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今メディアがレコメンドウィジェットに注目する理由とは [インタビュー]

ネイティブ広告が普及する中で、レコメンドウィジェット型広告を導入するメディアが急増している。

メディア向けにレコメンドウィジェットと、これを活用した広告マネタイズソリューションを提供するGMOアドマーケティング株式会社 代表取締役社長 渡部 謙太郎氏と、広告事業本部 事業開発部 チーフ 佐藤 肇城氏にマーケットの動向やサービスの需要動向、同社サービスの特徴などについて聞いた。

(聞き手: ExchangeWire Japan 野下 智之)

3つの自社開発ツールに強み

―まずは自己紹介をお願いします。

渡部氏: 私は2004年にGMOアドパートナーズの前身の(株)まぐクリックに新卒で入社した後、純広告販売、メディア収益化、アドテクノロジー商品開発、メディア運営に一通り携わってきました。

佐藤氏: 現在当社が注力している「ネイティブアド」の領域において、新規事業開発を行っております。中でも今回ご紹介の、レコメンドウィジェット「TAXEL」のプロダクトディレクターを担当しています。

―貴社の事業についてお聞かせ下さい。

渡部氏: 当社は主にタイアップ広告などの純広告(予約型広告)販売のメディアレップ事業と、自社開発のアドテクノロジー商品を通じたプログラマティックな広告販売のアドテクノロジー事業の二つを展開しており、トータルに媒体社様の収益化を支援しております。近年予約型の純広告から運用型の広告に広告主様のニーズが移っていく中、2015年より注力しているアドネットワーク「AkaNe」が好調に推移しており、スマートフォンのインフィード型アドネットワークとしては、国内有数の規模まで成長しております。

インフィード広告を掲載するメディアに対しては、自社のAkaNeだけではなく、RTBや他社アドネットワーク在庫も含めて最適化配信できるGMO SSPを提供しており、高い収益性を評価いただいています。

今回、ご提供社100社突破のリリースを発表したレコメンドウィジェット「TAXEL」は、メディアに訪れたユーザーに対し、関連するコンテンツを独自のアルゴリズムでレコメンドすることで、ユーザーの内部回遊を最大化させるツールとなっています。

―TAXELについてもう少し詳しく教えていただけますか。

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渡部氏: TAXELをメディアの内部回遊を促進させるレコメンドウィジェットとして導入頂くことで、GMO SSPを通じて、我々が広告主に対して販売しているAkaNeのインフィードの広告が流れてくるようになっています。

これはTAXELの一つの特徴なのですが、SSPを介していることで、AkaNeに加えて、他社のアドネットワーク在庫も配信することができます。

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そのため、レコメンドウィジェット+SSPという形になっており、単一のアドネットワークを配信する形式に比べ、収益性が最も高い。それがメディア様によくご利用いただいている理由の一つです。

佐藤氏: 広告主様は、AkaNeに配信することで、媒体社が提供している関連記事枠(インフィード広告枠)と、TAXELで提供しているレコメンドウィジェット内の広告スペースのどちらにもネイティブ広告を配信することができるということになります。

渡部氏: ネイティブ広告の流れの中で起こっていることとしては、私どもは普段は純広告を売っていますが、例えば「タイアップ広告のページへもっと集客したい」といったニーズで、インフィードのアドネットワーク広告を使うことも増えてきています。

我々の特徴としてアドネットワークを売るだけではなくて、純広告でタイアップ広告を販売する事も普段ありますので、そういった手売りの純広告とアドテクノロジーを組み合わせた提案が可能です。それが弊社の非常に大きな強みだと考えておりますし、これにより質は高いけど一定期間内にPVがなかなか稼ぎづらいタイアップ広告にスポットライトが当たってきていることは、メディアのマネタイズの多様化につながり、取り組み甲斐のあるテーマだと思っています。

記事を読んだ後も、自社メディアを知ってほしい

―メディアにとってレコメンドウィジェットを導入する目的は主に何になりますか

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佐藤氏: バナー・ブラインドネスが問題になってきている中で、「無視されない」フォーマットであるインフィード広告、それも記事を読み終えた直後の、次の情報を探しているタイミングでの配信は、ネット広告の一等地になっていると思います。

このスペースは、収益化として魅力的なのはもちろんですが、メディアとしてはコンテンツをもっと知ってもらうことで、エンゲージメントを高めたいというニーズも強くあります。

昨今のユーザーは、Facebookや検索、キュレ―ションサイトからたまたま興味のあるコンテンツページに来ることが多いため、1記事を見て直帰してしまいがちです。すると、果たしてその記事が、どこのメディアの記事だったかどうかもユーザーの記憶に残りづらいといえます。そのため、追加で別の記事を見てもらうことで、「あ、このニュースメディアは面白い」「他の記事もまた読みたい」と記憶に残すことや、Facebookページのフォローなどリテンションにつなげることが期待できます。

メディア独自で記事直後の関連記事枠を構築されるケースも多いですが、レコメンドウィジェットを組み合わせることで、回遊性が向上するケースが多く、収益性との両立を求めてメディア様の関心は高まっていると思います。

―レコメンド方法の特徴について教えて下さい。

佐藤氏: TAXELはハイブリッド型のエンジンとなっており、コンテンツ解析をしていたり、ユーザーの行動分析をしていたり、コンテンツの人気度などを類推したりと、様々なデータを複合分析し、記事レコメンドを行うことができます。そのため、これらの組み合わせ方を調整することで、レコメンドのアルゴリズムをメディア毎にカスタムすることが可能です。
汎用的な決まりきった仕組みを元にレコメンドするシステムをメディア様へ提供して完結するのではなく、メディアに合わせたレコメンド記事や、そのアルゴリズムをチューニングしたりすることが大切であると思っております。

コンテンツ配置の最適化をサポート

―レコメンドは、貴社に各メディアの専任担当者がいらっしゃって、ロジックを運用しておられるのですね?

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渡部氏: そうです。メディア様がTAXELのようなレコメンドウィジェットを入れる動機は2つです。1つが収益の最大化、もう1つが回遊性の最大化です。収益については、どういうデザインやアルゴリズムにしたら広告収益が一番上がるのであろうというところは追求していきます。すでに弊社内でのノウハウも溜まっておりますので、メディア特性に合った、収益性の最も高い掲載形式を、日々ご提案させていただいております。

コンテンツの回遊性については、実はTAXELの機能の中で一番メディア様からご好評頂いている、ファーストパーティcookieを使ったA/Bテストツールを使い、PDCAを回しています。

このA/Bテストツールをメディア様が活用しますと、ユーザーのファーストパーティcookieで、A/Bそれぞれのパターンを、出し分けすることができます。
例えば、まずは1/3のユーザーにだけ広告をだして反応を見たいというニーズがあったとします。広告が出る方をAパターンのユーザー、出ない方をBパターンのユーザー、と決めたら、この人達へは常に同じパターンだけが表示される仕組みです。
ローテーションやランダムで変わるのではないため、より正確なユーザーテストが可能になります。
TAXELには、このようなテストツールの機能を入れているので、例えばTAXELを導入していない場合と導入している場合で、ユーザーを分けて回遊性、収益性のテストや、全体に適用した場合のシミュレーションをする事も可能です。

他には、例えば記事が終わった後の下スペースに、広告枠があるとします。さらにその下に関連記事スペースがある場合に、この広告枠と関連記事スペースは逆の方がいいのではないか?という疑問を検証することも可能です。

広告とコンテンツのバランスというのは、メディアにとって永遠の課題です。これをテストして、関連記事が3本位あってからバナー広告があって、また関連記事になっているパターンは売上と回遊の最大値になる――といったことを追求していくことができます。

フルに近いセミマネージドのような感じですが、メデイア様が独自でやるのはかなり手間が大きく、なかなか時間が割けないケースが多いため、非常に興味を持ってお任せいただいております。

―サービスのリリースはいつだったのでしょうか?

渡部氏: 提供開始が今年の1月です。6/27に導入100社を突破しました。

―貴社のサービスを選ばれるメディアに何か特徴はありますか?

渡部氏: ニュースサイトからキュレ―ションメディアから、ブログメディア、掲示板系サイトなど、幅広くご利用頂いています。数でいうとキュレーションメディア様からお問い合わせをいただくケースが増えていますね。

―大体月にどれくらいの配信ボリュームがあるのでしょうか?

渡部氏: TAXELとGMO SSPを合わせた我々が提供しているインフィード広告の配信数は、月間100億インプレッションを突破しております。

―なるほど。分かりました。どこか導入されたメディア様の事例がありましたら教えてください。

佐藤氏: それまではメディア自身で用意した関連記事枠から、他の記事へ誘導していたメディア様がいらっしゃいました。サイト内のユーザー回遊は低く、あまりそこの改善に注力できていない点を課題として持ってらっしゃいました。
そこで弊社のTAXELを導入した結果、GoogleAnalytics計測でPV/sessionが14%アップし、かなりご好評をいただきました。

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すべて国産・自社開発

―すべて自社開発で作られたのでしょうか。

渡部氏: はい。当社のエンジニアチームと、GMOインターネットの次世代システム研究室の共同開発プロダクトでして、日本語解析の精度や、サーバーインフラ性能に関しては自信を持っています。

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佐藤氏: こちらがダッシュボードです。先ほどのA/Bテストを繰り返していくイメージは、こういう感じでタイムライン型になっています。テスト結果を振り返り、じゃあ次のA/Bテストをどうやるか?という案を検証しやすいように設計されています。もちろん、先ほど申したように私共にも既にノウハウが溜まっておりますので、改善施策を弊社からもご提案させて頂いています。

これまでもネット広告では改善のために、A/Bテストや、スプリットランは頻繁に行われてきました。これはいわゆる「ランダムローテーション方式」という、ページ表示毎に各パターンを出し分け、その反応結果を見る形式が一般的です。

しかし、レコメンドウィジェットに関しては、行動データを蓄積・学習していき、レコメンド精度を向上させていくので、「A/Bテストの手法」にも気をつけなくてはいけません。
ユーザー毎に出し分けを行う、ユーザーテストでないと、行動データの学習にブレが生じ、レコメンド精度の低下や、回遊性への影響が生じてしまうからです。回遊性の検証まで加味すると、ローテーションではデータの信憑性が担保できないと思います。

そこを細かく正確にテストできる、しかも分かりやすいツールを提供しているという点は、TAXELの大きな強みです。

―実際導入されるにあたって、メディア側はどの程度の準備が必要なのでしょうか。

渡部氏: やっていただくのは、記事ページ内にタグを置いていただくだけです。並行して当社でデザイン調整やデータ解析を行った後、大体1週間もあればスタートすることが可能です。

―レコメンド広告を活用している広告主側についてもお聞かせください。

渡部氏: 広告主は大きく分けて2種類あって、一つはダイレクトレスポンスの広告主様です。コスメとか、健康食品、金融など業種で言うと様々ですが、直接効果を求める案件です。
もう一方、最近では認知向上を目的にタイアップ広告を出して、その記事にレコメンド枠を利用して類似のメディアから集客するケースが増えてきています。商品・サービスを知らなかった、興味がなかった人に興味を持ってもらうことが狙いになります。

これまでのインターネット広告はリスティングに代表される「興味がある人」「欲しい人」にどれだけアプローチできるかが主流でしたが、ユーザーを育成する、認知してもらう、あるいは認知している人に対して興味を持ってもらうという、ファネルの上のところをどう取っていけるかが、非常に大きなテーマだと思います。

エンジンの上に企画を載せる

―このサービスにかける想いと、今後の方向性についてお聞かせください。

佐藤氏: 良質なメディア様がきちんと作っているスポンサーコンテンツや、タイアップ記事を、ユーザーへ適切に届けることで、面白くて興味を持ってもらうという流れに本気で取り組みたいです。広告がユーザーから嫌われるスペースであるという認識を、なるべく面白いコンテンツ流通を生み出していくことで、変えていければいいと思っております。

渡部氏: アドテクの技術だけではなく、広告を販売するチーム、企画を考えるチームと一体になり、改めて記事広告や純広告などを軸にしたマーケティングを盛り上げていきたいと思っていますし、TAXELやAkaNeはそのためのチャネルと位置づけています。


【「TAXEL」について】(URL:http://taxel.media/

 TAXELは閲覧ユーザーの興味関心・行動や、コンテンツ特性を解析し、機械学習エンジンにより関連する記事をレコメンド表示するサービス。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長  

慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。

国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。

2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。