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AI企業のAppierが推進する人知を超えたクロスデバイス・マーケティング【前編】[インタビュー]

AIやビッグデータを活用したソリューションが次々と開発されていく中で、AI技術を活用したクロスデバイス・マーケティングにおける目覚しい成果を示しているのが、台湾に本社を置くAI企業のAppier(エイピア)。同社スタッフやその関係者とともに、目には見えないAI技術の本質とは何か、またAIはどんなことを不得意としているかなどを全2回に分けて探る。まずは、Appierのセールス部門でヴァイスプレジデントを務める井料武志氏と、アソシエイト・ディレクターの林大輔氏に話を聞いた。

(聞き手:ExchangeWire Japan 長野 雅俊)

AppierとはAI企業である

― 自己紹介をお願いします。

井料氏: AppierのセールスVPとして日本におけるビジネス全般を担当しています。産経新聞社、All Aboutを経て、前職は楽天で国際広告部長を務めておりました。2014年7月にAppierに入社し、日本法人は立ち上げから手掛けています。

林氏: 2011年に新卒で楽天に入社し、同社が保有する広告メディア・ソリューション販売の営業活動に携わった後に、2016年1月からAppierで営業を行なっております。

― Appierの日本法人を設立してからの2年半を振り返っていただけますか。

井料氏: 2012年に台湾で本社が設立された直後はAI技術を用いたアプリのインストール促進を中心とした事業を展開しており、そこから順調に成長を遂げてきました。2014年にシリーズAで米大手ベンチャー・キャピタルのセコイア・キャピタルより投資が入ったことで世界戦略が本格始動し、同年3月にシンガポール、そして7月に日本法人の設立に至っています。以来、想像以上のスピードで成長できたというのが実感です。要因の一つは、ローカライズをしっかりと行なってきたこと。Appierの株主として、日本の代表的なベンチャー・キャピタルであるジャフコも参加しており、日本市場をきちんと理解した上で然るべき組織をつくったことが大きいと思っています。

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もう一つの要因は、やはり当社が保有するAIの優れたテクノロジーでしょう。当社のCEOであるチハン・ユーは、世界経済フォーラムが選出した「ヤング・グローバル・リーダー」の一人であり、米国のスタンフォード大学において自動運転車の開発に携わった一人としても知られています。またAI部門のトップを務めるシュアンティエン・リンも世界的に著名なAIの博士です。そして、彼らを慕って若い研究者たちが次々と当社に集まってくる。世界的に見ても、AI分野の博士をこれほど多く集めた会社というのはあまり存在しないのではないでしょうか。そして、このAI技術をデジタル広告分野に応用し、クロスデバイス・マーケティングやアプリのインストール促進における成果を出してきたというのが当社のこれまでの歩みとなります。加えて、シンガポールではアジア初となるプログラマティックTVもサービス提供をしておりますが、いずれにしても核心にあるのはAI技術。AppierはAI企業であるとご理解いただけたらうれしく思います。

― 貴社が保有するAI技術の強みは何ですか。

井料氏: 昨今、AIはバズワード化していて、多くの企業がAIを活用しているということをおっしゃいます。ただその実態としては、昔からある簡単なコンピューターの行動選択さえも、バズワードとしての「AI」と言い換えられているようにも思います。それこそ、ファミコンの時代から、ゲームにAIは使われていたとも言えますしね。

では、AppierのAIについてですが、まず前提として、チハン・ユー、シュアンティエン・リンをはじめとする優秀なAIの博士たちが揃っているということが挙げられます。先ごろ、フォーチュン誌が特集した「AI革命をリードする50社」に選ばれたのはほとんどがアメリカの企業だったのですが、アジアの企業としてAppierはここに選ばれました。

私たちの強みとしては、その優れたAI技術をデジタルマーケティングの分野に生かしてくことです。そしてAIを生かす上では、データが重要となります。実は、ほとんどの企業が十分すぎるデータをすでにお持ちです。ビッグデータと言えるレベルのものでなくても、Cookieデータや、アプリのIDFAなどあらゆるデータをAppierのAIは使いこなすことができます。たとえフォーマットがバラバラで整理できておらず、またそもそもデータをどのように活用すればよいか分からないという状態にあったとしても、AppierのAI技術を組み合わせていただければ、大きな成果を得ることができます。

AppierのAIの博士たちは、もともとは自動車やロボットにAIを活用する研究を続けていましたので、多少散らかったデータの状況であっても、集めたデータのディープラーニングを通じて、最終的にマーケティング改善の実運用まで落とし込むということが比較的容易にできるのです。

マーケティング作業の全工程をAIで自動化

― デジタルマーケティング分野における具体的なAI活用法についてお聞かせください。

井料氏: これまでのデジタルマーケティングでは、「20代男性」「ゴルフに興味を持っている」などのあらかじめ用意されたセグメントに対して広告配信をする、またはリターゲティング広告の速度と精度をいかに上げていくかが中心であったかと思います。そして、配信対象を決めていくのは、結局は人の判断に頼っていました。

また「プログラマティック」と呼ばれる仕組みであったとしても、配信方針は人が決めています。つまり様々なデータを集めることでユーザー像や広告の配信先に関するぼんやりとした傾向までは見て取れるものの、その傾向を具体的にあぶり出し、広告配信の自動化まで落とし込むことはできていませんでした。Appier はこれらの作業を、AIを活用することで自動化させ、運用リソースを劇的に削減するとともに、広告効果を大幅に改善することに成功しています。

もちろん、マーケティングの効果を最大化させていくうえで、キャンペーンの戦略設計の部分は、Appierでももちろん人が担っています。しかし、データの活用においては、むしろ機械に任せてしまったほうが、スピード、規模とも圧倒的に優れています。その活用をどれほど高度なレベルで実現するかが、AI企業としての腕の見せ所になります。余談ですが、「AIは人の仕事を奪うのか」という議論がありますが、私たちの経験からすると、機械に任せたほうが効率的な作業からは人的リソースは必要で無くなりますが、その分、人は本来行うべき、一歩引いた立場からのキャンペーンの戦略設計だったり、あるべきKPIを考えることであったり、戦略を考えるというところで、ますます活躍を求められていますね。

林氏: また、Appierの特長を最大活用していただくために、各企業様にはAIが作用するポイントに対しての条件を十分に整備していただくようお願いしています。例えば最上位の運用指標となるKPIを明確に設定していただいたり、AIが働く上で重要なデータのタッチポイントが収集できるように、例えばウェブに埋め込むタグを実装していただいたりといった具合です。もちろんタグの貼り付けはYTMやGTMといったタグマネージャーを使うことができますし、アプリプロモーションに関してはどのSDKとも自動連携が済んでいます。

AIを活かすには、データの「量×質×種類」が鍵に

― AppierのAI技術を使うに際して必要とされる作業やスキルは何でしょうか。

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林氏: 我々はDSPモデルで様々なメディア・ユーザーに広告配信をしていくので、簡単なところで申し上げると、クリエイティブのサイズやパターンを多数ご用意いただくことをお勧めしています。クリエイティブの種類が多ければ多いほど、様々な配信パターンを試すことができ、運用者の人力や過去のデータでは分からなかった有効なポイントもAIが発見することが出来るのです。そのため、広告主様がそれまで思いもつかなかったようなメディアやターゲットに新たなクリエイティブを使って有効にリーチできると考えています。また、従来のDSP配信ではリターゲティングタグを貼るという作業があると思うのですが、弊社では加えて「ユーザーがこのカテゴリーを見た」「買い物かごに入れた」「ログインした」などといったユーザー行動を取得するイベントトラッキングタグの埋め込みもお願いしており、データの量と質共に高めることを推奨させていただいております。

アプリプロモーションに関しても同様です。イントール数の情報のみをAppierに提供頂いた場合は、AIはインストール数の最大化のみに注力します。ただ、SDKを通じて課金情報や起動(継続)情報などをご提供頂ければ、インストール以降の重要指標となるROASや継続率(リテンションレート)も加味した最適化運用を行なうことが出来るので、パフォーマンスを最大限お返しする上で、ここでもデータの量と質、種類が重要だと考えています。

― 広告運用をAIに任せるメリットは何でしょうか。

井料氏: 先に述べさせていただいた広告運用の自動化を進めているという点に加えて、挙げるとすれば、Appierの技術は、新規見込み顧客の獲得に秀でていると考えています。タグやSDKから取得した情報をAIにどんどん学習させていくことで、じゃあ次にどういう人たちにどういうタイミングでどのように広告を打つとユーザーが動くかをAIが学習してくれるからです。例えばアプリであれば、どのユーザーはリテンションが良かった、ROASが良かったという情報を各SDKからイベントバックすることで、Appierはその情報を汲み取り、次はROASが良くてかつCPI単価を抑えながらどのユーザーを取りましょうという判断を下すことが出来ます。この結果、人間が当初想定していなかった新規ユーザー像が浮かび上がるということも多々あります。

林氏: 具体的な例を申し上げると、大手家具販売企業の大塚家具様が、AppierのCrossXプログラマティックプラットフォームを採用し、施策内のデバイス単体キャンペーンと比較してクロスデバイスキャンペーンのクリック率が55%高かったという事例があります。また、従来のキャンペーンでは主要顧客となる50~60代の方々にしか届かなかったけれども、Appierの配信手法を通じて新規顧客となる若年層にも効率的にリーチできたという実績を上げられています。

情報が多ければ多いほどAIは学ぶ

― クロスデバイスターゲティングにおいて同一ユーザーはどのように特定していますか。

井料氏: もちろん企業秘密の部分もありますが(笑)、基本的にはCookie、IDFA、ADIDといった端末ごとの識別情報と、データ系やメディア系の企業様とも色々と提携をさせてもらっていますので、それらの情報を用いてAIがディープラーニングをかけることで、ユーザーを匿名状態としたままで保有デバイスまで把握ができるデータベースを国ごとに構築しています。

― AIが機能するまでにどれほどの学習期間を必要とするのでしょうか。

井料氏: キャンペーンの内容にもよりますが、Appierで実績の多いアプリのインストールであれば、キャンペーンを開始して1週間も待たずに十分な効果となって表れることが多いです。ただCrossXプロモーションに関しては、ユーザーの動きもより複雑ですので、一旦タグを設置させていただいて、そこから準備期間として最低でも1カ月を見込むことを推奨させていただいています。

― AIによる運用実績はどのように把握しますか。

井料氏: コンバージョン数やクリック率といった簡単なパフォーマンス速報であれば、ウェブ上で常時見ていただけるものをご提供しています。CrossXのレポートに関しては月1回の頻度で定量的なデータと共にどのようにデータを読み取るべきかという定性的なご報告を合わせたレポートを納品させていただいています。このレポーティングにおいて我々はデバイス横断での態度変容を報告することができるのですが、これは従来ではなかなかできなかった部分だと考えています。

― AIの得意と不得意を端的に教えていただけますか。

井料氏: AIはユーザーの様々な行動ポイントを通じて学習していくので、複層的な構成を持つウェブサイトを通じたキャンペーンというのはすごく得意ですね。一方でランディング・ページが1枚しかないものであれば、AIが学習するポイントが限られてきますので、AI機能が最大化されません。「買い物かごを押す」「お気に入りに登録する」といった、ユーザーの動きが分かる要素が提供されれば、AIは本当によく学習しますよ。

ABOUT 長野 雅俊

長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長

ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。