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今年のオリンピックから学べるデジタルレッスン

(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)

夏季オリンピックは、アスリートだけでなくマーケターにとっても最も待ち焦がれたイベントである。この15日間のスポーツイベントに、世界中から30億人以上の視聴者の注目を集め、世界レベルでの競争に酔いしれた。ironSourceのファウンダーでCROのGil Shohan氏は、ExchangeWireに、リオオリンピックにおける2012年からの進化や、2020年に向けて学べる点について解説してくれた。

企業が注目を集めたいと考えるのは当然のことです。今年に関していえばNBCのテレビネットワークにおける広告収入は12億ドルにも至り、NBCのロンドン夏季オリンピックの放送権による収入は10億ドルにも至りました。

しかしながら、多くの点が2012年のオリンピックとは異なっており、特に、人々のシェアードメディアの利用形態には変化が見られます。リオオリンピックが終了した今、メディアの変化を捉えることができるいくつかの特筆すべき点について確認してみましょう。

デジタルの利用が主流に

リオオリンピックは、今までにないレベルでのデジタル広告のキャンペーンが行われました。482のテレビ広告を実施した企業のうち、349が同時にデジタルのキャンペーンを実施しています。

ロンドンオリンピックはデジタルの成長を促進した大会と考えられています。2012年の大会では、ソーシャルメディアの利用が飛躍的に伸び、企業はデジタルでのエンゲージメントをより重視するようになりました。表面上は、クロスプラットフォーム上のアトリビューションやトラッキングテクノロジーが利用可能になっており、このトレンドは継続するものと考えられました。

今年のデジタルに関して述べると、広告主は彼らの予算を3つのフォーマットに利用しています。最初の10日間に実施された349のキャンペーンのうち、87がネイティヴで、108は動画、そして202の広告がモバイルに関するものでした。この内訳は、消費者がどのようにオリンピックを楽しんだかを反映しています。

このデジタルのトレンドを表しているのがProcter & Gambleのケースです。この消費者ブランドは、「Thank you, Mom」キャンペーンにおいてYouTubeを利用し、米国の体操選手Simone Biles氏とTideをタイアップさせることで、リーチを飛躍的に高め、3週間で500万の閲覧数を集めています。

また、オリンピックのライブストリーミングを12億の人が視聴したという事実が、視聴スタイルの変化を表しています。多くの消費者にリーチするのに大きな予算は必要ではなく、正しいチャネルがあれば可能になってきています。

モバイルが変化を産む

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Gil Shoham氏、ironSource社 Co-Founder & CRO

今回のオリンピックのテレビ視聴は、控えめにいっても、活気のないものと言わざるをえません。18歳から55歳までの大会初日の視聴は、Nielsenのレーティングで5.5と、前回のオリンピックを37%下回っています。全体では、最初の10日間の視聴者は2012年のオリンピックと比較しても、17%ほど劣化しています。

Nielsenはテレビ視聴が少なくなってきている点を認めており、この傾向は2009年から続いています。一方でモバイルのトラフィックは増加しています。この変化の重要性に気づいた企業は、投資を変化させており、モバイルチャネルへの投資は今年1000億ドルに達しようとしています。

このシフトは文化的な志向に関連しているかもしれません。消費者はコンテンツをオンデマンドで、より気軽に楽しむ形態を好むようになっている一方で、タブレットのような、サイズ変更が可能な形態を好みます。NBCのメディア開発部門のプレシデントであるAlan Wurtzel氏は、オリンピックを最初の3日間にテレビで視聴した人々のうち80%が、モバイルでのアクセスも行っていたとコメントしています。これは2年前に行われた冬季オリンピックと比較しても61%上昇しています。このような数値をみると、セカンドスクリーンが、主要なメディアに成り代わってきていると言えるでしょう。

オリンピックの閲覧に関して、テレビが未だに大きなシェアを誇る中、今年のモバイルの成長を見ると、長い間この傾向は続かないかもしれません。流行に敏感なマーケターは、2018年の冬季オリンピックに向けて更に成長が続くと考えられるモバイルチャネルに引き続き目を向けていくことでしょう。

Snapchatのオリンピックデビュー

オリンピックのスポンサーは甚大なマーケティングコストを必要とし、4年間のスポンサー費用は2億ドルにもなります。しかしながら、スポンサーにならなくても、IOCの規定に従う必要はあります。

たとえ友好的な形態であっても、公式スポンサーでない企業の広告担当にとって、オリンピックのモチーフを活用することは難解です。一例を挙げると米国オリンピック協会の非会員は、クリエイティブにおいて五輪マークを利用することが禁止されています。選手が金メダルの表彰を受けているような特定のイメージの利用でさえ、罰金が課されます。

しかしながら、これは自動車メーカーのFordにとっては大きな抑止力にはならなかったようです。Fordは今年、オリンピックのスポンサーから外れたものの、オリンピックの効果を活用するために、よりクリエイティブな方法を活用しました。Snapchatを活用したのです。

このモバイルソーシャルプラットフォームが、オリンピックのコンテンツ配信に関する戦略的なパートナーに初めて選ばれました。このチャネルは100億もの1日当たりの動画閲覧を誇り、企業が若い消費者にリーチする際の重要な役割を果たしています。

フォードも賛同しています。フォードは、パートナーシップに伴い、最大規模のSnapchatのキャンペーンを、セカンドスクリーンを持つ、ミレニアム世代をターゲットに実施しました。結果として、「Snapchat Stories」やBuzzfeedのSnapchat Channelを通じて30もの広告が配信されました。キャンペーンはそれだけに留まりません。バーティカル動画はFordのテレビ広告にも採用され、様々なオリンピック中の活動が、オリンピックの規定を違反しないギリギリの形で編集されています。

このキャンペーンは、Fordおよび彼らのエージェンシーであり、常に変化を大切にするWPPグループのGTB社にとっては非常に画期的なものとなりました。FordのデジタルマーケティングマネージャーであるLisa Schoder氏は、先日行われたAdweekでのインタビューにおいて、「このキャンペーンは現在の消費者文化を正しく理解し、それを活用したものです」と答えています。この試みは非常に上手くいき、FordはSnapchatの動画配信により、オリンピックチャネルを閲覧していたおおよそ5000万の人々にリーチをすることができました。

Fordは全体で1.39億ドル程を支出していますが、これはスポンサー支出と比べれば比較的少ないものでしたが、オリンピックに依存することなしに、大きなインパクトを残すことができました。

オリンピックの閉会式は、最もデジタルを活用したオリンピックがどのようなものかを印象付けるものでした。それは、企業が適切なアプローチを果たすために、クリエイティブの面だけでなく、投資するチャネルに関しても、常にイノベーションを追わなくてはいけない点を示唆しています。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長  

慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。

国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。

2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。