プログラマティックに関する責任を負うのは誰か?
(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)
誰がプログラム広告の責任を負うのかについての議論を始めると、「誰」が個人であるべきだ、という点で誤解が生じているように感じる。しかしながら、Choozle社でクライアントサービス部門のシニアマネージャーを務めるKristen Ditsche氏によると、そんな単純な話でもないらしい。Ditsch氏はプログラマティックにおける責任範疇を考えるときのキーポイントについて、ExchangeWireに説明してくれた。
私が3年間エージェンシーとして、プログラマティックメディアバイイングをインハウスで行なってきた経験から考えても、この答えは簡単なものではありません。誰が責任を負うのかを判断することは、仕事の基本的な配分や、ディレクターの戦略策定やメディアバイイング部門の仕事範囲を規定するのと比較しても厄介です。実際、セルフサービスによるプログラマティックのプラットフォーム採用において大きな成功を収めたエージェンシーは、チームのそれぞれの個人の貢献が成功につながることを認識しているチームです。
私は多くの事業者がプログラマティック広告をボトムアップの形で提案をし、価格や価値の両面から失敗するのを目の当たりにしてきました。 また、エージェンシーのマネージャーが、ベンダー選択に関する十分な説明もなく、プログロマティックによるメディアバイイングを推し進めるのも見てきました。最高の発想を持ち合わせながら、人材・時間・財政的なリソースの問題から当初の目的を達することができないような場面にも遭遇してきました。
プログラマティックメディアバイイングをインハウスで成功に導くためには、新しい習慣への対応、時間、サービス内容、リソースなどについて考えを巡らせる必要があります。エージェンシーにとっては大きなチャンスである一方で、キャンペーン時の一時的な広告の取扱いなどと比較しても、長期的なコミットメントと責任が生じます。
セルフサービスのプログラマティックプラットフォームの実装で最も成功した事例について、以下に紹介したいと思います。
1. チーム内の意識統一
前述したように、私は、ブランドやエージェンシーがプログラマティックのメディアバイイングのインハウス化を導入する事例を無数に見てきました。その中で最も効果的なのは、 リーダーシップ、マネージャー、オペレーターで構成された部門間チームを構築することで、企業の投資、必要な組織リソース、ベンダー選定などの問題に確実に対応することができます。
それでは、運用チームが正常に作動するために必要なことを見ていきましょう。 すでに検索連動型広告やソーシャルメディアのインハウス運用を行っていますか? これらのメディアやデジタルチームメンバーは、スキルをシームレスに拡大し、プログラマティックバイイングのスキルを有する素晴らしいリソースになる可能性があります。 このオペレーショナルチームにマネージャーの役割で1人のユーザーを配置し、サービス実行の社内啓蒙者にすることは素晴らしいことです。一方で、チーム内に、冗長性と容易なサービス拡張のために、数名程度の運用スタッフが任命されている点も重要です。
2. 価格モデルの検討
部門間の問題について話を戻すと、全ての部門がキャンペーンによって、いかに収益を上げるかについて同じような意識をもっていることが重要です。リーダー層が、どのようにしてプログラマティック広告が販売され、収益をあげるのかについての具体的な考え方を持っている必要があります。
エージェンシーが自社でプログラムメディア購買業務を行う際に検討すべき点がいくつかあります。異なるモデルを検討する場合、エージェンシーは提供するターゲティング戦略、利用可能なリソース、クライアントから期待される透明性を考慮に入れる必要があります。
一部のエージェンシーは固定フィー制を検討し、キャンペーン戦略、セットアップ、最適化などの一連の作業に対しての金額を課金しようと考えます。この方法を正しく導入するには、キャンペーンをうまく実装するために必要な工数を慎重に検討する必要があります。 そうでないと、結果的にエージェンシーは赤字に陥ります。
フィー体系の方法として、時間ベースでの課金を検討する場合もあります。これは、労働時間を顧客の期待に合わせて慎重に管理が行われる必要があります。
エージェンシーが取り得る全く異なる方法として、キャンペーン予算にマージンを乗せる方法があります。 これは、一定のマージンを加算するやりかたで、エージェンシーやクライアントを選別することで、労働単価に見合った収益を得る方法です。
最後に、最も複雑な方法として、キャンペーンに対して固定のCPMレートを計上する方法があります。 これは、エージェンシーがバイイングした広告在庫に対してレートを設定するやり方で、本質的にはインプレッション保証の形態です。 エージェンシーがキャンペーンを効率的に管理し、請求された料金を下回る入札を確保することができれば、より大きな可能性を秘めていますが、今までの選択肢の中では、最もリスクの大きな方法です。
3. プロダクトとサービスの内容を固める
デジタルチームのマネージャーとセールスチームメンバーは、提供されるサービスについての意識統一を図りたいと考えるものです。 例えば、より複雑なキャンペーン戦略では、セットアップと最適化のための人的な時間がかかり、キャンペーンマージンのビジネスモデルで作業している場合、小規模の予算キャンペーンには適していません。 オペレーショナル・マネージャーはまた、必要に応じてチームの規模のオペレーションをこなすために、作業を分散し、オペレーション状の問題を監視するなどの必要があります。
次に、サービス内容の各段階(計画、セットアップ、最適化、レポート)の責任者を確定する作業が行われます。 一部のエージェンシーでは、特定のアカウントのライフサイクルの各段階を1人の担当が管理するようこともあれば、ライフサイクルの一段階にのみ特化し、複数の広告主にまたがって実行するようなエージェンシーもあります。
説明を差し上げた通り、エージェンシーが、プログラマティック広告をインハウス化する場合には、いくつかの重要な決定が必要です。 これらの決定は、エージェンシーの複数の部門とのやりとりが必要で、シナリオも複数の可能性があります。すべてのエージェンシーが異なっているように、その実装は、多くの場合で、それぞれ異なる可能性があります。 実装の成否を決定づけるのは、エージェンシーの主要なステークホルダーが協力し、これらの重要な決定に対処し、それぞれの部分の所有権を取得することです。
プログラマティックによるメディアバイイングをインハウスで行うことで、競争に打ち勝ち、多くのエージェンシーが今日直面しているマージンの問題に太刀打ちできる可能性があります。これにより、大きな収入源になり得る新しいサービス提供の可能性が広がります。優れた人材を社内で育成し、社内でリソースを囲い、専門知識を持たないクライアントにとっての信頼の高いテクノロジーのコンサルティングを行うことが重要です。
繰り返しになりますが、実装の成功を左右するのは、エージェンシーの主要なステークホルダー同士が協力し、それぞれの重要な決定に対処し、高い責任感をもって対応する必要があります。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。