社名の由来は「5秒動画」 スマホ動画広告のFIVEが見据える短尺動画の未来 [インタビュー]
YouTubeが今年5月に6秒動画広告Bumperの提供を開始したのを機に、日本でも短尺動画広告への注目が高まっている。
2014年より短尺動画提供への取り組みを続けてきたファイブ株式会社Co-founder・CEOの菅野圭介氏に、短尺動画の魅力や需要動向、同社の取り組みについてお話をうかがった。
(聞き手: ExchangeWire Japan 野下 智之)
― 自己紹介をお願いいたします。
菅野圭介と言います。FIVEというスマートフォン向けに特化している動画広告の配信プラットフォームを開発、提供している企業の代表をつとめています。社名は、創業の際の、「モバイルにおける動画広告は尺がコンパクトになっていくだろう」という考えがきっかけです。「5秒動画」を1つのコンセプトにしようと考え、社名をFIVEとしました。テレビCM素材の利用も多いですので、短尺動画にかぎらず、長い尺の動画の配信も行っています。
― 貴社の動画広告ビジネスの概要について
お聞かせください。
現在の中心領域としてはスマートフォンアプリ向けに、縦型動画なども含めさまざまなフォーマットで動画広告配信プラットフォームをご提供しております。純広告、PMP、ネットワークなど、様々な形でプラットフォームを利用していただいています。傾向としては新興系のパブリッシャーが多いです。モバイルでトラフィックを持っていて、急成長しているようなスタートアップメディアとよくお取引きさせていただいている点は、特徴の一つかなと思います。
― 貴社が短尺動画をマーケティングソリューションとして提供するようになった背景を教えていただけますか。
まず大きなバックグラウンドとしてあったのが、私がYouTubeに携わっていた際に顕著になった、デスクトップの動画の視聴完了率とモバイルの動画の視聴完了率の大きな差です。モバイルの方がトラフィックが多いにも関わらず、当時は視聴完了率に大きな差があったため、「ユーザーのニーズと合致していないのでは」と考えました。いちユーザーとして考えたときに、モバイル向けに動画のあり方、映像のあり方、流通のし方をゼロから考え直さなければいけないなと。
FIVE を創業し、ユーザー側の変化として感じたのは、インターネットアクセスの高頻度化、短時間化です。特にアプリは起動回数は多いですが、一回あたりの利用時間が短い。「モバイル」というデバイスの文脈を考えると当然なのですが、それはとても重要な論点だと感じました。なぜなら、映像というフォーマット自体が、ユーザーの時間を一定時間独占しないと意味が伝達しないからです。なので、セッションの時間が短くなっていくのなら、当然映像の時間もコンパクトになっていくだろうなと。しかし、当時は短尺動画の素材自体が世の中に全くなかったため、クリエイティブを自分たちで作り始めたのです。
― パブリッシャーサイドから見ると、5秒という尺になることについてどのように考えられていると思いますか?
ユーザー視点の動画広告という点で共感していただくことが多いですね。タイムラインを操作しているときや記事コンテンツ閲覧モードに入った後に、長い動画を見てくれるかというとなかなか難しい。これまではそこへバナー広告やネイティブ広告が貼られるわけですけど、当社はコンパクトに完結する映像ならフィットすると考えました。実際バナー広告などと比較しても収益性が高い状態を作っております。そのようにユーザー視点で受け入れられやすい動画広告が作り最適化していくというアイディアは、パブリッシャーサイドにも大きな変化をもたらしたと考えています。
動画配信のコントロールだけでなく、クリエイティブそのものを運用
― 広告主サイドについてはどうお考えですか?
YouTubeのインストリーム広告は、5秒経つとスキップすることができます。それは「ユーザーに広告視聴するかを選んでもらう」という大胆な権限委譲をともなう発明だったと考えます。ところがスマートフォンの場合、特にアウトストリーム広告の文脈では、ユーザーはもともと指先でコンテンツを操作しながら閲覧・視聴するかを選んでいる状態です。しかもデバイス自体のアクセス傾向が高頻度、短時間。その中でいかに映像を届けるかと考えると、やはり尺を詰めた広告を配信するという展開に行き着くと思うのです。例えば駅のホームで発生する1分間のインターネットアクセスで、30秒のCMを見てもらうことは難しいので。
一方、ファーストビューや、リーンバック視聴が期待できる環境では比較的長いブランドメッセージを届けることができます。広告主の目的と、その瞬間に期待できる視聴可能時間との組み合わせが、動画広告市場を考える上で非常に重要ではないかと思いますね。
― テクノロジー面での違いは何かありますか?
端的に申し上げると、短尺動画は試行回数を増やせるために得られるデータ量が多く、PDCAを非常に回しやすいです。たとえば、当社でクリエイティブを制作する際には、ひとつのキャンペーンで複数の動画を作成しています。複数の動画を異なるテイスト・構成・コピーで調整しながら配信し、その結果をみて更に作り変えているんですね。つまり動画配信だけでなく、クリエイティブそのものを運用していっています。私たちはこれをユーザーに奉仕する「プロダクトとしてのクリエイティブ」と位置付けています。
広告代理店さん側でも動画の運用が重要だという声が上がっていますよね。そこで、広告代理店さんへの当社のクリエイティブサービスのご提供もしています。広告代理店がモバイルに最適化されたクリエイティブを作れるようになれば、当社としても嬉しく思いますね。ユーザーにとってもモバイルオプティマイズされた動画広告の方がいいはずですし、ユーザーを集めているパブリッシャーも喜びますし。いいことづくめですね。
ただ、これまでのモバイル動画広告市場は、まだ多くの課題があると感じています。ひとつが「ユーザーのインターネット体験を阻害してはならない」という部分です。粗悪な配信ソリューションを導入するとメディア価値も毀損されます。コンテンツの読み込みやユーザーの体験を阻害しないという点は必ず約束しなければなりません。
そこで、当社の配信フォーマットでは 3G環境下や128kbps の細い回線でもローディングの時間を発生させない仕組みを独自に開発しています。パブリッシャーとしてもデメリットがないので、実装しやすいのですね。また、「データ通信量の削減」も重要です。動画の視聴可能性を予測する配信アルゴリズムと、動画データ再利用でユーザーのデータ負担を可能な限り抑制しています。
― 短尺動画の有効性はKPIなどの数値にも現れていますか?
はい、例えばブランド向けの動画広告の多くはターゲットリーチの効率や視聴完了率がKPIになりますが、短い方がそれらの指標は上がります。尺が短いのでそれは当然なのですが、当社が重要視しているのは「メッセージの完遂性」と「態度変容」の相関です。30秒のクリエイティブではメッセージを伝えきる前に広告から離れてしまうことが多くあります。ブランド課題の認知醸成の場合、ワンメッセージを5秒で伝える動画広告が有利になることはあります。例えば「新商品の想起率をあげたい」という目標があるとすれば、コンパクトに視聴完了回数を上げていった方が効率的だと思います。これが目的をブランドプリファレンス向上に重きをおく場合は、より長い時間のエンゲージメントを要します。そのようにマーケティング目的に応じた尺の使い分けが進むだろうなと考えています。
昔はテレビCMでもワンメッセージ・ワンコピーの「5秒CM」がありました。動画を見ると、それはそれで面白いのです。今そのよう動画広告を作ろうとすれば、面白いものがまた出来るのではないかと思います。その頃と比べると配信技術や計測技術の進歩もあるので、例えば一回目にはこの動画を見てもらって、二回目はこれを見てもらって、というようにアクチュアルのリーチを計測しながら配信のシナリオも作れます。モバイルが映像コミュニケーションの主役になったいま、この流れはくるのではないかと。
ブランディング広告の普及はテレビCM市場からの流入次第
― 現在はどういう企業とのお取引が多いですか?
まずブランディング型のものでは、飲料メーカーやお菓子メーカー、消費財・日用品・化粧品のメーカー、通信キャリア・ITサービス、教育業界やアパレル業界など幅広く利用いただいています。他にも、映画は動画広告そのものとの相性が良いので、映画配給会社さんには継続して多くご利用いただいています。
ダイレクトレスポンス型に関しては、アプリのプロモーションが非常に多いです。アプリの中ではゲームやEC、フリマなどアプリのカテゴリとして大きい順になります。アプリではない場合は、大きなご予算をお持ちのECですね。美容系やヘルスケアなど多岐に渡っています。商品の説明などをランディングページでずらっと説明するよりも、商品の特徴をサマリーしてた動画を届ける「動画コマース」分野にも注力しています。
― 今後、短尺動画はどのように普及していくと思われますか?
ブランド企業各社は、ブランド価値をモバイルでどう引き上げていくかをすでに考え実行しはじめています。当然、まずはテレビCM素材のリーチ拡大から入ることが多く、ついでウェブ向けの動画制作やプランニングが来ます。そしてモバイルでの短い接触機会を短尺動画で捉えていく試みがすでにはじまっています。このように段階に応じたコミュニケーション設計が重要なので、積極的に提唱していきたいなと思っています。
また、現在の日本のスマートフォン広告市場およそ4,000億円のうち、多くがダイレクトレスポンス型広告です。現在バナー広告やネイティブ広告で占められている領域を、動画化していく。我々がフォーマットをイノベーションすることで、この分野を置き換えていけると考えています。ブランディング広告においては、ブランドセーフティやビューアビリティの観点も当然大事ですし、ブランドキャンペーンのKPIに合わせた商品づくりをしていかなければなりません。そしてなにより、ユーザーに支持される動画広告のあり方をテクノロジーとクリエイティブリソースを組み合わせて解決していきたいと考えています。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。