イベントレポート:「日本のマーケティング組織改革について考える」【前編】
デジタルインテリジェンス、アビームコンサルティング、ベストインクラスプロデューサーズ が共同で「日本のマーケティングテクノロジーランドスケープ 2016年版」を公開、これを記念した3社共催セミナーを開催した。
ExchangeWireでは、本イベントを、全2回に分けて報告する。第一回目は、最初に株式会社デジタルインテリジェンス 代表取締役 横山 隆治氏による「企業のトランスフォーメーションと求められる人物像」と題したセッションについてである。
横山氏は、「日本のマーケティングテクノロジーランドスケープ 」を発表した目的は、マーケティングの全体を網羅し、どういうソリューションがあるのか、各ツールがどういうフィロソフィーでできているかを紹介することであり、ツール自体を論じることではない前置きした。
デジタルマーケティングが実現すること
横山氏はデジタルマーケティングを企業の中で本当に使える実効性のあるものにするための重要な課題である組織論と人物像を紹介。
デジタルマーケティングとは、マーケティング全体をデジタル化することと定義した。企業でデジタルマーケティングに対する意識が高くなったが、多くはデジタルマーケティングには高い専門性が必要であるため外部から人材を連れてくるべきだと思っていることが多い。また、デジタルマーケティングは特別な領域とみなされ、マス広告などの従来のマーケティングの中心部から離れた別領域とされているのも、間違いだと指摘。
そして、デジタルマーケティングはマーケティング全体をデジタルを使って行うということであり、4Pもマスもリアルもデジタルデータを結合し、ユーザーの全導線を最適化することだと強調した。
その具体例として、現在企業でDMPがうまく活用されないままになっていることを挙げ、その改善には、アナログを含めたあらゆる打ち手(マーケティングの現場が行う各種施策)を総合的に最適化することが必要であり、それにより広告などのプロモーション領域だけでなく、資材製造や物流も含む4Pにおいてデータを駆使できるようになる。これが本当のデジタル変革、デジタルトランスフォーメーションだとした。
そこではCDOの存在も大きい。デジタルマーケティングは本来マーケティング領域だけですむ話ではなく、事業部の関与が必須であり、価格施策、製造や物流施策が盛り込まれたダッシュボードでは総合的なROI分析データやマーケティングのKPI達成が可視化され、経営者視点のPLに直接し左右するべきだと述べた。このような企業内の全てのバリューチェーンを押さえることができる権限を持つ、COOやCFO同等のリーダーであるCDOを備えることは直接的にはマーケティング部門の人材育成にも密接に関与しつつ、また別次元の意味で重要な経営課題だとした。
POEの概念の誤解と成功する組織作り
次にPOEの概念図を示しながら、ここにある「役割分担の箱を埋める」議論はナンセンスだとし、これはマーケティングの網羅性を増やし、漏れないようにするためにPOEに整理しなおすことが目的であり、トリプルメディアが重なるところにピンを打ち、バラバラにならないようにするための図であると説明した。多くの企業では既存人材で対応しようという概念があるからこそこの「箱を埋める」議論になるのであり、それを議論している限りは必要とされる人材のスキルが定義されないと問題視した。マーケティング体制構築において、デジタル化とはデジタル専門集団をつくるという意味ではない。今いない人材、これから必要な人材、それぞれどんなスキルを持った人材であるべきかを議論して定義し、必要なスキルを育成する「逆引き組織論」をやらないとマーケティング組織のデジタル化にはならないと述べた。
さらに成功事例としての具体的なチーム編成についても詳しく説明した。
これからのマーケターの役割
また横山氏は現在の広告コミュニケーションがブランド側(広告主)の文脈になってしまっている点を指摘。
いまだ効果の高いテレビCMと、ネット系刈り取りの分断されたギャップをうめることが必要であり、デジタルマーケティングによってこのギャップをシームレスにつなげられればマス広告の効果ももっと上がり、刈り取り施策であるネット広告の効果ももっと上がるとした。
そのために今のマーケターは、広告主の「売る理由」を広告主のタイミングで伝えることから脱却し、ユーザーの文脈に沿った「買う理由」を広告コミュニケーションの中に見つけてもらえるようユーザーのタイミングで発信することへ意識を転換することが必要だとした。例えばDMPによる新たな潜在層のセグメンテーションは本来この課題を解決するのに最適なツールであった。セグメンテーションを行ったならコミュニケーションもそれぞれのターゲットにあわせて最適化して発信しなければならない。ユーザーのログからデータから様々な兆しを見出し、分析して、ユーザーの文脈を見出してまた最適化したコミュニケーションを行うことで、既存のコミュニケーションとデジタルコミュニケーションのギャップを埋めていくことが、マーケティングの根幹に与えることができるデジタルマーケティングの価値だと力説した。
マーケターはデータ分析のいろはに通じているべきであり、またデータサイエンティストも打ち手にもっと精通するべきだという。最後に、デジタルマーケティング組織というのはその二つの人材が融合して仕事ができる「場づくり」を意識することが非常に重要だと締めくくった。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。