Facebookによるアドブロックツールのブロック:業界の声
(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)
先週Facebookは、議論が続いているアドブロックに関連して、更なる変更を実施した。ソーシャルネットワークの巨人は、広告をユーザーによるコンテンツとの区別を無くすことにより、アドブロック回避が可能になるテクノロジーの採用に関する発表を行った。広告収入の確保を狙った決定である。17億ものユーザーを持つ世界最大のパブリッシャーであるFacebookによる、この強気のアドブロッカー対策は当然多くの議論を巻き起こした。ExchangeWireは、業界のリーダーにこのデジタル広告に対しての影響について話を聞いた。
アドブロックの議論を活発に
「Facebookが今回成功した点を一つ挙げるならば、他のパブリッシャーの注目を上手に集めた点でしょう。今、他のパブリッシャーはどのように対応をするのか、という点を多くの人が話をしています。小さなパブリッシャーで、特にユーザーにとってコモディティと考えられているサイトにおいては、ユーザーを敵に回すようなアクションはとらないでしょう。大規模のパブリッシャーは、様子を見る形になるでしょうが、広告収入と関連する話ですので、長い間時間をかけるようなことはないでしょう。この業界で一つ明らかなのは、「ブロックとブロック回避」の争いは引き続き行われるという点です。既にFacebookへの対抗策のソリューションも提供されています。
消費者の望みにより敏感になるべき
「Facebookの今回のアナウンスは、AppleがiOS9にアドブロック機能を搭載すると発表して以来の、アドブロック業界にとっての大ニュースです。Facebookの市場独占性や非常に大きなリーチ力、またエージェンシーのキャンペーンにおけるソーシャルネットワークの依存度を考えると、他の業界のキープレイヤーがどのように反応してくるのかは、非常に興味深い点です。特に、広告検知ソフトを導入している場合に、アドリインサーション(広告の再挿入)を行わない決定を昨今行ったGroupMにとっては、非常に難しいところでしょう」
「発表から1週間も経過していませんが、既にアドブロックのコミュニティでは対抗策が練られたものの、Facebookは再度対策を行っています。Facebookのエンジニアちーむは恐らくこの鬼ごっこに追随し、新たなソリューションを提供するのでしょうが、勝ち抜けるかどうかは疑問です。ソーシャルネットワーク事業による強力なリソースを持つため、Facebookは法的な対応についても独自のポジションを築くことが可能で、他社が技術的なアプローチを諦めるにしても、対抗するにしても効果的な対処は難しいでしょう」
「Facebookによる、コンテンツの閲覧に対して広告を強制するやり方は、消費者がコンテンツを閲覧する代償が必要かという問題に関して、透明性や、オープン性を無視しています。この決定は業界にとっては正しい道を示したとは言えないかもしれませんが、消費者の選択と、消費者がコンテンツを消費する代償に関して、非常に大きな注目を集めるきっかけとなりました。究極的には、収益面でサステイナブル且つ、消費者のニーズに配慮したオンラインコンテンツのエコシステムとはどうあるべきか、多くの議論や協力関係が必要になるでしょう」
アドブロッカーの術中に
「Facebokによる、デスクトップ上でアドブロックを回避する決定は、アドブロックのソフトウェアを提供者の術中にはまったと言えるかもしれません。IAB LEANガイドラインに準拠して、クリエイティブやユーザビリティの観点から、消費者の期待に応える広告を提供する代わりに、アドブロッカーにひっかからず、広告の閲覧を実施することは責任回避と言えます。Facebookの収益には繋がるかもしれませんが、業界全体としてはオウンゴールとも言え、アドブロッカー業者による議論の機会を与え、モラルの問題を突く機会を提供しています。」
「アドブロックを希望するユーザーに広告を強制的に表示させることは、議論の観点では好意的な面が無く、アドブロックを推奨する人々に対して問題点を提示するにも至っていません。業界全体としては、よりエキサイティングで、美しい、エディトリアルを閲覧するような広告体験を消費者に提供するために、何ができるのかを考えるべきです。アドブロックについては、他に選択肢がない様な追い込まれた状況にいるわけでは無く、Facebookによる今回の決定は、より多くのユーザーをアドブロックに促し、結果的に、無料コンテンツの質の低下に繋がるように思います」
パブリッシャーのジレンマ
「英国でのアドブロックの盛り上がりは、まだ「絶望的」なレベルにまで達していません。しかしながら、最近の調査で22%もの英国の成人が、アドブロッカーを導入しているといった結果が出ており、大きな問題であるのは確かです。Facebookによるテクノロジーを利用したアドブロックを回避する方法は、業界初といったものではなく、既に多くのパブリッシャーが同様のソリューションを検討しています。Facebookの巨大な影響力により、アドブロックに対する問題がより大きなものになっています。ユーザーは個人で広告のプレファレンスを設定することができ、FacebookオーディエンスネットワークやAtlasなどを利用しているサードパーティのパブリッシャーへも影響は及ぶでしょう。この変更によって影響を受けるのは、既にアドブロックに関する論争に尻込みをしている小規模のパブリッシャーで、自分たちの広告がブロクされる環境に甘んじるか、グローバルプラットフォームにおけるウォールドガーデン(閉じられた庭)にて広告配信を行うかの、決して歓迎すべきでない選択を迫られています。Facebookの決定による機会を甘受できない場合は、パブリッシャーはソーシャルプラットフォームにて、インベントリーの収益化を行わざる得ない状態に陥るかもしれません。」
ネイティブ広告の力を考える
「広告に関して、常に全てのパブリッシャーが直面している問題は、広告主に高いパフォーマンスを届けることと、読者の気持ちを損ねないことのバランスです。」
「私たちはネイティブ広告が、統合的で適切なコンテキストを含んだ、高価値でエンゲージメント性の高い強力なツールだと認識してきました。ソーシャルメディアの購買決定における影響力は非常に高く、Facebookのようなパブリッシャーは、ユーザビリティを損ねるのではなく、高めるための広告フォーマットを提供することが必要です。マーケティング収益を高め、消費者がアドブロッカーの利用を考慮しないようにすることが重要です。」
「Facebookの利用で多く利用されている小さなモバイルスクリーンでは、利用可能なスペースが限られており、よりネイティブによるアプローチが重要です。」
将来的な変化のサイン
直接的にFacebookのアドブロックソフトを回避する決定に影響を受けたわけではないだろうが、同じ週にP&GがFacebookによるターゲット広告への投資を減額し、テレビによるリーチ拡大に乗り出すとアナウンスを行った。
「P&GのFacebook広告を減額するという決定は、CMOであるMarc Pritchard氏によるもので、彼はリーチと正確性の両方を得るための最善の方策を検討していると述べました。現在のインターネットTVがそれを可能にしたのです」
「P&Gはテレビ広告に回帰した多くのブランドのうちの一つです。テレビは現在もリーチの面では最も効率的であり、ビッグデータやマシーンラーニングによる進化により、より最適化されたマーケティングチャネルとしての利用を可能とし、今までにない正確性を追求することが可能になりました。今日のインターネットTVを利用して、ブランドはリーチを維持しながら、ユーザーの反応が高い場所や時間を定めてターゲティングを行うことが可能です。P&Gのように広告戦略を見直すところが2017年には増えるのではないでしょうか。」
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。