街中の看板がPCやスマホ画面になる VISIONIAを手がけるMADS×サイバーエージェント対談 [インタビュー]
天候や各種SNSなどの外部データと連携した情報を配信するリアルタイム型デジタルサイネージ広告「VISIONIA(ビジョニア)」の提供を1月に始めた、マイクロデジタルサイネージ(MADS)とサイバーエージェント。旧来はほとんどがオフラインだったデジタルサイネージにおいて、ネットワーク化された大型スクリーンなどへの動画広告の配信が可能になった。デジタル広告および動画広告市場への追い風になることが期待されているVISIONIAを手がける両社の担当者、MADS代表取締役CEOの穴原誠一郎氏と、サイバーエージェントのクリエイティブ局局長兼エグゼクティブクリエイティブディレクターの安藤達也氏との対談から、プロダクトの詳細やデジタルサイネージの未来について探った。
(聞き手:ExchangeWire Japan 長野雅俊)
デジタルサイネージは5000億円市場
穴原氏: VISIONIAを立ち上げてから現在に至るまで、ありがたいことにお問い合わせをたくさんいただいています。サイネージは5000億円規模の市場ですから、せっかく動画が使えるのであればワンクリエイティブではなくロケーションに合わせた内容で訴求できる方が当然響きますから、興味を示してくれているのだなという印象です。
安藤氏: VISIONIAで具体的にどういうクリエイティブを作るといいのか、ということを考えるのが我々の役割です。デジタルサイネージは巨大なバナーのようなものだと思うところがあって、これまでの知見が活きる分野なので、提案しがいがあります。
穴原氏: MADSはサイバーエージェントのグループ会社ですが、僕がMADSを立ち上げる前にサイバーエージェントで働いていたころのつながりからVISIONIAの話が持ち上がりました。僕たちはもともとインターネットから入っているので、サイネージをインターネット化したいという思いがあった。サイネージのディスプレイは、PCやスマートフォンのディスプレイと同じ。クリックはできないけれども、インターネットのアウトプット先にしようと。
一方で広告の種類が、ダイレクト・レスポンス系のインターネット広告と認知を主目的とする屋外広告とで切り分けられてしまっている傾向があり、そのつなぎこみは僕らではできません。ですから、動画広告を中心とした認知広告領域のソリューションに最近注力しているサイバーエージェントとなら、お互いの持つノウハウを掛け合わせることができるのではないか、と考えました。
安藤氏: テレビもサイネージも、ゆくゆくは新聞や雑誌もそうかもしれないですが、最終的にはインターネット化されるという考え方が根本にあります。アナログなものをデジタル化するというのは、インターネット広告の出し先が増えるという意味でも大きなチャンスなので、そういう取り組みをご一緒できて嬉しいです。
動画広告やリッチアドが普及したことで、インターネットで認知を高めることへの期待が高まっていますから、そのノウハウを活かせる先としてのデジタルサイネージに可能性を感じますし、本格的にやるというタイミングも抜群にいいかなと思います。
「その場だから価値が出る」広告を作る
穴原氏: 人々が普段行動している先で接する情報ってすごく価値があるし、まだまだイノベーションできる可能性があると思う。VISIONIAは今回、渋谷と大阪の戎橋に設置された大型ディスプレイで出しますが、今後はもっとたくさん展開していくので、ただのポスターじゃなくて、その場だから価値が出るような広告になったらいいなと。
安藤氏: そうですね。伝統的なメディアをイノベーションするには、しっかりとしたコンセプトが重要ですね。既存メディアの方向性から考える視点だけで作ってしまうと、どうしてもネットの利点を活かしきれないものになってしまう。見た目だけデジタルっぽいような中途半端なイノベーションなら、いっそやらない方がいいですから。今回のVISIONIAのように、本気でデジタル化を考えている企業と、我々みたいなデジタルの価値を広めたいと願う会社とのマッチングは、それだけで奇跡的な出会いですよね。
穴原氏: そうですよね。もっと早くやれただろうにと思うこともありますが。
安藤氏: タイミングは良かったと思いますよ。世の中がいよいよデジタル化しようとしてきている空気を感じますし。
穴原氏: 確かに。僕たちはサービスインして約3年ですが、この半年から1年くらいで急激な変化を感じています。まずネット系の代理店さんからの発注が増えましたよね。
「デジタルサイネージ」を本当の「デジタル」に
穴原氏: デジタルサイネージを語る上で、ネットワーク化されているというのは大前提です。本来的な意味では、オフラインでは「デジタル」じゃないですよね。
安藤氏: 数年前にデジタルサイネージが色んな場所に設置されましたが、当時は言葉だけが先走っていて、ネットワーク化されていないデジタルサイネージだらけでしたね。ネットワーク経由で配信するんだと思って、サイネージ広告を開始したという会社に電話したら、「納品データをUSBで挿して配信します」って言うんです。「え、全然デジタルじゃないじゃん!」って(笑)。
穴原氏:(笑)。まだ多少残っていますが、ここ何年かでディスプレイも価格が下がりスペックが上がったので、基本的にオンラインになる環境になったんです。別途PCが必要なことはありますけれど、いずれにしてもすべてが必ずオンラインになっていきますよ。だって面倒くさいじゃないですか、現場に赴いて操作しないといけないって。だとしたら我々の領域です。そこで重要なのはクリエイティブの提案。どこのデータと連動させたクリエイティブにするかなどは我々ではできないので、そこはサイバーエージェントに知恵を借りたい。
安藤氏: どんなフォーマットにすれば広告効果が最大限高められるか、と言うのは大切ですね。VISIONIAは天気や気温などのデータと連携できるので、それらを効果的に活用した新しいクリエイティブのフォーマットをどんどん開発したいと思っています。この部分は、データ連携したバナー広告の実績や知見が活かせる部分ですね。
デジタルの価値は、ユーザーの動線に入り込むこと
安藤氏: デジタルサイネージをネットワーク化すれば、ユーザーのいる場所や、その気分、気持ちごとに広告を最適化することができます。つまり、雨の日の気分、寒い日の気分に合わせた広告を、それぞれのエリアで出し分けるなどの方法です。
天気や時間などの情報は単純にユーザーの目にも止まりやすいと言うのも魅力です。「いま何時だろう」「午後の天気はどうかな」とか、ごく普通の関心がある情報とともに企業様の伝えたいメッセージをそっと届けると言うのは、スムーズな導線でユーザーにアプローチできる方法です。
もっと進化すれば、そのときのそのエリアの人たちの感情の指数とか、その場所にいる人の属性に対して広告を出し分けると言う世界観になるかもしれません。
穴原氏: 例えばユーザー参加型のコンテンツにするという手もあります。渋谷近辺でイベントがあるときに、実況中継に加えてハッシュタグをつけてビジョンに反映させることができれば、自分が書いたものや撮った写真があがるのではと注目度が上がりますよね。すごく面白いと思う。
安藤氏: 遊んでもらう感じですよね。天候や気温でいえばアパレルや飲料、食品を扱う企業が広告主として考えられます。渋谷は若者の街なので、ゲームやエンタメの広告も考えられますね。
穴原氏: それこそAbemaTVで、放映中に30秒や1分間のコンテンツを切り出して、VISIONIA上に配信するとか。
安藤氏: まさに。番組紹介で、「放送開始までまであと何分!」とカウントダウンしていくとかもあり得ますね。
穴原氏: いいですね、ショート・ティザーだ。
安藤氏: リアルタイム化は大事ですよね。そのときに一番良い、必要な情報をユーザーに届けてあげられるようになれば、媒体の価値も上がります。広告効果ももっとスピーディーにフィードバックできると、より最適な表現を追求するための運用ができるようになります。
企業がインターネットに本気になった
穴原氏: ここ1年くらいは、デジタルサイネージってバズワード。今後は滞在時間が長いスペース、例えば待合室や美容室、ネイルサロンや病院など、手持ち無沙汰になってしまいがちな場所に、どんどんオンラインのディスプレイが入っていくと思います。その場合は、広告を入れたいからというよりは、店舗としての顧客満足度アップが目的となるでしょうね。来訪者をひまにさせずに、自分たちの訴求もする、あらゆるところでそういう動きになりつつあります。それはひとえに、機器の導入コストの下落が根底にある。
その次は実際の流通の現場でしょうね。ドラッグストアやスーパーで、一般消費財などはよほどのこだわりのある人でなければどれを買うかはあまり気にしないものです。その背中を押してあげるような使われ方が入っていくのでは。最近はSNSなどでもハウツー動画がすごく増えていますが、単なる商品の訴求ではなく「この調味料を使ってこういう料理を作りますよ」という提案ですよね。実際の購買の直前に「どうしようかな」というときに、気づきを与えるようなものがどんどん増えていくと思います。店舗を訪問すると、そういう「顧客に対する満足度を高めたい」という想いをよく聞くんです。我々はそこに広告機会があると思っています。
安藤氏: あらゆる接点がインターネット化されていくと、ネット広告のノウハウを生かすことができますね。自然と見たくなるようなコンテンツ広告の発想なども、そういう接点で活かせる考え方だと思います。
また、動画広告が伸びたことで、私たちのお客様の幅もすごく広がってきました。これまでネットに関心のなかったお客様もどんどんネットを活用しはじめていますね。
穴原氏: 僕らがデジタルサイネージで扱う素材の99%は動画です。なので、動画市場が盛り上がってきているのは追い風です。動画の数がこれだけ増えているので、その素材を使いたいという発想が企業には確実にあるので、その配信先を探すのは必然の流れです。
安藤氏: そうですね。
穴原氏: テレビ視聴率の低迷や訪日外国人の増加など、既存の屋内メディアだけでは対応しきれないユーザーが増えてきています。
安藤氏: 未来ではデジタルサイネージがモビリティー社会にも貢献できるようになるかもしれないですね。ボード自体は真っ白なんですけど、車の中のフロントガラス越しにボードを見るとそこにカーナビの道案内が表示されているとか、ドライバーごとに最適化された広告・コンテンツが表示されるとか。ホロレンズとかでもいいのか?まだ適当な話ですけど、そんなことができたら、すごく面白いですね。
穴原氏: 未来ですね。面白い!根底にあるのは、すべてのサイネージがインターネット化するという考え。僕たちのシステムは完全にそれ向けに作られているので、コンテンツも用意しているし、顧客のコンテンツも流せるし、うちより利便性が高くてコストが安いところはない。そこがあるから、この仕組みが成り立つんです。
安藤氏: ワクワクしますね!
ABOUT 長野 雅俊
ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。