米アプリ広告プラットフォームAppLovinに聞く、日本法人設立の背景と拡大戦略 [インタビュー]
米国で成長を続けるアプリ向け広告プラットフォームのAppLovinが、今年4月に日本法人を設立した。同社のビジネスやサービスの特徴、そして日本での今後の展開などについてApplovin株式会社 代表取締役の林宣多氏にお話を伺った。
(聞き手: ExchangeWire Japan 野下 智之)
― 自己紹介をお願いします。
約3年半前に、当時設立後1年弱のAppLovin米国本社に入社し、今年の4月までサンフランシスコで仕事をしておりました。入社当時はメンバーが15名程で大半がエンジニア、私が第1号の営業社員でした。
その後米国で事業が順調に伸び、本社の組織がきちんとできてきたことと、日本や中国を中心としたアジア市場が伸びてきたため、今年4月に日本法人を正式に立ち上げ、代表取締役に就任しました。
― 貴社の概要についてお聞かせください。
当社は、広告主さん向けにはスマホアプリ向けのマーケティングプラットフォームを提供し、広告配信を支援しています。一方、アプリ開発者さん向けには、SDKを提供して広告収益最大化をサポートしています。
当社は、スマホのアドネットワークとしては後発企業になります。元々Web広告の世界ではCookieのプロファイルベースにターゲティングする方法で、各社事業展開されていましたが、アプリへの広告配信ではCookieが使えなくなってしまい、きちんとターゲティングされた広告配信をできている会社がほとんどありませんでした。当社の創業者は元々アドテクノロジー業界の出身でしたので、アプリの世界でも「きちんと関連性のある広告を適切なユーザーに適切なタイミングで配信する」「きちんとターゲティングされた広告配信サービスを提供する」を目指して当社を立ち上げました。
― 日本法人設立の背景についてお聞かせください。
先ずは日本が大きい市場であること。そして、昨年6月から日本市場には参入していたのですが、日本でビジネス展開していく中で、当社のプロダクトが市場にフィットしてきたことが分かりましたので、日本での事業をより拡大する目的で日本法人を設立しました。また、事業の拡大においては社員を増やしていく必要がありますが、法人ができ福利厚生を整備することは、社員が安心して働け、パフォーマンスも上がると判断しました。
― 貴社のプロダクトはどのような特徴・強みがあるのでしょうか。
一言で言うと、ROASベースの自動最適化に強みを持っています。アプリ広告においては、従来はCPIでの最適化が主流でしたが、米国を中心としてより質重視の運用に移行していく中で、広告主さんが本当の目標としているインストールのその先のKPIで自動最適化できるプラットフォームを2年ほど前より提供しています。ROAS以外にも継続率や会員登録率などどんなイベントでも数値として取れれば、そちらをリアルタイムに当社に送っていただくことで最適化に利用することが可能です。
シンプルな思想ですが、当社のプラットフォームは最適化システムや広告配信技術に加えて、各配信面を効率良くラーニングしていくアルゴリズム構築など高度なエンジニアリングによって成り立っています。
動画と最適化で、差別化に成功
― 日本のアプリ広告マーケットという競争が激しいところに参入されましたが、どのように差別化していかれますか。
1つは、動画という新しいフォーマットです。昨年6月の日本進出当時、まだ日本ではアプリ動画広告のプレーヤーが少なかったですが、そこから一気に参入プレーヤーも増え、アプリでの動画広告という流れができました。アプリ広告の3大プレーヤーであるFacebook、Twitter、Googleも動画広告に注力していますが、今後しばらくはスマホ時代のメジャーな広告フォーマットが動画だということはほぼ間違いないと思います。eCPMも通常のバナーの約30倍と圧倒的なマネタイズ力があり、広告効果についてもユーザーがサービス内容や(例えばゲームの場合は)ゲーム内容を理解してからダウンロードするため、エンゲージメントが高いのが特徴です。
その中で重要なのがしっかり広告配信のボリュームが獲得できる媒体であることかと思います。新しいフォーマットの場合、魅力的には映ってもそれ用のクリエイティブを準備するのもリソースが必要だからです。その意味で、現在、広告キャンペーンによってはFacebook、Twitter、Googleと同等以上のインストールのボリュームが獲得できていると、広告主さんや広告代理店さんからお聞きするまでに成長しておりますが、今後も継続して規模を拡大していければと考えております。
もう1つは先ほどお話ししました最適化のところです。広告主さんの目標KPIに合わせながらいかに早くスケールさせるか。それをリアルタイムに自動でやっていくことで効果的なキャンペーンを運用する。また、広告主さんや代理店さんの運用工数を減らし、空いたリソースをよりクリエイティブなことに使っていただけるような環境を提供することも大きなバリューであると考えております。
― 最適化のイメージを詳しく教えていただけますか。
例えば、広告主さんからはCPIゴールとともに7日間のROASゴールをいただいて、アドネットワークで配信面の実績が出てきた時に、配信面Aは目標を上回っているので配信ボリュームを取りに行く、配信面Bは下回っているのでROASを合わせに行くというのを自動でリアルタイムに配信面ごとに全配信面を対応します。広告主さんの目標のROASを達成しながら、効果の高い面に関しては単価を上げてより配信ボリュームを取りに行くということです。例えばゲームの広告主さんの場合はROASの場合がほとんどで、ROAS以外ですとチュートリアル完了のイベントや継続率などでも可能です。ゲーム以外ですと会員登録や課金転換率などで実施するケースが多いです。リアルタイムにデータを送っていただける限り、そのデータを使った最適化が可能になります。
現在、アプリの配信面はグローバルで50万アプリ以上、日本だけでも10万アプリ以上はあると言われています。こうした状況の中、アプリ1個1個に対してマニュアルで配信面の価値に合わせて単価を決めていくというのはほぼ不可能だと思います。既存のアドネットワークですと最初にそのキャンペーンに効果が良さそうなターゲティング、配信面を決めて配信するという方法が多いと思います。一方、当社の場合は基本的には全配信で、機械学習によって最適化していくので、トレンドの変化にも強いです。トレンドの移り変わりが早い今の時代で、今日現在、効果の良い配信面やクリエイティブが1ヶ月後にも効果が良いとは限らないのが現状です。最適化は機械の方がより優れているため、キャンペーンの最適化に関しては当社に任せていただき、さきほどもお伝えした通り、マーケターさんにはよりクリエイティブなことに時間を使ってもらう、というのが当社の目指す形です。
動画リワードは、配信面側で簡単に設定可能
― 貴社のプロダクトのラインナップを教えてください。
リターゲティングもサポートしていますが、メインは新規ユーザー獲得です。新規ユーザー獲得におけるアドフォーマットとしては動画とインタースティシャルとネイティブがあります。
― 貴社はプロダクトに動画リワードもお持ちですが、動画リワードを提供する場合、配信面側で手の込んだ準備が必要になるのでしょうか。
林氏: メディア側の実装自体はアプリ開発のエンジニアさんであれば、難しくないと思います。USではトップグロッシングのゲーム含めて実装されており、日本でもカジュアルゲームはもちろんのこと、ドリスピなどの課金が強いタイトルでも活用が始まっています。
― 日本のアプリプロモーション市場・動画リワード市場の現状と今後のポテンシャルについてお聞かせください。
動画リワードの市場規模は、グローバルですと恐らく売上ベースで1,000億円くらいではないでしょうか。日本でも非常に伸びているので、直近で100~150億円規模には成長する市場だと思います。
媒体側のeCPM及び広告主側の効果が非常に良いので、引き続き成長していくと思います。また、今後はカジュアルゲームだけでなく、ソーシャルゲームやゲーム以外のアプリでも、マネタイズとしてのリワード動画の活用を増やしていくべきですし、増えていくと考えています。そうするとマーケットとしてより規模が出て存在感が増してくると思います。
動画広告未使用の分野へも拡大を
― 貴社が日本で事業を拡大されている中で一番伸びしろと思われているカテゴリはどこでしょうか?
繰り返しになってしまいますが、動画広告です。今後は今まで動画広告を使っていないジャンルのメディアに導入してもらう必要があります。2つカテゴリがありまして、1つは、課金の強いゲームです。ゲームの動画リワードは、広告を入れるようなカジュアルゲームにはある程度浸透してきていると思いますが、米国ですとトップグロッシングのゲームにも入っており、やはりユーザーのインセンティブが強ければ強いほど、よりユーザーは動画広告を見てでもポイントやアイテムが欲しくなりますので、その分配信ボリュームも増えます。
もう1つは、最近徐々に増えてきていますが、ゲーム以外のアプリでの動画リワードの活用です。最近では、例えば「漫画アプリで動画リワードを視聴することで特定の漫画の続きが読める」とか、「電話アプリで動画視聴することによって、通常は課金が必要な固定電話への通話が少しできるようになる」などの事例が増えてきています。動画リワードは、ゲーム以外のアプリでも工夫次第で多くのアプリに導入できるチャンスがあると考えており、是非試していただけるように提案していきたいです。
動画リワード以外の分野ですと、当社はAppleTV用の広告配信SDKを業界初で出しています。AppleTV自体はまだ爆発的に普及しているわけではないですが、今後米国を中心として利用は増えていくと思いますので、当社としては準備しています。現在は、Apple TVを使っているのはハイエンドのユーザーが多く、こうしたユーザーにリーチできる媒体としてご利用いただいております。
― 貴社の今後の戦略と展開についてお聞かせください
地味ですが、プラットフォームの配信アルゴリズムを改善し続けることが重要かと思います。 広告主さんの目標KPIに合わせた効果の高いキャンペーン配信を実現することで、マーケターさんが安心して当社に予算を預けることができ、短期間でスケールできる。そして、マーケターさんにはクリエイティブな部分に専念できるような環境を届けていきたいです。
あとは、これからは中小規模の企業様のサポートも強化していきたいと思っています。企業様ご自身でキャンペーンを設定し、ローンチできるプラットフォームを3か月程前にリリースしました。これは、動画を自動で作れる機能があり、中小の広告主さんでも大手と同じように全世界に向けて動画プロモーションを展開できるプラットフォームです。アプリプロモーションへのニーズが高まり続ける中、予算の大小に関わらず、誰もが簡単かつ効果の高いキャンペーン運用ができる環境を提供できればと考えております。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。