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「指標」で語り、「運用」と「クリエイティブ」で武装-エキスパートが語るサイバーエージェント動画広告提案の今 [インタビュー]

変化の激しい動画広告市場で市場を切り開くサイバーエージェント。

同社でオンラインビデオの研究に取り組みグループ全体の知見の集約化に取り組んでいるオンラインビデオ総研所長 酒井英典氏に、研究の内容とそのビジネスへの応用化に関する取り組みについてお話をうかがった。

(聞き手:ExchangeWire Japan 野下 智之)

動画市場全体の健全な成長をけん引

― 酒井さんの所属されている部署の紹介をお願いします。

写真:酒井英典氏

私は今、サイバーエージェントのインターネット広告事業部門のオンラインビデオ総研に所属をしています。私のミッションは、「動画広告市場をいかに伸ばすか」です。

最近の動画広告には、インストリーム広告、インフィード広告、インバナー広告があり、PCとスマホがあります。基本的にはスマホがぐんと伸びていて、あとインストリーム広告とインリード広告が中心になって伸びているという構造になっています。
2016年度は、インフィード系動画の急成長に合わせて動画売上を一気に伸ばすことができました。個人的な野望でもありますが、今年はインストリーム広告を大きく伸ばしたいと考えています。

― 動画広告ビジネスの横断組織で、オンラインビデオ総研の機能はどのような位置付になりますか?

動画広告市場の「健全な成長をけん引するための研究活動をする機関」という位置付けです。

なお、主にインストリーム動画の広告プロダクトに向き合い、日々の運用を支えているのは、当社インターネット広告事業本部のオンラインビデオ・ソリューション局を中心とした組織です。

その膨大な配信データを元に新たな商品開発や、研究をオンラインビデオ総研で行っています。例えば、クリエイティブのデータベース化に取り組んでいます。これは「VS(バーサス)」という当社独自のソリューションですが、この取り組みにより、動画広告全体の発展にも寄与すると考えています。動画広告のクリエイティブがもっと広告として作用するように、より効果改善できる研究を心がけていきたいと考えています。

また、直近ではスマートフォン向け動画広告の在庫がどんどん伸びてきており、スマートフォン向けに配信することの必要性・有用性についても継続的に情報発信していきたいと考えています。

その他、動画広告の市場調査は継続していきますし、野望的な話をすると「新しいマーケティング用語」も定義できればと考えています。
また、動画広告の理解を促し広告出稿を啓蒙するセミナーや、継続的な執筆活動を行っています。

認知・宣伝予算を活用して動画広告を「運用」配信する

― 貴社の動画広告ビジネスにおけるインストリーム広告需要の現状についてお聞かせください。

当社の取り扱いではこれまでダイレクトレスポンス系の需要が伸びていましたが、最近はいわゆる認知・宣伝系(ブランド系)の広告配信需要が明らかに増えています。
ダイレクトレスポンス系では、やはりスマホゲーム案件での動画広告配信が多いのですが、需要の増加率は一段落している感があります。

今後需要が伸び続けると考えられる認知・宣伝系配信の研究に取り組んでいこうと考えております。

認知・宣伝系予算を、広告主が大きく投下すべきと思えるよう「広告評価の整備」「効果の見える化」「運用手法の改善」を続けていきたいと思います。
クライアントに広告効果でお返しできることが、理想的な配信の姿と思いますので。

― どのようなプランを計画しているのでしょうか?

まずは、しっかりと運用効果をお客様にお返しできるようにすることです。また、継続して改善が積み重ねられている状況を作ることです。
認知系広告の効果は図りにくいですが、調査機関との連携により、動画が当たったユーザーと、当たっていないユーザーとで、どれくらい広告認知度のリフトがあるのか、検証できるようにしました。広告別やターゲット別での効果比較や、平均値の蓄積など調査結果を積み上げています。

途中経過として既に、「この広告よりあちらの広告の方が効果がよかったね」という話は確実にできるようになっています。また、「この予算規模ならお得な設定はこちらです」、「初速の効果改善のための設計はこうです」、「無駄が少ないやり方です」、といったような話はできるようになってきています。そこで他社よりもしっかりと「効果でお返しできる運用」の仕組みを構築して、成果を積み上げていければと思っています。

ネット広告会社がテレビCMの効果を検証する時代へ

― 貴社のブランド系クライアントとのお付き合いの仕方はどのようなイメージでしょうか。

インターネット上の広告配信のエキスパートとして、動画広告の配信をお任せいただくことが基本的なお付き合いの形です。
現状は配信メディア内での「個別最適」に目線が行っているように思います。効果改善は大切ですが、全体的なバランスを見ることも大事だと思います。

テレビCMの効果に関しては、我々も認めていて、めったなことでは「止めた方が良い」とは言いません。メガリーチ媒体として、CMには他メディアに代えがたい圧倒的パワーがあります。ただ、投下量・コストに対する効果についてはしっかり研究すべきと考えています。

「フリークエンシーが過多」「ターゲット以外の層に当たりすぎ」、「無駄打ちが多い」といった議論は、テレビCMの取り扱いがない私たちでも、むしろ私たちだからこそ話すことが出来るような気もしています。

テレビCMの金額についてファーストで設計することはまず無いですが、クライアントからは、セカンドオピニオン的に「現状をどう考えるか」と意見を求められることはあります。

― インストリーム広告について。現状はYouTubeに集約されていますが、貴社のAbemaTVをはじめとした媒体の多様化について、お考えをお聞かせください。

サイバーエージェントグループ全体として、AbemaTVを育てていくのは最重要課題です。ただ直近でAbemaTVはまだ発展途上でもありますし、広告代理店ビジネスをする立場としては、インストリーム広告は現状、YouTubeが主要メディアと捉えています。

― メディア媒体を選択するときや予算配分のプランニングをする際にインストリーム広告やアウトストリーム広告など、フォーマットをどのような観点で見ていますか?

認知・宣伝目的においては、一般的にはインストリーム広告が先、次いでインフィード面というイメージになっています。フォーマットの多様性については、ケースバイケースですが「インフィード広告ぐらいまではいくけれどインバナー広告はまだ」とか、「インストリーム広告とインフィード広告の両方を使い、残りはトライアルとしてインバナーに挑戦」というケースが多いようです。

― プランニングをするに当たり、インストリーム広告とインフィード広告の一番の違いはどこになりますか?

単純な話ですが、インフィード広告は「音が出ない」というのは大きいですよね。
それとフィード面に流れてくるフォーマットのため、1動画あたりの表示時間が少ないというのが大きいです。
音が出る出ないでは、1インプレッションあたりのブランドリフト率も全く違います。配信金額に対する広告効果もまた違ってきます。このあたりのテーマはまだしっかり深掘りしきれてないのが課題です。

データ武装でクリエイティブも戦力化

当社では、2014年11月以降、動画広告のキャンペーンで実施したクリエイティブとそのブランドリフト効果実績を蓄積しており、今では1,000件を越える実績データが集まっています。
これがまだ数百件だった時期に、これを武器とできないか、チームで議論していました。また、数値だけの分析に留めず、配信した動画素材自体も、研究員がいったん全て目を通して分析の方向性を考えました。
動画に目を通した分析チームの方で、動画の“構成要素”を定義し、目視で一つ一つの動画に要素タグをつけていきました。
要素タグをすべて分析可能なデータベースに打ち込み、ある程度いったところできちんと分析しようとルール化して溜めていきました。もともとは普通に相関分析して「このタグがいいよね」とかそういう話をしようと想定していました。

その後、アドテクノロジー分野におけるサービスの開発を行う当社のアドテクスタジオにおいて、人口知能を活用した研究組織「AI Lab」が設立されたこともあり、より精緻なアプローチで実績データを分析できるようになりました。そして開発されたプロダクトが、冒頭で申し上げた「VS(バーサス)」です。ブランドリフト調査の実績データは日々新しいデータが蓄積され続けています。このプロダクトは進化を続けています。

例えば、動画広告の冒頭3秒は、人物のアップがいいのかどうか。あるいは動画の末尾の音声は男性・女性どちらが良いかなど、ブランドリフトに寄与できる要素や悪影響のある要素を研究しています。

ただし、クリエイティブの「ゴールデンパス」を見出すのはちょっと難しいかなと思っています。そんなものを定義してしまったら、全ての動画広告が同じようなクリエイティブになってしまいます。我々が定義するのは、クリエイティブを作るときに、“やってはいけないこと”の定義や “最低限守るべきルール”を作ることだと考えています。

動画広告に本当に精通している動画クリエイターは、日本にはまだほとんどいません。最低限のルールを定義するだけでも、クリエイターが安心して「表現」に集中できると考えています。

今のところこのような「変態的な深さ」で分析に取り組んでいるのは当社くらいではないかと。クリエイティブに関するデータ武装は、競合優位性を狙いつつも、クリエイターの活躍しやすい市場を育てることになると思っています。動画クリエイティブ市場全体の底上げになれば幸いです。

現状は、クリエイティブに点数つけて、良い点、課題点をレポーティングをしています。効果改善のクリエイティブ案はこういうのなので作ってみませんか、といった話をしている感じですね。

動画広告で認知・宣伝効果を出すために配信アルゴリズムに沿った運用を重視

― 動画のインフィード広告の運用とインストリーム広告の運用とは、別のものと理解した方がいいということでしょうか?

インストリーム広告もインフィード広告も、運用で大きくバリューを出すために、複数のクリエイティブを作ってどれが一番いいか判断をして良かったものは残し、次の仮説のクリエイティブを用意してもう一回勝負してという「PDCA=運用」を続ける行動は一緒です。

しかし、PDCAの“C”の部分、すなわち検証できる数や時間軸は異なります。
ブランディング系の動画素材は、それほど多くのクリエイティブパターン作れない(ことが多い)ですし、作っても効果検証がしづらいので、現実的には数個のサンプルが限界です。
しかし、レスポンス系でCPAを見るものは、素材を何十個か作り、どれが一番いいか見ていくことが多い。
CPAで効果を見る場合、一つの動画素材に対して、数万円~十数万円ぐらいの予算でも効果検証はできます。でも、ブランドリフト等の「認知度」で評価する場合、少なくとも一つの動画素材で百万円前後の予算が必要です。そうすると自然と投下できるクリエイティブの最大パターン量が決まってくる構造です。

― 少ないサンプル数で「最適な構造」を定義するのは、ちょっと不安ですね

広告配信と運用のPDCAにける“C”に関しては、当社が提供する、動画広告におけるターゲットリーチの最大化を図る「スゴミル」というアルゴリズム解析サービスを活用します。配信の構造に関する研究成果をパッケージ化したものです。
弊社の管理する全配信結果を積み重ねることにより、どのぐらいの周期で動画素材を差し替えるべきか、動画素材の数をどうすべきか、予算に対する入札戦略はどうすべきかなどの最適解を導く研究の成果です。

媒体別の入札アルゴリズムを研究して、そのアルゴリズム毎の流れに合わせることにより、「媒体側が良いと評価している広告」として入札を続けること理想としています。その結果として入札勝利率の向上や、インプレッション単価を抑えることが期待できます。
長距離を100m走のような猛スピードで走ったらダメ、逆も然り、というようなイメージです。

運用に関しては、「しっかりと戦略的に予算配分をすることを基本に、さらにもう少し小技を色々打ち続けて最適化していきましょう」というのが、当社からの提案です。

認知・宣伝向けの動画広告は目に見える「広告効果」を出すフェーズ

― 最後に2017年の抱負とメッセージをお聞かせください。

認知・宣伝系の動画広告で「テストキャンペーンをする」フェーズは終わったなと思っています。より大きな予算をお任せ頂く反面、目に見える「広告効果」を出さないといけないフェーズになったと感じています。
しっかりと追いかけるべきKPI/KGIを定義し、毎日の運用に落とし込んでいく。
「このぐらいの広告効果を見込みます」そして「出来ました、良かったです。次の一手は…」「残念ながら未達です。改善の一手は…」という風に、結果を示し続けていく段階に入りました。

― 2017年は成果を出していく本番ということですね。

写真:酒井 英典氏そうですね。そういう意味でも、動画広告元年です。
箱庭の中だけで効率化の検証をする段階や、テスト予算でスポット一発勝負の段階は終わりました。Web動画というとバイラルやバズのような不確実なイメージがある方もいる気がしますが、大きな予算を動かしつつ、確実かつ地道に効果を積上げていく、そんなフェーズになっていると思います。

しっかりと効果を出して、しっかりとご予算を頂き、そしてまたしっかりと効果を出して成果でお返しできるようにしていくことが大事な一年になるでしょう。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長  

慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。

国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。

2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。