のテクノロジーを活用しているので、私たちは長年の経験によるインサイトを提供できますし、当社の提案を紹介するための情報提供するストラテジーも実証済みです。
当社はヘッダービディングの実装を最適化するためにパブリッシャーと協力しているのに加えて、日本のプログラマティックランドスケープ全体に対する当テクノロジーの恩恵とインパクトを正しく的確に評価できる、ユニークなポジションにあります。そのため日本のパブリッシャーにこれらのトレンドに関する情報を提供できるとともに、ヘッダーパートナーを慎重に選ぶことが有益な理由などのガイダンスも提供できるのです。
例えば、私たちは米国のパブリッシャーが10社以上のヘッダービディング事業者を競合させていることを知っています。収益が増加するだろうと考えてのことですが、実際には、自社のリソースにもバイサイドのパートナーにも負担になるだけです。ヘッダービディングや不必要なコンテナが多すぎるために日本のパブリッシャーが混乱するのを予防したいと、私たちは願っています。そのために、彼らが新たな広告テクノロジーを上手く操り、パートナーから最大の透明性を得られるように支援をします。長期的にはこのことが、プログラマティックなエコシステムをより持続可能で、全ての当事者にとってよりフェアなものにするでしょう。
3. プログラマティックの採用に関して先行しているのはどのパブリッシャーですか? それはなぜですか?
先行しているパブリッシャーが、必ずしも最大のオーディエンスを持っていたり、マネタイズするためのインベントリを一番多く持っていたりするとは限りません。私たちの経験では、新たなテクノロジーの試験導入に積極的で、デスクトップおよびモバイル全般の在庫提供を多様化して、プログラマティックキャンペーンを継続的に最適化しているパブリッシャーこそが、最高の結果を出し、業界全体の採用を加速させています。
プログラマティックに精通しているパブリッシャーの方が高価値な在庫をより多く創り出しており、以前は直接取引のみだったインプレッション数もプログラマティックに利用できます。それらのパブリッシャーは、プライベートマーケットプレイス(PMP)などのプログラマティックダイレクトモデルを活用することで、実現しています。日本における当社のプログラマティックダイレクト事業の収益は、前年比200%以上成長しました。このトレンドは持続すると予想しています。
パブリッシャーがプログラマティックダイレクトディールを利用すれば、プログラマティックならではのスケールと効率性によって、プレミアムインベントリの最大限の価値を獲得できるようになります。マルチパブリッシャーPMPを利用すれば、パブリッシャーは複数のバイヤーからの新規・既存のデマンドにアクセスでき、増加したデマンドにアクセスできるようになるので、そのプロセスでバイヤーとより深い関係を構築するのに役立つ可能性があります。ダイレクトディールの場合のように大量購入に対して値引きをする必要がないうえ、バイヤーと関係を構築できる機会が得られるのです。単にレムナント(余剰在庫)を取引する代わりに、どうすればプログラマティックが大量な在庫全体に恩恵をもたらせるのかと考えるパブリッシャーは、リターンの増加を実現しています。
4. ブランドおよび広告主の間でプログラマティックダイレクトが人気を集めている理由は何だと思いますか? パブリッシャーはこのデマンドをどのように推進しているのですか?
ブランド広告主は、そのブランドにとって安全かつ高品質なコンテンツの隣に広告が配置されるという保証がない場合、プログラマティック広告にお金を使うのを躊躇うことがあります。プログラマティックダイレクトを利用すれば、ブランドとパブリッシャーは協力したいパートナーの条件をより具体的に指定できるので、これを解決します。広告主は、ビューアビリティーメトリクスといった要因に基づいてディールをカスタマイズすることができ、パブリッシャーは広告の品質に関する既存の設定を保持できます。
プログラマティックダイレクトディールが人気を集める結果になった直接的な理由は、両サイドに品質と透明性を要求するからです。ブランドは、高品質でプレミアムなコンテンツと自らを関連付けたいと希望しています。パブリッシャーは、協力をするバイヤーが供給する広告のクリエイティブがユーザーフレンドリーでサービスを中断させるなどの影響を与えないものであることを確保する必要があります。プログラマティックダイレクトは、プログラマティックテクノロジーならではのスケールと効率性によって、両サイドの要望を実現します。
5. 品質という話題に関して、特にアジア太平洋(APAC)市場でパブリッシャーが認識するべき事柄は何ですか?
広告の品質は、APACのパブリッシャーが重視すべき焦点の1つです。レポートによれば、モバイル広告ブロッキングの90%余りがAPACで起きています。広告ブロッキングの根本的原因は、自動再生ビデオなど、サービスを中断させる(ディスラプティブな)広告であることが多いのです。これらはユーザー体験の低下につながります。これを解決するには、楽しいユーザー体験を実現できるようにフォーマットされた、邪魔にならない広告を開発する必要があります。これは、セルサイドとバイサイドの両方から対処する必要がある問題です。
私たちはパートナーであるパブリッシャーに継続的にガイダンスを提供し、彼らのサイトの高品質なコンテンツと広告のプレースメントが補完し合うことを確かめるようにアドバイスしています。当社には広告の品質を専門とするチームがあり、全ての広告をテストして自社の高い広告品質基準を満たしていることを確認しています。また当社が所有権を持つ「Ad-Quality Scanner(アドクオリティースキャナー)」は1日に百万件以上のクリエイティブを取り込めるので、マルウェアやリダイレクトやその他の有害な策略からパブリッシャーがユーザーを保護するのに役立ちます。
またTrustworthy Accountability Group (TAG)などの業界団体とも協力して、広告体験の向上を推進しています。最近、複数の企業がTAGのアンチマルウェア基準を実装しました。当社もその一員であり、業界全体にわたる広告品質ソリューション開発の最前線で活動しています。ユーザー中心の広告が増えるのにつれて、人々は広告ブロッカーを利用しようと思わなくなるでしょうし、私たちが採用している広告品質の測定基準もそれを推進することでしょう。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。