APACのパブリッシャーがプログラマティックを始めざるをえない理由
(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)
APACの伝統的なメディアは販売方法を変化させることを拒み続けたため、他の地域と比較してプログラマティックへの対応が遅れている。しかしながら、彼らもプリントからデジタルビジネスに移行しながら変化を迎えようとしている。
APACでは、質の高い広告在庫が少なくプログラマティックの活用が進んでいないとAdform社のチーフレベニューオフィサーのJay Stevens氏は語る。
英国においては、全ての主要なパブリッシャーがプログラマティックへの対応を進めているのに対して、APACのパブリッシャーは今までのやり方を引き続き継承している。結果として、プログラマティックな購買によるサービスを提供するGoogleやFacebookに、広告在庫を利用した収入が流れていっている点をStevens氏は指摘している。
広告在庫のプログラマティックバイイングに加えて、ファーストパーティデータの活用にもAPACのメディアは目を向けている。仮にこのようなサービスを提供するのがFacebookやGoogleだけに留まるのであれば、残りの事業者が新たな収入にありつくことは難しいと、Stevens氏は言及している。
Stevens氏によると、この変化の傾向が、他のパブリッシャーへインパクトを与え、収入面に影響しているということである。
加えて、FacebookやGoogleには、専属のアカウントチームがおり、クライアントを直接サポートし、メディア予算の獲得に努めている。この面でも、同様のサポートをトラディショナルメディアが実施することは難しく、結果として、収入面でネガティブなインパクトに繋がってしまう。
それでは、なぜAPAC地域のパブリッシャーがプログラマティックの導入に踏みとどまっているかという点について、Stevens氏は、パブリッシャーが現在まで長く利用してきた料金体系が変化する点を恐れているからだと説明してくれた。
彼は、以前従事していたRubicon Projectでの経験を例として、パブリッシャーが自身の広告在庫をオープンオークション環境に提供したがらない理由を、彼らの持つ料金表と比較しても著しく価格が低くなってしまう点にあると説明してくれた。
「彼らの広告在庫がCPMベースで2桁の数字を永遠に保持できると期待して、彼らは自動取引には反対なのです」と彼は述べている。しかしながら一方で、状況は変わってきているらしい。
必要性にさいなまれ、より多くのAPACのパブリッシャーがデジタルやプログラマティックに移行している。その背景には、彼らのトラディショナルビジネスが大きく減収している点が大きい点を、Stevens氏は説明してくれた。パブリッシャーは現状のプリントの売り上げをいかにデジタルチャネルにシフトしていくかを考えていく必要があり、この変化には売り上げの自動化やオペレーションのワークフローなどの見直しが必要とされていく。
また、アメリカやヨーロッパと比較して、データ事業者によって増殖しているサードパーティのデータが、APACにおいては多く存在しない点にも言及してくれた。
パブリッシャー共同体の必要性
パブリッシャーの共同体により、小さなパブリッシャーが集まり「一つのマスターファイル」としてデータが利用可能になる可能性はあるのだろうか?Stevens氏は、ATSシンガポールにてこのアイディアを切り出した人物であり、パブリッシャー共同体はローカルマーケットにおいて自動取引ビジネスを加速させるために有効なプロセスであるとの考えを示した。
市場が成熟し、パブリッシャーが成長し、プログラマティックの全体の予算や収入における割合が増えると、このような共同体は解体を迎える傾向がある。パブリッシャーがインハウスで管理運用を行い、技術的な方向性を決定したいという思いが強くなる点に起因するとのことである。
ヨーロッパでの共同体は既に進化が減退している傾向があるが、ヨーロッパ市場においてはプログラマティックの初期段階における役割を終えたと彼は考えている。
とはいえ、Stevens氏は単一のマスターデータファイルを提供するという意味合いにおいて、共同体の持つ価値を感じているようだ。彼は1000ものウェブサイトから読者のデータを収集し共同のデータベースを生成したドイツのパブリッシャーの例を挙げてくれた。
共同体はドイツテレコムの子会社であるEmetriq社と提携を行い、人口統計学、ライフスタイル、関心などの分野に基づいて、データをクリーンアップし、オーディエンスデータの生成を実施した。この目的は、データ重視の広告のドイツにおける標準化を行い、パブリッシャーにおける広告パッケージを強化することにあったと説明をしてくれた。
このような提携は、事業者がパートナーに対して新たな顧客データ情報を提供する一方で、それぞれのパブリッシャーがデータを共同体に寄与するという点において価値があるとStevens氏は述べている。このような動きによって、モバイル予算の獲得などにおける競争力の向上などの動きが見える。このような共同体モデルは実際の取引が存在しない場合でも機能するとのことである。
アドテク企業はAPACの複雑な環境を認識する必要がある
アジアはまだ開拓されきれていない市場であり、アドテク企業は市場の潜在性に魅力を感じ、この地域での市場獲得に努めようとしている。しかしながら、アメリカで市場を開拓したような企業は、APACが同質でない点を理解し損ねることが多い。
Stevens氏はこの点が大きな障壁になっている点を指摘する。
アドテクツールは異なる通貨や言語、広告フォーマットをサポートする必要があり、このような点ではAdform社のようなヨーロッパの事業者は、異なる市場をサポートする地域展開に精通している点にアドバンテージがあるとStevens氏は述べている。
Adform社は2016年4月にシンガポール事務所を開設した。
現在は3名のスタッフで運用しているが2017年にスタッフを倍増する予定だという。Adform社はシドニーにも、2017年の第一四半期に事務所を開設する予定だと説明してくれた。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。