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【P1寺廻氏に聞く。プログラマティック・トレンドワードのいま】~第2回ヘッダービディングとS2S~

寺廻友子氏_Photo

昨今注目を集めるプログラマティック領域のキーワード。実際に実務領域ではどのような現状にあるのか。

デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社(DAC)の連結子会社でプログラマティック領域の実務を担う株式会社プラットフォーム・ワン(P1) 取締役副社長 寺廻友子氏にお話を伺うシリーズ第二回目。

今回は、ヘッダービディング・S2S(Server to Server)接続について解説をいただいた。

(聞き手:ExchangeWire Japan 野下 智之)

普及のハードルは社内調整にもあり?ヘッダービディングの現状

― ヘッダービディングとはどのようなものでしょうか。また、その普及の背景についてお聞かせください

写真1

媒体社様にとっては、より公平な取引を目指していくためのアドテクノロジーと捉えています。今までのようなアドサーバーからSSPの各配信タグを数珠つなぎ(ウォーターフォール型)にするよりも、SSP等のビッダーに対して一斉にリクエストかけて、すべてのバイヤーを一斉に競わせた方が本当の意味での広告価値が判断されやすいはずであるというのは正しいアプローチだと思います。やはり媒体社様のRTBファーストルック(RTBのオークションに最初にかかる広告リクエスト)のリクエストに対してより多くのバイヤーに公平に入札権を与えるということは機会の最大化という意味では正しいというか、媒体社様の広告収益向上のためになることだと感じています。

日本でのヘッダービディングの普及状況は、昨年末以降導入が進んできているというイメージです。ヘッダービディングを導入するには、ページ自体のヘッダー部分にタグを入れる必要があるため、媒体社様の社内調整の観点でも導入へのハードルがそれなりにあります。例えば今まで広告担当者がアドサーバーの設定は変更できるけれど、ページ自体に手を入れるとなるとコンテンツ制作部門の承認が必要となったり、広告部門とは全く異なる部署の方の承認が必要となったり、ということがあるかなと思います。また、ヘッダービッディング導入による収益改善の試算はなかなか立てづらく、周囲への説得材料にも欠ける場合もありますし、レイテンシー(読み込み遅延)に対する懸念もよく言われることです。これらのことがハードルになっているケースもあるかなと思います。

ヘッダービディングの導入効果、見え方は様々

― 貴社の支援によりヘッダービディングを実際導入されて、それに対するフィードバックはありますか?

はい。すごく収益が上がったという話を戴くケースと、導入後もあまり収益が変わらなかったというケースとで半々くらいです。
メリットの多寡は、ヘッダービディング導入前の広告運用状況やコンディションにもよりますし、幾つのSSP・ビッダーを競わせているのかが、導入後のメリットを左右していると思っています。日本ですと海外ほどバイヤーの数が多くはないので、オークションプレッシャーが十分にかからず、思ったような効果が海外の事例より出ないケースもあります。

率直に申し上げると、導入前に広告収益の最適化をシビアにしていなかった場合の方が、ヘッダービディングのメリットが出やすいと思います。。。

― 現在様々なソリューションベンダーがヘッダービディングを訴求していますが、ベンダーごとにソリューションの特徴は異なるものなのでしょうか?

あると思います。自社SSP・ビッダーのみと接続しているヘッダービディングを提供している事業者もいれば、ラッパーと呼ばれている、複数のSSP・ビッダーを束ねるという形のソリューションを提供している事業者もあります。サーバーサイドまたはクライアントサイドでのどちらでオークションを行っているかということも違いにはなってくると思います。ただ、それらを比較して、媒体社様が自社メディアにとってどのソリューションが最善かを比較検討する材料や指標というのは、なかなかないのが現状です。

― 比較するポイントが見えない、分からないということですか?

はい。たとえばSSPの選定では、接続しているDSP・アドネットワークの数や種類、対応している広告フォーマットの数など、選定材料が概ね決まってきているかと思います。
「ヘッダービディング、どれを入れましょう」という話になった時に、やれラッパーだ、うちはServer to Serverですと言われたところで、媒体社様も自分たちにとってどれが最適であるかということは、判断しづらいのではないでしょうか。

グループ全体のアセットを含めて提案

― では媒体社に貴社が提案をする場合、他社との違いをどう説明するのでしょうか?

DACのグループ全体のアセットを含めた提案をしていきます。現状のような過渡期の市場環境を踏まえると、総合的な提案が求められている時期であると。
ヘッダービディングでオークションを行い、アドサーバーにその結果を戻すというよりも、アドサーバーで全部やってしまえばいいじゃないかという考え方があります。これは従来のアドサーバーではなかなか実現出来なかったので、ヘッダービディングというものが生まれてきたという背景があります。ですので、弊社グループであればそういった対応も出来ます、という提案が根本的なニーズに沿っていて、流れとしては自然だと思います。

データの取り扱いには要注意!?

― 今後、日本でもヘッダービディングは普及していくのでしょうか?またそれに向け、課題があればお聞かせください。

日本でも今後導入は更に増えると思いますが、いくつかの課題があります。
1つはデータの取り扱いについて。ヘッダービディング自体は広告収益を最大化していくという意味で有効な手段ですが、同時に媒体社様のすべての広告在庫の情報、ないしはオーディエンスのデータ、ブラウザーのデータ含めて全てをヘッダービディングのソリューションを提供するベンダーに一旦渡すことになります。SSPをタグで入れている場合は、そのタグをコールした際にのみデータがSSPやビッダーに渡ります。加えて、SSPは基本的に、DSPに対してRTB取引で得たデータを他用途に転用をしないようにとの契約を結んでいえるケースが多いです。
ヘッダービディングの場合は、原則データを常にSSPやビッダー側に渡すことになります。媒体社様とヘッダービディングのベンダーとの契約内容にもよりけりでしょうが、データの扱いには注意が必要です。写真2極論を申し上げると、全てのデータを抜かれてしまう、かつ他のビジネスに転用されてしまうというリスクもあります。この点は、契約条件などで留意して進められた方が後々のためになるかと思いますので、気をつけた方がいいでしょう。

もう1つは、対応スピードの課題について。日本では海外より普及の開始が遅かったこともありますし、媒体社様によっては、ヘッダービディングの導入対応に半年を要したというケースも一部で聞かれます。一方で、アドテクノロジーの進歩はとても速いです。導入や検討に時間を要している間に次のソリューションや課題が出てきてしまう、ということもあり得ます。ヘッダービディングに限らず、新しいサービスが普及しきる前に次の新しい動きが出てきて、時間をかけて導入し、運用が軌道に乗った頃には、そのソリューションが古くなっていた、というような話もあるのではないでしょうか。

現在は、ヘッダービディングを単品で入れるというよりも、ラッパーソリューションを導入して、複数のヘッダービディングを競わせるという手法が主流になりつつあります。

DSPは負荷増大への対応が必須

― バイヤー側の課題はないのでしょうか?

はい、DSP側の課題もあります。ヘッダービディングを導入しているメディアが増えると、メディアからDSPへの広告リクエストの数が膨大に増えます。また同一タイミングで同一ユーザのリクエストが複数のSSPから一斉に飛んできて、つまりそれらは全て同じ内容のものであるというケースも出始めてきています。今までは、ウォーターフォールがある意味それを回避していました。例えば、まずは当社のSSP「YIELD ONE®」からリクエストが来て、入札がなかったら他社のSSPから来てというように。また、リクエストごとに、プロアプライスが異なることが多いので、DSP側も見極めが出来たかもしれません。DSP側では、「同じタイミングで同じ内容のリクエストはいらないよね。」という議論になるでしょう。

このため、DSP側は負荷増大に対する入札ロジックの検討やインフラの増強等の対策を迫られるようになります。例えば5つのヘッダービディングを採用しているメディアから5つの同じリクエストが飛んで来て、5個同じ案件をレスポンスしてしまうと、自社DSPの同一案件で競り合ってしまうようなことも発生します。

― ヘッダービディングの普及が進むとDSPは今後リクエスト量が膨大になりパンクする可能性があるということですか?

日本でDSPが入札可能な日本IPの総在庫は、過去3年ほど大きな変動がなかったように思います。ですが、ヘッダービディングが普及すると、リクエスト数が3倍、5倍にもなり得ます。
グローバルのDSPは対応を進めているでしょうが、当社を含め日本国内のDSPはそのような恐れがないとも言えず、今後の対応を迫られます。

S2Sは、ヘッダービディングの遅延問題を改善

― 次に、S2Sについて、解説をお願いいたします。

S2S(サーバー間通信)はヘッダービディングの概念にも内包されるものであり、ヘッダービディング普及の初期に出て来たものです。クライアント側(ユーザーのブラウザ)でオークションをせずにサーバーサイドで結果を出し、その結果をアドサーバーに戻すというものと理解しています。
クライアントサイドのヘッダービディングの場合、ページの読み込み遅延が発生することが指摘されているデメリットでありますが、それをある程度改善する手法です。

― ヘッダービディングにおいて現在の中でS2Sが普及し始めているという理解で良いのでしょうか?

そうですね。グローバルにおいても日本においても同様です。
当社では、今後ヘッダービディングを導入される媒体社様に対してはS2Sで対応することになります。

― 基本的に、S2Sはヘッダービディングにおいて主流になっていくということでしょうか?

恐らくはそうなると思います。ブラウザーからSSPやビッダーを全てのリクエストでコールするというやり方は、写真3先程申し上げたように、媒体社様のデータや広告在庫の全量の情報が全て渡ってしまうことになるので、そこの選別はできません。

しかし一度ラッパーのベンダーを呼びに行って、例えばこういうリクエストの場合はあるSSP・ビッダーは呼ばない。一方でこういうリクエストの場合は特定のSSP・ビッダーを呼ぶ。というような制御コントロール権を媒体社様側が持てる可能性は、従来のヘッダービディングよりは増えるはずでしょう。もちろん制御をすることと、機会の最大化はトレードオフにはなりますが。

ヘッダービディング・S2S普及がプログラマティック取引の幅を広げる

― S2S・ヘッダービディングが普及することで、どのような広告取引が実現できるようになりますか?

PMPの話とも関連しますが、プログラマティックにおいても高単価で優良な広告枠を指定してオーディエンスデータ等で付加価値をつけて…といった話になった際に、バイヤー側がファーストルックの広告リクエストにいかにアクセスできるかというのはとても重要になると思っています。

ファーストルックの広告リクエストがきちんと評価されるというか、数多くのバイヤーに入札機会を与え、高単価の取引が優先されるという環境になると、今までどちらかというと余剰在庫の取引というような見え方をされていたプログラマティック取引が今後はPMP等との組み合わせによって取引の幅が広がるのではないかと期待しています。

DACのグループ資産を活かし、海外の模倣ではない独自のサービスを提供

― 媒体社はこの領域で貴社からどのようなサポートを受けることが出来るのでしょうか。

弊社プラットフォーム・ワンは、DSP/SSP、バイヤー側/セラー側の両方のプロダクトを持っています。ヘッダービディング、S2Sの領域においては、当社の他にグループが持つアドサーバーやDMPなどとシームレスに連携して、バイヤー側である広告会社/広告主様、セラー側である媒体社様の双方にメリットのある世界観をご提供できるように、現在準備を進めているところです。
私たちは、海外サービスの単純な模倣はしません。もちろん先行事例として良いところは取り入れつつ、日本で実施していく場合はどのような選択をすれば最良であるかを踏まえたソリューションとして提供してまいります。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長  

慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。

国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。

2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。