キーワードは「スマートフォン」、「データ」、「動画」~2016年ディスプレイ広告市場 [インタビュー]
国内デジタル広告市場をリードするデジタル・アドバイタイジング・コンソーシアム株式会社(DAC)。今年もディスプレイ広告市場の業界マップのアップデートに協力いただいた。
進歩目まぐるしいディスプレイ広告市場では、今年はどんなトレンドが見られるのか。業界の変化や最新動向について執行役員 メディアサービス本部長 岡部 耕司 氏にお話を伺った。
(聞き手: ExchangeWire Japan 野下 智之)
― 岡部さんの担当業務をお聞かせください。
岡部氏:メディアサービス本部で、広告会社、媒体社それぞれとの向き合いを行うセクションの責任者を今年4月から担当しております。
キーワードは「スマートフォン」、「データ」、「動画」
― 直近の広告主や媒体社のディスプレイ広告に対するニーズについて、お聞かせください。広告主や媒体社は、それぞれどのようなことに関心を高めていますか?
岡部氏: まず広告主側のディスプレイ広告へのニーズについては、最近ですとデバイスという観点があります。特にスマートフォンでどのようにユーザーとの接点を持つかが重要で、ニーズとしても高まってきています。その中で注目度は高いのは動画広告です。ブランディング目的で主に利用されるディスプレイ広告において一番効果があるのは何といっても動画です。そのため動画広告の活用方法への関心も高まっています。
また、デジタルメディアに対する予算配分の比率も高まりつつあります。これはグローバルの広告主が中心ですが、日本の広告主でも増えてきています。広告予算の最適配分を行う際に、メディア総接触時間が増えているデジタルメディアに予算をシフトしていこうとしているからだと考えられます。
媒体社側の観点では、いかに1インプレッションを高く販売できるかという点がありますが、一般的に単価が高いディスプレイ広告の中でもインプレッション単価をより高く販売できるのは動画広告になります。そのため、当然、媒体社の視点からも動画広告に対する関心は高まっています。
また最近では、PMPも浸透し始めていますね。従来のDSP、SSPを利用したオープンオークションでの売買は、広告主側ではどこに広告が出ているのかという配信面での課題が、媒体社側はインプレッション単価が安くなってしまうという課題がありました。その中で、PMPという手法では、広告主側の課題である配信先をクリアにすることができ、媒体社側では少しでもインプレッション単価を高く販売できるというメリットがあるため、ニーズも増えてきています。さらにPMPでは、広告主が自社データの活用やデータの掛け合わせもできるため、より利用が広がっています。
ですので、2016年のディスプレイ広告市場におけるキーワードは、「スマートフォン」、「データ」、「動画」と捉えています。
― 媒体社側がデータを活用される、収益に結び付けるところで、データだけを切り出して流通させるような取り組みは始まっているのでしょうか。
岡部氏: 媒体社によっては、パブリッシャートレーディングデスクという形で、自社データを使って自社メディアだけでなく、外部のDSPを活用し自社以外の広告枠にデータを掛け合わせて販売しているところも出始めています。
コンサル領域のプレイヤーがデジタル領域に参入
― 昨年から今年にかけて、ディスプレイ広告市場におけるカオスマップでの主な変化をお聞かせください。
岡部氏: アドエイジのランキングでコンサルティング企業がランクインしているように、日本においてもコンサルティング企業がデジタル領域に参入し始めている点です。また、株式会社博報堂DYデジタル、株式会社電通デジタルなど、デジタル領域の新会社が出てきています。
背景として、メディア総接触時間におけるPC、タブレット、スマートフォンといったデジタルデバイスの利用時間がどんどん伸びる中、これらのユーザーに対しどうマーケティングしていくかという時に、デジタルが必要不可欠なものになっています。株式会社デジタルインテリジェンスの横山隆治社長が仰っていた「マーケティングがデジタル化しつつある」という言葉がとても印象的でしたが、実際そのようになってきているのかもしれません。
そのため、マーケティングがデジタル化したときにはさまざまな情報、データが可視化され、それをもとにPDCAを回していくことが基本となります。広告会社だけではなくコンサルティング企業もそのような提案が必要になり、デジタル領域に参入せざるを得なくなってきていると言えるでしょう。
― 動画の関心については、デバイスでいうとスマートフォンに振り切っているとも言えるのでしょうか。
岡部氏: スマートフォンは画面占有率、注視度が高いという理由もありますが、それ以上に動画というフォーマットは圧倒的に情報伝達量が多いので、その広告効果が高いと認識されているということだと思います。
その中でも、インストリーム広告はYouTubeのTrueViewを中心に伸び続けていますが、当社の動画広告売上が一番伸びた要因はアウトストリーム広告、インフィード、インバナーなどのフォーマットです。これらが動画市場全体を伸ばすきっかけにもなっています。
― アウトストリーム広告が動画市場全体を伸ばしていくような傾向はまだまだ続きそうでしょうか。
岡部氏: 日本のインストリーム広告の大半を占めるYouTubeがけん引し、そこにTVerなど新しいサービスの参入や、パフォームグループによるJリーグの放映権の獲得などにより、インストリーム広告も今後さらに伸びていく可能性はあるでしょう。ただそれ以上に、アウトストリーム広告の方が圧倒的に配信面が多いため、アウトストリーム広告に大きな可能性を感じています。
― 視聴態度の観点で効果を考えた時に、違いはあるのでしょうか。
岡部氏: 同じ動画素材での認知度ですとインストリーム広告の方が圧倒的に高いと言われています。ただ、アウトストリーム広告を含めてうまく相乗効果で伸ばすことができると思います。YouTubeと、FacebookやTwitterでは視聴態度が違うので、リーチをとりつつ認知度を高めたいのであればアウトストリーム広告を含めた方がよいのではないでしょうか。
新たなマーケティングのデジタル化が進んでいる
― 昨年と比べて、広告配信におけるデータ活用の進展についてお聞かせください。
岡部氏: 当社でもデータを活用したメディアバイイングがどの程度か測っていますが、昨年よりも増えています。Facebook、Twitterでは、彼らが独自に持っているデータを使ってターゲティングしており、基本的にはノンターゲティングで配信する方が少ないので、データを使った配信をしているとも言えます。
また、当社のDMP「AudienceOne®」×DSP「MarketOne®」でのバイイングが増えていますし、Yahoo!DMPとの連携や、ADARA, Inc.、技研商事インターナショナル株式会社との提携によるデータ活用も増えています。今年当社が提供開始した郵便番号ターゲティングのサービスは、チラシなどのエリアマーケティングを中心に行う広告会社からのニーズが非常に高まっています。また、株式会社電通の株式会社インティメート・マージャーへの出資や、株式会社博報堂DYメディアパートナーズと当社が、ヤフー株式会社と株式会社Handy Marketingを設立するなど、マーケティングのデジタル化の動きが加速しています。
― クロスデバイスでの配信を行うにあたり、「スマートフォン上でのユーザーデータの取得が難しい」といった課題があったかと思うが、どのように対応してきているのでしょうか。
岡部氏: 例えばFacebookやYahoo!ではユーザーIDを起点として、デバイスをまたがっても同一ユーザーという認識ができることが強みになっています。当社でも今はブラウザーベースで、スマートフォンとPCブラウザーのCookieをある程度情報条件を整えて推定でマッチングさせる技術を用いた取り組みを行っています。そこにIDFAやADIDなどのアプリのIDも含めて推定マッチングをさせており、デバイス間でのフラグメンテーションが起こらないような形で進めていきたいと考えております。
運用型広告の体制づくりが今後の課題に
― 日本のディスプレイ広告市場が成長するために解決すべき現状の課題についてお聞かせください。
岡部氏: まず1つが、ディスプレイ広告の市場自体が成長している中で、デジタル広告市場で圧倒的にシェアが高まっている運用型広告をどのように回していくか、体制を作れるかが大きな課題になっています。今まで予約型広告であったが故にできなかったことが、運用型広告でできるということで、非常に要望が増えてきています。パフォーマンスを高め、お客様からのニーズに対応できるような体制を構築していくためには、人もかかってくることでもありますし、スキルアップも含め時間がかかることですので、大きな課題の1つだと感じています。
もう1つはブランディング目的での広告予算の投下が増えるほど、ビューアビリティという問題にぶつかってきます。JIAA(一般社団法人 日本インタラクティブ広告協会)でもビューアビリティの研究、対応に取り組んでおりますが、媒体社、広告会社、メディアレップを含めてどのように向き合っていくかを協議しています。
― アドブロックの話が昨今話題に上がっていますが、日本でも切迫した課題でしょうか?
岡部氏: 欧米ではブロック率が20~30%と言われるのに対し、日本では3%程度という話があります。欧米ほど問題が顕在化してはいませんが、いずれ来るかもしれない懸案事項として欧米の状況をキャッチアップしながら、どのように対策を打っていくかを議論し始めている段階ですね。
― 2016~17年にかけてのDACのディスプレイ広告ビジネスにおける方向性をお聞かせください。
岡部氏: 冒頭のキーワードと重なりますが、スマートフォン、データ、動画です。スマートフォンではインフィード広告、その中でも特に動画広告を伸ばしていきたいですし、インストリーム広告だけでなくアウトストリーム広告も成長させたいです。あとは、データという観点、当社はデータ領域にかなり力を入れて取り組んでいるので、PMPも含めて掛け合わせるデータをより強固なものにして、他にはない、DACだけが持っているオリジナルなデータを含めた対応体制を強化していきたいです。
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最終更新日:10/25/2016
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。