アドテクは死なない。息の長いアドテクについて
(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)
アドテクとその周辺技術は昨今多少の批判を受けている。デジタル広告業界にとっては、多くの解決すべき課題があり、容易な環境にはないのが現状である。
業界の特定の分野においては、人の不幸は蜜の味とでも呼べるような状況であり、その理由を探るのは難しくない。しかしながら、Adbrain社ファウンダー兼CEOのGareth Daviesは、ひどい状況ばかりが続くわけではなく、悪事を働いている人々は徐々に除かれていくだろうと述べてくれた。Davies氏はビジネスの結果が優先される世界においては、新たなアドテクやマーケティングテクノロジーが生まれてくると述べてくれた。
アドテクは容易な時期を過ごしてきました。5年前に針を戻すと、VC向けのピッチにおいて「プログラマティック」「リアルタイム広告」「マシーンラーニングアルゴリズム」などについて述べれば、資金が得られる可能性が非常に高い時代でした。現在では相場は弱気になり、アドテクの終焉を告げるようなヘッドラインが毎日急増しています。現在アドテクに関しての好意的な意見は少なくなっています。
2015年から2016年にかけて、VCからのファンドがスローダウンしたのは事実で、Fred Wilson氏などの意見を聞くと、2017年にこの状況が改善するようには感じません。
不安定なアービトラージによるビジネスモデル、期待に届かない成長やバリュエーション、広告詐欺やクリックベイト、偽集計などの問題に加えて、Facebook及びGoogleの独占状態などの数々の問題が存在します。しかし、マーケターのテクノロジーに対する期待は強まる一方で、適切かつ自動化された効率的なチャネルを通じて、消費者とエンゲージメントを得られることは、世界中のマーケティング部門にとってのトッププライオリティです。
実際に、マーケターが消費者とのエンゲージメントにこれほどテクノロジーとデータを欲することは今までありませんでした。企業が消費者を理解する為のソフトウェア市場に関して、アドテクまたはマーケティングテクノリジー及び関連ソリューションを合わせると1200億ドルもの市場になります。(PDF)
この数値には、これらの知的な顧客とのエンゲージメントを通じて得られる非常に大きな商取引の数字は含まれていません。
アドテクの世界において、FacebookとGoogleの2社がアービトラージのアドネットワーク競争において市場を独占している点は言うまでもありません。IABによる2016年のインターネット広告収入レポートによると、GoogleとFacebookの2社はアメリカのオンライン広告収入の64%に至る596億ドルを得ている一方で、他の企業は市場シェアを失っています。他の地域においても悲観的な展望です。プログラマティックの浸透により、CPMの価格が下がり続けることで、パブリッシャーは、デジタルから十分な収入を得るための工夫が必要となりました。この拡張性を求める競争の激化が、クリックバイトやスライドショー、スキップのできない水準以下のプリロール型の動画、その他の低品質なコンテンツや広告体験につながっています。広告主はインプレッションについて正統な質問をするようになります。実際はどのくらいの人からインプレッションを得ているのでしょうか?更に、これらの広告はスクリーン上にどの程度表示され、消費者に認知されているのでしょうか?
市場を独占している2社にしても、私たちはこれらについて理解していません。
どれくらいのソーシャルクリックやライクがボットから発生しているのでしょうか?Facebookに関しては、2年間もの間、動画の計測値において過大計測を行っていたことが明らかになり問題となりました。
Martin Sorrell氏はこの問題に関して「これはプレーヤーとレフリーが同じ人物では成り立たない、または自分で宿題の結果を自分では採点はできないことの一つの例だと言える」とコメントしています。Facebookもこの問題の大きさを認識し、完全な広告スタックの提供を行う代わりに、Facebookが収益向けの在庫管理が可能なブラックボックス化を好むようになりました。 Googleの品質スコアアルゴリズムは価格設定方法をベールに包んでおり、彼らのアドネットワークであるAdSenseはユーザエクスピリエンスの面では劣悪で、他のパブリッシャーの参入障壁は決して高くありません。どの環境も安全ではないのです。
一方で、Facebook及びGoogleの市場独占は、拡張性(とインプレッション)を重視する場合において特に脅威となる点について理解をすべきでしょう。幸運なことに、企業のプロモーション目的はインプレッションやクリックから、よりビジネス上の結果を重視するように変化しています。一方で多くの企業側の結果は計測しづらいものになってきています。例えば、どのようにデジタル広告を閲覧した消費者の店舗での売上の変化について計測するのでしょうか?
ウォールドガーデン化は、この分野においてマーケターに悪影響を与えています。マーケターや広告主は、自身のデータを活用し、消費者が所有する複数のデバイスを通じたカスタマージャーニーを把握するための術や、データを利用して全体のプロセスを把握する方法を求めています。市場を独占する2社はこの情報を獲得するために信頼することはできず、マーケターはファーストパーティデータを多く蓄積し、リッチで拡張性が高くすでに認証が行なわれているサードパーティのデータセットへのアクセスをすることで、優位性を高めています。
マーケティングテクノロジー、アドテクによる次のステップは、マーケットプレースではなく、マーケターや市場が必要とすることをサポートし、提供することです。現在のブラックボックス化されたアービトラージモデルは無くなるでしょう。透明性が高く、本質的で、責任の高いサービスが受け入れられ、それらを支えるのはテクノロジーであり、データです。私たちはそれを「アドテク」と呼ばないかもしれませんが、それは問題ではありません。アドテク企業にとっては、イノベーションや異なる意見、自社のスキルを活用し、勝利を収めることができるフィールドを見つけ、マーケターが実際のビジネスの結果をコントロールできるような統合的なエコシステムを確立することです。企業と消費者はこれらを好意的に受け入れ、そうなると恐らく私たちは2つの巨大企業が如何にアドテクをダメにしたかなどについて語ることはなくなるでしょう。孫氏が述べたように「戦いの達人は相手をコントロールし、相手にコントロールされない」のです。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。