マーケティングクラウドのデータモデルはスピードに問題を抱えている:CrossEngate社CEO Manual Hinz氏へのインタビュー
(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)
マーケティングクラウドと組み込み型ソリューション。現在巻き起こっている競争であり、双方に明らかな利点がある。ExchangeWireは、広告主のクロスチャネルマーケティングの問題に取り組むドイツの企業、CrossEngage社の共同創業者でCEOであるManual Hinz氏にインタビューを実施した。 Hinz氏はCrossEngage社設立の背景を説明すると共に、彼らの組み込み型のソリューションによるクロスチャネルへの取り組みとマーケティングクラウドの限界について率直に語ってくれた。
―どのようにCrossEngage社は誕生したのですか?
CrossEngage社は昨年の初めに誕生しました。共同創立者であるMarkus Wübben氏と私は、広告主が多くのデータを所有しているものの、それらが一箇所に集約されていないという問題に目を向けました。非常に多くのマーケティングチャネルが存在し、毎週のように、消費者マーケティングに関する新たなチャネルやフォーマット、デバイスが登場していきます。私たちは、これら全てを組み合わせ、オンラインとオフラインの異なるデータソースからデータを統合し、マーケティング管理者が直接アクセス可能なソリューションが必要だと考えました。CrossEngage社の投資家の一人であるFlorian Heinemann氏は、よくキーノートスピーチにて登壇しますが、そこでよく利用するスライドがあります。それは、マーケティングインフラを図解し、それらがいかに6つから7つのマーケティングツールの組み合わせにより成り立っているかというものです。私は似たようなモデルに挑戦する数社を見たことがありますが、ライセンスコストが高すぎて成功していません。そこで、私たちはデータソースとマーケティングチャネルの間に介在するソフトウェアを作ろうと決めました。Markus氏がロケットインターネット社にて、CRMチームを率いていた際に、彼は「キャンペーンファクトリー」という名称のツールを開発しました。これは私たちが開発した核とも言えるものですが、彼自身しか利用することが出来なかったため、顧客に向けた開発を行うことにしました。私たちはドイツに25人のスタッフを抱え、そのうち20人は技術者です。また、現在英国顧客の対応のために、英国オフィスを開設しようと考えておりますが、Brexitの影響で今後の政情が不安定なため、今後の活動については様子を見守りたいと思います。
―どうして英国市場が市場拡大の観点から次のステップとして有効だと感じたのでしょうか?
私たちのドイツにおける顧客は、オンラインマーケティングの先駆けというべき人々が中心で、より知識の進んだマーケターと言えます。一方で、英国の市場は2、3年進んでいると考えており、英国企業からもブラックボックスは要らない、代わりにオールインワンのソリューションが必要だ、という声をよく聞きます。ドイツではこれらの声はそれほど聞かれず、私たちのソリューションとともに市場全体が育っていく必要があります。それに対して、英国では、大企業の優れたマーケターだけでなく、中規模の企業もターゲットとして考えることが出来ます。英国は私たちにとって非常に興味深い市場です。顧客が私たちのクロスチャネルにおけるアプローチが最適なソリューションである点をより良く理解してくれます。
―どうして市場はオールインワンのソリューションから、モジュール組み合わせ型のソリューションに移ってきているのでしょうか?
例えばSalesforceのようなマーケティングクラウドは、過去数年大きな成功を収めてきましたが、その一方で、人々はそれらが常にベストなソリューションではない点に気付き始めました。例えば、データ、決定、デリバリーの3つのレイヤーの確認が必要な際には、クラウドは3つ全てを行おうとします。彼らは独自のツールを兼ね備えていますが、対応が必要なチャネルやデバイスはもの凄いスピードで増加する一方、マーケティングクラウドは新たな広告フォーマットやチャネルの対応に時間がかかります。一例をあげるとWhatsAppやSnapchatが現在大変な人気ですが、マーケティングクラウドは、これらへの対応を長期間全く行ってきませんでした。私たちの顧客である広告主は、これらの機能を望む一方で、マーケティングクラウドの対応スピードは非常に時間のかかるものです。一般的に、マーケティングクラウドを導入する際には、クラウドが全てのサービスを兼ねることから、他のツールの利用を停止する必要があります。しかしながら、真に優れたマーケティング企業には組み合わせ型がより適しています。データ、決定、デリバリーの3つのレイヤーに関して、私たちはデータと決定の二つに集中し、現状のマーケティングツールの上位レイヤーとして存在します。私たちのソリューションはマーケターがディスプレイからコールセンターに至るまで、全てのチャネルにおけるコミュニケーションを管理する役割を果たします。―マーケティングクラウドは既に適したソリューションではないということでしょうか?マーケティングクラウドの発展余地はどういった点にあると考えていますか?
CrossEngate社を設立する以前に、私たちは多くのマーケティングクラウドを使った仕事をしてきましたが、彼らの古いデータモデルに問題があると感じています。未だに、様々な制限を抱えるリレーショナルデータベースを使っており、システム統合をより複雑で時間のかかるものにしています。データベースの統合に3~12ヶ月程度かかることがあります。一方で、CrossEngate社ではイベント型のデータモデルに取り組んでおり、全てのデータをイベントとして管理しています。全てのページビュー、買い物かごへの追加、コールセンターへのコンタクト数、ユーザーのいる場所の天気、など全てがイベントとして管理されています。この方法により、必要とされるデータマッピングの数が少なく済むため、データ統合はより簡易になります。大規模なマーケティングクラウドはこの様な形でのデータ管理を行わないため、移行が難しく、全インフラを作り変える必要が生じることもあります。これが彼らの対応が遅く、多くのデータを扱うのが得意でない背景です。
顧客の側から見ると、大規模なマーケティングクラウドから、多くの将来的な機能がロードマップとして紹介されることがありますが、これらは決して現実になることがありません。多くのCMOがマーケティングクラウドを信頼しておらず、ロードマップが不確かなため、現存の機能によってのみ評価をしている、と述べています。加えて、先に述べた通り、データ管理のモデルによりデータ統合が非常に複雑です。私は以前、DailyDealという、2011年にGoogleに買収された、ドイツの商取引のサイトにいましたが、大きな組織になると組織のスピードが大きく落ちる点は非常に驚きでした。
マーケティング能力に乏しい大企業は、マーケティングクラウドを選択するでしょう。しかしながら、優れた知識人材を内部に持つ企業は、組み合わせ型のアプローチの方が向いています。大企業が組み合わせ型のソリューションに移行し始め、「どのチャネルを利用するか」から「どのユーザーをターゲットにするか」に戦略の方向を変化させています。私たちのソリューションにおいては、第一にどのユーザーをターゲットにするのかを決定し、その次にどのチャネルを利用するのかを検討します。これは複雑な方法です。なぜなら多くの大企業が、異なるマーケティングチャネルごとに異なるエージェンシーを抱えており、エージェンシーはお互いに話をすることが無いからです。選択肢は、一つのエージェンシーに絞り込むか、オペレーションを内製化するか、少なくともエージェンシー同士にコミュニケーションをとらせるかの方法があります。私たちは、いかに全てのチャネルにおけるコミュニケーションを一貫したものにするかに取り組む必要があります。
―誰が貴社の顧客ベースを作っているのでしょうか?
私たちは主に広告主と仕事をしています。エージェンシーはそれほど多くありません。私たちはコンサルティング企業ともよく仕事をしていますが、彼らは広告主にテクノロジースタックがどのようにあるべきで、CrossEngate社がいかに異なるチャネルを管理するのに機能するのか、を広告主に助言してくれる良きパートナーです。エージェンシーは私たちの行っている事業に興味を示してくれますが、まだ活用に関しては十分な準備が出来ていません。
―CrossEngage社はオンラインとオフラインのチャネル機能をサポートしていますが、これらの統合による効果をどう考えますか?
オンラインとオフラインはまだ初期段階にあります。Tommy Hilfigerのように店頭で顧客の電子メールを集めて、オンラインでターゲティングを行うようなチェレンジを行う好例は出てきていますが、オンラインとオフラインの統合に関して、完全な成功を収めた企業を私は知りません。オンラインとオフラインの活動を組み合わせるには、多くのデータに関する問題が生じます。クロスチャネルをサポートする技術的に優れたソリューションが必要です。また、一方で、複数のエージェンシーが複数のチャネルを管理している状況では、組織変更も必要になるかもしれません。それでは、どのような変更が必要なのでしょか?例えば、オーディエンスマネージャーが全てを管理して、チャネルマネージャーがオーディエンスマネージャーをチャネル管理の面でサポートするような体制は一案として考えられます。しかしこの場合には、エージェンシーの問題を解決しなくてはなりません。エージェンシーを一社に絞るのか、広告に関する作業を内製化するのか、エージェンシー間の協力を促進するのか。英国のマーケットが進んでいるとはいえ、問題も残っています。英国の顧客は、私たちのソリューションを利用する以前に、組織の問題をどうするのかについて解決する必要があります。私たちが取り組んでいる問題は、簡単では無い点は十分に理解しています。組織変更が必要とされ、データやオーディエンスの管理方法も新たな形になります。多くの教育が必要とされる分野なのです。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。