「プレミアムな動画コンテンツをマネタイズ可能な媒体に」 スキルアップ・ビデオテクノロジーズ CEOが語る2016年の振り返りとミッション [インタビュー]
デジタル広告業界で2016年に最も活況を呈した動画広告市場。そのテクノロジーを支えてスキルアップ・ビデオテクノロジーズの代表取締役社長 八田 浩氏に、最新のアドテクノロジーや新しい広告フォーマットの動向を踏まえて、動画広告市場の2016年の振り返りと2017年のトレンドをお話しいただいた。
(聞き手:ExchangeWire Japan 野下 智之)
― 2016年の動画広告市場全体を振り返って、印象的であったと思われる出来事について、お聞かせください。
2016年は、市場全体としてはインストリーム広告よりもアウトストリーム広告が多く出た年だったと思います。また、動画広告におけるKPIの指標が落ち着きました。
つまり、動画の定着率やCPA、CPVの単価、完視聴率(たとえば、100万回再生された動画があったとして、いったいどのくらいの人が最後まで視聴したのか・・・)、こういったさまざまな指標がばらばらだったのですが、視聴時間を中心としたKPIにまとまりつつあるといえます。
また、完視聴(コンプリートビュー)を重視する傾向も高くなりました。きちんと最後まで見る人を多く創り出せたかどうかが重要です。
現在、自社の動画配信プラットフォームは、地上波、BS,CSなどの放送局を中心に、コンテンツホルダーに使ってもらっています。また、アドサーバー単体では、純広告やアドネットワーク、RTBを組み合わせながら使っていただいているところです。
ミッションは「プレミアムな動画コンテンツをマネタイズ可能な媒体にする」こと
― 広告主の動画広告利用について、2016年にどのような進展がありましたか?
まず、RTB取引が増えました。当社のアドサーバーにDSPの買い付けリクエストが多く来るようになりましたね。特定の媒体を指定して、「この媒体を高い単価で買いたい」というPMPのオーダーがあったりします。そうした場合は、びっくりするほど高い金額が提示されます。1再生10円なんていう例もあります。プログラマディックなDSPについては、純広よりも高い単価で買うという概念が入ってきているようです。プレミアムな媒体全般でそういえるのではないでしょうか。
「プレミアムな動画コンテンツをマネタイズ可能な媒体にする」ことが我々のミッションだと考えていて、広告主が増えるようなものを作っていきたいと思っています。純広でもそうだと思いますが、プログラマティックで、広告主さんが喜んでくださるようなものを作る。そうした事業を行ってきて、いま、検索やバナー時代のこれまでとは違う景色が見え始めているところです。
― 媒体社側の動画広告フォーマット導入の進捗や、収益化の現状についてお聞かせください。
この1年でSSPやアドサーバーの導入アカウント数が5-6倍くらいに膨れ上がり、動画広告数が圧倒的に増えました。戦略的に動画広告に変えたところはもちろんありますが、それよりも市場そのものが広がったといえるでしょう。「動画を売りたい」「動画広告を入れたい」というお話が続々と出てきました。フォーマットとしては、アウトストリームがインストリームよりも多いです。インストリームだけでいうと、増加は倍くらいです。
動画広告の業界に、放送局の技術者の方が増えています。それら、放送局の方の動向を見ていると、「ライブ配信」が成功しているように思います。当社は動画コンテンツを配信するプラットフォーム事業から動画広告事業に参入しましたので、それら放送業界の動向にも注目しています。
また、スマホの普及とテレビ離れから、スマホでも配信したいという悩みもスポンサーは抱えています。「スマホで見られないの?」と視聴者も思っています。そこで、テレビ局や新聞社が自社で持っているスポーツや音楽などのコンテンツをスマホへ移行しようとしている現状があります。こういうライブ配信ニーズには動画コンテンツ配信プラットフォームやアドサーバーを利用してもらえるとよいと思います。
ライブ配信は大きな可能性を秘めつつも、ビジネスモデル的に難しい事業だと思っています。たとえばプロゴルフトーナメントを例に取れば、通常4日間の配信になります。ネットの広告ビジネスとして考えると、在庫も事前に読めず、とても売りにくい。けれども、ライブの動画コンテンツはエンゲージメント率が高くなる傾向にあるため、ユーザーやスポンサーの期待は大きいので取り組んでいきたいですね。個人的にはネットの枠だけを切り取って販売するのもいいのですが、他のTVや新聞の広告商品とパッケージでの販売にしたほうがいいと思います。これはやりたかったことのひとつです。動画コンテンツの配信も動画広告配信もワンストップで提供できるため、従来型のベンダーとは違うことをやる、これが当社の強みです。
― インストリームとアウトストリームの構成は今後どのようになっていくと思われますか?
個人的には、「アウトストリームは低単価かつ、ある程度在庫があるもの」「インストリームは高単価だけど限られた在庫しかないもの
」という構図は、変わらないと思っています。もちろん、今後どこかで逆転したり、同等になったりするのかはわかりません。ただし、どちらにも長所や短所がありますし、広告主の意思もありますから、CPCでもCPVでも構わないと思っています。
視聴者側の目的がそもそもアウトストリームとインストリームでは違いますし、単価差もついています。「動画を見に来る気持ちになっていても、広告は見たくないインストリーム」「動画広告を見て、その広告に反応しないわけではないアウトストリーム」と、どこかに収斂していくのですから、まだなんともいえません。ただし、今年1月10日からGoogleはアウトストリームのリッチ広告を掲載するメディアに対し、ユーザーの閲覧体験を邪魔するような広告表示をする場合検索順位においてペナルティを課すと通告しています。そういう意味ではアウトストリームは今後もプラットフォーマーから規制するリスクがたくさんあると思います。
360度動画はまだこれから?2017年に注目すべきフォーマット
― 縦型動画、360度動画、その他スマートフォンに合わせた新しいフォーマットが出てきていますが、どのように普及していくでしょうか?
当社でも縦型広告や360度も開発し、リリースしていますが、具体的な案件にはつながっていません。流行るかどうかは、まだまだ未知数という状況です。
新しいフォーマットとして、テレビでよくあるようなワイプ画面が出る機能をリリースしました。アドサーバーのクライアントの要望でつくったものです。完視聴でいえば、すごく見られていますね。そのほかの独自のサービスとしては「リサーチ」機能をつくりました。動画を見ながらリサーチができるようにしたシステムです。動画を見せながらアンケートを取れるようにしています。これだと、アンケートの回収率がよく、動きを見ながらなのでリアリティがあるのです。ナショナルブランドなどからの引き合いも来ています。テレビに出稿しているようなクライアントが多いですね。「テレビテスト」「(商品に対する)理解が深まったのかどうか」をリアルタイムでリサーチできる、面白い機能だと思っています。
― 直近で注目されている動画広告に関する新しいサービスや技術があればお聞かせください。
フォーマットでは、そこまで気になっているものはありません。強いて言えばVPAIDでしょうか。
いま当社では「インタラクティブインリード」という機能を提供中です。いわゆるカルーセル広告に近いフォーマットですが、そこにはどんなコンテンツを入れてもよいのです。たとえば、インリード動画を再生するとギャラリー化したカルーセル画面になり、ここには、フェイスブックのコンテンツや位置情報、など、なんでも好きなコンテンツを表示させることができます。商品の訴求側が、商品詳細、店舗の位置情報など、ストーリーを作ることができるのです。この機能は、実際にプリンターのメーカーから請け負って、「どこでプリントできるか」という趣旨の広告を出しました。ほかにも、たとえば年末年始にはアウトレットモールのお正月広告でお店を選ぶと地図が出てくる、などという使い方もあります。「広いアウトレットの中のここに探しているお店がありますよ。」というGPSでの地図表示です。
2017年はなんと言ってもライブ配信中に広告を挿入することが爆発的に増えます。けれども、今までの技術ではサーバサイドで広告挿入するため(SSAI=server side ad insertion)動画本編と広告の境目がありません。当然プログラマティックなこともできませんし、広告の再生回数もカウントできません。
ただ、すさまじく事例が増えていることは確かです。バーチャル高校野球(朝日新聞社とABC朝日放送の制作)などはライブ配信と動画広告の成功事例だといえます。スポンサーは高校野球に広告を出している感覚なので、ライブ配信に挿入したいというニーズが見らます。テレビからネットに媒体が移る段階で、まだまだ増える部分でしょう。当社がまもなくリリースするサービスではライブ配信中に端末側で広告を挿入(CSAI=Client side ad insertion)しますので、アドテクの世界で語られていたアドサーバーでできるプログラマティックなことはほぼ網羅することができます。
タイを皮切りに、東南アジアへのリーチを目指す
― 2017年の動画広告市場はどのようになっていくでしょうか。またその中で貴社はどのような役割で市場成長に貢献していかれますか?
アウトストリームは参入障壁が低く、過当競争が熾烈化しています。数年後には専業の事業者は減るでしょう。バナー広告やリスティング広告と並べられてしまうことが多いのですが、動画広告はさらに価値あるコンテンツだと思っています。
高価であっても出したいというものしか残らないと思います。できないというのは問題外ですが、縦型動画や360度動画のようなフォーマットは、実はこだわらなくてもよいのです。ユーザーが見ているのは、フォーマットではなくコンテンツの内容だと思っています。
インストリーム、アウトストリーム、スマホ、純広、アドネットワーク、RTBなどなど、動画広告には実にさまざまな手法がありますが、個別の手法にこだわることにはあまり意味がないと思っています。広告主のターゲット、見せる場所、媒体、コンテンツホルダー、それぞれを上手にマッチングできなければ生き残れないでしょう。
当社は運用に力を入れています。「CPV」「CPM」など、広告主がどういう指標をゴールとしているのか、KPIに沿ったマキシマイズ力が高いのが当社です。データをしっかりと見て、指標に向かって細かく運用し、何秒見られたか、インプレッション、何人にリーチしたか、どの媒体か、などを細かく合わせたり、より動画コンテンツと広告主をマッチングさせる方法を考えたりしているのは当社ならではでしょう。
これは、掲載面、ユーザーの属性を把握し、配信コントロールに力を入れることで行っていることです。このため、他の大手動画広告プラットフォームに比較されても負けない運用力が我々にはあると自負しています。きちんとやっていないと淘汰されるのは当たり前ですから。
将来的には海外展開を進めていきたいですね。海外にユーザーを獲得したいというコンテンツホルダーも増えていますし、東南アジアを中心にリーチしたい日本の広告主も増えてきたと思っています。2016年はタイで事業展開を始めましたが、2017年は更に拡大させたいと思っています。まずは人口が多く、成長している国--フィリピン、インドネシア、ベトナムなどをターゲットの市場とし、プレミアムコンテンツのマネタイズを支援するべく日本と同じモデル、同じターゲットで売りに行きたいと考えています。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。