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エスワンオーインタラクティブトップインタビュー【後編】プログラマティック最新動向 [インタビュー]

トレーディングデスク事業会社エスワンオーインタラクティブの代表取締役に就任後、わずか1年で事業を急成長させた高瀬大輔氏。

国内外を問わず広くプログラマティックの領域に知見を持つ同氏が語る、同社の過去1年の振り返りと今後、そして同氏が見る直近の業界動向について、全2回にわたりお届けするシリーズ第2回目は、同氏から見たトレーディングデスク事業周辺の市場環境、プログラマティック領域のトレンドについて。

前編はこちらから

(聞き手:Exchange Wire Japan 野下 智之)

― 米国や欧州は、トレーディングデスクという業態は独立しているかと思います。日本は個別に違う形で発展していくイメージでしょうか。それとも欧米をキャッチアップしていくイメージで思われていますでしょうか?

これまではエージェンシートレーディングデスクとして展開されている企業が多い印象がありました。

ですが最近は当社も含めて米国や欧州に近づいている印象がありますので、取引形態やパートナーシップのあり方、広告の買い付け方も米国や欧州に似てくるのではないかなと思っています。もちろん、日本市場にローカライズする必要がありますので、米国や欧州と全く同一のものになるとは思っていませんが。

多くの方が感じられていると思いますが、情報量やその内容、視点においては、北米・欧州とはギャップが無くなってきていると思っています。ですので、良い意味で海外のトレンドを取り込んでいきながらどのように成長していくのか、というのは以前より考えやすくなっていると感じています。個人的には海外トレンドに「追いつく」というより「新たな形を生み出す」という感覚でもありますね。

― グローバル市場と日本市場についてプログラマティックのトレンドはいかがでしょうか、それぞれお聞かせください。

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グローバル市場(特に北米)では、とにかくトランスペアレンシー(透明性)が重視されていて、その粒度も細かい。ここは日本市場とは大きな違いですね。

またトレーディングデスクの領域において、グローバル市場ではアービトラージを中心にマーケットが伸びていったと思っているのですが、昨今アービトラージが減ってきている印象があります。一方で、よりプライベートな買い付けやダイレクトな買い付けも増えてきていますね。IABの定義にもありますが、Open AuctionのみならずInvitation Only Auction(PMP)やUnreserved Fixed Rate、Automated Guaranteedなど、複数の買い付け方を織り交ぜながら配信している点も日本市場との大きな違いの一つでは無いでしょうか。

また、テレビやサイネージといった異なったチャネルでのプログラマティックの活用も進んでいますし、媒体社様自らが積極的にプログラマティック・バイイングの仕組みを活用し、マネタイズに取り組んでいる印象があります。これらも違なる点だと思います。

最後に、Walled Garden(ウォールドガーデン)の問題にどう取り組むのかということが、日本よりも盛んに議論されています。プログラマティック・バイイングの専門家だけでなく多くのマーケターも積極的にその議論に参加されていますね。危機感といいますか、温度感が圧倒的に異なりますね。

― それはパブリッシャーさんが議論されているのでしょうか?バイヤー側も同様ですか?

お伝えした通り両方ですね。ただ、特にバイヤー側(買う側)はかなり気にされています。WPPのマーティン・ソレル氏が各プラットフォームに対して「Walled Garden(ウォールドガーデン)を越えていきたい≒データを出してほしい」という意味合いの意思表示をし続けていることも印象的です。

各エージェンシーやトレーディングデスクの皆さまからするとデータが出てこない(確認出来るのはプラットフォームの中だけ)…。かたや、消費者はそんなことは関係なく様々なプラットフォームを跨いで日々行動されていますし、広告主もそこを見定めながら適切な場所、タイミングでメッセージを届けたい。しかし、デバイスの壁はもちろんのこと、Walled Garden(ウォールドガーデン)があってデータが分断されてしまうため、実現しきれない。そんな課題意識があることを強く感じます。

トレンドは、「トランスペアレンシー(透明性)」

― 日本における最近のデジタルマーケティングやプログラマティック周りのキーワードを挙げるとすると、何でしょうか?

改めてですが「トランスペアレンシー(透明性)」ではないでしょうか。例えば、ビューアブルであるかどうかは非常に大きなトピックで、それを踏まえてアドフラウド対策の議論が活発化している印象です。ただトランスペアレンシーは「情報開示そのもの」を指すと私は理解しています。トレーディングデスクでいえば、例えば運用履歴などですね。

少し話はそれますが、今年の4月にProgrammatic I/O San Franciscoに参加してきました。2日間、朝から晩まで様々なセッションやプレゼンテーションが行なわれているのですが、2日目に某大手企業のVPの方がお一人で登壇されていて、すごく面白いプレゼンをされていました。関わっているエージェンシー、トレーディングデスク、その先にあるDSP、アドエクスチェンジ、SSP全社を集め、最終的にはビットリクエストのフロアプライスやフィルレート等を配信する媒体別に開示してもらっている、と。とある単価で入札する時に、セカンドプライス・オークションがどう機能し、結果的に関連する配信ベンダーがどの程度利益を取得し、結果的にどの程度の利益がメディアに流れていったのか。

一方で、ファーストプライス・オークションで同様の配信を実施した時にはどの程度の利益が各社出ているのか、を同様に配信先別に全てレポートしてもらっている、と。

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ただ、この取り組みの意図としては全てを開示してもらい、間に立っているプレイヤーの利益を削りたいわけではなく、自分たちがどのオークションに参加しているのか、自分たちがどういう勝率で買い付けられているのかを見定めないといけないという考えがあるためである、と言っていました。より適切に、効率的に広告に投資したいという意味合いで開示させている。ですので、値引きなどの交渉は一切しない。

もう一つ印象的だったことは、多くのマーケターの方々がパブリッシャー側のソリューションを語っていたことです。

自分たちは都度買い付けを行っているが、そのビッドリクエストに応えて収益を得ているメディアというのは、様々なソリューションを活用している。ウォーターフォールだけでなくヘッダービディング(Header Bidding)等がありながらも、レイテンシーの問題に向き合っている。パブリッシャーはどのようにそれらを解決しようとしているのか。それらを踏まえ、自分達がこういう買い付け方をし、こういう風に広告投資をしていくとメディアも喜ぶのでは、ということをデマンドサイドの方が語るのです。これは日本ではないことですね。

インベントリーの質向上の鍵は、ビューアビリティの担保とアドフラウドの除外。そしてメディアが創り出すコンテンツ。

― 最近、パブリッシャー側から、自分たちの意見を声としてもっと上げるべきだという機運が高まっていますよね?

そのような機運が高まっているのは肌で感じています。トランスペアレンシーの名の下にビューアビリティが担保され、アドフラウドが除外されていくと、インベントリーの質が上がり、単価が上がっていくでしょう。そうなると、特に一次情報を取り扱っているメディアのコンテンツに沿った広告枠は価値があるよね、という流れになることが当たり前にくると思っています。セルサイドとして、いかに有益なインベントリーをコンテンツとともに提供していくのかが重要視されていくがゆえに、デマンドサイドとサプライサイドのパワーバランスが変化していくと感じています。

注目のツールとは業務提携を視野に

― 現在注目しているベンダーまたはツールについてお聞かせください。

当社が今後しっかりと取り組んでいきたい領域であるという観点から、分析系のベンダーさんには注目しています。この領域では先日業務提携を発表しました。

提携先のGRueさんは、データをサイエンスに見ながら、広告活動を中心としたお客様のバリューチェンジをどう最適化し、価値提供するかということに向き合っている企業さんです。この領域は他の企業とも連携を深めていく予定です。
また、消費者視点でコンテンツを制作できるベンダーにも注目しています。

海外のトレンドを見ると、より注目されているのは、クロスデバイスを繋ぐようなソリューションベンダーです。日本市場でも外部のサードパーティのベンダーとして、クロスデバイスを繋ぐキーとなるIDを提供するベンダーに対して今後注目が高まるのではないでしょうか。最後に、AIの中の1つですが、機械学習を用いた配信の最適化や自動化する動きは広まっていくと思っているので、そこは取り逃さず注目していきたいと思っています。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長  

慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。

国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。

2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。