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最新IAB英国デジタル広告費レポート。モバイル広告支出がデスクトップを始めて上回る

(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)

10月12日にPwC及びIAB UKは最新のデジタル広告費に関する調査をリリースした。モバイルの広告費(8.02億ポンド)がデスクトップ(7.62億ポンド)を始めて上回った。

実際、デジタル広告費の成長を牽引しているのはモバイルである。広告費は16.4%の成長を見せており、これは2年間での半期成長としては最高を占めているが、モバイルのみでは2016年前半で56.1%の成長を遂げており、1ポンドあたり0.36ポンドがモバイルの支出ということになる。5年まえに1ポンドあたり0.04ポンドしか支出されなかったことを考えると大きな成長である。

このニュースをうけて、IAB UKのCSO Tim Elkington氏は「消費者はコンピューターよりも多くの時間をモバイルに費やしている。消費者がモバイルを何処にいても利用しているという事実を受け、マーケターは、より多くの支出をモバイルに向けるようになっています」と述べている。

しかし、牽引しているのはモバイルだけではない。動画広告費は、同時期4.74億ポンドを占め、67%の成長を達成した。モバイルだけでは129%の成長である。動画はディスプレイ広告の30%を占めるが、モバイルだけであれば37%を占める。

48%のディスプレイ支出はソーシャルに向けられており、43%増の7.45億ポンドとなっている。このうち80%がモバイルに向けられている。

全体で健全に市場が成長し、モバイルをキーとして成長を遂げる中、ディスプレイや検索は、それぞれ21%と18%と年間での成長が鈍化しているのが見受けられる。

iab annual growth of key digital ad formats
ExchangeWireは業界のエクスパートに、このポジティブなニュースに関する意見を求めた。

ビューアビリティの確保が、動画市場の成長のために必要

「現在は、私たちが待ち望んでいたモバイルディスプレイがデスクトップ、タブレットの広告支出を超えるという激震が起こっています。この結果は、動画広告支出が高い成長を示し、アウトストリーム動画広告が主流になってきたことを示しています。動画広告が依然として消費者に魅力的である点は明確です。アウトストリーム動画広告は消費者にスキップする選択肢を与えることで、消費者の邪魔にならない形でメディアの配信をサポートしています。アウトストリームの成長が鈍化する兆しはなく、バーティカルや360度動画などがモバイルをターゲットにリリースされ、賢いマーケターは利益を享受しています。しかしながら、業界では、この成長の兆しを鈍化させないためにもビューアビリティの問題の解決が求められています。企業が消費者の閲覧していない広告にお金を支払っているのは由々しき事態です。私たちはマーケターが2017年により明確な測定方法を開発し、ユーザーエクスピリエンスを損ねることなく、本当のROIを提供できるようになると期待しています」。

Teads社UKマネージングディレクターJustin Taylor氏

広告主は消費者にやっと追いついた

「消費者のエンゲージメントという観点では、モバイルのティッピングポイントは数年前に迎えており、広告主が如何に支出の面で追いつくのかという点が問題でした。このトレンドが継続するにつれて、フォーカスはモバイルのアトリビューションやコンバージョンに移行していくでしょう。マーケターの中にはデスクトップで行うような施策をモバイルで実行している人々もまだ存在します。しかしながら、チャネルにおけるモバイル投資が増えるにつれ、アカウンタビリティや効率性における需要が高まり、エージェンシーが如何にサポートするかという点が問題になります。モバイルでの成長に従い、私たちはモバイルにおいて、ペイドサーチがデジタル支出の半分を占めている点を理解しており、未だに検索が消費者の主流な行動になっています。音声技術などの検索環境における開発は、特にモバイルにおいては増えていくことでしょう。これはモバイル検索を使って収益化をしたいと考える企業にとっては朗報です」。

iProspect社 Global Chief Product Officer, Niel Bornman氏

モバイルでの購入経路を把握することが重要

「モバイルがデスクトップの広告支出を超えたのは素晴らしいニュースです。広告業界が如何にモバイルを真剣に考えているかについて証明するニュースとなります。ペイドサーチが18.1%の増加で、デジタル広告支出の52%を占めているのはモバイルデバイスの普及によるものでしょう。この結果はブランドとの出会いやコンバージョンにおいてモバイルが果たす役割が重要である点を示唆しています。UKの成人はインターネット接続時間の46%をモバイルで費やしており、企業が消費者をターゲットとするには絶好の機会と考えられます。実際の購入がオンラインであろうと、電話、店頭であろうと、カスタマージャーニーにおけるモバイルの役割を把握することは非常に重要です。行動を理解し、正しい企業キャンペーンを届けるための最適化が鍵となります」。

Marchex社, UKマネージングディレクター, Anna Forbes氏

モバイルファーストの企業による成長維持のための努力が必要

「英国のユーロ離脱以来のIABのリリースにおいて、今後の成長が続いていくのは確かだと確信しています。モバイルの成長は、私たちがサポートしている企業の財務面と照らし合わせても同調しており、より多くのモバイルファーストのアドネットワークやアドテク企業が英国マーケットに参入しています。これらの成長の速いモバイル企業は、マーケターの持つ業界の財務面に関する観測を無視することなく、Q4や2017年にかけて成長が持続できるよう努力が必要で、将来的な0.7%の広告支出の落ち込み予想を覆す必要があります。」

FastPay社, UKディレクター, Matt Byrne氏

モバイルは徐々にブランディングツールに

「モバイルがデスクトップを上回ったというのは、マーケターがモバイルの広告チャネルとしての潜在性を実感しているサインです。モバイルは消費者にとって最もパーソナルで最も利用されており、スマートフォンは1日に2500回も触られており、エンゲージメントのレベルは比類なきものです。モバイルへの投資が増えているのは、消費者の動向の変化に対応したものであり、企業の予算の変化についても示唆したものです。デスクトップと異なり、モバイルは徐々に、そのパーソナルな点や、常時利用されている点などからブランディングツールとして認識されるようになっています。この点により、モバイル動画がなぜ強力に成長しているかも説明可能です。企業やエージェンシーが、活用可能なプレミアム広告を活用しはじめています。モバイル広告の品質が高まり、計測方法やアカウンタビリティなども改善されるにつれ、この傾向は継続していくと考えて居ます。」

Widespace社、Global Chief Commercial Officer、Paul Carolan氏

ユーザーエクスピリエンスが第一

「モバイルの支出がデスクトップを上回ったのは驚きではありません。IABのレポートでは、モバイル及びプログラマティックの成長が示されており、今後ユーザーエクスピリエンスを第一に考えていく必要があるでしょう。ネイティブのプログラマティックの購入が行えるのは素晴らしい進歩ですが、業界全体として、他の標準化されたディスプレイ広告と同様に、拡張性のために効率性を優先しすぎ、ネイティブを特別なものとした功績を失うことないよう気をつける必要があります。企業のコンテンツは基本アナログなものであるが、プログラマティックによって情報をデジタル化して動作させています。この方法は通常のインフィードのネイティブディスプレイフォーマットでは問題ありませんが、プレミアム環境に拡張する場合には、読者のベネフィットに考慮するなどが必要です。また、ネイティブにおいては、エディトリアルとコマーシャルコンテンツの境目に気をつけ、透明性、信頼性などに考慮し、読者に混乱を与えないように気をつける必要があります。プログラマティックの専門家にとっては、少し半直感的なものかもしれませんが、MainAd社では最新のトレンドデータから本当の価値を見つけようと試みています。私たちは、広告を軸としたパブリッシャーモデルのサステイナビリティにより利益を享受しています。」

MainAd社、営業統括、Matt Keating氏

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長  

慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。

国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。

2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。