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月間600億インプレッションのデータがカギに ジーニーが挑む既存MAの課題解決 [インタビュー]

これまでSSP事業者として事業を拡大してきたジーニーが、今年7月にマーケティングオートメーションツール「MAJIN」をリリースした。同様のツールが多くある中でなぜこの新規事業に乗り出したのか。そして、なぜそれが今なのか。競合ツールとの差別化などについて、同事業本部事業本部長を務める吉村卓也氏にお話をうかがった。

(聞き手: ExchangeWire Japan 長野 雅俊)

― 自己紹介をお願いします。

photo-1以前はリクルートメディアコミュニケーションズ(現 リクルートコミュニケーションズ)に所属しており、アド・オプティマイゼーション推進室というインターネット専門の部署に配属されました。そこで当社の代表取締役である工藤と出会い、工藤が立ち上げていた新規事業に私も関わることになりまして。当時は地域のアドネットワークを作っていました。米国からRTBという新しいアドテクノロジーが入ってきたタイミングで工藤が独立し、その1年後ぐらいに自分も追う形でジーニーに入社しました。

― 今年の7月にマーケティングオートメーションツール「MAJIN」をリリースされましたが、その開発に至った背景は?

大きく分けると5点あります。まず、SSP事業としてディスプレイ広告まわりを手掛けており、ジーニーは国内No.1規模にあります。月間で600億インプレッション以上の広告在庫を持ち、1億ユニークブラウザ以上のデータを持っています。デマンド側の新しいプロダクトを考えているなかで、そのデータを活かす形で何かできないか、と考えたのはきっかけの1つです。

次に、もともと当社はトレーディングデスク機能をもっておりますが、広告代理店のような立ち位置で広告運用をしていました。しかし、運用型広告の負荷はかなり高く、数百社の案件を当社で運用する中で、自分たちで使いやすいツールを開発したほうがいいのではないか、という意見が強くなりました。
3点めは、2015年にプライベートDMPを当社で開発していたということ。つまり、データを入れる箱の用意があったという点です。データのアウトプット先として、ディスプレイ広告以外のメール配信やプッシュ通知と連携させることができるなと。

4点めが、当社はプッシュ通知で国内トップシェアを誇るFelloを事業買収しており、アプリ向けの強みを持っていたという点です。今後潮流がくるであろうCCCMの領域などに備えて、アプリの機能を強くしようと考えました。

最後は、「自社内でものづくりをする」という、SSP事業の中で培った開発力です。数十名規模の開発陣は当社のかなりの強みだと思いますね。以上を踏まえると、かなり自然な流れで開発にいたったのかなと思います。

― これまでのマーケティングオートメーションツールの課題はどういったものでしたか?

マーケティングオートメーション事業の参入を検討する以前に、当社でもリードを獲得するためにマーケティングオートメーションを使っておりました。しかし、なかなかうまく使えなかったんです。単純に言語の問題だったり、あとは機能がたくさんつきすぎていて、わかりづらかったりしました。初期セットアップを乗り越えたとしても、そこから実際に運用に乗せていくフェイズが難しいなと実感したのです。使いこなすためには深い知識が必要だったので、結局メールを送るためだけのツールになってしまうという事例もよく耳にしていました。

― 御社の「MAJIN」は他のツールと比べてどういった違いがありますか?

まず、UIをかなりわかりやすくしたという点は大きな違いだと思います。以前のツールは直感で操作するのは難しかったのですが、当社は極力ボタンの数を減らし、画面を見て直感的に触れるようにしました。ヘルプも紙媒体ではなく、基本的にオンライン上で検索すれば簡単に出るようにしています。初期セットアップの手間もかなり簡略化し、システムのフロー自体に手間がかかりません。

また、コスト面もかなり差別化できている部分です。一般的なマーケティングオートメーションツールでは、年間契約で導入することが多く、初期費用が数百万円いってしまうことが多かったんですね。大企業ならまだしも、中小企業はなかなか踏み切れない額でした。そこで「MAJIN」では初期費用無料、月額3,000円~とかなり低価格でご利用できるプランをご用意しました。

機能面に関しては、やはり広告まわりの機能ですね。GoogleやYahoo、facebookなどさまざまな広告媒体を使っている際に、それぞれからCSVでダウンロードして、加工して、パワーポイントに貼って、みたいな作業が発生していたと思うんです。そういうものを全て一元管理するレポート機能をご用意しています。また、広告のROIをあげるために、どうしてもアトリビューションの概念が必要ですので、その機能もつけています。

BtoB顧客紹介サイト「ボクシル」と連携し、リード獲得後の無駄を省く

― 「MAJIN」はどういう方に合っていると思いますか?

photo-22通りあるかなと思います。まず、メールのASPを既にご利用になっている企業です。顧客のシナリオを簡単に作れたり豊富なテンプレートをご用意したりしていますので、現在のASPの延長線上でお使いいただけるかなと。
もう1つは、広告の運用をされている広告代理店や、広告をさまざまな媒体で出しているエンドのお客様などがメインターゲットになっていくかなと思いますね。

― 金額をリーズナブルに抑えた背景は?

マーケティングオートメーションの市場自体が非常に伸びてきていますが、先程も申し上げた通り、大手企業の導入が目立ちます。市場を見ても低価格でご提供できているところは少ないです。そこで、当社の規模からしても、高機能でリーズナブルなモデルのプロダクトのご提供は、得意領域ではないかと考えました。

― 販売チャネルはどういったアプローチですか?

WEBサイト上でお問合せをいただたお客様への直販チャネルと、代理店様と一緒にご提案させていただく代理店チャネルがあります。後者に関しては月額10万円以上のプランでご提案いただくケースが増えてきていますね。

― 先日発表された、「MAJIN」とBtoB顧客紹介サイト「ボクシル」の連携についてお聞かせください。

もともと、企業分析や名刺ツールとの連携など、BtoB向けに機能開発している部分もいくつかありました。BtoBのお客様もいらっしゃる中で、よりリードをたくさんとりたいなと考え始めたのがきっかけです。BtoBの場合、広告配信はリスティング広告ぐらいに限られてしまっています。もしくは、イベントやセミナーに出て名刺を獲得するか、ボクシルのようなBtoB専門のメディアに出稿するぐらいしか獲得方法がないんですね。そのようにリードを獲得された後でも、営業マンが受注するまでにタイムラグがあり、無駄が発生してるなと感じていました。そこで、ボクシルのリードを獲得したあとに、シームレスに「MAJIN」の中に入れて、すぐにメールを送るという態勢を作ろうと。「売上を上げたい」というニーズに対して、リードの獲得とその後の追加とで分断されている部分を、一気通貫できるシステムで応えよう、というのが背景にありますね。

― 「MAJIN」は今後どういった発展を見込んでいますか?

広告まわりの機能に関しては、AIを活用して運用の精度をあげていこうと考えています。現在は裏側で広告をチューニングするのは人手になっている部分もありますので、広告の最適化を図りやすくするようにしていこうと。また、アプリ向け機能の充実化を図っていまして、「MAJIN」を使うことにより、Webとアプリの両方からクロスしてデータをとり施策が打てるようにしました。具体的にはワンID化、例えばfacebookやLINE、電話番号、メールアドレス、IDFAなどの複数IDなどを1つのIDにマッピングし、その上でOnetoOneコミュニケーションをとっていくハブになるよう推進していきます。「MAJIN」自体もプロジェクトが立ち上がったのが4月でリリースが7月ですから、開発スピードは早いです。どんどん新しいものを作っていきます。

MA価値が出やすい部分は、企業によって変わってくる

― リリースから4ヵ月経ちましたが、お客様の反応は?また、どういうお客様が多いですか?

「MAJIN」は後発でのリリースです。マーケティングオートメーションツールをすでに使われているお客様もいらっしゃる中で、UIをご覧いただいて実際に触っていただくと、「非常にわかりやすい」という反応を頂戴します。あとは、「価格が安い」という部分ですね。この機能がついていて、初期費用も10万円から最低限で開始できるサポート体制を用意しているので、導入コストを気にせず試しやすいと。そういう嬉しいお声をいただいています。

現在のお客様としては、メディアもいらっしゃるんですけど、どちらかというと広告主の方が多いですね。問い合わせも非常に多くいただいています。

― 具体的にどのように導入を進めていくのですか?

お客様によって、マーケティングオートメーションで価値が出やすい部分は変わってくると考えています。例えばメーカーのように、製品を作っているけど直接の販売はされていない、でも顧客にメールはするような企業は、CRMの観点で使いたいというケースもあります。不動産や英会話など、顧客が店舗に直接足を運ぶようなお客様は、資料請求をしてから店舗に行くまでに離脱してしまうという課題があるので、どう離脱率を下げるかが重要ですね。ECなど通販に関しては、リピートが非常に起きやすいので、LTVの観点からいい顧客を見つけるなど、購入した後が大事です。BtoBでは企業をちゃんと分析して、効果が高そうなところに営業をかけていく。このように業界によって、どこに一番力を入れなければいけないのかが違いますが、マーケティングオートメーション自体でできることが幅広いので、初めて触ったお客様だとまずどこから手をつけていいのかがわからなくなってしまうんですね。当社では、必要に応じコンサルティングさせていただきながら、「では始めにここをやりましょう」とお客様とご一緒にロードマップを作ったうえで実運用が回るように進めていきます。

また、集客と販促が分断されているケースはかなり多いです。マーケティング部門と他の部門が別々に担当しているケースも多いので、部門ごとに必要な機能を使っていただきながら、次のステップで部門を越えられるように。情報をちゃんと連携できるように態勢を整える、それをいまファーストステップとしています。

― 今後はどういったことに取り組んでいかれますか?

当社の強みの一つとして、メディアのデータを活用してディスプレイ広告を配信できる、というものがあります。例えばボクシル閲覧ユーザーのデータでディスプレイ広告を配信し、自社サイトの母数を広げにいくことができるんですね。当社のテクノロジーを使えば、集客の領域でオーディエンスデータも活用しながら配信して、Cookieベースでアンノウンマーケティングを行って、運用していく。これがもうひとつの強みです。他のツールでも運用自体はできますが、母数を増やすタネがないと結果が出ない。セクションごとに「代理店さんがやってるところ」「自社でやってるところ」と分業で進めてしまうと、企業内にマーケティングに長けた方がいらっしゃれば全部指示しながら進められますが、なかなか難しいですよね。当社でサポートしていける部分は、広告運用リソースからご用意しているので、代理店にも当社からお声がけしたり連携したりしていきながら、力を入れていこうかなと考えています。

― 「MAJIN」というネーミングの由来は?

もともと、ジーニー自体が、魔法のランプのジーニーからきているんです。社内での製品名も、それにちなんで「ランプ」とか、そういう名前をつけていまして。「MAは何にする?」という話になった際に、候補はいろいろあったんですけど「魔法のようにマーケティング課題を解決するシステムとして提供していきたい」という部分と、「MA」という文字も入っており「MAJIN」がいいのではないかということで決まりました。

ABOUT 長野 雅俊

長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長

ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。