運用型広告で培ったノウハウで、アプリプロモーション市場の勢力図を変える、アイレップの挑戦 [インタビュー]
デジタルマーケティングにおける国内トップエージェンシーのアイレップが、アプリプロモーションビジネスの拡大を進めている。
同社は、今年7月に、株式会社オートクチュールとの業務提携によりアプリマーケティングサービスの支援体制を大幅に拡充。先行する事業者に猛追をかけるために、体制強化にも注力している。
同社のアプリビジネス事業強化の背景や同社ならではの強み、今後のビジネスプランについて、株式会社 アイレップ 取締役CBDO コーポ―レートストラテジー本部 本部長 北爪宏彰氏、執行役員 第一営業本部 本部長 和泉佳孝氏、同じく第一営業本部のアカウントプランナー 中山暢氏にお話をうかがった。
(聞き手: ExchangeWire Japan 野下 智之)
― アプリビジネスの事業強化の背景についてお聞かせください。
北爪氏: 近年インターネットの広告市場で一番大きく伸びているマーケットの一つがアプリビジネスです。特に日本は課金ユーザーも多い市場なので、新しいマーケットを開拓していくことが当社にとっても大きなテーマになっています。アプリビジネスは他社が先行して取り組んでいて、当社としては改めてアプリビジネスに力を入れていこうという方向性です。マーケットとしてのアプリプロモーションでは、ゲーム領域が圧倒的に大きい規模ですが、直近では先行優位が薄れつつあり、ゲームクライアント様にとってはエージェンシーレビュー実施のタイミングでもあるので、当社もアプリ事業を強化して新しいクライアント様を開拓していっている状況です。
異なるケイパビリティの会社同士の連携が加速
― 提携の経緯と、提携先オートクチュール社の特徴についてお聞かせください。
北爪氏: そもそも、単純集客以上に大きな課題があると感じているアプリ事業主が多くいらっしゃるという実感があります。当社の調査によると、有料アプリの課金マーケットでは、ダウンロード時に課金するのは全体の中の3%程度で、95%はアプリ内課金です。
つまり、ゲーム会社側からすると1回ダウンロードさせたユーザーをどのように課金ユーザーに誘うかの仕掛けが相当重要となってきます。これまではエージェンシーは1ダウンロードあたりいくらという相場で広告施策を提案、実施してきましたが、今後はダウンロードした後にしっかりと使ってくれるユーザーなのかを見極めた上で集客しなければなりません。また、連れてきたユーザーをヘビーユーザーに育てていく「イベント」と呼ばれる内部施策の仕掛けが必要となります。そのイベント部分を担っている企業がオートクチュール社です。
中山氏: 元々制作のパートナーとしてオートクチュール社と接点を持っていたのですが、オートクチュール社もアプリの中に入り込んでプロモーションをやっているという話があり、フロントで外部集客をする当社と、中を活性化する部分に強みを持っているオートクチュール社とで、戦略的に一緒になりお客様を集めた方がいいと合意した経緯があって、今回の業務提携に至りました。オートクチュール社はキャラクターのデザイン制作が強みなのと、イベントの企画、アプリのユーザーをどう課金させていくかに力を注いでいますが、一方で新規集客や既存ユーザーのリテンションの領域は、当社が担っていきたいと考えています。アプリ内外の施策を包括的に運用することで、一気通貫のマーケティング施策が可能になります。
― 提携の内容を詳しく教えてください。
和泉氏: 基本的には共通で取引のあるクライアント様にクロスセールスする形です。お互いにつながりを持っているお客様に対して、これまでアイレップが強みとしていたプロモーションの部分で提案してきたものをオートクチュール社のノウハウと連携して内部の活性化施策まで一本化で提案するし、オートクチュール社のつてで持っているお客様であれば逆のパターンで、運用型広告のノウハウを活用した、新規ユーザー獲得促進施策を含めて提案するなど、基本的に両社でフロントに立ちながら社内で連携して施策を進めていきます。
北爪氏: 先般当社はフルスピード社と資本提携を含めた業務提携をしましたが、プロダクトや手法のアップデートが激しい業界の現状では、全てのサービスを一社でやり切るのではなく、連携した方がシナジーが生まれやすい場合もあるかと思います。一方でクライアント様からするとワンストップのニーズはあるので、うまくニーズとニーズが組み合えば、お互いライバル視していた会社同士も一緒にやろうという流れがこの1、2年で加速しています。特にアプリマーケティング領域ですと技術のアップデートも早いので、異なったケイパビリティを持ちながら、お互いに信頼し合える中で仕事ができればクライアント様に大いにメリットを提供できると話し合ってきたことが背景になっています。
アプリプロモーションで、高まるソーシャルの存在感
― アプリゲーム市場とマーケティング需要動向についてお聞かせください。
中山氏: 矢野経済研究所によると、アプリゲーム市場の売上は順調にいけば今年度中に1兆円規模の市場になると予測されています。一方、クライアント様のプロモーションに関する需要は大きく変化してきています。元々はダウンロード数や1ダウンロードの単価がクライアント様の興味を占めていたものが、現状は獲得ダウンロード数だけではなくダウンロード数の質や、いかにお客様を定着させていくか、売上につなげていくかが興味としては大きくなっています。背景には、安定した利益をあげているゲームデベロッパーが増えてきている一方、新規顧客獲得に課題を抱える国内市場では、各デベロッパーが優良顧客を育成し、質を高めていく、という仕掛けを継続していく必要があり、そうでなければ売上の維持拡大が困難になるという市場の動向があります。
また、優良顧客を獲得していくためには、ユーザー行動履歴や優良顧客と行動が類似した潜在顧客を事前に判断した上でプロモーションを実施する方が、質が高いユーザーを獲得していくために効率的です。Facebook、Twitterではそれが可能です。この1、2年でアプリプロモーションにおけるソーシャルメディアの存在感がかなり高まってきています。
当社も提案する立場として感じるのが、どういうデータが使えるか、そのデータを使ってどういうことができるかの青写真をソーシャルは描きやすいので、クライアント様にその必要性をご説明しやすいです。アプリプロモーションの媒体側から見る市場構成はかなり変わってきていると思いますね。
緻密にPDCAを回し、お客様の期待に応える
― 貴社はサーチが強いイメージがあるが、サーチの領域で培われたノウハウをどのように活かしているのかお聞かせください。
中山氏: 1つは、リスティング広告と並行してGDN、YDNというようなディスプレイ広告にも当社は強みがあり運用型広告市場においては国内トップシェアを有しています。もちろんアプリマーケティングにおいてGDN、YDNというようなディスプレイ広告は有効な施策ですし、広くアプリマーケティングの中で活用していく媒体を考えた時に、ソーシャルであれアドネットワークであれ、ディスプレイ広告が占める割合はかなり大きくなってきています。運用型広告に対する知見は、他の代理店に負けないものを持っていると思っています。
もう1つは、10月3日に経営統合することで、親会社であるDACとより関係が密になるという点です。DACは昨年からアプリ専門チームを立ち上げていて、そこにソーシャル、ネットワークという部分の運用型の知見もたまってきています。DACとの連携し、両者の強みを活かしながらお客様へのサポートをしてまいります。
北爪氏: 私たちアイレップにとり、DACとの経営統合は大きな意味を持っています。DACはディスプレイ広告領域のアドテクノロジーに強く、大量のデータを保有しています。またメディアレップとしてFacebook、Twitter、LINE、などの媒体と長い付き合いがあります。そこから得られるであろうノウハウや知見は、当社にとっても価値あるものです。
当社では最近大型案件のマーケティングも受け持っています。成果も高く、お預かりするご予算も増えつつあります。これは、当社が緻密に戦略を立てた上で、PDCAを回しているという、従来のアプリプロモーション支援サービスにはなかった新しい運用がもたらした成果ですが、このような高度な広告運用力はもともと当社がサーチにおいて強みとしているものです。
和泉氏: サーチで培った圧倒的な運用の緻密さは、アプリプロモーションの領域においては、例えばクリエイティブの運用などにおいて、当社の強みが活かされていますね。
― そういった部分に貴社ならではの強みがあるのでしょうか。
和泉氏: 当社は運用型広告が強いというイメージがありますが、それだけではなく、愚直なまでに綿密で、かつ精度の高い広告運用が当社の特徴です。このことが、直近で高度な運用力を求められるようになってきたアプリマーケティングで活かせるようになってきた。この市場が求めることに向いているものであったのです。
北爪氏: マーケットがある程度成熟してきて、これまでのように力技でダウンロードさせることだけが正じゃないとなってくると、エージェンシーに求められるものが、単純に数というよりはお客様と一緒に課題とソリューションを突き詰めていける能力だったりします。次の作戦を共有して膝詰めで話せる能力って大事ですね。
アプリプロモーションの予算のアロケーションも、お金の使い方が時間軸の中で変わってきているはずで、前はダウンロードさせたところにどかんと投資をしていたものが、今だと最初は少しダウンロードさせてみて、その後できちんと課金が発生するビジネスなのかをしっかりと見ながら、次の広告予算をどれくらい投下するか、シミュレーションに基づいてどのくらいかければ赤字にならないといった、ある種事業計画を一緒に作っていくような能力が求められるようになってきています。
以前はメディア支配力、メディアに対しての行政能力が強みで、大手アドネットワークの広告在庫をどれだけ確保したかとか、ダウンロード数何件コミットします、自社メディアを持っています、ということが求められていました。ただそういうのは、何らかの成果はコミットしているのだろうけれども、全部のクライアント様がそういったニーズなわけではないですよね。きちんとしたマーケッターがインハウスにいて、継続的に広告効果を向上させる必要性があるということを考えると、当社からいろんなことを相談、共有し、成果の最大化を一緒に目指すというのが好きなお客様も確かにいらっしゃいます。
リスティング広告で培った強みを武器に、アプリプロモ市場の勢力図を変える
― 貴社は現状運用型広告の売上が9割以上ですが、貴社におけるアプリ広告の位置付けはどのようなものになりますか?また、今後のこの領域での戦略をお聞かせください。
北爪氏: 当社の売上構成比は3年位前から変わりつつあります。リスティング広告の比率は下がり、YDN、GDNを含めたディスプレイ広告の比率は上がっています。YouTubeのTrueView動画広告も、取扱高では現在業界で1、2位を争っています。Criteoのようなダイナミックリターゲティング広告も同様です。当社がサーチ領域に特化したエージェンシーであったころから実態は大きく変化しています。
今年直近1年間の当社の成長率は対前年で35%成長です。当社は運用型広告というある種ものすごく強いプロダクトを持っているわけですが、その運用型広告のサービスもディスプレイ広告を始めとして、動画広告やソーシャル広告など多様化が進んできています。サーチで培ったきめ細かい運用やシミュレーション精度の高さというものは、プラットフォーム、プロダクトを横断して需要がある。アプリマーケティング・プロモーション市場でも当社の強みが最大限に活かされることが認識され、アイレップの代理店としての期待値もこれまで以上に高まっていると感じています。
この市場において、多くの広告費を投下している企業は限られており、広告代理店の売上順位が入れ替わってしまうほど逆転劇の起こりやすい市場といえます。当社は最近この領域のプレゼンスを高めていますが、今後もオートクチュール社とのタッグにより、更に勢力図の拡大を狙っていきたいです。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。