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データを共通言語に異業種とコラボ ネット広告の枠を飛び出すDACの挑戦 [インタビュー]

デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社(DAC)は今年7月、異業種とのコラボレーションによる新しい広告サービスをリリースした。

DACのDMP「AudienceOne®」と技研商事インターナショナルの商圏分析ツール「MarketAnalyzer™」が連携することで、郵便番号レベルの高度な居住エリアマーケティングが可能になるというもの。開発の背景や活用事例について、プロダクト開発本部 データビジネス開発部長 玉村 将司氏と、技研商事インターナショナル株式会社 マーケティング部 部長 市川 史祥氏にお話をうかがった。

(聞き手: ExchangeWire Japan 野下 智之)

―まず、自己紹介をお願いいたします

DAC_Jul2016_1

玉村氏(写真左) DACでDMPのアライアンス業務を担当しています。2年ほど前からDMP製品の枠を超えたデータ協業の要望も多くなり、データアライアンスや、新たなデータを活用したデジタルマーケティングソリューションの開発にも注力しています。

市川氏(写真右) 技研商事インターナショナル(以降技研商事)でマーケティング、クライアント向けてのコンサルを担当しております。GIS、つまり地図データといろいろなデータを使ったエリア分析が主な業務です。チェーン企業様などが主なクライアントです。

郵便番号レベルまで解析し、特許出願

―DACの位置情報系のプロダクトのこれまでの開発経緯について教えていただけますか。

玉村氏:当社のDMP「AudienceOne®」は、オーディエンスデータの居住エリアや勤務地エリアを郵便番号レベルで解釈が可能です。「AudienceOne®」は月間4.5億ユニークブラウザーのオンラインコンテンツの閲覧履歴や、検索情報というユーザーに紐づくデータを保持しています。この度、新しい切り口として、今まで都道府県レベルだったオーディエンスのエリアデータが、郵便番号レベルでビッグデータ解析が可能になったのです。この技術は現在特許出願中です。

第一弾の商品として、DMP「AudienceOne®」と連携しているDAC連結子会社の株式会社プラットフォーム・ワンが運営するDSP「MarketOne®」による郵便番号ターゲティングをサービス開始しています。PC、タブレット、スマホに対応しており、ブラウザ面での広告配信のエリア指定が郵便番号単位で可能になります。

―特許はどの部分で出願したのですか。

玉村氏:IPアドレスデータを活用して、例えばデータの特徴から家庭からのアクセスか、企業からか、屋外なのかを判別する技術です。そのあと郵便番号レベルまで推定で割り当てています。

―位置情報系のプロダクトについて、DACはいつごろから取り組まれていたのでしょうか。経緯をお聞かせください。

玉村氏:位置情報だけで考えると昨年始めたNearとのパートナーシップでしょうか。スマホならではのGPSデータを活用したアプリ広告へのターゲティングに取り組んでいます。今回はIPアドレスを活用したブラウザ広告ターゲティングであり、別軸での新たな取り組みです。ブランド系広告主によるアプリ広告の出稿はまだ一般的ではなく、ゲーム業界のクライアントの出稿が多いと聞きます。よく使われるブラウザ面でのエリアマーケティングが必要とされていると思います。そこでエリアマーケターが使うデータと当社のオンラインデータを突合する共通キーワードが、郵便番号なのです。

―都道府県よりどのくらいメッシュをかけられるのでしょうか。

玉村氏:私の解釈ですと、一つの郵便番号の目安は周囲2キロメートル四方くらいですね。従来のアドテクはエリア面が弱かったのですが、今回、データ連携の識別子となる郵便番号により、エリア業界とデータの話ができるようになりました。

玉村氏:全国に有効な郵便番号は10万、DMP「AudienceOne®」で捕捉できているのは8割以上です。全国主要エリアであればほとんどカバーできています。

―事前にクライアントからこういったサービスの要望があったのでしょうか。

玉村氏:海外トレンドから判断しました。米国では既にZip code(郵便番号)マーケティングは行われています。欧州や、アジアですとオーストラリアなど一部地域で浸透し始めています。当社サービス開始後1ヶ月で100件以上の広告出稿の見積り依頼をいただいており、日本市場でもクライアントの課題解決に貢献できそうな手応えを感じています。

技研商事が持つ2つの強み

―DACと技研商事はどのように組んでいらっしゃるのですか。

DAC 玉村氏:Photo

玉村氏:技研商事は主に2つの強みをお持ちです。まず「MarketAnalyzer™」という商圏分析ツール、これは国内では2000社が採用しているツールの大手です。このツールを使うと、店舗データや顧客データといったファーストパーティ・データと、国勢調査データなどを掛け合わせて分析が可能です。また、新聞折込やダイレクトメール広告出稿に必要なターゲットとすべきエリアのプランニングもできます。今回、郵便番号でデータを整備しており、ターゲットとする郵便番号を特定でき、DSP「MarketOne®」にてオンライン広告も出稿できます。

市川氏:富裕度、マンション住まい、ニューファミリー世帯、などのデモグラフィックデータを地域分類して所持していますので、例えば店舗から車で10分圏内などのエリアシミュ-ション、郵便番号ごとのターゲット世帯数の構成比、といったように様々なデータの把握が可能です。

玉村氏:2つめの強みはデータホルダーであるということです。郵便番号界単位で集計された人口統計データを保有しておりまして、例えば、国勢調査/商業統計/年収/貯蓄/消費などです。「AudienceOne®」により、その郵便番号地域の人が見ているオンラインコンテンツや検索キーワードがわかり、技研商事のエリアデータと「AudienceOne®」のオンラインデータを掛け合わせると、従来よりも深いオーディエンス像がわかるのです。

―利用コストは広告配信の単価に反映されるということでしょうか。

玉村氏:基本的には、郵便番号を指定いただくだけで広告配信できます。DSPの通常の運用費用のみ、いただいてます。今までは都道府県指定だった広告も、郵便番号を今後は指定いただくだけ、というシンプルな運用です。技研商事のツールを活用して高度なエリアプランニングから郵便番号を抽出したいという企業に関しましては「MarketAnalyzer™」のツール費用が別途かかります。

―ターゲットは、「MarketAnalyzer™」を利用している2000社ということでしょうか。

玉村氏:はじめはそうなります。活用を希望する企業が増えてくれば、新規で広めていきたいと考えております。

―「MarketAnalyzer™」のサービス提供形態について教えてください。

市川氏:ASP形式もあればインストールのスタンドアローンもあります。月額10万円前後が多いですがオプションも選べますので、年間100~200万円といったところでしょうか。

玉村氏:現在、オンライン広告はリターゲティングが主流で、データ活用といっても7~8割はリターゲティングのことを指しているように思います。その点、「MarketOne®」は過半数以上がオンラインコンテンツの閲覧履歴や検索キーワードからデータサイエンティストが解析、開発したデモグラフィックや興味関心属性およそ1000種類のデータによるターゲティングや検索キーワードターゲティング、オーディエンス拡張ターゲティングです。必ずしもリターゲティングだけでなく、データ活用はいいところまで来ていると思っています。

オンラインデータに閉じるならこれで良いのかもしれませんが、現在の広告市場のデータ需要は、オフラインデータとオンラインデータの融合も求められており、今回、郵便番号をキーにして、技研商事のデータと掛け合わせて、更に広告商品を作れないかと考えました。オフラインデータの中でも、居住エリアデータに着目したのです。

これにより、広告会社や広告主企業は、新聞折込広告やダイレクトメールなどオフラインメディアで行っていたようなセグメンテーション手法をオンラインに活用することが可能になります。また媒体社は、自社Webサイト閲覧者の居住エリアを統計的に把握することができるため、例えば不動産情報を提供するサイトの場合、販売物件ページ閲覧者の居住地を郵便番号レベル把握することにより、新たなマーケティング活用が生まれます。

東京都でも六本木と多摩では大違い

玉村氏:面白いのは、今まで都道府県ターゲティングは東京都なら東京都、でくくってしまうといったようにかなりプリミティブでした。六本木と多摩ニュータウンでも同じ評価で広告バイイング、出稿をしていましたが、六本木と多摩ニュータウンは全然違うのに、それをキャンペーンで加味しなくていいのか、というのはこれまでになかった切り口です。

例えば人口ですが、国勢調査データによると、六本木が8775人、世帯数5000、技研商事の居住者エリアプロファイリング解釈は都会のセレブと新興富裕層が多い、というものです。さらにサードパーティ・データと組んで、富裕層データ、金融資産1億円以上の人を出してみるとします。これは全国平均でいうと2%、約200万人となるのですが、六本木だと20%、2000人近くが推定金融資産1億円と割り出せます。

更にもう一つのエリアマーケティングパートナーとして、車のデータと組み合わせることができます。この郵便番号にメルセデスが何台あるのか、レクサスはどうかなどがわかるのです。

これらをすべて突合すると、それが多摩ニュータウンだとがらりと変わります。データを見ていると、「AudienceOne®」は過半以上のユーザーを捕捉できている印象です。こうした特性エリアに住んでいる人が、どんなオンラインコンテンツを見て検索しているかを統計的にデータ解析し、広告開発に活かしていきたいと考えております。

―細かく切りすぎて、セグメントのボリュームが小さくなってしまわないのでしょうか。

玉村氏:その対策もしています。束ねると結構なボリュームになりますので、エリアデータの特徴を活かした新たな軸による全国規模の広告商品メニュー開発もしており、不動産企業、高級アパレルや全国EC,流通企業、自動車メーカーなどに提供予定です。全国で束ねて広告投下もできますし、商圏を持っていればそこを優先したマーケティングに活用できます。

オンラインデータをオフラインにかぶせるのも可能です。今まではデータソースとして頼りにされているのは国勢調査データでした。そのデータを活用しエリアの特徴をセグメント化したものが居住者プロファイリングということだったのですが、インターネットの行動履歴やソーシャルデータとエリアが紐づくと、オンラインデータからエリアに対し、さらに特徴の色付けが可能になると思います。

まだ商品はないのですが、ドラッグストアがあったとして、商圏内に住んでいる人のオンライン行動から、風邪でも「喉風邪」が流行りだした、ということが分かれば喉にきくものを目立つところに置くことができます。エリア調査をしなくても、リアルタイムでわかりますので、例えばオリンピックの時にどの商圏エリアはどのスポーツに興味があって、このキャンペーンが響きそうだ…ということがわかったらおもしろいですね。

DAC 市川氏:Photo

市川氏:我々は年齢や家族構成などのデモグラフィックのみに基づいてマーケティングしてきましたが、同じ30代女性でも消費性向は全く違う時代です。DACが持っている閲覧履歴は趣味趣向を判別できますので、新たなエリアマーケティングが可能になります。

例えばアパレルに関する趣味趣向のデータとデモグラデータを重ねあわせれば、ラルフローレンの嗜好性が高いエリアは都心部でしまむらは郊外という地域差がわかります。

データが共通言語

―プロダクトの今後の構想をお聞かせ下さい。

玉村氏:エリアデータは第一弾のターゲットとする郵便番号を指定いただければ配信できますから、第二弾では、技研商事の「MarketAnalyzer™」と組んで、高度なエリアプランニングと合わせた広告配信を実現しました。そして第三弾は検討中ですが、富裕層ターゲティングも要望が多いものの1つです。オフラインであるエリアマーケティングで使われているサードパーティ・データをうまく活用して、オンラインマーケティングにつなげる試みを実現したいと考えております。

IoT(インターネット・オブ・シングス)が浸透するにつれて、テレビや屋外メディアなどデジタル化に伴い、インターネット広告は、マスやエリアマーケティングの領域と融合しつつあります。2020年にはスマホの普及率8割、スマートテレビも20~30%の利用率になるといわれています。そうなったときに、今回の施策はエリアマーケティングにオンライン広告やデータをかぶせた形ですが、テレビ視聴やソーシャルデータなどマスマーケティングも含めた、連携が拡大されると思っています。

そのような環境下でも役に立つデジタルソリューション開発をすべく、データを共通言語として、これまでお付き合いがなかった異業種とも連携を広げていきたいですね。

市川氏:当社クライアントの従来の課題としては、生活者はいろんな手段で店舗を見つけてくるのに店舗に呼びこむ時の手段が限られるというものでした。このエリアはインターネット、ポスティング、折り込みで、販促手段を分けて効果を最大化したいのにツールも手段もノウハウもない……そんなところにDACと組めば、我々がクライアントと共にできなかったことができるようになるので、画期的だと思っております。

玉村氏:データを起点としたビジネス開発は面白いです。様々な業界でビッグデータ活用が課題と言われていますが、何か郵便番号のように共通で会話できるものがあれば、そこを共通言語に異業種とのコラボが進んでいくのではないかと思います。GIS業界(地理情報システム)の技研商事と、インターネット広告のDACが郵便番号をキーに、データを共通言語として会話することで、今回のデジタルソリューションが生まれました。インターネット広告に閉じず、いろいろな世界に飛び出していきたいと思っております。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長  

慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。

国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。

2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。