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すべての企業がアプリを持つ時代に突入-YappliとAppsFlyerが描くアプリ市場の近未来 [インタビュー]

通勤電車、待合室、果てはトイレや寝床まで、我々はあらゆる場所で絶えずスマホを操作するようになった。モバイル化が進んだ時代においては、アプリがウェブを凌駕するマーケティング・ツールとなり得るのか。アプリ運営プラットフォーム「Yappli (ヤプリ) 」の代表取締役である庵原保文氏と、SDK解析ツールプラットフォームを提供するイスラエルのベンチャー企業AppsFlyerの日本オフィスでカントリーマネージャーを務める大坪直哉氏に話を聞いた。

(聞き手:ExchangeWire Japan 長野雅俊)

アプリを使ったマーケティング現場の変容

― 自己紹介をお願いします。

庵原氏: 出版社を経てYahoo! Japanに入社し、様々なメディア系の企画業務に携わりました。そこでウェブのノウハウや知識を得た後に、別の会社に移ってウェブ・マーケティングを担当。その頃にYahoo! Japan時代の同僚だった他の2人と一緒にサラリーマン起業というか、夜中に作業を行なう日々を2年間続けて、Yappliを開発しました。App Storeが出来てまだ1、2年が経過したばかりの頃で、「これからモバイル・アプリの時代が来る」と信じて、アプリをものすごく簡単に制作できるツールを作りたいとの思いでYappliを開発し、起業しました。

大坪氏: 僕はOvertureへ入社してこの業界に入りました。同社はその後Yahoo! Japanの子会社になったので、私も1年ほど庵原さんと同じ企業に勤めていたことになります。それからいくつかの会社を挟んでCriteoに就職。当時から「これからはアプリだ!」と主張していたのですが、社内の熱はあまり上がらなかったので、アプリ専門の本格的なビジネスに関わろうと思い、AppsFlyerのジャパン・オフィス創設に携わったという次第です。

― Yappli社とAppsFlyer社の関係についてお聞かせください。

庵原氏: Yappliでは、簡単にアプリを制作・運営できるシステムを企業様向けに提供しています。通常であればアプリ開発に1年を費やすというのがザラですが、Yappliであれば制作期間は約1カ月と極めて短いです。デザインやレイアウトのパターンはほぼ無限にあり、システム上で約20個の機能を差し替えることでA/Bテストを実施できるというのが特徴です。

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今やどの企業も自社アプリを持つ時代となりました。弊社には約220社の顧客がいますが、そうした企業様の間で、アプリを制作するだけではなく、彼らのお客様にそのアプリをダウンロードしてもらいたいというニーズが高まってきています。当然と言えば当然の流れで、一昔前にはウェブサイトを制作した後で、そのサイトをいかに広めるかというニーズを捉えてウェブ広告業界が成長しましたよね。今のアプリ業界も同じ状況で、アプリを制作するだけではなくて、お客さんにどうやったら届けることできるかを皆さん真剣に考え始めています。しかし、そうした企業様の多くは、お客様への届き具合を計測する手段がないという問題を抱えていました。だから計測ツールをずっと探していたんですよ。

調査した結果、イスラエルに本社を置くAppsFlyerのアプリ解析ツールが圧倒的に優れていることが分かったので、今年4月からYappliのシステムに組み込むことになりました。AppsFlyerのSDKを組み込むことで、Yappliのお客様すべてがAppsFlyerを利用できる環境を作ったわけです。その結果、これらの企業様は、例えばFacebook広告を出したり、店舗でキャンペーンを展開したりした際のインストール状況の計測が可能になりました。

大坪氏: 一昔前まで「アプリと言えばゲーム」と認識されていましたが、今では非ゲームの業界でもアプリ化が進んでいます。一方で、自社ウェブサイトを持っていても、ウェブとはプログラミング言語が異なるアプリにまでは手が回らないという企業がまだ多いのも事実。そうした背景の中で、Yappliさんが提供するサービスを利用してアプリを制作する企業が増えてきていることは以前から耳にしていました。簡単なドラッグ&ドロップでのアプリ制作を可能としたこの企業は絶対に伸びると思い、ぜひご一緒したいと思って弊社からアプローチしたのです。

― 両社が提携を結ぶ以前には、Yappli社の顧客はどのような形でアプリのインストール状況を計測していたのでしょうか。

庵原氏: アプリの中の動きについてはGoogle Analyticsを使って計測していただいていたのですが、アプリの外側の動きを追うのは非常に難しかったのです。しかし、AppsFlyerの技術を以って、これが可能になりました。端的に言うと、アプリのインストールに関連した広告効果が測れるようになったということです。一例を挙げれば、ある人気ブランドにおけるアプリのインストールは、半分が外部流入つまりFacebook広告などからの流入によるものです。つまり各企業にとって約半数に当たる数のお客さんが一体どういう人たちで、どこから来たかを提示できるようになりました。

大坪氏: アプリの潜在的ユーザーがどこにいるのかが分からないままプロモーションを続ければ、ROIは破茶滅茶なものになります。だから一体どこに最適なユーザーがいるのかを知ることでプロモーションを効率化していくことができるというのがAppsFlyerの強みです。

先ほど申した通り、今まではとりわけ非ゲーム業界ではアプリのプロモーションにまで手が回っていませんでした。ただし、最近になってアプリはユーザー・エンゲージメントを維持そして向上する上で一番良いということに各企業様が気付き、アプリでの集客を本格化させています。その際にどこからユーザーが来ているのかが分からなければ予算を最適化できないので、計測ツールを導入しようというわけですね。AppsFlyerは今世界で7割のシェアを持っています。ほかにも世界中でご支持いただいている様々な機能があるので、Yappliさんのクライアント様にもご活用いただけたらと思っています。

アプリはロイヤル・ユーザー専用のタッチ・ポイント

― 各企業によるアプリ化の取り組みが本格化しているとのお話がありました。一方で、スマホの画面上のわずかな枠を奪い合うことになるアプリ市場は「SNS大手が圧倒的に優位」で、一般企業には太刀打ちできないとの声も聞かれます。

庵原氏: その議論はよく耳にしますが、少し誤解が含まれているように感じます。自社アプリを持とうとする一般企業の皆様は、別にFacebookやUberと競い合おうとは思っていませんよ。そうではなくて、「自社のロイヤル・ユーザーのために最良のタッチ・ポイントを作りたい」という考えからアプリを制作するのです。ごく簡単に言うと、メルマガがアプリに取って代わってきているということです。だからSNS大手と張り合って、例えば100万ダウンロードを目指さなければいけないというわけではありません。自社のロイヤル・カスタマーが5万人であれば、5万人だけダウンロードしてもらえればいいというツールなのです。

大坪氏: 別の観点から申し上げると、今はスマホの中にアプリが約50個入っていると言われています。だからパイは意外と大きい。さらにスマホ使用時間の80%をアプリが占めています。またアプリにはプッシュ通知機能があり、ユーザーに直接メッセージを送ることができて、そのメッセージからユーザーが見たいページにいきなり飛べますよね。つまり、双方向性のコミュニケーションが取れるといのがアプリ最大の特徴。メルマガは一方向で開封率は平均12%。一方のアプリにおけるプッシュ通知の開封率は約9割です。だから、今ではメルマガよりも断然アプリという風潮になってきていると思います。

庵原氏: ウェブとアプリの違いに関して言えば、自家用車とF1カーの違いに例えられるかもしれません。自家用車は誰もが簡単に乗れるという意味で、ウェブの世界に似ている。URLがあるので、皆が簡単にアクセスできます。ただし、動きは遅く、性能も特段優れているわけではない。本当はF1カーに乗りたいのだけれど、選ばれし者、つまりアプリをダウンロードした人しか利用できない。ただウェブよりもはるかに高速で動くし、性能はものすごく良い。そのためロイヤリティ・プログラムやポイントカード制度の運営に適しているのです。

ついでに言えば、スマホにおいてはブックマークするという文化が既に消滅しました。今ではブックマークする代わりにアプリをダウンロードします。だからアプリを持っていれば、継続率がウェブの10倍、20倍違うんですよ。

大坪氏: アプリにはインストールという作法があるので、インストールした時点でユーザー・エンゲージメントがもうできているんですよね。私も例え話をしてみますと、ウェブは誰とでもいつでも付き合えるフリーな状態。一方のアプリは結婚した状態。どこまで適切な例かは分かりませんが(笑)。ともかく、アプリをインストールした時点で今後は基本的にはアプリからの通知も受け入れるし、ロイヤル・ユーザーになりますよ、という意思がインストールという所作に込められていると思うのです。デバイスの画面上に常にアイコンが出るので、ユーザー認知も確実に上がります。だからユーザー・エンゲージメントという意味では、アプリに勝る媒体はないです。

庵原氏: インターネット上で何かを閲覧しようとすると、ブラウザかアプリという2つの手段しかありません。それぞれの滞在時間の比率は、今やアプリ: ブラウザ=8:2となっています。ユーザー数はウェブの方が少し多いですが。ユーザー数が多いというのがウェブの強みである一方で、ウェブ上に来たお客さんはその後なかなか帰ってこない。企業は自分たちのお客様に何度も戻って来て買い物をして欲しいと思っているので、オンライン上でマーケティング活動を行なう上ではアプリの存在感が日に日に増しているというのは間違いないです。

ウェブは段々と検索のみに限定して使われる手段になっていくと思います。Wikipediaで何か調べ物をしたり、Amazonで商品を検索するときはSafariを開いて検索。ただし、実際に買い物するのはAmazonアプリというように、目的が定まったらアプリを使用する機会が圧倒的に増えるのではないでしょうか。

― 運営するアプリをリテンション率の高いものにしていくためのコツを教えていただけますか。

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大坪氏: 例えばプッシュ通知の中でどんなものが開かれて、ページにちゃんと誘導できているのかというのをしっかりと調べることが大事です。一昔前のウェブにおける検索広告ではタイトルと説明文の分析をよく行ないましたよね。どこにキーワードを入れたらクリック率が上がるかどうかといった分析です。同じようにどういうメッセージングにしたときに開封率が上がるといったことを分析することで、リテンション率を高めていくことができると思います。

またAppsFlyerでは、世界で唯一我々だけが計測できる「アンインストール率」という指標があります。一般的に言ってECやニュース系のアプリはアンインストールの比率が低い。情報の更新が頻繁に行なわれているからです。だからきちんとメンテナンスされているアプリは、自ずとリテンションが高くなると思いますね。またゲーム系は、いったんゲームをクリアしてしまうとアンインストールされてしまう傾向が非常に強いです。

IoT時代にはアプリ市場が加速度的に成長

― アプリ市場は今後どのように成長を遂げていくと思いますか。

庵原氏: 今後は大多数の企業が自社アプリを持つようになるのではないでしょうか。iPhoneが発表されてから最初の10年で、スマホは大多数のユーザーへと普及しました。次の10年では、SNS企業など特定の業界だけに限定されず、あらゆる企業が自社アプリを持つようになると思います。メルマガにしても、かつてはマーケティングのツールに使えるとは誰も思っていなかったのに、今ではどの企業もメルマガ配信を行なうようになりましたよね。こうしたメルマガ配信を行なっている一般企業はどこもアプリ運営を行なうようになるというのが私の見立てです。

ただ「自社アプリを持つのが当然」という流れが中小企業にまで広がるかどうかまでは分かりません。多くの場合、アプリの運営を行なうためには「アプリを通して直接的にコミュニケーションを取る対象となる一定数の固定客がいる」ことが前提条件となるからです。弊社システムを利用すればアプリ制作自体はかなり容易でありますが、制作した後にダウンロードするための宣伝を行なう段階での費用対効果も検討しなければならない。自社の顧客基盤が100人しかいないのであれば、最大100ダウンロードしかいかないわけで、そのためにわざわざアプリを運営する必要があるのかという議論はあり得ると思います。ただ大手企業はアプリを皆持つ時代になるのは間違いありません。

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大坪氏: 弊社のシステムを導入された某大手化粧品メーカーさんが、肌水の分量を測るドングルを開発されました。アプリを通して肌の水分量を計測し、その結果に応じた化粧品をお勧めしているそうです。こういった僕らが今まで思いつかなかったような使い方が今後どんどんクライアントさんの方から出てくる可能性があります。そうなれば、アプリ市場は加速度的に成長していくでしょう。

庵原氏: 肌の水分量を計測するなんて、ウェブにはできない。Uberも位置情報を扱うのでアプリにしかできないし、Instagramもカメラ機能が必要。さらにはGPSやセンサー機能・音声検索といったものはアプリとの相性の方が圧倒的に良いので、IoT化が進めば進むほどアプリ化も進むと思いますね。

大坪氏: アプリの話と少しそれるかもしれないのですが、失敗をしてもいい文化というかチャレンジしやすい文化をこのYappliさんのプラットフォームを使って実現していけるのではないかなと思います。ドラッグ&ドロップでいくらでも作れて、アプリ上でA/Bテストができてしまいますし。最近すごく感じるのは、日本は今、閉塞的な状況にあるなということ。失敗しないように何事も相当に慎重に進めるから新しいものが生まれてきにくいのではないか。やや大袈裟に聞こえるかもしれませんが、Yappliさんのプラットフォームは「チャレンジを気軽に始める」という姿勢を後押しするような気がしています。

ABOUT 長野 雅俊

長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長

ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。