「動画クリエイティブ制作の世界に変革を」 CyberBullが挑む2017年 [インタビュー]
サイバーエージェントグループ動画広告ビジネス横断組織キーパーソンへの取材第3弾は、クリエイティブでブランド広告主需要の獲得に挑戦する、CyberBullの代表取締役社長であり、サイバーエージェント本体のCA18メンバー執行役員にも抜擢されている中田 大樹氏。グループ全体の動画広告ビジネスに対する取り組みの中において、CyberBullがクリエイティブの切り口で仕掛ける戦略についてお話をうかがった。
(聞き手:ExchangeWire Japan 野下 智之)
― CyberBullの事業の特徴と、現状で取り組まれていることを聞かせてください。
いち早くスピーディーに、質の高い動画クリテイティブを届ける制作力を強みに展開しています。
設立して2年弱ですが、ダイレクトマーケティングと呼ばれるデジタルの手法における動画の活用に特化してきました。想定のお客様は、EC企業など。ウェブ上に店舗があり、デジタルの広告を出稿してそこを通して直接的に売り上げをあげるなどの効果を求めていくのがダイレクトマーケティングですが、彼らがずっと使ってきたマーケティングのクリテイティブのフォーマットはバナーでした。でも僕は動画広告が出てきたとき、静止画やバナーよりも動画のほうが広告効果をより高められるのではとずっと感じていたのです。
デジタルでダイレクトマーケティングの動画を活用したい場合、課題は1つ。動画のクリエイティブの制作には時間やコストがかかることです。低価格で提供できる仕組みやサービスがあれば、ダイレクトマーケティングへの置き換えは可能なので、コストを下げるためにクリエイティブを内製化しました。オフィスの中にスタジオを作り、カメラマンや編集担当も全部内部で行って、一日の中で何十本ものクリエイティブを納品できるようなサービスを作りました。
今後の焦点は、マスマーケティングのお客様がデジタルシフトするなかでいかに動画マーケティングを使っていただくか。僕は「クリエイティブの運用力」と言っているのですが、動画のクリエイティブの運用力で広告効果を出していきたい。
― サイバーエージェント本体でも動画広告ビジネスの組織があり、機能重複しているのではないでしょうか?
新しいマーケットに対してのサイバーエージェントの戦略は、全張り。いろんな事業を作って、マーケットを一気に取りに行くという前提があります。CyberBullが設立された2015年は、動画広告が伸びると分かってはいてもまだ新興市場で、どんなマーケットが確立していくのかの予想を皆明確には持っていませんでした。
Wi-Fi環境の整備やスマートフォンの浸透など、環境はできあがりつつあるが、ルールや規模感が不明瞭でした。スマホ広告の市場ができたときもそうでしたが、サイバーエージェント本体は大きな組織なので、事業をたくさん作ってさまざまな戦略や思想を持ってマーケットに全張りをします。その流れで、CyberBullもできました。
本体はもちろんその当時からナンバーワンの強い代理店なのですが、そこではできないようなスピード感や機動力、かつ新しい思想を持って、マーケットに対し張っていくために立ち上げたのです。社内で競合も、協調することもあります。
動画オリジナルのクリエイティブへのカスタマイズを浸透させたい
― 従来はブランディング効果はCPAなどで判断されていましたが、クリエイティブなど違う視点でみて競争力を高めるということでしょうか。
そうです。今のC向けのマスマーケティングがデジタルでするとき、テレビCMをそのまま流用してしまうことがあります。でもそれって、普通に考えるとおかしい。雑誌なら雑誌用、ラジオならラジオ用と、媒体によってクリエイティブをカスタマイズするのは当然のはずなのにデジタルだけが違うので、まずはそこを是正したい。
CMというクリエイティブはマーケティングを行う上での資産や大切な“作品”のようになってしまっていて、デジタルへのカスタマイズがちゃんと行われてきませんでしたが、デジタルオリジナルなクリエイティブをやるべきです。その文化を作りたいと考えています。
そのうえで、デジタルは運用や継承できるのがひとつの特徴だと思います。いわゆるクリエイティブの運用だと思うのですけど、しっかりした質の高いものを複数本作って、運用と検証をして広告をあげていく時代にしたい。動画広告の革命を、僕らが起こしたいと思っています。
― CMをデジタルにする場合、どのようにクリエイティブを変えていくのでしょう。
商材や媒体によって変えるべきなので、これが正解というものはないと思っています。切り口やコンテンツのトーンなど何が正解かわからないから、複数作って運用、検証するべきなのでは。
お客様への提案時にも、何秒で音はアリナシなどと決めうちすることはなくて、「Facebookならそれ用にカスタマイズしたクリエイティブを使いましょう」となりますし、まずはウェブ独自の動画クリエイティブを作って検証してみましょうと話すことが多いです。
― サイバーエージェントは、ダイレクトレスポンスのクライアントとの結びつきが非常に強いというイメージです。ランディングのお客さんは基本的にテレビ広告を出していて素材をすでに持っていますが、どう対応を?
これまで動画を相手にしていなかったお客様に向けてのアプローチには、商流問題の壁はありますね。ただ先進的なお客様もいるので、そこで実績を出す。「なぜそれをやるのですか」と聞かれたら、「運用、検証した方が、広告効果が出るから」というシンプルな答えしかないのですが、それを誰もしていないから実証しているのが現在です。いま資生堂とウェブのオリジナルクリエイティブの作成、検証のトライアルを行っているのですが、マーケティングの先端に敏感なお客様へ響かせるには、そういう「事例」を積むことだと。事例に影響される業界ですから。
― 動画広告市場のマーケット全体に対して、どうご覧になっていますか?
メディアサイドと顧客サイドの、2つの観点でとらえています。
動画元年といわれて2年くらい経ちますが、実は新しい動画メディアはほぼ生まれてきていません。だから広告の出し先が増えないし、足りない。YouTubeは2005年くらいからあるので、育っていますが新しいメディアではないのです。既存のYahoo!JAPANやFacebook、LINEなどはもともと広告商品をちゃんと持っていて、広告枠として動画商品を増やしているだけ。これはマーケティングをやっている私たちからしても大きな課題で、変わっていかないとだめだという危機感はあります。その点で私たちサイバーが運営しているAbemaTVのすごく意味があると思います。ああいうものがもっと確立してくれば、お客様の引き出しがより増えますから。
お客様観点では、デジタルをやる際にはクリエイティブを変えるという視点がやはり足りない。時代が変わっていくスピード感やデジタルのマーケティングへシフトしてくるスピードと比べると意識の切り替えが遅い点が、正直あると思います。
― 課題の解決の苦労は?
適正なクリエイティブを媒体ごとに用意すれば広告効果はより出るだろうなど、青写真はしっかりしているのですが、そこにもっていくまでのやらなければならないプロセスやハードルがかなりあるので苦労はしています。しがらみもあります。CyberZのアドテクノロジー事業「F.O.X」のように、広告計測上で革命的なツールが一発あればお客様が満足してマーケットが一気に変わる、というものではない。変わっていくために必要な要素の変数が多いので。
ブランディングや広告価値の可視化は、ご存知のように難しいものです。CPAではなくて認知率といわれても、誰が測ったんですかという話から始まりますし、指標がすごくあいまいなのです。技術上計測できない部分もあって、例えばコンビニに卸しているメーカーが動画打ったとしてどれだけ売り上げに繋がったかの可視化はできない。ではウェブのKPIをどこに置くかといっても、マーケット上にそのルールがないので、どうしても不明瞭になってしまう。そこはハードルですよね。
― 動画広告の予算はテレビ広告からのシフトがあると思うのですが、テレビ広告を比べてどうという話にもなりますよね?
そこも商材や業界によると思います。10代をターゲットにした商品を展開している企業なら、テレビを見ない世代なのでAbemaTVの方がいい。でも洗剤などの日用品や消費財だったらそうもいかない。CMのほうがリーチ力や媒体力は強いので無視できませんから、どうミックスさせるかになるでしょうね。そこはお客様によって、それぞれカスタマイズしないといけない。必ずしも全体をシフトさせる必要性を感じていません。デジタルをどうミックスさせたら、どうシフトさせたらいいのか。それはお客様のマーケティングのフェーズなどによっても変わります。
マーケティング指標は企業ごとにカスタマイズ
― 業界ではデジタルをGRPで測る、またはGRPを広告のKPIで測るなど共通指標化する取り組みが行われていますが、どうみていますか?
共通指標へのトライは、実は僕たちもやっています。GRP指標がお客様にとってわかりやすいのであれば、歩み寄るような形でウェブのKPIをたてるという思考です。相手によってその方がマーケティングがよりスムーズになる場合とそうじゃない時とばらばらなので、共通KPIを作るというのは僕らの宿題でもあると考えています。まだ個別で仮説を立ててトライしているフェーズですが、ダイレクトみたいにわかりやすくない場合がほとんどなので。
例えばキャッシング業界なら、ブランドイメージが向上したか、がマスマーケティングのKPI。利用したい時に指名検索で指名されるかどうかだけが重要で、指名検索数がどれだけあがったかが目安です。しかしお菓子メーカーなら、コンビニエンスストアや量販店での売り上げが大切で動画をウェブで打って売り上げとの相関性を見る、が正しいかもしれない。
お客様の展開していくビジネスによって指標は絶対変わっていくべきなので、結局は企業ごとにカスタマイズされた指標を出てくると考えています。
― 2017年の動画広告業界に、2016年と違う動きを起こすとしたら、どのようなことでしょうか?
ひとつは、ウェブオリジナルでクリエイティブを最適化するという文化を浸透させたいですね。その時に私たちは、映像として質の高い、コンテンツ力があるものを適正価格で届けたい。映像の制作はとても高額なのです。CMに関してもそうです。でも僕らデジタルの人間からすると、制作上のコストやマージンなど無駄が多いと感じます。内製化と、ひとがやらなくてもいい作業をシステム化することで、同じクオリティーのものを3~4分の1の価格で提供できます。
例えば、膨大な撮影データの管理ですが、僕たちが持っている動画オートメーションツール「Video-Suite」の画像認識機能を使えば、撮影データを自動的にシーン別に整理できるので、人手でやらなくてもいい。いろんなロケ地からリアルタイムにオフィスにデータ送って、シーンセレクトも自動で済むようなシステムを組んでオートメーション化しています。撮影データを編集用に変換するための入力は3~4時間とられる作業ですが、それもシステムで自動変換されます。
マスと同じような制作単価でのデジタルシフトは絶対にしないので適性価格、―あまり言いたくはないがいかに低価格―で質の高い映像を提供できるかがとても重要なので、内製化とシステムで実現させていきたいですね。
もうひとつは、クリエイティブの広告効果をきちんと可視化したい。例えばAという動画で認知率が上がった場合、Aの中のどの要素が寄与したのかという分析はまったくのブラックボックスです。技術上計測できないからなのですが、クリエイティブをちゃんと科学して分析できるように、取り組まないといけないと思っています。出演タレントが効いたのか、音楽が効いたのか、動画はクリエイティブの構成要素が多いですからね。
オートメーション化しているので撮影データはサーバーにあがっているため、まずそこと広告効果とのレスポンスをつなげたい。そのうえで必要なのは、要素分解。画像や動画の認識機能、マシンラーニングみたいなものを使って、1秒の素材の中でタレントの要素が何%で何色が何%、などと分解して、データでためています。その3つの組み合わせで、広告効果の高かったものがどの要素が多かったのか、可視化するためのツールを開発しています。
また、ウェブオリジナルで適正価格ないいものを届けるためのサービスをプロダクト化しました。動画広告ソリューションの「Q-JACK」は、マスマーケティングをやってきたお客様がデジタルシフトして作成したオリジナルの複数本のクリエイティブを検証するためのプロダクトで、ブランド広告やCM、クリエイティブ向けです。CMと同じようなクオリティーの動画を3本以上作成することもできますし、撮影から約1日で完成することも可能です。
― 挑戦的なサービスですね。
はい、ただ既存の映像の在り方とデジタルの映像製作の在り方はまったく別物と捉えているので、既存の映像製作の文化を壊すのではなく、まったく新しいものを作っている感覚です。
時代が変わるようなタイミングって、何十年に一回しかないと思うのですが、まさに今、その変化がくるかもしれないという時期に僕らは携わっている。すごくエキサティングですよね!
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。