VerizonのYahoo買収が、市場競争に変化をもたらす:市場エキスパートの見解
(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)
7月25日、月曜日。アメリカの巨大通信会社Verizonがインターネットの古豪Yahooを48.7億ドルで買収すると発表した。多くの人はYahooの新たな買い主が誰になるのであろうかという点に注力して発表を待っていたため、このアナウンスが驚きを生むことはなかった。一方で、この買収によって、多くの人々が、Verizonに買収された後のYahooの将来像や、Yahooの広告主にとっての影響について、考えを巡らせた。
このニュースによって、一つだけ明らかなことがあるとすれば、Verizonが膨大なデータを手に入れるということである。YahooはTumblr、Brightroll、Yahoo Finance、Yahoo Mail、GeminiからFlurryに至るまで非常に多くのサービスを提供している。オフィシャルプレスリリースによると、Yahooはこれらのサービスを通じて、月間10億以上のアクティブユーザーからのアクセスを得ている。
Verizonが意図しているのは、Yahooを、昨年の5月に買収したもう一つのインターネットの古豪であるAOLと統合することで、その舵取りは、EVPで、プロダクトイノベーションと新規ビジネスを担当するMarni Walden氏が統括する。この統合はパワフルであり、Verizonの意思も明確である。Verizonのチェアマン兼CEOであるLowell McAdam氏は、この買収によってVerizonが世界的なモバイルメディア企業を目指すこと、デジタル広告収入を強化出来る点について述べている。
このコメントから予想されるのは、VerizonがGoogleやFacebookに競合し、広告主に新たな選択肢を提供する、というシナリオである。AOLのCEOであるTim Armstrong氏は以下のように述べている。「Verizon、AOL、とYahooが一緒になることで、モバイルメディアの分野に大きく進出し、また広告主やパブリッシャーに対してオープンで拡張性の高いサービスを提供できる」。
それでは、この統合が広告主にとって意味するものはどのようなものであろうか?SEO対策やYahooのサービスを使ったインベントリー購入を実施していた人々にどのような変化があるのであろうか?現在から変化がないのか、それともYahooは現在の形でのサービス提供を終了するのだろうか?ExchangeWireは業界のエキスパートに見解を聞いた。
大きな合併は業界にとっては良い傾向
「VerizonはYahooを買収したことでいくつかの大きな問題を抱えるでしょう。広告主にとって重要なのは、自社、AOL、及びYahooのデータを統合する方法を見出し、FacebookやGoogleと競合できるだけの大きな消費者情報へのアクセスを提供できるかという点でしょう。これが実現されるまでは、広告主はFacebookとGoogleを主要パートナーとして考え、ブランド及びパフォーマンスの最大化のために両サービスを利用し続けるでしょう。データの統合が進むことは業界にとって良いことは間違いなく、消費者データの細分化を避けることができます。広告テクノロジーや、デバイス間のファーストパーティデータの活用による統合プロセスの簡略化などの作業を通じて、エージェンシー、消費者の両者にとって、デジタル広告が簡略されるのが望ましいです。こういった変化により、正しい消費者にリーチすることが可能になれば、利用者の信頼も高まり、支出も増えていくでしょう。消費者が多くの機器を利用し、IoTが現実的になるにつれて、消費者のコンテンツの利用方法はより複雑になっていきます。こういった買収は、その複雑性を緩和してくれると考えています。」
広告主により計測可能な機会を提供
「この買収は、先日IPA Bellwetherレポートで発表された、現在の景観は市場予測を下回るというレポートと同調するものです。このレポートによると、エージェンシーの予算獲得は厳しさを増し、ブランドはよりパフォーマンスを重視するようになっています。この問題は長い間指摘されていますが、VerizonはYahooの買収によって、より多くのデータと消費者へのアクセス環境を活用して機会に変えていこうとしています。この買収によって全てのプラットフォームの統合がうまく行われた際には、Verizonはクロスチャネルにおけるターゲティング、全メディアプランを通しての、正確なパフォーマンス計測などのサービスを広告主に提供することが可能になり、Verizonの世界的なメディア企業になるという野望に近づく良いきかいとなります。また、アナウンスされていた通り、FacebookやGoogleへの大きな競合と成り得るでしょう。」
強力な単一での消費者管理のストーリー提供
「Mary Meeker社が発行している最近のレポートによると、2015年において、75%のオンライン広告はGoogle及びFacebookに支出されているそうです。この衝撃的な統計は、GoogleとFacebookがオンライン広告の世界を牛耳っていることを明らかにしています。
UKデジタル広告市場に関しては、前年比で16.4%伸びて86億ポンドに増加し、全体のマーケティング費用の43%を占めるに至っています。これはデジタル単体よりもマーケティング全体の問題です。Verizonの買収はYahoo及びAOLのパワーを組み合わせて、Facebook及びGoogleに対抗するというものです。両者のブランドを合わせれば、単一の消費者に対してより力強いサービスの提供が可能なことから、デジタルマーケティングの支出に関して、再考を促すだけの力があると思います。広告主や買い手にとっては、より多くの競合が存在するというのは良いことで、業界の統合の更なる促進に繋がります。一方で、買い手から権力を更に奪われる結果に繋がる可能性もあります。」
AOLの持つ技術がYahooの検索エンジンをサポート
「Verizonのヤフーの買収は、特に英国においては、Google以外のサーチエンジンは既に非常に少なく、検索の観点からは多くの変化はないでしょう。世界的にはAOLは0.13%ほどの検索市場シェアしか持たず、Yahooも7.68%しかありません。インパクトがあるとすれば、実際の検索結果に関してです。現在Yahooの検索はBingのサポートを受けています。Yahoo及びBingの検索結果に注力している人々にとっては、一つのサービスにのみ注力すれば良いので効率的です。もしVerizonが(Yahoo単体もしくはYahoo/AOLの両方に対して)Microsoftとの契約を続行するのであれば、現状の利便性は継続されるでしょう。もし契約が続行されず、Yahooの検索にAOLのテクノロジーを利用したり、YahooをAOLに統合したり、AOLのテクノロジーを両社のサービスに活用したりといった変化がある場合は、マーケターはYahooの検索最適化についての対応が必要になるかもしれません。マーケターがYahooを継続的に利用し続けるかどうかは、国によって異なることでしょう。英国ではYahooの検索エンジンは2.23%しかシェアを持たず、Bingはそれ以下です。このような場合においては、両社に対しての対応を検討するよりも、無視する方が賢明のように思います」
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。