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「時代は動画リワード広告」 アイモバイルが語る現在スマホ動画広告の展望 [インタビュー]

株式会社アイモバイルが運営するスマートフォンに特化した動画アドネットワーク「maio(マイオ)」。

ユーザーへ効果的に動画を配信できることはもちろん、クライアント側からしてもユーザーが動画を視聴完了した場合のみ課金が発生することで、効率的に広告予算を組むことが可能になる。

今回は、動画リワード広告の国内先駆者とも言えるmaioの取り組みや強み、今後の展望について、株式会社アイモバイル maio事業部 部長の堀口 正男氏、メディアグループマネージャーの早瀬 優希氏、アカウントグループマネージャーの岡本 俊介氏の3名にお話を伺った。

(聞き手: ExchangeWire Japan 野下 智之)

動画リワード広告で効率的に情報を発信

― 簡単に自己紹介をお願いします。

写真1

堀口氏(写真中央) 2010年に入社し、2年ほど広告主様向けの営業を行ないました。当時はガラケー全盛期、ちょうどスマートフォンの普及が始まったばかりのタイミングでしたね。2012年に一度当社を離れて、スマートフォンのアプリ開発やメディアの運営などを行なってまいりました。その後スマートフォン動画広告専門のアドネットワークに参画。アイモバイルで動画ネットワーク立ち上げの話があったタイミングでアイモバイルに戻り、maioの立ち上げをしました。

早瀬氏(写真左) 4年前にアイモバイルに入社し、クライアントサイドとメディアサイドの営業を経験後、maioの立ち上げに参加することになりました。現在はメディアサイドの責任者を務めております。

岡本氏(写真右) 5年前にアイモバイルに入社し、広告主様と広告代理店様向け営業を担当し、maioの立ち上げに参加することになりました。現在はアカウントサイドの責任者を務めております。

― maioの立ち上げはいつ頃から始まったのでしょうか。

堀口氏: 立ち上げ自体は一昨年の2015年になります。現在は、技術職やクリエイティブ職も含め、総勢13名で業務を行なっています。

― maioのサービス概要についてお聞かせください。

堀口氏: maioとは、スマートフォンのアプリのみを束ねた視聴完了課金型の動画アドネットワークです。メインのフォーマットは動画リワードといわれるものです。海外では一般的でしたが、ここ2年ほどで、日本でも一気に動画リワードが普及しました。動画リワードとは、ユーザーにインセンティブを与える代わりに、動画を見てもらうタイプの広告のことを言います。例えば、ゲームアプリでゲームオーバーになった際、「動画を視聴すればもう一度チャレンジできます」といったものです。

また、2016年11月に動画インタースティシャル広告の配信を開始し、動画リワード広告と2本立てで広告フォーマットを展開しております。インセンティブに値するものがないアプリもあるため、その場合は動画インタースティシャル広告を使ってもらっているといった形です。

ただ提案するのではなく、一緒に一から作り上げる

― 通常のアドネットワークビジネスをするのと、動画アドネットワークをするのとでは業務上何が変わってくるのでしょうか?また、どのようにビジネスを始められましたか?

堀口氏: 動画リワードはフォーマットの特性上、広告というよりはコンテンツの一部のような形で導入いただくので、これまでのバナー広告のように「バナーをここに貼りましょう」というわけにはいきません。ゲームアプリの場合、ゲームバランスに影響を与えてしまわないよう、注意が必要です。ユーザーに与えるインセンティブに応じて、動画一視聴あたりの単価バランスについても考えます。広告の提案というよりは、コンテンツ自体を一緒に作っていっているような感覚になります。

岡本氏: あとは、広告主様の動画に対する温度感の変化ですね。ここ数年で、広告主様の動画に対する想いがどんどん強くなってきているというのが、私がこれまで広告主を担当してきて感じたところです。

早瀬氏: メディア様から導入方法について提案を求められる機会が増えてきたように思います。これまで、アプリ内広告は決められた大きさの静止画をどの位置に配置するのかを考えるのが一般的でしたが、動画リワードはそのような制約がありません。そのため、営業の提案力が求められますね。具体的な事例や成功パターンを気にされるメディア様も多いです。動画アドネットワークの出現により、これまでと提案内容はガラリと変わったなという印象を受けます。

求められるのはこれまで以上のリサーチ力と提案力

― これまでよりさらに高度な提案力が求められるということですよね。

早瀬氏: そうですね。しかも、前例がないのです。最近でこそ、国産アプリでの成功事例も増えてきましたが、スタート当初はまだ国産アプリの事例がありませんでした。まずは情報取集してから提案するといった事の繰り返しを行っておりました。メディア様と動画リワードの導入方法について一緒に考えるところからスタートし、1つのコンテンツを作り上げるイメージで提案をしていました。そして、その成功体験をmaioの知見として蓄積していきました。

 

― 現在クライアントはどのような企業でしょうか?ゲームデベロッパー様が多いのでしょうか。

堀口氏: 多いのは多いのですが、ゲームアプリの案件は5割程です。あとはeコマース、不動産、人材などゲームアプリに限らず、幅広い業種のクライアント様にご活用いただいております。動画広告自体に興味はあるのですが、動画制作費をかけてまで動画広告に出稿し、効果が得られるのか、そこがネックとなって実施に至らないクライアント様が多かったので、それを解消すべく、無償で動画制作を請け負うサービスを開始しました。

無償で動画制作、裾野を広げたmaio

― 無償ですか。動画の制作費って結構かかりませんか?

堀口氏: はい。一応条件はありまして、「発注金額30万円以上」「2次利用不可」「1案件につき2本まで制作」という規定は設けています。無償で作ることで、動画広告の裾野を広げています。

― 映像は作り込むとキリがないというイメージがあるのですが、無償でできるボーダラインなどはどこかで設けていらっしゃるのでしょうか。

堀口氏: 特に設けてはおりませんが、撮影自体はmaioではできないので、動画素材や静止画素材を提供いただき、制作を行っております。ですが、イラストを描き起こしたりなどはしています。maioで動画制作をできるようになったことで、提案の幅も広がり、様々なクライアント様にご活用いただいています。

リワード動画を活かせる最たるものがアプリ

― ネットワーク面をアプリだけで束ねている理由をお聞かせください。

早瀬氏: maioで取り扱っているのが主に動画リワードだからというのが一番の理由です。その仕組みを入れられるのはアプリの方が圧倒的に多いです。

― 媒体としてのスマホアプリの収益化環境はどのような状況でしょうか。

早瀬氏: 広告マネタイズモデルのアプリは今すごく順調に伸びてきています。一時期、アイモバイルでも行なっていたアイコン型広告やウォール型広告がアップルの審査基準に引っかかってしまうという事態が起こりました。それはアプリの広告業界の中では大きな出来事だったのではないかと思います。アプリデベロッパーとしては売上に大きく関わっている部分が、突然なくなってしまうことにもなったため、その後はアプリが広告マネタイズに苦しむ時期もありました。ただ、動画リワードという新たな広告フォーマットが出現し、デベロッパー様も新しい広告を求めていたため、導入は一気に進みました。実際に動画リワードのCPM(収益性)は非常に高いです。そのため、1ダウンロード当たりのアプリの収益がどんどん上がってきています。早くから動画リワード広告を入れ、成功パターンを見つけているデベロッパー様ほど、順調に伸びているという印象があります。

― いま業界全体の平均で言うと、1ダウンロード当たりどれぐらいなのでしょうか。

早瀬氏: バナー広告などしかなかった時代は5~20円が平均でした。現在はアプリによっては40~70円程度までには上がってきていますね。高いアプリだと100円を超えています。

― 基本的に今ネットワークしているアプリはゲームが多いのですか。

早瀬氏: やはりゲームの方が多いですね。対象となるゲーム自体のクオリティは以前より上がり、アプリの継続率も上がっています。

― そうなると、ユーザー体験を損なわないようにすごくセンシティブになられますよね。導入時の提案の仕方も気を遣われることが多いですか。

早瀬氏: そうですね。今はゲームデベロッパー様も、動画リワードありきでゲームバランスを考えています。

― そのようなアプリも課金は入っているのでしょうか。

早瀬氏: 課金が入っているものとそうでないものがありますが、最近は課金があるものも増えてきています。

変貌する課金アプリのイメージ

― 以前は課金モデル中心のゲームは、広告モデルの採用に対して、積極的ではありませんでした。今はその考え方は変わりつつあるのでしょうか。

早瀬氏: そうですね。動画リワードは、ユーザビリティーを崩さずに収益性が高い広告を配信できるフォーマットです。デベロッパー様の温度感も確実に変わってきています。
海外では動画リワードの導入は一般的ですが、日本のアプリに関しても、大手ゲームデベロッパー様から動画リワードの導入が始まっています。

動画リワードの導入方法次第では、ゲームの課金率や課金額は下がらず、継続率が上がり、ゲーム全体の収益が上がるという実証結果もあります。今後、日本でも課金型ゲームにおいて、動画リワードを導入する動きが盛んになってくると思います。

ターニングポイントは2014年頃

― 動画活用はいつごろから本格化してきたのでしょうか

堀口氏: YouTubeのインストリーム広告が2011年~2012年頃。その後、スマートフォン向けアウトストリーム広告を提供する、国産の配信事業者が増えてきた印象があるのは2014年頃からです。この頃から、スマートフォン向けアウトストリーム広告に出稿する企業が増えてきたと感じています。

― ゲームアプリなどで使われ始めたのも同じような時期でしょうか。

堀口氏: ゲームアプリの場合も2014年頃から動画広告への出稿が増え始めましたが、本格化したのは、maioのような動画リワードが普及し始めてからだと思います。やはり、スマートフォン向け動画広告全体として2014~2015年頃から本格化しはじめたのではないかと思います。

― メディア側もその頃からというイメージでしょうか。

早瀬氏: メディア側はアイコン広告がなくなった2014~2015年あたりがターニングポイントですね。クロッシーロードという海外のアプリが動画リワードでかなりの売上を残しました。クロッシーロードは動画リワードだけで10億円ほどの売上があるという情報が世の中に出て、動画リワードが注目されるようになりました。また、アプリデベロッパー様もアイコン広告に代わる、新しい広告を探していたというタイミングの良さもありました。加えて、外資系企業が日本支社を立て、「日本でも動画リワードを流行らせよう」といった雰囲気があったのも功を奏じたのでしょう。maioとしてはその波にうまく乗ることが出来ました。

 

― 広告主の内訳としてはゲーム企業50%、その他ということなのですが、プロモーション目的は皆アプリのインストールなのでしょうか。

岡本氏: ゲームアプリ案件に関しては、インストールが目的で出稿いただいている事が多いですが、最近ではアプリユーザーの呼び戻しを目的としたリエンゲージメント配信のニーズも高まっております。ゲームアプリ案件以外に関しては、eコマースなどの案件も増えてきており、その場合は商品購入などを指標として出稿いただいております。また、アプリインストールや商品購入などの獲得指標の案件のみではなく、認知を目的とした案件もあり、TVCMと同時期に出稿いただいたりしております。

動画リワードと相性が良いのはやはりゲーム

― 動画広告と親和性の高いアプリについてお聞かせください。

早瀬氏: やはりゲームアプリとの相性は良いと思っています。インセンティブポイントを入れやすいですね。ゲーム内でのユーザーのストレスポイントや離脱ポイントに動画リワードを上手く組み込むことで、動画広告へのアクション率やユーザーの継続率が上がり、それがStoreのランキングに影響したりもします。バナー広告も貼っている場合は、その売上も上がりますので、アプリ全体のマネタイズに繋がるという、まさに正のスパイラルですね。

今後は外部企業とも提携し、ゲームプロモーションツールという枠を取り払う

― 事業を拡大する上での課題と今後の施策についてお聞かせください。

堀口氏: 広告主サイドでは、認知系、獲得系の二つの需要を取り込んでいきたいと思っております。
現状は、まだ獲得系の案件が多いです。認知系の案件をどのように取っていくかについては課題が残っております。獲得系の案件についても、広告主様に最大の効果をお返ししていく必要があります。これらにいかに取り組んでいくかということが、今後の課題であり目標です。

そのためには、外部企業との連携も考えています。外部企業との積極的な連携により、広告主様からの要望に対応していきたいです。動画リワードというとゲームアプリ向けプロモーション手法のイメージが強いと思うのですが、それ以外の広告主様にとってもお役に立つプロモーション手法であるという側面を積極的に打ち出していきたいと思っています。

一方、媒体サイドについては、広告主サイドと連動している部分があります。配信面として、非ゲームのアプリ面をどのように獲得していくか。また、アプリ面はアプリそのもののライフサイクルがWebと比べると短いため、ネットワーク規模を安定させるための対応が求められます。これらが今後の課題になると思っています。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長  

慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。

国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。

2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。