ドライバーをターゲットにした日本での広告実験について
(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)
日本の公道を走る自動車は、今後、ブランドがカスタマイズしたコンテンツを配信するプロモーションの対象となってくるかもしれない。
Cloudian社と電通は視覚認識技術を活用し、車両をブランドやモデルによって特定を行うテストを行っている。データ分析及び人工知能を活用して、ターゲット車両のドライバーに対し、道路沿いの屋外広告に、システムを通じてカスタマイズされた広告を配信するというものである。
車両カメラのイメージ認識システムについては、Cloudian社のHyperStoreソフトを活用している。このシステムは車両に関するデータ、イメージ、車種に関わる動画、車両のアトリビュートなどの多くのデータを保持している。このアプリケーションを通じて、1日の様々な時間において、交通量に関するデータをリアルタイムで獲得することができる。将来的には、これらの情報は国土交通省などの官公庁や地方自治体、小売店舗計画などを立てる企業に提供されるであろう。
クラウドストレージ企業であるCloudian社がこのシステムを開発し、日本でのクリエイティブのパートナーとして電通とプロジェクトに取り組んでいる。このシステムには、中古車サイトなどからモデル、ブランド名、製造年などの車種関連データから、1車種あたり5000もの画像が保存されている。
現在までに、システムは数百もの異なる車を特定することができる、と電通OOH局屋外メディア部専任部長 神内 一郎氏は述べている。ExchangeWireとの電話インタビューにて、神内氏は、システムが車種を特定し、カスタマイズされた広告が自動車のドライバーの推定プロフィール情報に基づいて表示される仕組みについて説明してくれた。
例えば、電気自動車やハイブリッド車などのドライバーには、環境に優しい製品の広告を配信する。カメラが自動車を撮影し、車種が特定されるまでの時間は1秒かからない。
インテルジャパンや、クアンタクラウドテクノロジー(QCT)ジャパン、スマートインサイトなどの技術パートナーも6ヶ月のテストに関わった。アジアのより多くの地域において、高速道路、ショッピングモール、駐車場や、その他の様々な場所にて、テストを行っていく計画が予定されている。
神内氏によると、本プロジェクトは六本木で実証され、その後、他のテスト地域でも展開される予定である。
Cloudian社の社長で共同創業者の太田 洋氏によると、システムは現在99%の精度を計測することが出来るとのことである。しかしながら、正しく車両を特定する点については、例えば類似したOEMモデルの特定などの問題を抱えている、と説明してくれた。
同時に同じ道路を複数の自動車が通る中、どのように広告が配信されるのかについて、神内氏は、これは広告主がどのような車種のオーディエンスをターゲットにしているかに依存すると回答してくれた。また、広告はその場所で最も多いブランドやメーカーに応じて配信することもできる。
このプロジェクトの目的には、プログラマティック広告のターゲティング特性を実際の世界にも広げたいという狙いがある。特に、広告主はダイナミックデジタル広告のインパクトについて認識し始めている。
パブリッシャーにとっては、このシステムによって、屋外広告に付加価値をもたらすことができ、静的ではなく、ターゲット化されたオーディエンスにむけて、ネイティブでダイナミックな形な広告提供が可能になる利点がある。
プロジェクトはまだテスト段階である。広告配信の時間や、車種に応じた消費者プロフィール生成などの様々な要素はまだテスト段階にあり、品質向上のために更に調整が続けられている。
自動車は600〜700メーター離れたところから認識することができ、高速の屋外広告で5秒間ほどの動画広告閲覧の時間を確保することができる。ターゲットとされるドライバーが、ターゲットとなる場所にいる短い時間で、ブランドのメッセージが配信される。
広範囲での利用の可能性
このシステムは、例えば駐車場のような他のケースにおいても、潜在的に利点を提供できるのでは、と太田氏は述べている。駐車場であれば、広告主は購買パターンなどの、より適したデータから消費者プロフィールを形成することができ、より長時間の視聴が期待できる。
例えば、小売の広告などを、駐車場の入り口や駐車スペース前のデジタルサイネージなどに表示することができる。この場合においても同様に、適切な広告が、駐車場内で特定された車種に応じて表示される。
また、システムのディープラーニング機能により、より多くの情報が得られると、より優れた顧客プロフィールの生成につながり、マーケティングの効率化に繋がっていく。例えば、システムを通じて、ある自動車がどこから来たかをナンバープレートによって割り出し、駐車場の出入り時間を計測し、ショッピングモールでの滞在時間を割り出す、といったことも可能である。
このようなキャンペーンをサポートするためのアイディアや可能性については現在検討が進められている。
神内氏によると、ショッピングモールとの実験については現在パートナーの選定を行っているところであり、まだ具体的な場所は決まっていないということである。この実験は次期フェーズで行われる予定である。
一方で、太田氏は、夜間においての情報収集の難しさについて共有してくれた。自動車のヘッドライトにより車種の特定が難しくなるのである。現在Cloudian社では、既に解決方法についていくつか案があり、今後実証を行ってく予定である。
現在のところ、プロジェクトはターゲットの特定作業の改善にフォーカスしている。屋外広告、カメラやビデオ分析などのキーコンポーネントとの統合作業は既に開始されている。
この統合システムでのテストは8月に開始され、結果は9月にも明らかになる。テストの結果が良好であれば商用として展開されることであろう。
CloudianのチーフマーケティングオフィサーであるPaul Turner氏は、過去6ヶ月のシステムの広告ターゲット機能の改善によって、より視認可能でターゲット機能に優れたリアルタイムの広告配信が可能になった、とコメントしてくれた。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。